アスベストの5つの救済制度とは?特徴や手続きの流れを解説

アスベストによる健康被害を受けた方を救済するために、様々な制度が存在しています。

各制度には、対象となる方や補償内容、申請手続きに違いがありますので、ご自身やご家族の状況に最も適した救済方法を見つけるためには、これらの制度を正しく理解することが重要です。

本記事では、アスベスト被害者のための5つの主要な救済制度について、その特徴や手続きの流れを詳しく解説していきます。

アスベスト被害者の5つの救済制度とは?

アスベスト被害者を救済する主な制度として、以下の5つがあります。

制度の概要については、以下の表をご覧ください。

救済制度 対象者 主な給付内容
建設アスベスト給付金 建設現場でアスベストにばく露した労働者、一人親方等 550万円〜1300万円
アスベスト訴訟 アスベスト工場で働いていた労働者 550万円〜1300万円
労災保険 業務上でアスベストにばく露した労働者 療養補償給付、休業補償給付等
石綿健康被害救済制度 労災補償等の対象とならないアスベスト被害者 医療費の自己負担分、療養手当等
損害賠償請求訴訟 アスベスト被害者全般 個別の損害に応じた賠償金

 

 

建設アスベスト給付金の請求

建設アスベスト給付金制度は、建設現場でアスベストにばく露し、健康被害を受けた労働者やその遺族を対象とする救済制度です。

給付金を受け取るためには、一定の要件を満たす必要があります。

給付金の受給資格があると認められた場合、550万円〜1300万円の給付金を受け取ることができます。

 

建築アスベスト給付金の対象者

建築アスベスト給付金を受け取ることができるのは、以下の①〜③全ての要件を満たす人です。

①以下いずれかの期間において、該当建設作業に従事したこと

  • 昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日において、アスベスト吹付け作業にかかる建設作業に従事した
  • 昭和50年10月1日〜平成16年9月30日において、一定の屋内作業場で行われた作業にかかる建設作業に従事した

②以下いずれかのアスベスト関連疾病を発症した

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • 石綿肺(じん肺管理区分管理2~4)
  • 良性石綿胸水

③①の時、労働者、一人親方、中小事業主(家族従事者等を含む)であった

これらの要件を満たす方が既に亡くなっている場合には、ご遺族が給付金を受け取ることができます。

 

いくら受け取れる?

建築アスベスト給付金の支給額は、被害者の方の状況や疾病の種類によって異なります。

詳しくは、以下の表をご覧ください。

1 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない方 550万円
2 石綿肺管理2でじん肺所定の合併症のある方 700万円
3 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない方 800万円
4 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある方 950万円
5 以下いずれかのアスベスト関連疾患を発症している方

    • 中皮腫
    • 肺がん
    • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
    • 石綿肺管理4
    • 良性石綿胸水
1150万円
6 上記1または3により死亡した方 1200万円
7 上記2、4、5により死亡した方 1300万円

なお、喫煙歴がある方や、アスベストにさらされた期間が一定期間以下の方については、支給金額が10%減額される場合があります。

 

請求手続の流れ

建築アスベスト給付金の請求を行ってから、給付金が支給されるまでの流れは、以下の通りです。

  1. 請求手続の流れ

給付金の請求は、以下の住所宛てに簡易書留やレターパックなど、配達状況や到着の確認ができる方法で郵送して行います。

〒100 - 8916
東京都千代田区霞が関1 - 2 - 2 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省労働基準局労災管理課
建設アスベスト給付金担当 あて

 

 

アスベスト訴訟の和解手続の利用

アスベスト訴訟の和解手続は、石綿工場での勤務によって健康被害を受けた方やその遺族が、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、その中で和解を成立させる手続きです。

和解を成立させ、賠償金を受け取るためには、一定の要件を満たしていることを国に認めてもらう必要があります。

受け取ることができる賠償金の額は、550万円〜1300万円です。

 

アスベスト訴訟の対象者

アスベスト訴訟の和解手続によって賠償金を受け取ることができるのは、以下の①②全ての要件を満たす人です。

  1. ① 昭和33年5月26日〜昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事した
  2. ② 以下いずれかのアスベスト関連疾病を発症した
  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 石綿肺(じん肺管理区分管理2~4)
  • びまん性胸膜肥厚

これらの要件を満たす方が既に亡くなっている場合には、ご遺族が賠償金を受け取ることができます。

 

いくら受け取れる?

