アスベストはいつまで使われていた?法規制の経過を解説

日本では、アスベストは2006年には製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則として禁止となりました。

アスベストは、その優れた耐火性や断熱性から、長年にわたり建築材料や工業製品に広く使用されてきました。

しかし、その健康被害の深刻さが明らかになるにつれ、使用規制が段階的に強化され、最終的には全面的に禁止されるに至りました。

本記事では、アスベストの危険性が認識され始めた1970年代から、全面禁止に至る2000年代、解体作業等の際の規制が強化されつつある2020年代への流れを追いながら、各時期の重要な法改正や規制内容をご紹介していきます。

アスベストに関する法規制の経過について、詳しく知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。

アスベストはいつまで使われていたのか?

日本では、アスベストは2006年に原則使用禁止となりました。

2006年の規制の際には、一部製品については禁止までの猶予期間が設けられていましたが、2012年には猶予期間が終了しています。

そのため、日本では、2012年以降はアスベスト含有製品の使用等が完全に禁止されました。

 

 

なぜアスベストは使用禁止となったのか

アスベストが使用禁止となった理由は、その深刻な健康被害にあります。

アスベストは、かつてその耐火性、断熱性、耐薬品性などの優れた特性から、建材や工業製品などで幅広く使用されてきました。

しかし、アスベストを吸い込むと、肺や胸膜に炎症を起こし、肺がん、中皮腫、石綿肺などの悪性疾患を発症するリスクが大幅に高まることが明らかになりました。

これを受けて、国際的にもアスベストの使用禁止が進むことになり、日本もこの流れに従って、アスベストの使用に対する規制を強化するに至りました。

 

 

アスベストの法規制の経過

アスベストの使用が長年にわたり続けられてきた日本では、その有害性が次第に明らかになるにつれて、段階的に規制が強化されてきました。

以下より、主要な法改正の内容を時系列順に解説していきます。

 

1960年|じん肺法の制定

1960年、労働者の健康被害対策として「じん肺法」が制定されました。

じん肺法は、粉じんを吸い込むことで発生する職業病である「じん肺」の予防と救済を目的とした法律です。

アスベストを含むさまざまな有害な粉じんが引き起こす健康被害に対応するための最初の法規制です。

この法律の制定により、労働環境における粉じん対策の重要性が認識され、後のアスベスト規制強化の基盤となりました。

 

1975年|特化則の改正

1975年、「特定化学物質等障害予防規則」(以下、「特化則」といいます。)が大幅に改正されました。

これにより、アスベスト含有率が重量の5%を超える建材を用いた吹付け作業が原則として禁止されました。

 

1995年|安衛令および特化則の改正

1995年、「労働安全衛生法施行令」(以下、「安衛令」といいます。)と「特化則」が改正されました。

安衛令の改正により、アモサイト(茶石綿)とクロシドライト(青石綿)の製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面的に禁止されました。

なお、日本で1番使用率の高かったクリソタイル(白石綿)の製造等は規制されませんでした。

また、特化則の改正により、1%を超える石綿の吹き付けが原則禁止となりました。

 

2004年|安衛令の改正

2004年、「安衛令」が改正され、重量の1%を超える石綿を含有する建材等の製造、使用、輸入が全面的に禁止されました。

具体的には、以下の10品目についての製造等が禁止されることとなりました。

  • 石綿セメント円筒
  • 押出成形セメント板
  • 住宅屋根用化粧スレート
  • 繊維強化セメント板
  • 窯業系サイディング
  • クラッチフェーシング
  • クラッチライニング
  • ブレーキパッド
  • ブレーキライニング
  • 接着剤

 

2006年|安衛令の改正

2006年、「安衛令」が改正され、重量の0.1%を超える石綿を含有する製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が全面的に禁止されました。

0.1%という基準は、アスベスト含有率が極めて低い製品であっても、健康被害のリスクを無視できないことから設定されました。

この基準は、事実上のアスベストの全面禁止を意味し、アスベスト曝露のリスクを極限まで低減することを目的としています。

一部製品では、代替品の開発状況等を考慮し、猶予期間が設けられました。

 

2012年|猶予期間終了(完全使用禁止)

2006年の「安衛令」の改正により、0.1重量%を超えるアスベストを含有する製品の製造等が原則として禁止されましたが、一部の製品については代替品の開発状況を考慮して猶予期間が設けられていました。

