アスベストによる健康被害とは、アスベストを吸い込んだことが原因で病気を発症することをいいます。
アスベストは、自然界に存在する非常に細かい繊維状の鉱物です。
とても丈夫な上に耐熱性等の優れた性質を有しているため、かつては建築材料や絶縁材として幅広く使用されていました。
しかし、アスベストが体内に入った場合、数十年後に深刻な健康被害が生じるおそれがあることが判明しました。
そのため、現在の日本では、製造・使用等が法律によって禁止されています。
この記事では、アスベストによる健康被害の詳細や対処法などについて、わかりやすく解説をしていきます。
アスベストによる健康被害が不安だという方は、ぜひ参考にしてください。
目次
アスベストによる健康被害とは
アスベストを吸い込んでしまった場合、約15〜50年という長い潜伏期間の後に、「悪性中皮腫(あくせいちゅうひしゅ)」「アスベスト肺(石綿肺)」「肺がん」「びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)」「良性石綿胸水(りょうせいせきめんきょうすい)」といった深刻な病気を発症するおそれがあります。
これらの病気は、発見されたときにはすでに進行していることが多く、根本的な治療が難しいケースが多々あります。
アスベストで発症する病気
アスベストによって発症する病気としては、主に以下の5つが挙げられます。
病名 | 病気の特徴 |
---|---|
悪性中皮腫 | 主に胸膜や腹膜などに悪性の腫瘍が発生する |
アスベスト肺(石綿肺) | 肺組織が線維化して硬くなり、呼吸機能が低下する |
肺がん | 気管支や肺胞の細胞などががん化する |
びまん性胸膜肥厚 | 胸膜が線維化して厚くなり、呼吸機能が低下する |
良性石綿胸水 | 胸膜に炎症が起こり、胸水がたまる |
アスベストで発症する病気について、詳しくはこちらをご覧ください。
アスベストの健康被害の特徴
アスベストによる健康被害の最も重要な特徴は、非常に長い潜伏期間です。
アスベストを吸い込んでから病気を発症するまでに、15〜50年以上かかることがあります。
そのため、自分がアスベストにさらされていたことに気づかないまま、病気が進行してしまうケースが少なくありません。
また、アスベストによる健康リスクは、アスベストにさらされた量に比例するとされていますが、少量のばく露でも長期間にわたると健康被害を引き起こすことがわかっています。
そのため、「安全なばく露量」は実質的には存在しないと考えられています。
また、アスベストによって発症する病気には、「アスベスト肺」「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」など、一度発症してしまうと治療が難しく、根本的な治療法が確立されていないものがあります。
このような病気を発症した場合には、症状を抑えながら、進行を遅らせる対症療法が中心となることが多いという点も特徴的です。
アスベストを吸って症状がでるのはいつ?
アスベストを吸い込んでから症状が出るまでには、個人差はありますが、一般的に15〜50年の長い潜伏期間があります。
アスベスト関連疾患と発症するまでのおおよその潜伏期間については、以下の表をご覧ください。
病名 | おおよその潜伏期間 |
---|---|
悪性中皮腫 | 20〜50年 |
アスベスト肺 | 15〜20年 |
肺がん | 15〜40年 |
びまん性胸膜肥厚 | 30〜40年 |
良性石綿胸水 | 20〜40年 |
アスベストで健康被害が生じる理由やメカニズム
アスベストは非常に細い(髪の毛の5000分の1程度の細さ)繊維状の鉱物のため、空気中に舞い上がりやすい上に、一度舞い上がると、空気中に長時間浮遊します。
アスベスト繊維は非常に小さく尖った形をしているため、呼吸によって吸い込んだ場合、肺の奥深くまで入り込んでしまい、自然には排出されにくいという特徴があります。
また、アスベストは水や酸に溶けにくく、体内で分解されにくい物質です。
そのため、肺の中に長期間とどまって、慢性的な刺激を与え続けます。
長期間にわたってアスベストの繊維が肺に刺激を与え続けると、炎症が引き起こされたり、細胞が傷つけられたりすることになります。
これによって、肺の組織の線維化や、肺細胞などのがん化が引き起こされると考えられています。
アスベストによる健康被害の相談窓口
アスベストによる健康被害の相談窓口には、以下のようなものがあります。
相談窓口 | 主な相談内容 |
---|---|
労災病院(アスベスト疾患センター) | アスベスト健康被害の詳しい検査等が可能 |
アスベスト専門外来のある病院 | アスベスト健康被害の詳しい検査等が可能 |
保健所 | アスベストに関する健康相談 |
産業保健総合支援センター | 職業性のアスベストばく露に関する相談 |
労働基準監督署 | 労災補償等に関する相談 |
保健福祉環境事務所(保健福祉事務所) | アスベストに関する健康相談 |
アスベストによる健康被害については、専門医でなければ診断が難しい部分もあります。
そのため、不安な方は、まずは近隣の保健所に相談をし、アスベストによる健康被害を診断できる医療機関を紹介してもらうのがおすすめです。
アスベストによる健康被害の救済制度
アスベストによる健康被害を救済することを目的として、様々な制度が設けられています。
代表的な救済制度としては、以下のものが挙げられます。
