肺気腫は、アスベストが直接の原因となって発症する病気ではありません。
肺気腫を発症する主な原因は、喫煙だということがわかっています。
ただし、実際はアスベスト関連疾患を発症しているのに、肺気腫と誤診されてしまうことがあります。
この記事では、肺気腫とアスベスト関連疾患の関係について詳しく解説していきます。
また、アスベストによって引き起こされる疾患に対する法的な救済制度や対応策についても解説していきますので、ご興味のある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
肺気腫はアスベストが原因ではない?
アスベストを吸い込むと、肺組織やその周辺組織に病変が生じることから、「肺気腫(はいきしゅ)」もアスベストが原因で生じると誤解されることがあります。
しかし、肺気腫は、アスベストが直接の原因となる疾患ではないと考えられています。
肺気腫とアスベストの関係
肺気腫とアスベストには直接的な関係はありません。
なぜなら、肺気腫の主な原因は喫煙であり、アスベスト曝露が直接的に肺気腫を引き起こすわけではないからです。
しかし、アスベストばく露歴のある人が喫煙などの要因で肺気腫を発症した場合、症状が重篤化する可能性があるため、この点は注意が必要です。
また、実際はアスベスト肺などのアスベスト関連疾患を発症しているのに、肺気腫と誤診されるケースもあるため、過去のアスベストばく露歴がある場合には、専門医による詳細な検査を受けましょう。
肺気腫とは
肺気腫は、慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん:COPD)の一種です。
この病気は、肺の中の肺胞(肺の奥にある空気を取り込む小さな袋状の組織)が破壊され、呼吸が困難になる病気です。
正常な肺の場合には、肺胞が酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する役割を果たしますが、肺気腫ではその機能が大幅に損なわれ、酸素交換がうまくいかなくなるという特徴があります。
肺気腫の症状
肺気腫の主な症状については、以下の表をご覧ください。
息切れ | 軽い運動や日常生活でも息が苦しくなる |
慢性的な咳 | 痰を伴う咳が長期間続く |
喘鳴(ぜいめい) | 息を吸ったり吐いたりする際に、笛のような音が出ることがある |
体重減少 | 重症化すると、体重が減少することがある |
疲労感 | 呼吸機能の低下により、日常的な活動でも疲れやすくなる |
胸部圧迫感 | 肺の過膨張により、胸部に圧迫感を感じることがある |
肺気腫の原因
肺気腫は、たばこの煙などの有害物質を吸い込むことが原因で発症する病気です。
日本では、肺気腫の原因の90%以上が喫煙によるものといわれています。
少数ではありますが、PM2.5や排気ガス等による大気汚染や遺伝的要因などが原因で肺気腫を発症することもあります。
アスベストとは?
アスベスト(別名:石綿(いしわた・せきめん))は、天然に存在する繊維状の鉱物です。
耐熱性、耐薬品性、絶縁性等に優れているため、かつては広く建材や断熱材、絶縁材として使用されていました。
しかし、アスベストの繊維は非常に細かくて軽いため、空気中に飛散しやすいという性質があります。
飛散したアスベスト繊維を長期間吸入することで、肺がんや中皮腫などの深刻な健康被害が引き起こされます。
アスベストが引き起こす病気とは?
