アスベストは非常に細かい繊維状の鉱物のため、吸い込むと肺の奥深くまで入り込むことがあり、肺の奥深くまで入り込んだアスベストによって肺がんが引き起こされると考えられています。
アスベストによって引き起こされた肺がんの症状や治療法は、一般的な肺がんと大きな違いはありません。
しかし、余命については、アスベストによる肺がんの方が短い傾向にあります。
この記事では、アスベストと肺がんの関連性に加えて、アスベストによる肺がんを発症してしまった時の対処法について、解説をしていきます。
アスベストと肺がんの関連性
アスベストは非常に細かい繊維状の鉱物で、その繊維の太さは髪の毛の約5000分の1程度しかありません。
そのため、吸い込んでしまうと、一定数が肺の奥にある肺胞(はいほう:肺の中にある小さな袋状の組織)にまで入り込みます。
肺の奥にまで到達したアスベスト繊維は、体外に排出されないまま、長期間肺の中にとどまり、炎症を引き起こします。
肺の炎症が起こると同時に、肺の細胞が傷つきます。
もちろん、体は肺の炎症や損傷を修復しようとします。
しかし、アスベストが肺の中にとどまっている限り、何度も肺の炎症や損傷が起きてしまうため、炎症や損傷と修復がくり返されることになります。
この過程の中で、肺の細胞内の遺伝子に変異が起こり、がん細胞へと変化すると考えられています。
アスベストが肺がんを引き起こす確率
アスベストが肺がんを引き起こす確率については、以下の理由から正確な発症確率を示す統計資料は公開されていません。
- アスベストばく露の程度や期間が個人によって異なる
- 喫煙など他の要因との複合的な影響がある
- 長い潜伏期間のため、正確な追跡調査が困難
しかし、アスベストばく露の量が増えるほど、肺がんのリスクも高まると考えられています。
また、肺がん発生の最大の要因は喫煙ですが、石綿ばく露と喫煙が重なると、そのリスクは相乗的に高くなります。
非喫煙者の肺がんリスクを1とした場合、石綿ばく露者は5倍、喫煙者は10倍、喫煙する石綿ばく露者は約50倍にもなるという報告があります。
肺がん発症リスク | ||
---|---|---|
非喫煙者 | 喫煙者 | |
石綿ばく露なし | 1 | 10 |
石綿ばく露あり | 5 | 50 |
参考:石綿健康被害救済制度10年の記録|独立行政法人環境再生保全機構
アスベストによる肺がんの特徴
アスベストによる肺がんは、「原発性肺がん」と呼ばれ、肺の細胞が変化して発生するという特徴があります。
発症後の症状や治療法については、一般的な肺がんと変わりありません。
しかし、余命については、アスベストによる肺がんの方が短い傾向にあります。
アスベストによる肺がんの症状
アスベストによる肺がんの症状は、他の原因で発症する肺がんと大きな違いはありません。
主な症状としては、以下のものが挙げられます。
咳 | 持続的な咳や、いつもと違う咳が続く |
---|---|
痰 | 通常よりも多くの痰が出る |
血痰 | 痰に血が混じる |
胸の痛み | 胸に違和感や痛みを感じる |
息苦しさ | 息切れを感じたり、呼吸が苦しくなる |
発熱 | 原因不明の発熱が続く |
アスベストによる肺がんの治療法
アスベストによる肺がんの治療法は、他の種類の肺がんと基本的に変わりません。
治療法としては、以下のものが挙げられます。
外科治療 | 外科手術によってがん組織を取り除く治療法 |
---|---|
薬物療法 | 抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える治療法 |
血放射線治療 | がん細胞に放射線を照射して、その増殖を抑える治療法 |
免疫療法 | 免疫システムを活性化させてがん細胞と戦う力を高める治療法 |
緩和医療 | がんの進行に伴う痛みや苦痛を和らげる治療法 |
どのような治療を実際に行うかについては、がんの進行度や種類、患者の年齢や体力などを総合的に判断し、医師が判断します。
アスベストによる肺がんの余命への影響
アスベストによる肺がんは、そうでない肺がんと比べると余命が短い可能性があります。
アスベストによる肺がんの5年生存率は18%とする研究があります。
これに対し、一般的な肺がんの5年生存率は41.1%と発表されています。
アスベストによる肺がんと一般的な肺がんの5年生存率には、23.1%の差があります。
なぜこのような結果が生じるのかについてははっきりしていませんが、アスベストが余命に対して影響を与えている可能性は否定できません。
ただし、余命は、がんの進行度、患者の年齢や体力、選択した治療法などによっても違いが出てきます。
早期発見ができれば、治療法の選択肢も広がり、余命を延ばすことが可能なため、定期的な健康診断の受診が大切です。
参考:我が国における石綿ばく露による肺がんの調査研究|独立行政法人 労働者健康福祉機構
参考:院内がん登録2015年5年生存率集計|国立がん研究センター
アスベストで肺がんになったときの救済制度
アスベストで肺がんになってしまったら、以下の救済制度による補償を受けることができる可能性があります。
- 建築アスベスト給付金
- アスベスト訴訟(国家賠償請求訴訟)
- 労災補償
- 石綿健康被害救済制度
- 損害賠償請求訴訟
上記制度は、全てがアスベストによる健康被害を受けた方に対する救済制度です。
ただし、これらの制度は、それぞれ請求するための要件が異なります。
また、併用できる制度とできない制度がありますので、自分がどの制度を活用できるのかについて、しっかりと確認する必要があります。
確認が不十分だった場合、本来受けることができたはずの補償が受けられなかったということにもなりかねませんので、注意しましょう。
国からの建設アスベスト給付金を請求する
建設アスベスト給付金は、建設現場でアスベストにばく露し、健康被害を受けた方やその遺族に対し、国が支給する補償金です。
建築現場で働いたことが原因でアスベストによる肺がんになった場合には、以下の要件を満たすことで補償を受けることができます。
- 過去の一定期間内に、アスベストにさらされる建設業務に従事したこと
・昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日 石綿の吹付け作業