アスベスト訴訟による賠償金の額は、被害者の方の状況や疾病の種類によって異なります。

詳しくは、以下の表をご覧ください。

1 石綿肺管理2で合併症がない方 550万円
2 石綿肺管理2で合併症がある方 700万円
3 石綿肺管理3で合併症がない方 800万円
4 石綿肺管理3で合併症がある方 950万円
5 以下のいずれかを発症している方

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 石綿肺管理4
  • びまん性胸膜肥厚
1150万円
6 上記1または3により死亡した方 1200万円
7 上記2、4、5により死亡した方 1300万円

 

訴訟手続の流れ

国を相手として裁判を提起してから、賠償金が支払われるまでの流れは、以下の通りです。

訴訟手続の流れ訴状を提出する裁判所は、以下の3つの場所から選ぶことができます。

  1. ① 東京地方裁判所
  2. ② 請求する原告の現在の住所地を管轄する地方裁判所
  3. ③ 実際に業務に従事していた場所を管轄する地方裁判所

特に事情がなければ、ご自身の今住んでいる所を管轄する地方裁判所に訴状を提出するのがよいでしょう。

 

労災の申請

労災(労働者災害補償保険)は、労働者の業務中や通勤中に発生した事故や疾病に対して、医療費や補償金を支給する制度です。

労災による補償を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。

 

労災の対象者

労災による補償を受けることができるのは、以下の①②全ての要件を満たす人です。

 

①石綿ばく露労働者であること(下記作業のいずれかに従事していたこと)
  • 石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出、粉砕その他石綿の精製に関連する作業
  • 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
  • 石綿製品の製造工程における作業
  • 石綿の吹付け作業
  • 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
  • 石綿製品の切断などの加工作業
  • 石綿製品が用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
  • 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
  • 石綿を不純物として含有する鉱物などの取り扱い作業
  • 上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
  • 上記作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業

 

②下記疫病のいずれかを発症した方
  • 石綿肺
  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 良性石綿胸水
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

 

いくら受け取れる?

労災による補償は、療養のためにかかるお金や休業補償など、多岐にわたります。

労災の大きな特徴としては、「給付基礎日額」が補償給付の基準額となるという点です。

労働者本人が支給されている給料(賃金)を基準に補償額が決定されるため、人によって受け取ることができる金額が異なります。

詳しくは、以下の表をご覧ください。

給付の種類 給付の内容
療養補償給付 治療費、入院料、移送費など通常療養のために必要な金額を支給
休業補償給付 休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の80%を支給
傷病補償年金 療養開始から1年6か月経過後、傷病が治癒していない場合に、傷病等級に応じ、給付基礎日額の245日〜313日分の年金を支給
障害補償給付 障害が残った場合に、障害等級に応じて年金または一時金を支給
年金の場合、給付基礎日額の131日〜313日分
一時金の場合、給付基礎日額の56日〜503日分
介護補償給付 介護費用としてかかった実費を支給
遺族一時金 300万円 + 年金の支給対象とならない場合は給付基礎日額の1000日分の一時金を支給
遺族年金 遺族が一人の場合、給付基礎日額の153日分を支給
葬祭給付 給付基礎日額の30日分+31万5000円、または60日分を支給

 

請求手続の流れ

労働者本人が労災の請求を行ってから、補償給付金が支払われるまでの流れは、以下の通りです。

請求手続の流れ

請求書等の提出先は、石綿ばく露作業に従事した事業場を管轄する労働基準監督署とされています。

 

 

石綿健康被害救済制度による給付の請求

石綿健康被害救済制度は、アスベストにばく露されることで健康被害を受けた方に対し、医療費などを補償する制度です。

石綿健康被害救済制度による給付を受けるためには、一定の要件を満たす必要があります。

 

石綿健康被害救済制度の対象者

石綿健康被害救済制度によって給付を受けることができるのは、以下のアスベスト関連疾患を発症している方です。

  • 中皮腫
  • 石綿による肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

 

いくら受け取れる?

石綿健康被害救済制度による給付の額は、被害者の方の状況によって異なります。

詳しくは、以下の表をご覧ください。

給付の種類 給付の内容 給付金額
医療費 認定疾病の医療に要した費用を支給 自己負担分
療養手当 入通院に伴う諸経費、日常生活における近親者等による介護に要する費用などを定額支給 10万3870円/月
葬祭費 認定疾病に起因し死亡した場合に、葬祭を行うことに伴う費用負担に対して支給 19万9000円
特別遺族弔慰金 指定疾病が原因で死亡した者の遺族に対する弔慰等を目的として支給 280万円
特別葬祭料 指定疾病が原因で死亡した者の遺族に対する弔慰等を目的として支給 19万9000円
救済給付調整金 医療費、療養手当、遺族に支給した未支給の医療費等の合計金額が280万円に満たない場合に、その差額を遺族に対し支給 上限280万円
特別遺族年金 労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対する救済措置として支給 240万円/年
特別遺族一時金 労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対する救済措置として支給 1200万円

 

請求手続の流れ

石綿健康被害救済制度による給付を請求してから、給付金が支払われるまでの流れは、以下の通りです。

①以下のいずれかの場所に請求書を提出する

  • 独立行政法人環境再生保全機構
  • 環境省地方環境事務所
  • 保健所
  1. ② 環境再生保全機構が申請書類を確認する
  2. ③ 環境再生保全機構が環境大臣に対し、医学的事項に関し判定の依頼をする
  3. ④ 環境大臣が中央環境審議会に対し、意見を求める
  4. ⑤ 中央環境審査会から環境大臣に対し、意見の交付
  5. ⑥ 環境大臣が環境再生保全機構に対し、医学的事項の結果の通知を行う
  6. ⑦ 環境再生保全機構から給付金が支払われる

 

石綿健康被害救済制度のデメリット

石綿健康被害救済制度は、広く国民を救済するという目的で作られた制度のため、他の救済制度に比べると、給付金の額が少ないというデメリットがあります。

そのため、まずは他の救済制度が利用できないかどうかを検討することをおすすめします。

 

 

会社に対して損害賠償を請求

アスベストによる健康被害を受けた方は、労災保険や他の救済制度だけでなく、会社に対して損害賠償を請求することもできます。

 

損害賠償請求訴訟の対象者

会社から賠償金を受け取ることができるのは、主にアスベストにさらされる場所で働いたことにより、アスベスト関連疾患を発症した方です。

 

いくら受け取れる?

