日本では、アスベストを含有する製品について、2012年から全ての使用等が禁止されました。
日本でアスベストの規制が開始されたのは、1975年からです。
つまり、1975年から段階的にアスベストの規制が進み、約40年後の2012年にやっとアスベスト含有製品が全て禁止されることとなりました。
この記事では、アスベスト含有製品が禁止される理由や、年代別の規制内容等について詳しく解説をしていきます。
目次
アスベストはいつから使用禁止となったのか?
日本では、昭和50年(1975年)にアスベストに関する最初の規制が導入され、その後徐々に強化されていきました。
アスベストの規制は段階的に進められ、最終的に平成24年(2012年)に全面禁止となりました。
アスベストの一部規制が開始されてから、全面禁止まではおよそ30年近くかかったことになります。
諸外国ではアスベストはいつから使用禁止?
アスベスト全てにつき原則禁止と定めた時期を比較すると、欧州の国々が早期にアスベストを禁止しています。
最も早い時期にアスベストを禁止したのはアイスランドで、1983年に原則禁止としています。
欧州連合(EU)では、1983年から1985年にかけて段階的に6種類のアスベスト繊維の使用を制限し、2005年には全てのアスベストを原則禁止としました。
アメリカでは、1992年よりアスベスト含有製品6種類について製造、輸入、使用等が禁止されました。
2024年現在では、日本を含めた約70ヵ国がアスベストの使用を禁止していますが、一部の国々ではまだ使用が続いています。
なぜアスベストは使用禁止となったのか
アスベストが使用禁止となった主な理由は、その深刻な健康被害にあります。
アスベストは、非常に細かい線維で構成されているため、空気中に舞い上がりやすいという特徴があります。
浮遊するアスベストの繊維を吸い込んだ場合、高確率で肺や胸膜に炎症や疾患が生じます。
具体的には、石綿肺、肺がん、悪性中皮腫などのアスベスト関連疾患がその代表です。
これらの病気は、アスベストを吸い込んでから発症するまでに長い潜伏期間があり、症状が現れる頃には病気が進行していることも少なくありません。
また、一度発症してしまうと、治療が難しく、多くの場合、予後が悪いという特徴があります。
アスベストは、このような深刻な健康被害を引き起こすため、今では日本を含め多くの国で使用が禁止されています。
アスベストが使用されている場所
アスベストは、耐熱性、断熱性、耐薬品性などの優れた特性から、建築物や工業製品などさまざまな場所で広く使用されてきました。
例えば、建物の屋根材としてよく使われていたスレートや、外壁材として使われていたサイディングなどには、アスベストが含まれていることがあります。
また、天井材や床材、断熱材、配管の断熱材など、建物の内部のあらゆる部分で使用されていました。
工業製品においても、アスベストはさまざまな用途で使用されていました。
例えば、自動車のブレーキパッドやクラッチプレート、機械や配管の接合部に使用されるシール材やガスケット、電気機器の内部に使用される絶縁材などにアスベストが使用されています。
年代別のアスベストの規制状況の一覧
日本では、アスベストの規制は段階的に進められてきました。
年代 | 規制内容 |
---|---|
昭和50年(1975年) | 5%を超える石綿の吹き付け原則禁止 |
平成7年(1995年) | 1%を超える石綿の吹き付け原則禁止 |
平成16年(2004年) | 1%を超える石綿含有建材等の製造禁止 |
平成18年(2006年) | 0.1%を超える石綿含有製品の使用禁止 |
平成24年(2012年) | 石綿含有製品の完全使用禁止(猶予期間終了) |
それぞれの年代と規制内容について、詳しく解説をしていきます。
昭和50年(1975年):5%を超える石綿の吹き付けを原則禁止
昭和50年(1975年)は、日本におけるアスベスト規制の重要な転換点となりました。
この年、「労働安全衛生法」の「特定化学物質等障害予防規則」が改正され、石綿含有量が5重量%を超える吹き付け作業が原則禁止となりました。
平成7年(1995年):1%を超える石綿の吹き付けを原則禁止
平成7年(1995年)には、再び「特定化学物質等障害予防規則」が改正され、石綿含有量が1重量%を超える吹き付け作業が原則禁止となりました。
また、この年には「労働安全衛生法施行令」も改正されており、アスベストのうち「アモサイト(茶石綿)」および「クロシドライト(青石綿)」の製造、輸入、使用等が原則禁止となりました。
平成16年(2004年):1%を超える石綿含有建材等の製造禁止
平成16年(2004年)には、「労働安全衛生法施行令」が改正され、1重量%を超える石綿含有建材等の製造が禁止されました。
また、以下10品目の製造、輸入等も禁止されました。
- 石綿セメント円筒
- 押出成形セメント板
- 住宅屋根用化粧スレート
- 繊維強化セメント板
- 窯業系サイディング
- クラッチフェーシング
- クラッチライニング
- ブレーキパッド
- ブレーキライニング
- 接着剤
平成18年(2006年):0.1%を超える石綿含有製品を使用禁止
平成18年(2006年)には、労働安全衛生法施行令が改正され、0.1重量%を超えるアスベスト含有製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則として禁止されました。
ただし、一部の製品(ガスケットやパッキン等)については、代替品の開発状況を考慮して、猶予措置が設けられました。
この規制強化の背景には、アスベストによる健康被害に対する社会的認識の高まりがあります。
特に、2005年に発生したクボタショックと呼ばれる事件が、アスベスト問題への関心を一気に高めたことが大きな要因となっています。
クボタショック事件とは?
