アスベスト訴訟の和解手続とは?メリットやデメリットを解説


アスベストによる健康被害のうち、アスベスト工場での勤務がある方を対象にした給付金については、国に対する国家賠償の裁判を提起して、その中で和解をしなければなりません。

ぜひ参考にして、ご自身が対象になるかどうか気になる方は早めに弁護士に相談するようにしましょう。

この記事でわかること

  • アスベスト訴訟の和解手続の内容
  • どんな手続なのか
  • 対象となる人・給付金の金額
  • 訴訟の流れ
  • 訴訟の中で証明しないといけないこと
  • 弁護士に依頼するメリット・デメリット

アスベスト訴訟の和解手続の概要

まずは、アスベスト訴訟の国との和解手続について、どんな手続なのか、なぜこの手続が認められているのかについて解説します。

どんな手続なのか

この手続は、アスベストによる健康被害を受けた方またはそのご遺族が国を相手に裁判をする国家賠償請求の裁判になります。

国は、裁判の手続の中で原告の方がアスベストによる健康被害に対する補償の対象となるかどうかの判断を行った上で、対象となると判断された方については、和解をすることで給付金を支払うという手続になります。

なぜこの手続が認められているのか

アスベストによる健康被害については、全国各地で問題視され、2000年代に入って、アスベスト工場で働いていて、その粉塵を吸ったことで健康被害が生じた労働者の方が国を相手に裁判を提起しました。

そして、石綿紡績業が盛んだった大阪府の泉南地域の方々が訴えていた裁判に関して、最高裁判所が国の責任を認める判断を出しました。

これが泉南アスベスト訴訟最高裁判決と呼ばれている裁判です。

したがって、アスベスト訴訟の和解手続については、

泉南アスベスト訴訟最高裁判決というものによって認められている制度ということになります。

なお、その後、アスベスト工場で働いていた人だけでなく、アスベストを使用した製品が建設業界で使用されていたことから、屋内の建設業務で働いていた人や吹き付け作業をしていた人たちやそのご遺族も国を相手に裁判を全国各地で起こしました。

この建築アスベストの裁判についても、国が責任を認めて、弁護団との間で和解についての基本合意が成立しました。

こうした流れを受けて、

令和4年1月19日に「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」という法律が施行されています。

この法律により、建設型のアスベスト被害については厚生労働省に給付金の請求を行うことで、調査を行い、給付を受けることができるようになりました。

詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

どんな人が対象となるの?


それでは、このアスベスト訴訟の和解手続で対象になる人はどのような人なのでしょうか?

工場型

アスベスト訴訟の和解手続が必要なアスベスト工場で働いていた方を対象とする工場型についてですが、対象になるのは、以下の要件を満たす人です。

  • 1958年(昭和33年)5月26日から1971年(昭和46年)4月28日までの間に、アスベスト(石綿)を取り扱う工場等で石綿粉じんにばく露する作業に従事していた
  • その結果として、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などのアスベストが原因の健康被害を被った人、またはそのご遺族
  • 消滅時効が完成していないこと(原則としてアスベスト被害を知って3年もしくは5年以内、かつ、最も重い症状が生じて20年以内)
建設型

なお、厚生労働省への給付金申請を行う建設型について、給付金の対象になるのは、以下の要件を満たす人です。

  • 労働者並びに一人親方及び労災特別加入制度の加入資格を有する中小事業主が一定の屋内作業場で石綿にさらされる建設業務に従事していた
    ア 屋内建設作業(屋内吹付作業も含む)
    昭和 50 年10 月1日から平成 16 年9月 30 日までの間
    イ 吹付作業
    昭和 47 年 10 月1日から昭和 50 年9月 30 日までの間
  • その結果として、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などのアスベストが原因の健康被害を被った人、またはそのご遺族
  • 消滅時効が完成していないこと(原則として健康被害の発症から20年以内)

このように、工場型と建設型では補償の対象になる、作業に従事していた期間が異なっています。

 

 

受け取れるのはいくら?

次に、国から受け取れる給付金がいくらになるのかについて解説します。

症状 給付金の金額
じん肺管理区分の管理2で合併症がない場合 550万円
管理2で合併症がある場合 700万円
管理3で合併症がない場合 800万円
管理3で合併症がある場合 950万円
管理4で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚の場合 1150万円
石綿肺(管理2・3で合併症なし)による死亡の場合 1200万円
石綿肺(管理2・3で合併症ありまたは管理4)で肺がん・中皮腫・びまん性胸膜肥厚による死亡の場合 1300万円

 

「じん肺管理区分」とは?

じん肺管理区分とは、じん肺健康診断の結果に基づいて患者に認定される、じん肺の進行度を示すもののことをいいます。

この管理区分で、管理1は所見なし、管理2以上でじん肺の所見があるという診断になります。

そして、この数字が大きいほど症状が悪化しているという判断になります。

このじん肺管理区分に関する認定を受けるには、お近くの医療機関において、じん肺健康診断を受ける必要があります。

じん肺健康診断は呼吸器科のある医療機関で実施していますが、実施しているかどうかについてはを直接、病院に確認するようにしましょう。

こうした検査の結果、じん肺の所見ありと診断された場合には、エックス線写真やじん肺健康診断結果証明書などの書類を都道府県労働局長に提出し、じん肺管理区分の認定を申請することで認定を受けるという流れになります。

 

「合併症」とは?

