遺族が受給できるアスベストの給付金とは?最新情報を解説

アスベストによる健康被害は、長い潜伏期間を経て発症するため、被害者本人だけでなく、遺族の方にも深刻な影響を与えます。

ご遺族の方に対しては、大切な家族を失った悲しみに加え、経済的な不安も大きな負担となることでしょう。

しかし、アスベスト被害に対しては、ご遺族の方が受けられる様々な給付金や補償制度が存在します。

これらの制度を適切に活用することで、経済的な負担を軽減し、故人の遺志を継いで前に進むための支えとすることができます。

本記事では、遺族の方々が受給できるアスベストの給付金について、最新の情報を交えながら詳しく解説をしていきます。

遺族が受給できるアスベストの給付金とは?

遺族が受給することができるアスベストの給付金には、以下のものがあります。

  • 建設アスベスト給付金
  • 石綿健康被害救済給付金
  • 労災による給付金
  • アスベスト訴訟
  • 会社に対する損害賠償請求訴訟

これらの給付金のうち、いずれを受け取ることができるかは、亡くなられたご本人がどういった経緯でアスベストによる健康被害を受けたか等によって決定されます。

 

 

アスベストの給付金を請求できる遺族とは?

アスベストの給付金は、遺族の代表者が1人(単独)で請求を行う必要があります。

具体的には、以下の3つの制度については、単独での請求となります。

  • 建築アスベスト給付金
  • 石綿健康被害救済制度
  • 労災保険

ここで注意していただきたいのが、遺族であれば誰でも代表者として請求をすることができるわけではないということです。

請求することができる遺族は法律で定められており、以下の順位のうち、ご存命かつ1番順位の高い方のみが給付金を受け取ることができます。

順位 ご本人との関係
1 配偶者(内縁関係を含む)
2
3 父母
4
5 祖父母
6 兄弟姉妹

なお、同順位の方が複数いる場合でも、請求は1人の方が行うこととされています。

これに対し、いわゆる裁判で請求を行う場合には、相続人全員がそれぞれの相続分にしたがって、請求を行うことができます。

裁判で請求を行う場合とは、以下の2つが挙げられます。

  • アスベスト訴訟
  • 会社に対する損害賠償請求訴訟

この場合の相続人の順位と法定相続分は、以下の通りです。

順位 相続人 法定相続分
1 配偶者のみ 100%
2 配偶者+子
※子が死亡している場合は孫
配偶者 1/2
子 1/2
3 配偶者+父母
※父母が死亡している場合は祖父母
配偶者 2/3
父母 1/3
4 配偶者+兄弟姉妹
※兄弟姉妹が死亡している場合は甥姪
配偶者 3/4
兄弟姉妹 1/4

相続について、より詳しく知りたいという方は、ぜひ以下の記事を参考にしてください。

 

 

遺族の建設アスベスト給付金の請求

建設アスベスト給付金は、 建設作業に従事していたことによってアスベストにばく露し、アスベストによる病気(石綿肺、悪性中皮腫、肺がんなど)を発症した場合に国から支払われるお金です。

ご遺族の方が建設アスベスト給付金を受け取るためには、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • ご本人が特定石綿ばく露建設業に従事していたこと
  • ご本人が以下いずれかの石綿関連疾病を発症したこと

中皮腫
肺がん
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
石綿肺(じん肺管理区分管理2~4)
良性石綿胸水

  • 請求期限を過ぎていないこと

 

給付金はいくら?

ご遺族の方が建築アスベスト給付金を請求する場合は、亡くなられたご本人の病状等に応じて、以下の金額を受け取ることができます。

アスベスト関連疾患以外の原因で死亡した場合
1 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症なし 550万円
2 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症あり 700万円
3 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症なし 800万円
4 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症あり 950万円
5 以下いずれかのアスベスト関連疾患を発症

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • 石綿肺管理4
  • 良性石綿胸水
1150万円
アスベスト関連疾患で死亡した場合
6 上記1または3により死亡 1200万円
7 上記2、4、5により死亡 1300万円

 

時効について

ご遺族の方が建設アスベスト給付金を受け取るためには、以下のいずれかのうち、最も遅い日から20年以内に請求を行う必要があります。

  • アスベスト関連疾病にかかった旨の医師の診断日
  • アスベスト肺に係るじん肺管理区分の決定日
  • アスベスト関連疾病により死亡した時は死亡日

 

 