- 建設アスベスト給付金
- アスベスト訴訟の和解手続
- 労災(労働者災害補償保険)
- 石綿健康被害救済制度
- 会社に対する損害賠償請求
これらの救済制度は、対象者に違いはあれど、アスベストによる健康被害を受けた方に対する救済を行うことを目的とする制度です。
国からの建設アスベスト給付金を請求する
建設アスベスト給付金は、建設現場で働いていた労働者が、アスベストを吸い込んで中皮腫、肺がん、石綿肺などの病気になった場合に、国から一定のお金が支払われる制度です。
請求できるのは、労働者本人またはその遺族です。
建設アスベスト給付金の請求期限は、以下の通りです。
- 石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断日又は石綿肺に係るじん肺管理区分の決定日のうちいずれか遅い日から20年以内
- 石綿関連疾病により死亡した日から20年以内
建設アスベスト給付金について、詳しくはこちらをご覧ください。
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
国とのアスベスト訴訟の和解手続とは、国を相手方とする裁判の中で行う和解手続きのことです。
現在、この手続きを利用することができるのは、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したことが原因で、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚などの健康被害を受けた方です。
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用するためには、以下の期間内に訴訟を提起する必要があります。
2020年3月31日以前に損害および加害者を知った(※)場合→知った時から3年
2020年4月1日以降に損害および加害者を知った場合→知った時から5年
最も重い症状が新たに判明した時点から20年
※損害および加害者を知った時というのは、「単に損害を知るにとどまらず、加害行為が不法行為を構成することをも知ったとき」を意味します(神戸地判平成30年2月14日判時2377号61頁)。
アスベストによる健康被害の場合、「石綿ばく露を原因に病気を発症したことを認識した」時点のことを指します。
アスベスト訴訟について、詳しくは以下をご覧ください。
労災の申請をする
労災(労働者災害補償保険)とは、仕事中のケガや病気に対して、国が労働者に対して補償を行う制度です。
勤務中に職場でアスベストにばく露された結果として、アスベスト関連疾患を発症した場合には、労災の対象となります。
労災による補償を受ける場合には、以下の期間内に請求を行う必要があります。
給付内容 | 請求できる期間 |
---|---|
療養(補償)給付 | 療養の費用を支出した日の翌日から2年 |
休業(補償)給付 | 賃金を受けなかった日の翌日から2年 |
傷病(補償)年金 | 監督署長の職権により移行されるため請求時効はなし |
障害(補償)給付 | 傷病が治癒した日の翌日から5年 |
介護(補償)給付 | 介護を受けた月の翌月1日から2年 |
遺族(補償)年金 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から5年 |
葬祭給付 | 被災労働者が亡くなった日の翌日から2年 |
労災の申請について、詳しくは以下をご覧ください。
石綿健康被害救済制度による給付を請求する
石綿健康被害救済制度とは、アスベストによる健康被害を受けたけれども、労災保険の対象とならない方および労災保険の給付を受ける権利を失ってしまった方に対して、補償を行う制度です。
石綿健康被害救済制度による補償を受ける場合には、以下の期間内に請求を行う必要があります。
給付内容 | 請求できる期間 | |
---|---|---|
医療費 | 医療費を支払った日の翌日から2年間 | |
療養手当 | なし ※申請日から遡って3年間分までしか支給されない |
|
葬祭料 | 死亡した日の翌日から2年間 | |
特別遺族弔慰金 ・特別葬祭料 |
中皮腫
・肺がん |
・平成18年3月27日より前に死亡 →令和14年3月27日まで・平成18年3月27日〜平成20年11月30日に死亡 →令和15年12月1日まで・平成20年12月1日以降に死亡 →死亡後25年以内 |
石綿肺・
びまん性胸膜肥厚 |
・平成22年7月1日より前に死亡 →令和18年7月1日まで・平成22年7月1日以降に死亡 死亡後25年以内 |
石綿健康被害救済制度について、詳しくはこ以下をご覧ください。
会社に対して損害賠償を請求する
アスベストによる健康被害を受けた場合、勤務先の会社やアスベストを含有する製品を製造した会社等にその責任がある場合があります。
このような場合、被害者やその遺族は、会社に対して損害賠償請求を行うことができます。
会社に対して損害賠償請求を行う場合には、以下の期間内に行う必要があります。
請求内容 | 請求期限 |
---|---|
安全配慮義務を根拠とした債務不履行責任 | 2020年3月31日以前 ・権利を行使できる時から10年 |
2020年4月1日以降 ・権利を行使することができることを知った時から5年間 ・権利を行使できる時から20年 |
|