機械メーカー「クボタ」の旧工場やその周辺で発生したアスベストによる健康被害のことです。
2005年6月29日、クボタは工場の従業員や周辺住民ら計84人にアスベストによる健康被害が発生したことを発表しました。
平成24年(2012年):石綿含有製品の完全使用禁止
平成24年(2012年)には、それまで猶予措置が設けられていた一部の製品についても使用が禁止されました。
これによって、0.1重量%を超えるアスベストを含有する全ての製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止されたことになります。
石綿含有建築材料の使用中止時期についての資料
アスベストは建築物に限ったとしても、「吹き付け材」「保温材」「天井材」「壁材」「床材」「屋根材」「外壁材」「断熱材」など様々な用途で使用されてきました。
そのため、石綿含有建築材料にも多種多様なものがあり、製造中止時期もそれぞれ異なっています。
アスベスト調査の際に行う書面調査では、設計図(確認申請書、確認済証)などに建材として使用された石綿含有建築材料の商品名が記載されていることがあります。
「既存建築物における石綿使用の事前診断監理指針」では、商品名から製造終了時期等について確認することができますので、ぜひ12頁以下を参照してみてください。
アスベストの人体への影響
アスベストを吸い込むと、肺や胸膜に長い間残留し、下記のような深刻な健康被害を引き起こす可能性があります。
- 石綿肺(せきめんはい)
- 肺がん
- 中皮腫(ちゅうひしゅ)
- びまん性胸膜肥厚(びまんせいきょうまくひこう)
- 良性石綿胸水(りょうせいいしわたきょうすい)
アスベストによる健康被害の特徴として、非常に長い潜伏期間があることが挙げられます。
潜伏期間が非常に長いため、アスベスト関連疾患を発症していることに気づきにくく、病気がわかった時点で、すでにかなり病気が悪化していることが多いのも厄介な特徴です。
アスベストの被害者の5つの救済制度
アスベスト被害者を救済する制度として、以下の5つの制度が挙げられます。
- 建築アスベスト給付金
- アスベスト訴訟
- 労災保険制度
- 石綿健康被害救済制度
- 会社に対する損害賠償請求
これらの制度は、いずれも請求できる要件などが異なりますので、請求を行う際には、自分がどの制度を利用できるのかを検討する必要があります。
国からの建設アスベスト給付金を請求する
アスベスト被害者の救済制度の一つとして、建設アスベスト給付金の制度があります。
建設アスベスト給付金は、アスベスト被害にあった建設労働者やその遺族を救済するための制度です。
この給付金を受け取るには、以下の要件を満たす必要があります。
- 過去に一定期間、アスベストにさらされる建設業務に従事していたこと
- アスベスト関連疾患にかかっていること
- 労働者、一人親方、中小事業主(家事従事者等を含む)であること
給付金の額は疾患の種類等によって決定され、550万円〜1300万円の範囲で支給されます。
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
アスベスト被害者の救済制度の一つとして、国とのアスベスト訴訟の和解手続があります。
この手続は、特定の条件を満たすアスベスト被害者やその遺族が、国を相手に国家賠償請求の裁判を起こし、和解を通じて補償を受ける仕組みです。
この手続きで補償を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 過去に一定期間、工場等でアスベストにさらされる業務に従事していたこと
- アスベスト関連疾患にかかっていること
給付金の額は疾患の種類等によって決定され、550万円〜1300万円の範囲で支給されます。
労災の申請をする
アスベスト被害者の救済制度の一つとして、労災保険制度があります。
労災保険制度は、職業上でアスベストにさらされたことが原因で健康被害を受けた労働者やその遺族に対して、医療費や休業補償、遺族補償などの給付を行う制度です。
この制度による補償を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 石綿ばく露労働者であること※
- アスベスト関連疾患にかかっていること
受けることができる給付の内容については、疾患の種類等や治療にかかった期間等によって異なります。
※アスベストにさらされる作業に従事しているか、または従事したことのある労働者のことを指します。
石綿健康被害救済制度による給付を請求する
アスベスト被害者の救済制度の一つとして、石綿健康被害救済制度があります。
石綿健康被害救済制度は、労災保険の対象とならないアスベスト被害者を迅速に救済するために設けられた制度です。
この制度による補償を受けることができるのは、アスベストによって以下の指定疾病にかかった方もしくはそのご遺族です。
- 中皮腫