遺族の石綿健康被害救済制度による給付請求

石綿健康被害救済制度は、アスベスト被害者のうち、労災保険の対象とならない方や、労災保険の給付を受ける権利を失われた方を対象とした国の救済制度です。

ご遺族の方が石綿健康被害救済制度給付を受けとるためには、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • ご本人が以下の石綿関連疾病により死亡したこと・中皮腫
    ・肺がん
    ・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
    ・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • 請求期限を過ぎていないこと

 

給付内容

ご遺族の方が石綿健康被害救済制度による給付を請求する場合は、以下の給付を受けることができます。

給付の種類 給付の内容 給付金額
特別遺族弔慰金 ご遺族に対する弔慰等のために支給 280万円
特別葬祭料 ご遺族に対する弔慰等のために支給 19万9000円
救済給付調整金 ご本人に支給した医療費および療養手当+ご遺族に支給した未支給の医療費等の合計金額が280万円に満たない場合に、その差額を遺族に対し支給 280万円/上限
特別遺族年金 労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対して支給 240万円/年
特別遺族一時金 労災補償を受けずに死亡した労働者の遺族に対して支給 1200万円

 

時効について

ご遺族の方が石綿健康被害救済制度による給付金を受け取るためには、以下の期間内に請求を行う必要があります。

特別遺族弔慰金
特別葬祭料
救済給付調整金
以下いずれかにより死亡
・中皮腫
・肺がん
・2006年3月26日以前に死亡 → 2032年3月27日まで
・2006年3月27日〜2008年11月30日に死亡 → 2033年12月1日まで
・2008年12月1日以降に死亡 → 死亡した日の翌日から25年以内
以下いずれかにより死亡
・著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
・2010年6月30日以前に死亡 → 2036年7月1日まで
・2010年7月1日以降に死亡 → 死亡した日の翌日から25年以内
特別遺族年金

特別遺族一時金

2032年3月27日まで
※2026年3月26日までに死亡した方の遺族が対象

 

 

遺族の労災の申請

労働者が業務上または通勤途中で負傷したり、疾病にかかったり、障害を負ったり、死亡したりした場合は、労災による補償を受けることができます。

ご遺族の方が労災による補償を受けるためには、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • ご本人が石綿ばく露労働者であったこと
  • ご本人が以下いずれかの石綿関連疾病により死亡したこと・石綿肺
    ・中皮腫
    ・肺がん
    ・良性石綿胸水
    ・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
  • 請求期限を過ぎていないこと

 

給付内容

ご遺族の方が労災による給付を請求する場合は、以下の給付を受けることができます。

給付の種類 給付の内容
葬祭給付 労働者本人の葬祭にかかる費用を補償するために給付 以下いずれかの金額を支給

・給付基礎日額の30日分+31万5000円
・給付基礎日額の60日分

遺族年金 遺族の生活(所得)を保障するために支給 遺族が一人の場合、給付基礎日額の153日分を支給
遺族一時金 遺族の生活(所得)を保障するために支給 300万円+年金の支給対象とならない場合は給付基礎日額の1000日分の一時金を支給

 

時効について

ご遺族の方が労災による補償を受けるためには、以下の期間内に請求を行う必要があります。

葬祭給付 ご本人が亡くなった日の翌日から2年
遺族年金
遺族一時金
ご本人が亡くなった日の翌日から5年

 

 

遺族のアスベスト訴訟の和解手続の利用

アスベスト訴訟とは、アスベストによる健康被害を受けた方が、国に対し、裁判手続きを通じて賠償金の支払いを求めるものです。

ご遺族の方がアスベスト訴訟によって国から賠償金を受け取るためには、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • ご本人が以下の期間中に石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと・1958年5月26日〜1971年4月28日
  • ご本人が以下いずれかの石綿関連疾病を発症したこと・中皮腫
    ・肺がん
    ・石綿肺(じん肺管理区分管理2~4)
    ・びまん性胸膜肥厚
  • 請求期限を過ぎていないこと

 

いくらもらえる?

ご遺族の方がアスベスト訴訟の和解手続によって給付金を請求する場合、亡くなられたご本人の病状等に応じて、以下の金額を受け取ることができます。

アスベスト関連疾患以外の原因で死亡した場合
1 石綿肺管理2で合併症なし 550万円
2 石綿肺管理2で合併症あり 700万円
3 石綿肺管理3で合併症なし 800万円
4 石綿肺管理3で合併症あり 950万円
5 以下いずれかのアスベスト関連疾患を発症

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 石綿肺管理4
  • びまん性胸膜肥厚
1150万円
アスベスト関連疾患で死亡した場合
6 上記1または3により死亡 1200万円
7 上記2、4、5により死亡 1300万円