不法行為に基づく損害賠償請求 | 2020年3月31日以前 ・損害および加害者を知った時から3年 ・最も重い症状が新たに判明した時点から20年 |
2020年4月1日以降 ・損害および加害者を知った時から5年 ・最も重い症状が新たに判明した時点から20年 |
会社に対する損害賠償請求訴訟について、詳しくは以下をご覧ください。
アスベストによる健康被害の5つのポイント
アスベストによる健康被害を受けてしまったら、これから先の生活が不安になる方が多いと思います。
そんな方には、以下の5つのポイントを実践することをおすすめします。
これらは、今後の生活をより良く過ごすために重要なポイントです。
1つずつ、詳しく説明をしていきます。
専門医を受診する
アスベストによる健康被害が疑われる場合、専門医を受診することがとても重要です。
なぜなら、アスベスト関連疾患は初期段階では症状が現れにくいために、一般的な病院では病気の診断がつきにくく、病気が発覚したときにはかなり進行していたということが少なくないからです。
早期に病気を発見し、適切な治療にとりかかることができれば、病気の進行を防ぐことも期待できます。
アスベストによる健康被害が心配な方は、アスベスト疾患センターとなっている労災病院やアスベスト専門外来のある病院を受診しましょう。
アスベストによる健康被害を家族に伝える
アスベストによる健康被害を家族に伝えることは、本人にとっても家族にとっても非常に辛いことかもしれません。
しかし、アスベストに直接触れていない家族も、二次的に健康被害を被るおそれがあるため、自分がアスベストによる病気を発症したことを伝えておいた方が安心です。
アスベスト粉塵は仕事で使う作業着などに付着するため、洗濯をする家族等もアスベストを吸い込んでしまうことがあります。
つまり、自分がアスベストによる健康被害を被っているということは、家族もアスベストによる健康被害を被るおそれがあるのです。
可能であれば、家族にも健康診断を受診するよう勧めた方が良いでしょう。
救済制度を活用する
アスベストによる健康被害を受けてしまったら、今後の生活を安定させるためにも、救済制度は余すことなく活用しましょう。
アスベストによる健康被害を受けた方やその遺族に対しては、上記でご説明したように様々な救済制度が設けられています。
これらの制度を適切に活用することで、医療費等を心配することなく治療に専念することができます。
請求できる期限に注意する
アスベストによる健康被害に関する救済制度を利用する際は、請求期限に十分注意しなければなりません。
各救済制度には請求できる期限が定められており、請求期限を過ぎると、たとえ被害が認められても補償を受けられない可能性があります。
アスベスト関連疾患の診断を受けた場合や、過去のアスベストばく露が判明した場合には、速やかに専門家や関係機関に相談し、適切な時期に申請手続きを行いましょう。
アスベストに詳しい弁護士へ相談する
アスベストによる健康被害を受けた場合は、適切な補償等を受けるために、アスベスト問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
アスベストに詳しい弁護士は、アスベストに関する専門的な知識を十分備えています。
そのため、相談することで以下のメリットを享受することができます。
- 適切な救済制度を選択することができる
- 証拠収集や請求のサポートを受けられる
- 請求期限の管理をしてもらえる
アスベストと弁護士の関係について、詳しくは以下をご覧ください。
アスベストの健康被害についてのQ&A
アスベストの健康被害についての疑問にお答えします。
アスベストによるがんは職業がんですか?
職業がんとは、特定の職業に従事することによって生ずる、職場での有害物質へのばく露が原因で発生するがんのことです。
アスベストによって発症する中皮腫や肺がんの多くは、建設業や工場といった場所での労働の最中にアスベストにさらされたことが原因で発症します。
そのため、職業がんとして扱われています。
吸い込んだアスベストは体外に排出されますか?
吸い込んだアスベストの一部は、体の防御機能によって異物として認識され、咳や痰に混ざって体外に排出されます。
しかし、アスベスト繊維は非常に細かく尖った形のため、肺の組織などに刺さってしまい、咳や痰では全てを排出することができません。
まとめ
アスベストによる健康被害には、アスベストを吸い込んで発症する「悪性中皮腫」「アスベスト肺」「肺がん」「びまん性胸膜肥厚」「良性石綿胸水」が挙げられます。
これらの病気を発症した場合には、専門医を受診することが重要です。
また、アスベストは二次被害をもたらすこともあるため、家族への情報共有も大切です。
日本には、アスベストによる健康被害が発生した方やその遺族への補償を行う制度が存在します。
しかし、これらの補償制度には請求期限があるため、なるべく早く請求に向けた行動を起こしましょう。
自分で請求等を行うのが不安な場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベストの健康被害問題に注力する弁護士が在籍しております。
また、アスベストによる健康被害問題に関するご相談については、原則として初回の相談料および着手金はいただいておりません。
対面でのご相談はもちろん、電話やメール、オンラインでのご相談にも対応しておりますので、アスベストによる健康被害にお悩みの方は、ぜひ1度お問い合わせください。