2012年には、この猶予期間が終了し、これらの製品を含むすべてのアスベスト含有製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が完全に禁止されました。

これにより、日本国内でのアスベストの新規使用はなくなったといえます。

 

2020年|大防法および石綿則の改正

2020年、大気汚染防止法(以下、「大防法」といいます。)と石綿障害予防規則(以下、「石綿則」といいます。)が改正されました。

これらの改正により、アスベスト飛散防止対策が大幅に強化されました。

主な改正内容としては、以下の通りです。

施行年月 改正内容
2021年4月
  • 事前調査の方法の法定化
  • 事前調査結果の記録の作成、保存が義務化
  • 事前調査結果の控えの現場への備え置きが義務化
2022年4月
  • 事前調査結果の都道府県等への報告が義務化
2023年10月
  • 有資格者による事前調査の実施が義務化

これらの法改正は、解体作業等を行う労働者の健康被害を防ぐことを目的としています。

 

 

アスベストの人体への影響

アスベストは、非常に細く長い繊維状の構造をしており、空気中に浮遊しやすい特性を持っています。

また、この繊維は、綿ぼこりよりもはるかに細く、肉眼ではほとんど見えません。

アスベスト繊維は非常に細く、長さも数ミクロンから数十ミクロン程度と微細なため、肺の奥まで簡単に入り込んでしまいます。

一度肺に入り込んだアスベスト繊維は、体内で分解されることなく、長期間にわたって肺や胸膜に慢性の刺激を与え続けます。

その結果、以下のような深刻な健康被害を引き起こすことがあります。

  • 中皮腫(ちゅうひしゅ)
  • 肺がん
  • びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)
  • 石綿肺(別名:アスベスト肺)

 

 

アスベストの被害者の5つの救済制度

アスベストの被害者を救済するために、様々な制度が設けられています。

よく用いられる救済制度としては、以下の5つが挙げられます。

  • 建築アスベスト給付金
  • アスベスト訴訟
  • 労災
  • 石綿健康被害救済制度
  • 損害賠償請求訴訟

これらの救済制度は、それぞれお金を受け取るための要件等が異なりますので、1つずつ概要のご説明をしていきます。

 

国からの建設アスベスト給付金を請求する

建設アスベスト給付金制度は、建設現場でのアスベストばく露による健康被害を受けた方々を救済するために2021年に創設された制度です。

この制度の対象者は、建設作業に従事してアスベストにばく露し、石綿関連疾病を発症した労働者または一人親方などです。

対象者本人が亡くなっている場合には、ご遺族が給付金を受け取ることができます。

 

国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する

国とのアスベスト訴訟の和解手続は、石綿工場でのアスベストばく露による健康被害を受けた方が、国を相手としてする国家賠償請求訴訟において、迅速な解決を図るために設けられた制度です。

この和解手続は、 大阪泉南アスベスト訴訟※の2014(平成26)年10月9日最高裁判決を受けて確立されました。

対象者本人が亡くなっている場合には、ご遺族がこの手続きによって賠償金を受け取ることができます。

和解手続を利用するため、通常の訴訟と比べて比較的短期間で解決できるというメリットがあります。

また、和解金額が定型化されているため、予測可能性が高いこともメリットとして挙げられます。

大阪泉南アスベスト訴訟とは
大阪府の泉南地域のアスベスト工場の元労働者やその遺族などが、アスベストによる健康被害を受けたのは、国が適切な規制等を行わなかったことに原因があるなどとして、国に対して損害賠償を求めた訴訟のことです。
最高裁判所は、国が規制権限を行使して石綿工場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことが違法であった等として、国の責任を認めました。

 

労災の申請をする

アスベストによる健康被害が業務に起因すると認められる場合は、労災保険による補償を受けることができます。

労災保険とは、労働者が業務中に怪我をしたり、病気になったりした場合に、治療費や休業補償などの給付を行う制度です。

労災で石綿による疾病と認められるのは、以下の5つの疾病です。

  • 石綿肺
  • 中皮腫
  • 肺がん
  • びまん性胸膜肥厚
  • 良性石綿胸水(りょうせいいしわたきょうすい )

 