 

時効について

ご遺族の方がアスベスト訴訟の和解手続を利用して賠償金を受け取るためには、以下のいずれかの期間が経過する前に訴訟を提起する必要があります。

  • アスベスト被害を知ってから5年
  • 最も重い症状が生じてから20年

 

 

遺族の会社に対する損害賠償請求訴訟

会社に対する損害賠償請求訴訟とは、アスベストによる健康被害でご家族を亡くしたご遺族が、アスベスト製品の製造・販売・使用等をしていた会社に対して、損害賠償を請求する訴訟です。

会社に対する損害賠償請求訴訟の請求根拠は、主には「安全配慮義務違反」と「不法行為」です。

 

いくら請求できる?

会社に対してどの程度の金額を請求できるかについては、ご本人の病状等によって異なります。

これまでの経験則上、アスベスト関連疾患が原因でご本人が死亡している場合は、2500万円〜3000万円程度の慰謝料等が認められる傾向にあります。

 

時効について

ご遺族の方が会社に対する損害賠償請求訴訟を行い、賠償金を受け取るためには、以下のいずれかの期間が経過する前に訴訟を提起する必要があります。

  • アスベスト被害を知ってから5年
  • 最も重い症状が生じてから20年

 

 

アスベスト被害の3つのポイント

アスベストによる健康被害でご家族を失ったご遺族にとって、経済的な補償を受けるためには、3つの重要なポイントを押さえておくことが大切です。

救済制度の手続きを正しく進めるためには、確実な情報と法的な支援が欠かせません。

ここでは、ご遺族がアスベストによる給付金や損害賠償を受けるために、知っておくべき3つの重要なポイントについて解説します。

アスベスト被害の3つのポイント

①自分が請求権者なのか確認する

まず、ご遺族がアスベスト被害の給付金を受け取るためには、ご自身が「請求権者」として認められているかを確認する必要があります。

請求権者ではない方が請求を行った場合、給付金を受け取ることができませんので、労力が無駄になってしまう可能性があります。

そのため、自分が請求権者であるのかをまず最初に確認しましょう。

 

②請求できる期限に注意

アスベスト被害に関する給付金や損害賠償金の請求には、それぞれ期限が設けられています。

請求期限を過ぎてしまうと、原則として給付金を受け取ることができません。

大切なご家族を失い、非常にお辛いことと思いますが、請求期限には十分注意をしてください。

 

③アスベストにくわしい弁護士へ相談する

アスベスト被害に関する補償制度は複雑な上に、請求期限も設けられているため、専門的な知識が求められます。

大切なご家族を失った悲しみの中で、こうした手続きに向き合うことは非常に辛いことだと思います。

アスベストに詳しい弁護士のサポートを受けることで、複雑な手続きの負担を軽減し、適切な補償を受ける可能性を高めることができます。

そのため、一人で抱え込まず、専門家のサポートを受けながら、手続きを進めることをおすすめします。

 

 

アスベストの遺族給付金についてのQ&A

アスベストの遺族給付金について、よくあるご質問にお答えします。

アスベストによる特別遺族給付金の期限はいつまでですか?

アスベストによる特別遺族給付金の請求期限は、最近の法改正により延長されました。

現在の期限は、「2032(令和14)年3月27日まで」となっています。

 

アスベストの遺族年金はいくら?

アスベスト被害による遺族年金の金額は、制度やご遺族の状況等によって異なります。

主な制度と1年あたりの給付額は以下の通りです。

ご遺族の数 労災保険 石綿健康被害救済制度
1人 給付基礎日額の153日分 240万円
2人 給付基礎日額の201日分 270万円
3人 給付基礎日額の223日分 300万円
4人 給付基礎日額の245日分 330万円

 

 

 

まとめ

アスベストによる健康被害は、被害者本人だけでなく、ご遺族にも深刻な影響を与えます。

ご遺族の負担を少しでも軽減できるように、国はさまざまな給付金制度や補償制度を整備しています。

これらを適切に活用することで、ご遺族の経済的負担については、軽減することができます。

しかし、各制度は申請期限や必要な書類、手続き等がそれぞれ異なっているため、複雑さが伴います。

そのため、制度の利用を迷っている方や、どの制度を選択すべきかわからないという方は、ぜひ専門家に相談することをおすすめします。

弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベスト問題に注力する弁護士が在籍し、アスベスト被害に悩むご遺族の方を強力にサポートしています。

オンラインでのご相談も可能となっておりますので、お悩みの方は、ぜひ1度当事務所までご相談ください。

 

 

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