アスベストによって発症する可能性がある病気としては、以下のものが挙げられます。
- 肺がん
- アスベスト肺
- 中皮腫(ちゅうひしゅ)
- びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)
- 良性石綿胸水(りょうせいいしわたきょうすい)
肺がん
肺がんとは、肺および気管支等の細胞がなんらかの原因でがん化したものです。
初期段階では特異的な症状がないため、早期発見が難しいといわれています。
病気が進行すると、咳・血痰・胸痛・呼吸困難などの症状が現れます。
アスベストばく露から肺がん発症までの期間は、通常15〜40年とされています。
一般的ながんと同じように、手術・化学療法・放射線療法などが治療法として考えられます。
アスベスト肺
アスベスト肺とは、アスベストを吸い込むことで肺に炎症が起こり、線維化(肺が硬くなり弾力がなくなる状態)が進行する慢性の肺疾患です。
主な症状として、息切れ・運動能力の低下・慢性的な咳などがあり、肺気腫と誤診されやすい病気です。
通常は、初めてアスベストにさらされた時から10年以上の潜伏期間を経て、症状が現れ始めます。
現時点では根治的な治療法はないため、禁煙や呼吸リハビリテーションなどの対症療法が治療の中心となります。
中皮腫
中皮腫は、胸膜(肺を覆う膜)、腹膜(腹部臓器を覆う膜)、心膜(心臓を覆う膜)などにできる悪性腫瘍です。
胸膜中皮腫が最も一般的で、中皮腫全体のうち約80%が胸膜に発生します。
胸膜中皮腫を発症した場合は、胸痛・咳・呼吸困難・胸部圧迫感などの症状が現れます。
アスベストばく露から中皮腫発症までの期間は、通常20〜50年とされています。
治療としては、一般的ながんと同様に外科手術・化学療法・放射線療法等が行われますが、進行している場合には、症状を緩和する「緩和ケア」が中心となることが多いです。
びまん性胸膜肥厚
びまん性胸膜肥厚は、胸膜が広範囲にわたって厚くなり、肺の膨張を妨げる病気です。
病気が進行すると、胸膜が硬くなり、肺の膨張や収縮が制限されるため、呼吸困難・胸痛・胸部圧迫感・息切れなどの症状が現れることがあります。
通常は、高濃度のアスベストにさらされてから、10年以上経過してから発症する病気です。
現時点では根治的な治療法はないため、呼吸困難を和らげるための対処療法が治療の中心となります。
良性石綿胸水
良性石綿胸水は、肺や胸膜に液体(胸水)が溜まる病気です。
胸痛や呼吸困難などの症状が現れることがありますが、無症状で健康診断時に発見されることも多い病気です。
アスベストばく露から良性石綿胸水発症までの期間は、通常10年〜40年とされています。
良性石綿胸水自体が悪性の疾患ではないため、主に症状を管理することが治療の中心となります。
アスベストの被害者の5つの救済制度
アスベストの被害者が利用することのできる救済制度として、以下の5つがあります。
- 国からの建設アスベスト給付金を請求する
- 国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
- 労災の申請をする
- 石綿健康被害救済制度による給付を請求する
- 会社に対して損害賠償を請求する
- 国からの建設アスベスト給付金を請求する
アスベストによる健康被害を受けた建設業従事者(建築業で働いていた方)は、国から「建設アスベスト給付金」を受給することができます。
この給付金制度は、過去に建設現場でアスベストを含む建材を扱ったことで、健康被害を受けた方やその遺族に対し、金銭的な補償を行うものです。
この給付金の対象者として認められた場合、550万〜1300万円の給付を受けることができます。
給付金の額は、病態区分等に応じて決定されます。
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
石綿工場で働いていたことが原因でアスベストによる健康被害を受けた方は、「アスベスト訴訟」という形で、国との和解手続きを進めることができます。
これは、かつて国が安全対策を怠ったことに対する責任を問う国家賠償訴訟です。
裁判上の和解手続を利用するため、通常の訴訟に比べて短期間でお金を受け取ることができます。
この給付金の対象者として認められた場合、550万〜1300万円の給付を受けることができます。
給付金の額は、病態区分等に応じて決定されます。
労災の申請をする
アスベストにさらされる業務を行ったことが原因でアスベストによる健康被害を受けた方は、労災保険制度を利用して、給付を受けることができます。
労災補償による給付の種類は、以下の通りです。
- 療養補償
- 休業補償
- 傷病補償
- 障害補償年金
- 障害補償一時金
- 介護補償
- 葬祭料
- 遺族補償年金
- 遺族補償一時金
ただし、これらの補償全てについて、受給できるわけではありません。
どの補償を受けられるかについては、病気の重さ等によって異なります。
石綿健康被害救済制度による給付を請求する
石綿健康被害救済制度は、アスベストを原因とする病気にかかった方やその遺族が、医療費や一時金などの給付を受けられる制度です。
この制度は、特に労災保険の対象にならない環境でアスベストにばく露された方や、アスベストによる健康被害を受けたものの、業務上の認定が困難な方が利用することができます。
石綿健康被害救済制度による給付の種類は、以下の通りです。
- 医療費
- 療養手当
- 葬祭費