上の表のとおり、給付金の金額は合併症があるかないかによって変わってきますが、ここで指定されている合併症は以下の5つになります。

  1. 肺結核
  2. 結核性胸膜炎
  3. 続発性気管支炎
  4. 続発性気管支拡張症
  5. 続発性気胸

 

 

訴訟手続の流れ

それでは、アスベスト訴訟の和解手続きの流れを説明していきます。

アスベスト訴訟の和解手続きの流れ

  • 1.裁判の準備
    自分がアスベストの給付金の対象になりそうということで、いきなり裁判をすればよいかというとそうではありません。

    まずは、本当に給付金の対象になるのかどうか、なるとしてどのケースに該当するのかを調査する必要があります。

    和解するために必要な条件について詳しくは後ほど解説しますが、

    ・対象とされている期間に、アスベストにさらされる業務で働いていたということ
    ・その結果、健康被害が生じていること
    ・健康被害がいつから生じているのか

    といった事項について、証拠を収集しなければなりません。

    こうした調査と証拠の収集を裁判をする前の段階で行って、裁判の準備をすることが最初に必要になります。

    弁護士に依頼することで、こうした裁判の準備のところから、どのような書類が必要になるのかをアドバイスしてもらったり、裁判に必要な訴状を弁護士に作成してもらうことができます。

  • 2.訴状と証拠を裁判所に提出
    裁判の準備を進めた上で、収集した証拠と訴状を裁判所に提出します。

    どの裁判所に提出するのかですが、

    国を相手にする裁判の場合、被告は法務大臣の名前を書いて提出することになるのですが、首都は東京ですので、東京地裁に提出することがまず可能です。

    また、アスベスト給付金については、

    請求する原告の現在の住所地、実際に業務に従事していた場所を管轄する裁判所にも法律的に裁判を提起することが可能です。

    したがって、多くのケースでは、ご自身の今住んでいるところを管轄している裁判所に裁判を提起するのがよいでしょう。

  • 3.国による審査、証拠の補充
    裁判所に訴状と収集した証拠を提出すると、裁判所から第1回目の裁判期日が指定されます。

    通常の裁判であれば、1か月から2か月の間に1回のペースで裁判期日を開いて、お互いの言い分を書面で提出して、争いのあるところ(争点)を整理していくのですが、アスベスト訴訟の場合には、国が調査部門で提出された証拠を検討して、和解の要件を満たしているのかどうかを調査するという流れになります。

    国による調査は事案に応じて変わりますが、半年から1年程度必要なことが多いでしょう。

    この調査の中で、国から補充の証拠を求められることもあります。求められた場合には、内容を確認して追加の証拠の準備を検討していきます。

  • 4.和解
    国による審査の結果、要件を満たしていると判断された場合には、裁判の中で和解をして、解決ということになります。

    給付金は和解後に支払われます。

 

 

和解が成立するための必要な条件とは?

アスベスト訴訟で、国との和解が成立するための条件は、「どんな人が給付対象になるの?」で説明したとおりです。

工場型
  • 1958年(昭和33年)5月26日から1971年(昭和46年)4月28日までの間に、アスベスト(石綿)を取り扱う工場等で石綿粉じんにばく露する作業に従事していた
  • その結果として、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚などのアスベストが原因の健康被害を被った人、またはそのご遺族
  • 消滅時効が完成していないこと(原則として健康被害の発症から20年以内)

ですので、和解が成立するためには、ご自身やご遺族の場合には、亡くなった方がこの条件を満たすことを示す証拠を提出することが必要になります。

具体的には、以下のような書類です。

 

1 被保険者記録照会回答票

まずは、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、アスベスト工場での作業歴を証明する必要があります。

この期間に作業歴がない場合には、この和解制度による工場型のアスベスト給付金は対象になりません。

作業歴をどのように証明するかですが、日本年金機構が発行する「被保険者記録照会回答票」が考えられます。

被保険者記録照会回答票とは、基礎年金番号に紐づけられている、その人のこれまでの年金加入履歴等が記載された書類です。

加入していた年金(国民年金なのか厚生年金なのか)、その期間、加入期間中に勤務していた会社などの情報が記録されています。

この回答票から、昭和33年5月26日から昭和46年4月28日の間に勤めていた会社の情報が証明できるため、アスベスト工場で働いていたことを立証していきます。

 

2 じん肺管理区分決定通知書

給付金の金額は、その方の症状によって変わってきます。

また、給付金が支給されるのは、先ほど解説したとおり、じん肺管理区分で2以上の判定がされた人です。

そのため、その人が判定されたじん肺管理区分決定通知書という書類が必要になります。

この書類は、都道府県労働局長が発行しています。

 