会社からいくら賠償金を受け取ることができるかについては、被害者の方の状況によって異なりますので、一概に言うことはできません。

しかし、死亡慰謝料で2500〜3000万円程度、闘病中の方で病名に応じて1000万円〜2300万円程度が目安となります。

 

訴訟手続の流れ

会社を相手として裁判を提起してから、賠償金が支払われるまでの流れは、以下の通りです。

訴訟手続の流れ

訴状を提出する裁判所は、以下の3つの場所から選ぶことができます。

  1. ① 会社の本社がある場所を管轄する地方裁判所
  2. ② 請求する原告の現在の住所地を管轄する地方裁判所
  3. ③ 実際に業務に従事していた場所を管轄する地方裁判所

特に事情がなければ、ご自身の今住んでいる所を管轄する地方裁判所に訴状を提出するのがよいでしょう。

 

 

アスベスト被害の3つのポイント

アスベストによる健康被害を受けた場合に、これだけは守ってほしいというポイントが3つあります。

これらのポイントは、適切な被害回復を行うために重要なポイントとなりますので、ぜひ参考にしてください。

アスベスト被害の3つのポイント

専門医による診断を受ける

アスベストによる健康被害を受けた場合、専門医による診断が最も重要なステップの一つです。

専門医による診断を受けることで、病気に対する適切な治療ができるというメリットがあることはもちろんですが、証拠収集という観点からも大きな利点があります。

アスベストに関する救済制度を利用する際には、アスベスト関連疾患を発症していることを証明することができる証拠を提出する必要があります。

専門医によって作成されたカルテや診断書等は、証拠として価値が高いものとして扱われるため、この点も大きなメリットといえます。

そのため、アスベストによる健康被害を受けている場合は、専門医を受診することをおすすめします。

 

請求できる期限に注意

それぞれの救済制度には、請求期限が設定されています。

例えば、労災保険の場合、治療費・休業補償は費用の発生から2年、葬祭料は患者の死亡から2年、遺族補償は患者の死亡から5年経過すれば時効により請求できなくなります。

請求期限を過ぎてしまうと、たとえ給付要件を満たしていたとしても、給付を受けることができなくなってしまいます。

アスベスト被害の回復にとって、適切な給付金を受け取るということは、とても大切なことです。

そのため、請求期限には十分に注意しましょう。

 

アスベストにくわしい弁護士へ相談する

アスベスト被害に関する救済制度には、証拠収集や申請に関して複雑な部分があるため、適切な補償を受けるためには専門的な知識と経験が求められます。

経験豊富な弁護士のサポートを受けることで、適切な補償を受けられる可能性が高まります。

救済制度を余すことなく活用するためには、早めの相談が重要となりますので、不安や疑問がある場合は、早いタイミングでアスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。


 

 

アスベストの救済制度についてのQ&A

アスベストの救済制度について、よくあるご質問にお答えします。

アスベストで死亡したときに補償される金額とは?

アスベストによる健康被害で死亡した場合の補償金額は、適用される救済制度によって異なります。

主な制度ごとの補償金額は以下のとおりです。

建築アスベスト給付金 1200万円〜1300万円
アスベスト訴訟による賠償金 1200万円〜1300万円
労災による補償給付金 【遺族一時金】
300万円 + 給付基礎日額の1000日分
【遺族年金】
給付基礎日額の153日分
石綿健康被害救済制度による給付金 【特別遺族一時金】
1200万円
【特別遺族年金】
240万円
会社による賠償金 2500〜3000万円程度

 

アスベストで医療費の助成を受けられますか?

アスベストによる健康被害では、医療費の助成を受けることができます。

助成を行う制度としては、「労災保険」と「石綿健康被害救済制度」が挙げられます。

 

 

まとめ

アスベストによる健康被害は深刻な問題であり、被害者とそのご家族の方々を支援するために、様々な救済制度が設けられています。

本記事で解説した5つの救済制度は、それぞれ特徴や対象者が異なりますが、いずれも被害者の方々の生活を支え、適切な補償を提供することを目的としています。

ただ、様々な救済制度があるゆえに、適切なタイミングで適切な申請等を行うことは、経験がないと難しいという一面もあります。

弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベストによる被害を受けた方の救済に注力する弁護士が在籍しています。

また、アスベストによる健康被害に関するご相談については、初回の相談料や着手金をいただいておりません。

少しでも気になることがあるという方は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。

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