「アスベスト調査」とは、建物の解体・改修などの工事をする前に、建築物等に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを事前に調査することをいいます。
2021年から2023年にかけて行われた「大気汚染防止法」と「石綿障害予防規則」の改正により、アスベストの事前調査と結果報告が義務化されました。
また、事前調査については「建築物石綿含有建材調査者」の資格を取得している者のみ行うことができます。
アスベスト調査の義務に反した場合、大気汚染防止法に基づいて、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
そのため、しっかりと法令改正の内容について確認しておくことが重要です。
この記事では、アスベスト調査義務化の対象建築物や調査の流れなどについて詳しく解説を行います。
目次
アスベスト調査の義務化はいつから?
アスベスト調査の義務化は、2021年から2023年にかけて行われました。
アスベスト規制に関する法令には「大気汚染防止法」と「石綿障害予防規則」があります。
これらの法令が改正され、以下を内容とする新規規定が作られました。
2021年 | 事前調査の義務化 |
2022年 | 結果報告の義務化 |
2023年 | 有資格者による事前調査の義務化 |
2021年には、アスベストの「事前調査」が義務化されました。
事前調査には、「書類調査」「目視調査」「分析」「石綿みなし判定」があります。
2022年には、アスベスト調査の「結果報告」が義務化されました。
この報告は工事開始の14日前までに行わなければならず、調査資料等は3年間保存しておく必要があります。
そして、2023年には、「有資格者による事前調査」が義務化されています。
これらの義務に従わなかった場合は、罰則を科されるおそれがあります。
アスベスト調査の背景と目的
国がアスベスト調査や報告を義務付けた目的は、「アスベストによる深刻な健康被害を防ぐこと」です。
アスベストは、綿のように軽いのに丈夫で変質しにくく、耐久性や耐熱性にも優れているにも関わらず安価な素材であったことから、かつては「奇跡の鉱物」とも呼ばれ、建材や断熱材として広く使用されていました。
しかし、アスベストは0.02から0.06μm(髪の毛の5000分の1程度の大きさ)という非常に細かい粒子で大気中に舞い上がりやすいという特徴があり、体内に入ると肺がんや悪性中皮腫(胸膜や腹膜にできるがん)などの重篤な病気を引き起こすことが判明しました。
そのため、2006年9月以降は、アスベストは製造・使用ともに禁止されています。
しかし、2006年9月以前に建てられた建造物の多くにアスベストが使用されていることから、解体等を行う際にアスベストにさらされる危険性は依然として残っています。
厚生労働省の統計によると、中皮腫による死亡者数は増加傾向にあり、1995年には約500人だった死亡者数が、2020年には1605人に達しています。
中皮腫は、発症部位がいずれであっても、アスベストが発症原因として関与していることがわかっています。
その他、アスベストが原因で発症したと思われる肺がん患者の死亡者数は、2005年から2010年までの5年間で約4100〜9600人にものぼるとの環境省の試算もあります。
2020年以降は、アスベストが使用されている建造物の多くが耐用年数を迎えることとなります。
そのため、解体工事などを行う際のアスベスト対策を強化する必要がありました。
このような背景事情から、国は2021年から2023年にかけて、アスベストの調査義務等を強化するに至りました。
参考:都道府県(特別区-指定都市再掲)別にみた中皮腫による死亡数の年次推移(平成7年~令和4年)|厚生労働省
アスベスト調査の義務化の対象となる工事は?
アスベスト調査は、原則として全ての建築物等について義務化されています。
ただし、報告義務が課されている建築物等は限定されており、詳しくは石綿障害予防規則4条の2に規定があります。
結果報告の義務が課されている工事は、以下の通りです。
建築物の解体工事 | 床面積の合計が80㎡以上の建造物 |
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建築物の改修工事 | 工事の請負代金の額が100万円以上のもの |
工作物の解体・改修工事 | アスベストが使用されているおそれが高いものとして環境大臣が定めるもので、工事の請負代金の額が100万円以上のもの |
船舶の解体・改修工事 | 総トン数20トン以上の船舶(鋼製のものに限る) |
アスベスト事前調査の対象外となる工事は?