石綿健康被害救済制度による給付を請求する

石綿健康被害救済制度は、労災補償等の対象とならないアスベスト被害者を迅速に救済することを目的とする制度です。

この救済制度は、2006(平成18)年3月に施行された「石綿による健康被害の救済に関する法律」に基づいて創設されました。

多くの方が補償を受けられる一方で、労災補償等と比べると給付額が低いという特徴もあります。

そのため、労災等の他の補償を受けられる可能性があるのであれば、そちらを検討することをおすすめします。

 

会社に対して損害賠償を請求する

アスベストによる健康被害を受けた場合、雇用先やアスベスト含有製品を製造していた会社に対して、損害賠償を請求することができる可能性があります。

賠償額は、被害者の健康被害の程度や会社の過失の度合い等により異なりますが、数百万円〜数千万円に及ぶこともあります。

ただし、証拠の収集が難しい場合や、会社がすでに倒産しており請求ができない場合などもあるので、会社に対する損害賠償請求を考えている場合には、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

アスベスト健康被害の3つのポイント

アスベストによる健康被害は、時間が経ってから表面化することが多く、慎重な対処が求められます。

ここでは、アスベスト被害を受けた方が、適切な対応をするために知っておくべき3つの重要なポイントを解説します。

これら3つのポイントを押さえることで、アスベスト健康被害に対する適切な対応と、可能な限りの救済を受けることができます。

アスベスト健康被害の3つのポイント

 

①アスベストの専門医を受診する

アスベスト関連疾患の診断と治療には、専門的な知識と経験が必要となります。

なぜなら、アスベスト関連疾患は、アスベストを吸い込んでから長い年月をかけて発症する上に、アスベスト関連疾患特有の初期症状がないため、診断が難しいという特徴があるからです。

また、診断結果は、賠償請求や救済制度の申請を行う際の重要な証拠となるため、正確な診断と記録が欠かせません。

そのため、アスベストへのばく露歴がある方や、関連症状が気になる方は、アスベストの専門医を受診することが非常に重要です。

 

②請求できる期限に注意

アスベスト健康被害に関する給付金や補償には、請求期限が設けられています。

請求期限を過ぎてしまうと、たとえその他の要件を満たしていたとしても、給付や補償を受けられなくなる可能性が高くなります。

アスベスト関連疾患を発症したことが判明したら、すぐに請求のための準備を進めることが大切です。

 

③アスベストにくわしい弁護士へ相談する

アスベストによる健康被害を受けた場合には、適切な補償や給付金を受け取るために、アスベスト問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。

なぜなら、アスベスト被害に関する法律は多岐にわたり、労災保険法、石綿健康被害救済法、民法などが関係している上に、救済制度にも様々なものが存在するため、専門的な知識が必要となるからです。

また、請求のための手続きは煩雑であることが多く、効率的に手続きを進めるためには、弁護士によるサポートを受けることが重要です。

 

 

アスベストの使用についてのQ&A

アスベストの使用に関するご質問にお答えします。

アスベストは2006年の何月から禁止になりましたか?

アスベストは2006年9月1日から、原則として製造、輸入、使用等が全面的に禁止されました。

ただし、一部の製品については、2012年までの猶予期間が設けられていました。

 

石膏ボードにアスベストはいつまで使われていた?

アスベストを含む石膏ボードは、1970(昭和45)年から1986(昭和61)年までに製造されたものとの調査報告があります。※

この期間に製造された石膏ボードのうち、約1%弱にアスベストが含有されていると推定されています。

参考:石膏ボード製品におけるアスベストの含有について|一般社団法人 石膏ボード工業会

 

 

まとめ

アスベストの使用規制は、1970年代から段階的に強化され、2006年に原則使用禁止、2012年に完全禁止となりました。

しかし、現在も多くの建築物にアスベストが残存しており、解体や改修時の飛散防止が重要な課題となっています。

また、長い潜伏期間のため、今後も健康被害の発生が予想されます。

アスベスト被害者のための救済制度として、労災保険、石綿健康被害救済制度、建設アスベスト給付金などが整備されています。

被害を受けた方やそのご遺族は、これらの制度を積極的に活用することが大切です。

弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベスト問題に注力する弁護士が在籍しており、アスベスト被害に悩む方のサポートを行っています。

初回の相談料や着手金も原則無料となっていますので、アスベストによる健康被害でお悩みの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

 

 

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