・昭和50年10月1日〜平成16年9月30日 一定の屋内作業場で行われた作業
- 労働者、一人親方、中小事業主(家事従事者等を含む)であること
- アスベストによる肺がんを発症したこと
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
アスベスト訴訟の和解手続は、アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族が、国を相手に訴訟の中で補償を求める手続きです。
工場勤務が原因でアスベストによる肺がんになった場合には、以下の要件を満たすことで補償を受けることができます。
- 過去の一定期間内に、石綿工場内でアスベストにさらされる作業に従事したこと
・昭和33年5月26日〜昭和46年4月28日
- アスベストによる肺がんを発症したこと
労災の申請をする
労災申請とは、仕事中や通勤中のケガや病気について、労災保険から補償を受けるための手続きです。
アスベストにさらされる業務を行ったことが原因でアスベストによる肺がんになった場合には、以下の要件を満たすことで補償を受けることができます。
- アスベストにさらされる作業に従事したことがある
- アスベストによる肺がんを発症したこと
石綿健康被害救済制度による給付を請求する
石綿健康被害救済制度は、アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族に対して、医療費や一時金などの補償を提供する制度です。
石綿健康被害救済制度の最大の特徴は、労災保険による補償が受けられない方を対象としている点にあります。
この制度による補償を受けるためには、以下の要件を満たすだけで足ります。
- アスベストによる肺がんを発症したこと
会社に対して損害賠償を請求する
損害賠償請求訴訟は、アスベストを扱う作業に従事させていた会社や、アスベスト製品を製造・販売していた会社に対して、アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族が、発生した損害を賠償するよう求める訴訟のことです。
損害賠償請求訴訟の根拠には、主に以下の2つがあり、どの根拠に基づいて請求を行うかによって要件が異なります。
安全配慮義務違反 | 会社が従業員の安全や健康に配慮する義務を怠った |
---|---|
不法行為 | 故意または過失によって他人の権利を侵害した |
アスベスト健康被害の3つのポイント
アスベストによる健康被害が生じてしまったら、今後の生活が不安になってしまいますよね。
金銭的な余裕がないと、安心して治療をすることができないという方も少なくないと思います。
そんな方は、ぜひこれからご説明する3つのポイントについて検討してください。
利用できる救済制度をできる限り活用する
上記でご紹介した5つの救済制度には、それぞれ併用できるものがあります。
例えば、「建築アスベスト給付金」と「労災補償」と「会社に対する損害賠償請求訴訟」はそれぞれ併用することができます。※
複数の制度が利用できるにも関わらず、1つの制度しか利用しなかった場合には、本来受け取ることができたはずのお金を受け取れなかったという非常にもったいないことになってしまいます。
そのため、自分がどの制度を利用できるのかに加えて、その制度は併用できるものなのかについても、きちんと確認することが必要です。
※会社から損害賠償金や見舞金などが支払われた場合、建築アスベスト給付金から一定金額が減額される可能性があります。
請求できる期限に注意
上記でご紹介した5つの救済制度は、それぞれ請求できる期間が決まっています。
この期間を過ぎてしまうと、お金を受け取ることができなくなってしまいます。
短いものでは、労災給付の1種である「療養(補償)給付」など、請求できる日の翌日から2年後が請求期限となっているものもあります。
アスベストによる健康被害が判明したら、なるべく早く請求に向けた行動をすることをおすすめします。
アスベストにくわしい弁護士へ相談する
アスベストによる健康被害を補償するための救済制度には、上記でご説明したとおり、複数の制度があります。
これらの制度は、それぞれ請求するための要件が異なっています。
また、併用できるものがあったり、それぞれ請求期限が定められていたりと、全ての制度について詳細な知識がなければ、個々のケースに合った適切な請求を行うことが非常に難しくなっています。
アスベストにくわしい弁護士であれば、全ての制度についての詳細な知識があるため、個々のケースに沿った最適な請求を行うことができます。
救済制度の活用について、少しでも不安のある方はアスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
アスベストと肺がんについてのQ&A
アスベストと肺がんについてのよくあるご質問にお答えします。
アスベストで肺がんになったら補償を受けることができる?
具体的には、上記でご紹介した「建設アスベスト給付金」「アスベスト訴訟」「労災」「石綿健康被害救済制度」「会社に対する損害賠償請求訴訟」のいずれか(もしくは複数)の制度を活用して、補償を受けることになります。
まとめ
アスベストにさらされた場合、肺がんを発症するリスクが上昇します。
今のところ、吸い込んでしまったアスベストを取り除く治療法は確立されていないため、アスベストによる健康被害を最小限に抑えるためには、病気の早期発見が最も有効な手段です。
アスベストによる肺がんを発症してしまった場合には、治療に専念するためにも、救済制度の活用を検討しましょう。
救済制度にはそれぞれ請求のための要件や請求期限が定められていますので、漏れなく制度を活用したい場合には、自己判断せず弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベスト問題に注力する弁護士が在籍しています。
当事務所では、アスベスト被害に関するご相談については、原則として「相談料」および「着手金」はいただいておりません。
電話、メール、オンライン等を活用したご相談も可能ですので、お困りの方はぜひ1度ご相談ください。