アスベスト事前調査の対象外となる工事は、アスベストの飛散のおそれが少ないと考えられる工事です。
具体的には、「工事対象の建材が木材、金属、石、ガラスなど、アスベストを明らかに含まない素材のみの場合」や「畳や電球など、アスベストを含むことがない製品の取り外しの場合」など、隣接する建材に損傷を与える可能性がない場合が挙げられます。
また、釘による固定や釘を抜くなど、アスベストが飛散する可能性がほとんどない作業についても、事前調査は不要となります。
ただし、これらの作業であっても、周辺の建材にアスベストが含まれている可能性がある場合や、作業によって周辺建材に影響を与える可能性がある場合は、調査が必要となる場合があります。
また、アスベストの使用が禁止された2006年9月1日以降に着工・建設された建築物についても、アスベスト事前調査は不要です。
アスベスト調査の義務化で実施しなければならないこととは?
アスベスト調査の義務化がされたことで、元請業者は、原則として「事前調査」「結果報告」をセットで行う必要があります。
事前調査には、「書面調査」と「目視調査」があり、一部例外を除き、両方の調査を行わなければなりません。
書面調査と目視調査でアスベスト含有の有無が判明しなかった場合には、さらに「分析」という調査を行う必要があります。
ただし、アスベストが含有されているものとみなして法令に基づく石綿飛散防止措置等を採る場合には、分析の調査は省略することができます。
2023年10月1日以降、事前調査については、「建築物石綿含有建材調査者」という資格を有している者が行う必要があります。
なお、日本アスベスト調査診断協会に登録している者も有資格者と「同等以上の能力を有する者」として調査をすることが認められています。
調査結果の報告は、各都道府県(大気汚染防止法)および労働基準監督署(石綿障害予防予防規則)の両方に行う必要があります。
調査結果の報告については、厚生労働省および環境省が提供する「石綿事前調査結果報告システム」を通じて、元請業者が行います。
石綿事前調査結果報告システムを利用することで、1度の申告で各都道府県および労働基準監督署の両方に報告をすることができます。
報告の際に作成した「調査報告書」は、3年間の保管が義務付けられています。
建築物石綿含有建材調査者とは?
建築物石綿含有建材調査者とは、建築物に使用されているアスベスト含有建材を適切に調査できる資格を持つ専門家のことです。
この資格には以下の3つの区分があります。
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者
一般建築物石綿含有建材調査者と特定建築物石綿含有建材調査者は全ての建築物の調査を行うことができる一方、一戸建て等石綿含有建材調査者は一戸建て住宅および共同住宅の内部(共有部分は除く)の調査しか行うことができないため、注意しましょう。
建築物石綿含有建材調査者の資格を取得するためには、厚生労働省が定める講習を受講した上で、試験に合格する必要があります。
アスベスト調査を実施しないとどうなる?