- 特別遺族弔慰金
- 特別葬祭料
- 救済給付調整金
- 特別遺族年金
- 特別遺族一時金
これらの給付のうち、どの給付を受けられるかについては、個人の状況等に応じて異なります。
会社に対して損害賠償を請求する
アスベストによる健康被害を受けた場合、以下の会社に対して損害賠償請求をすることができます。
- アスベスト製品を製造・販売していた会社(製造元)
- アスベストを使用していた工場や建設現場を運営していた会社(雇用主)
この請求は、主に裁判で行うこととなります。
請求の根拠は、民法の415条「債務不履行責任」または709条、719条「不法行為責任」となります。
企業には、労働者の身体生命の安全を確保しつつ、労働をさせる義務があります(安全配慮義務)。
企業がアスベスト対策を十分に講じていなかった場合、この安全配慮義務に違反するとして、債務不履行責任を追及することができます。
また、企業の故意または過失が原因で、アスベストによる健康被害を受けた場合には、企業に対して不法行為責任を追及することができます。
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
参考:民法|e−Gov法令検索
請求できる損害としては、「治療費」「休業損害」「逸失利益」「慰謝料」などが考えられます。
アスベスト健康被害の3つのポイント
アスベストの健康被害に関して、被害者が知っておくべき重要なポイントが3つあります。
- 専門医で診断を受ける
- 請求できる期限に注意
- アスベストにくわしい弁護士へ相談する
これらを理解し、適切に対応することで、より良い支援と補償を受けられる可能性が高まります。
専門医で診断を受ける
アスベスト関連疾患の診断は非常に専門性が高く、一般の医療機関では適切な診断が困難な場合があります。
例えば、息切れ・慢性的な咳などの症状が特徴のアスベスト肺は、一般的な風邪や肺気腫と誤診されやすい病気です。
また、アスベスト関連疾患は症状が現れるまでに長期間かかるため、早期発見が難しいという特徴もあります。
加えて、救済制度を利用する際には、医師の診断書等の提出が求められますので、専門医による診断は非常に重要だといえます。
特に、石綿関連疾患診断技術研修を受講している医師が望ましいでしょう。
請求できる期限に注意
アスベストによる健康被害について、損害賠償や各種救済制度を利用する場合に、非常に重要となってくるのが「請求期限」です。
請求期限を過ぎてしまうと、本来受けることができたはずの給付金を受け取れない可能性があるため、注意が必要です。
ただし、すでに請求期限を過ぎてしまったと思っていても、他の制度が利用できる場合や、そもそも請求期限を過ぎていないという場合もありますので、そのような方は、1度専門家にご相談することをおすすめします。
アスベストにくわしい弁護士へ相談する
アスベストによる健康被害は、その病状や健康被害を受けるまでの経緯など、個人によって状況が大きく異なります。
また、建築アスベスト給付金、労災保険、石綿健康被害救済制度、訴訟による損害賠償請求など、利用できる制度も複数あり、どれが自分に当てはまるのか、どの手続きを取れば良いのか、といった疑問を持つ方も多いでしょう。
アスベスト問題に詳しい弁護士に相談することで、個人のケースに合った最適な解決策を提示してもらうことができます。
また、複雑な手続きについても代行してくれるため、負担を軽減することができます。
アスベスト問題で少しでも悩むことがある場合は、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
肺気腫とアスベストについてのQ&A
肺気腫とアスベストについて、よくあるご質問にお答えします。
肺気腫の場合にアスベスト訴訟の和解手続きは利用できない?
なぜなら、肺気腫は、主に喫煙や大気汚染が原因とされる慢性閉塞性肺疾患(COPD)の一種であり、アスベストに直接起因する病気とは認められていないからです。
ただし、実際はアスベスト肺などのアスベスト関連疾患を発症しているのに、肺気腫と誤診されているケースがあります。
このような場合には、実際に発症している疾患に基づいて、アスベスト訴訟の和解手続きを利用することができます。
肺気腫と診断されているが、アスベストばく露に心当たりがあるという方は、1度アスベストの専門医等で詳しい検査を受けることをおすすめします。
まとめ
肺気腫は、主に喫煙などの要因によって発症する病気であり、アスベストによる直接的な原因ではありません。
しかし、アスベストが引き起こす疾患であるアスベスト肺などの病気と混同されやすいことから、正しい診断と理解がとても重要です。
アスベストによる健康被害は長期間にわたり潜伏し、見過ごされることが多いため、アスベスト被害の可能性がある場合は、専門医の診断を受けることをおすすめします。
また、アスベスト被害に遭った場合には、さまざまな救済制度や法的手続きが用意されていますが、これらには請求期限があるため、期限内に適切な手続きを行うことが大切です。
専門的な知識を持つ弁護士のサポートを受けることで、適切な補償や救済を受けられる可能性が高まります。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベスト問題に注力する弁護士が在籍しており、アスベスト被害者の救済に全力で取り組んでいます。
アスベスト問題でお悩みの方は、ぜひ1度お気軽にご相談ください。