- 肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
受けることができる給付の内容については、治療にかかった期間等によって異なります。
会社に対して損害賠償を請求する
アスベスト被害者の救済制度の一つとして、被害者やその遺族が、雇用主や製造業者に対して損害賠償を請求する方法があります。
この方法では、他の救済制度と比べてより高額の賠償金を得られる可能性がありますが、手続きが複雑で時間がかかる場合があります。
損害賠償請求の主な根拠としては、以下のものが考えられます。
安全配慮義務違反 | 雇用主が従業員の安全を確保する義務を怠った |
不法行為責任 | 製造業者が危険性を知りながらアスベスト製品を製造・販売した |
製造物責任 | 企業の行為が被害者の健康被害を引き起こした |
受け取ることができる金額は、どのような被害が生じたか等によって異なります。
アスベスト健康被害の3つのポイント
アスベスト健康被害には、以下の3つのポイントがあります。
これらは、いずれもアスベスト健康被害を防いだり、被害を最小限に抑えるために重要なポイントとなっています。
以下で詳しく解説をしていきます。
定期的に健康診断を受診する
アスベストの健康被害の早期発見と予防のためには、定期的な健康診断の受診がとても大切です。
特に、定期的な健康診断の受診が大切なのは、以下の条件にあてはまる方です。
- 建設業や解体業に従事していたことがある
- 製造業でアスベストを取り扱っていたことがある
- アスベストが飛散する可能性がある場所で居住していたことがある
このような方は、アスベストに長期間または高濃度でばく露された可能性があるため、アスベストによる健康被害は生じるおそれが高いといえます。
心当たりのある方は、定期的に健康診断を受診することをおすすめします。
請求できる期限に注意
アスベスト被害者を救済する制度には色々なものがありますが、いずれの制度も請求期限が定められています。
この期限内に請求を行わなかった場合、補償を受けることができなくなってしまいます。
例えば、建設アスベスト給付金の場合には、「アスベスト関連疾病にかかった旨の医師の診断日またはアスベスト肺に係るじん肺管理区分の決定日(アスベスト関連疾病により死亡した時は死亡日)から20年以内」に請求する必要があります。
利用する制度によって請求期限が異なりますので、この点についてしっかりと確認した上で、請求期限を過ぎてしまわないように気を付けることが大切です。
アスベストにくわしい弁護士へ相談する
アスベスト健康被害にあってしまったら、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら、アスベストによる健康被害は、法律問題が複雑に絡み合うケースが多く、専門的な知識と経験が重要となるからです。
アスベストに詳しい弁護士であれば、アスベストに関する法律、最新の判例等についての知識があるため、個々のケースに合わせた適切な対応を行うことができます。
また、請求や訴訟といった複雑な手続きを弁護士が代わりに行うことで、様々な負担が軽減されます。
アスベスト被害にあった場合は、ぜひアスベストに詳しい弁護士に相談しましょう。
アスベストの使用禁止についてのQ&A
アスベストの使用禁止についてのご質問にお答えしていきます。
アスベストは何年前まで使われていたのですか?
そのため、建築物等に関しては、2006年以降はアスベストの使用はされていません。
一部、化学工業で使用されていたガスケットやグランドパッキンについても、2012年に使用が禁止されました。
2012年以降は、全ての石綿含有製品の使用が禁止されています。
アスベスト6種類が禁止になったのはいつから?
まとめ
日本では、1975年から2012年にかけてアスベストの規制が進められました。
現在は、アスベストの使用等は全面的に禁止されていますが、過去に建築された建物等には、依然としてアスベスト含有製品が使用されたままになっています。
2020年代以降は、これらの建物等の耐用年数が一挙に到来することもあり、アスベストによる健康被害もより一層深刻化することが懸念されます。
アスベストによる健康被害を未然に防いだり、被害を最小限に抑えるためには、適切な対処を行うことが必要です。
アスベストによる健康被害が発生してしまった場合には、少しでも精神的および金銭的な負担などを減らすためにも、救済制度の利用を検討することが大切です。
ただし、救済制度には請求期限がある上、請求手続きが煩雑なものも少なくありませんので、少しでもお悩みがある場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベストに注力する弁護士が在籍しています。
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アスベスト健康被害でお困りの方は、ぜひ1度当事務所までご相談ください。