アスベスト調査を実施しなかった場合、大気汚染防止法に基づいて、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(大気汚染防止法35条の4)。
また、アスベスト除去などの措置義務に違反した場合は、3ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
アスベスト調査の流れ
アスベスト調査では、大きく分けると「事前調査」と「結果報告」という2つの作業を行う必要があります。
事前調査は、原則として全ての建築物等に対して行わなければなりません。
事前調査は、書面調査→目視調査→(分析または石綿みなし判定)という流れで行います。
書面調査と目視調査は、セットで必ず実施する調査です。
書面および目視調査でアスベスト含有の有無が判明しなかった場合、分析または石綿みなし判定を行うこととなります。
事前調査が完了したら、結果報告書を作成し、都道府県および労働基準監督署へ結果を報告します。
アスベスト事前調査とは
アスベストの事前調査とは、建物の解体・改修などの工事をする前に、建築物等に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを調査することをいいます。
調査は、原則として全ての建築物等について行う必要があります。
ただし、工事対象の建材が木材、金属、石、ガラスなど、アスベストを明らかに含まない素材のみの場合など、アスベスト飛散の可能性がない場合には、一部調査が免除されることがあります。
事前調査を行う際は、書類調査と目視調査の2つを必ず行わなければなりません。
書類調査では、以下のような書類を確認し、文書内のアスベストに関する記載や建築年次などから、アスベストが含有されているかどうかを確認します。
書類調査を行うにあたっては、以下のような書類を確認することとなります。
- 設計図(確認申請書、確認済証)
- 竣工図
- 改修図
- 対策工事記録
- 過去の維持管理のための調査記録、改造補修時の記録
- 過去の石綿含有に関する調査記録
また、目視調査では、建築物の外観から内装や下地等の内側まで、一通り確認することとなります。
書類調査と目視調査でアスベスト含有の有無が判明しなかった場合には、分析または石綿みなし判定のいずれかを行います。
分析は、建築物の建材ごとにサンプルを採取し、分析会社にてアスベストが含有されているかを調べるものです。
石綿みなし判定は、アスベスト含有の有無を問わず、アスベストが含有されているとみなして、法令に基づく石綿飛散防止措置等を講じた上で工事を行うものです。
結果報告とは
事前調査が完了したら、「結果報告書」を作成します。
結果報告書には、以下のような事項を記載します。
- 工事の概要
- アスベスト含有建材の有無
- 調査方法
- 調査結果
- 分析結果(分析を行った場合)など
結果報告は、都道府県と労働基準監督署の両方に元請業者が提出しなければなりません。
結果報告をするにあたっては、厚生労働省および環境省が提供する「石綿事前調査結果報告システム」から行います。
このシステムを利用することで、都道府県と労働基準監督署の両方に1度の操作で報告をすることができます。
システムの利用が難しい方の場合は、紙で提出することもできます。
アスベスト調査の義務化についてのQ&A
アスベスト調査の義務化に関するご質問にお答えしていきます。
アスベストの調査資格は義務化されますか?
2023年10月1日より、アスベストの事前調査は、「石綿含有建材調査者」の資格を持つ有資格者が実施することが義務付けられました。
一部、事前調査を必要としない例外的な場合を除き、有資格者による事前調査が必要です。
2023年10月1日以降は、無資格者による事前調査は法令違反となります。
アスベストの事前調査を行っていないとして、罰則の対象にもなりますので、注意しましょう。
アスベスト事前調査はいつまでに報告する必要がありますか?
アスベスト事前調査の結果については、工事を開始する14日前までに報告する必要があります。
調査の報告は、「石綿事前調査結果報告システム」から24時間いつでも行うことができますので、先延ばしにせず、調査の結果がまとまり次第、忘れないうちに報告することをおすすめします。
また、書類調査や目視調査でアスベスト含有の有無が判明しない場合は、専門業者に分析を頼む必要があるため、その期間も考慮して早めに調査に着手しましょう。
まとめ
アスベストは、耐久性や耐熱性の高さから、かつては建材や断熱材として広く使用されていましたが、アスベストが体内に入ると肺がんや悪性中皮腫といった重篤な病気が引き起こされることがのちに判明し、2006年以降は建材として使用されることはなくなりました。
しかし、当時建築された建築物等に使用されたアスベストは除去されることなく、今でも現存しています。
2020年代以降は、アスベストを使用した建築物等が耐用年数を迎えることもあり、取壊し工事などを行う際の健康被害を防ぐ必要があります。
このような経緯から、国は2021年から2023年にかけてアスベストに関する法令を改正し、事前調査や調査の結果報告を義務付けることとしました。
これらの義務に反した場合、30万円以下の罰金などが科されるおそれがあります。
アスベストに関しては、これからも法令改正が行われる可能性もありますので、今後の国の動きに注視しておく必要があります。
弁護士への相談や依頼を考えている場合は、アスベスト問題に詳しい弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
アスベスト問題を法的に解決しようとする場合、アスベストに関する法令等を正確に理解する必要があります。
アスベスト問題に詳しい弁護士であれば、最新の裁判所の判断なども踏まえて、適切なアドバイスを行うことができます。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベスト問題に注力している弁護士が在籍しております。
アスベストの法的問題について、弁護士に相談したいと考えている方は、ぜひ1度お問い合わせください。