3 診断書・カルテ

じん肺管理区分決定通知書とあわせて、健康被害の具体的な症状を証明するために、医師による診断書や治療している病院のカルテが必要になります。

具体的にどこまでの資料が必要かはケースバイケースですので、弁護士に相談しながら準備をしましょう。

 

4 死亡診断書

アスベストによる健康被害で亡くなってしまっている場合の給付金を請求する場合には、死亡との因果関係を証明する資料として死亡診断書が必要になります。

死亡診断書には医師による死因の記載がなされています。

この記載からアスベストによる健康被害で死亡したことを立証します。

 

5 戸籍謄本等

アスベストによる健康被害ですでに亡くなってしまっている場合やアスベストによる健康被害でじん肺管理区分2以上が判定されていて、その後にその他の原因で亡くなってしまった方の場合、ご遺族が本人に代わって給付金訴訟を行うことになります。

この場合は、相続人であることを証明するために、本人の生まれてから亡くなるまでの間のすべての戸籍書類が必要になります。

 

 

弁護士に依頼するメリットとデメリット


アスベスト訴訟を弁護士に依頼するメリットとデメリットについて解説していきます。

メリット

収集が必要となる書類についてアドバイスを受けられる

工場型のアスベスト給付金は訴訟が必要になります。

ご自身が給付の対象になるかもと考えても、そこから具体的にどのような書類を集めればよいのか、どう動けばよいのかがわからないと給付金を受け取ることはできません。

仕事や日常生活を送りながら、自分でこの裁判のことを調べて、自分だけで書類を集めていくのはとても大変な労力がかかります。

弁護士に依頼すれば、ご本人が集めなければならない書類についてアドバイスを受けることができ、スムーズに収集することができます。

裁判の書類を弁護士に作成してもらえる

訴訟をするためには、書類の収集だけではなく、訴状をはじめとする裁判書類を作成して、裁判所に提出しなければなりません。

こうした訴状などの裁判書類をご自身で作成するのはとても難しいものです。

なぜなら、ほとんどの方は訴状を作ったことがないからです。

この点、弁護士は日頃から裁判書類を作成していますので、弁護士に依頼すれば、証拠を前提として訴状やその後の準備書面などの書面をすべて弁護士に任せることができます。

裁判の出頭を弁護士に任せられる

弁護士に依頼しなければ、裁判所から指定される平日の日中に必ず出席しなければなりません。

しかし、弁護士に依頼すれば、本人尋問といった特別な手続を除いて、裁判所の出頭は弁護士が行いますので、ご負担を軽減することができます。

 

デメリット

弁護士費用がかかる

弁護士に依頼する以上、弁護士に支払う費用はかかってしまいます。

この点は、確かにデメリットになりえます。

しかしながら、工場型のアスベスト給付金の場合、国を相手にした裁判が必要ですので、先ほどのようなメリットを考えると弁護士費用というのは大きなデメリットではなく、むしろ必要な費用であるといえるでしょう。

 

 

アスベスト訴訟の3つのポイント

請求期限に注意する

アスベスト訴訟については、原則としてアスベスト被害を知って3年もしくは5年以内、かつ、最も重い症状が生じて20年以内に裁判を提起しなければ時効により請求ができなくなってしまいます。

対象となっている作業に従事していた期間は昭和33年5月26日から昭和46年4月28日とすでに50年が経過しています。

また、アスベスト訴訟の根拠となる泉南アスベスト訴訟最高裁判決が出されたのも平成26年10月9日と、すでに一定期間が経過しています。

そのため、できるだけ早く請求するに越したことはありません。

気になる方は早めに弁護士に相談しましょう。

 

他の制度の活用も検討する

アスベストによる健康被害については、訴訟以外にも

・労災保険
・石綿健康被害救済制度

といった他の制度の活用も検討するようにしましょう。

 

アスベストに詳しい弁護士へ相談する

一口に弁護士といっても、いろいろな弁護士がいて、多くの弁護士には注力分野があります。

中には、注力分野がなく、相談に来られた案件を都度対応している弁護士もいるでしょう。

しかし、どの分野でもそうですが相談するときには、その分野に詳しい弁護士に相談するようにしましょう。

工場型のアスベストに関しては、国に対する訴訟が必要です。

また、健康被害に対する理解が必要です。

そのため、できるだけアスベストに詳しい、人の身体のことに詳しい弁護士に相談するようにしましょう。

 

 

まとめ

いかがでしたか?

裁判と聞くと、面倒そうだ、自分にはできないと思うかもしれません。

しかし、アスベストによる健康被害で苦しむ方にとって、適切な補償を受けることは権利であり、とても重要なことです。

できるだけ早めに弁護士に相談してみましょう。

デイライトでは、アスベストや労災など、人のけがに対する補償について、取り扱う人身障害部に所属し、注力している弁護士がチームで対応しております。まずはお気軽にご相談ください。

お気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
ご相談の流れ

 

 

建設現場等で働いていた方、そのご遺族へのサポート
石綿工場で働いていた方、そのご遺族へのサポート
まずはご相談ください
初回相談無料