アスベスト被害を受けた方が申請できる給付金には、主に「建設アスベスト給付金」「石綿健康被害救済給付金」「労災保険給付金」の3つの制度が存在します。
これらの制度は、それぞれ対象者や支給金額、申請方法等が異なっていますので、自分の状況に合った制度を選んで申請することが大切です。
この記事では、それぞれの制度について、詳しく解説をしていきます。
アスベストによる健康被害の補償を請求しようと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
アスベスト被害者が申請できる給付金は3種類
アスベスト被害者が申請できる給付金には、主に以下の3種類があります。
- 建設アスベスト給付金
- 石綿健康被害救済給付金
- 労災保険給付金
それぞれの制度の内容や申請方法等について、詳しく説明をしていきます。
建設アスベスト給付金の内容と申請方法
建築アスベスト給付金は、建設業で働いていたことが原因で石綿関連疫病にかかってしまった方を対象として、国が給付金を支払う制度です。
建築アスベスト給付金の対象者である場合、最大で1300万円を国から受け取ることができる可能性があります。
建設アスベスト給付金の対象者
建設アスベスト給付金を受け取ることができるのは、以下の要件を全て満たす人です。
右記いずれかの期間に、石綿にさらされる建設業務に従事 | ⑴昭和47年10月1日〜昭和50年9月30日 石綿吹付け作業に関する建設作業 |
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⑵昭和50年10月1日〜平成16年9月30日 一定の屋内作業場で行われた作業に関する建設作業アスベスト関連疾病にかかった |
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アスベスト関連疾病にかかった | ⑴中皮腫 ⑵肺がん ⑶著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 ⑷石綿肺(じん肺管理区分管理2~4) ⑸良性石綿胸水 |
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労働者、一人親方、中小事業主(家族従事者等を含む)であること |
これらの要件を全て満たす方が給付金を受け取らずに死亡した場合には、ご遺族(相続人)が給付金を受け取ることができます。
建築アスベスト給付金でいくらもらえる?
建築アスベスト給付金では、550万円〜1300万円のお金を受け取ることができる可能性があります。
受け取ることができる金額については、病状等で異なりますので、詳しくは以下の表をご覧ください。
1 | 石綿肺管理2でじん肺法所定の合併症のない方 | 550万円 |
2 | 石綿肺管理2でじん肺所定の合併症のある方 | 700万円 |
3 | 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のない方 | 800万円 |
4 | 石綿肺管理3でじん肺法所定の合併症のある方 | 950万円 |
5 | 以下のいずれかを発症している方 ・中皮腫 ・肺がん ・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 ・石綿肺管理4 ・良性石綿胸水である者 |
1150万円 |
6 | 上記1または3により死亡した方 | 1200万円 |
7 | 上記2、4、5により死亡した方 | 1300万円 |
じん肺管理区分とは?
アスベストの粉じんを長年吸い込むと、肺が弾力性を失って硬くなります。
この病気のことを「じん肺」といいます。
じん肺管理区分は、じん肺の進行度合いを示す区分のことです。
じん肺管理区分は「管理1」「管理2」「管理3イ」「管理3ロ」「管理4」の5段階に分かれています。
管理番号が大きくなるほど、じん肺が進行していることを意味します。
給付金が減額されるケース
建築アスベスト給付金は、以下の条件にあてはまる方の場合、給付金が一部減額されます。
条件 | 減額割合 | |
---|---|---|
石綿にさらされる建設業務に従事した期間が一定の期間未満の方 | 10% | |
肺がん、石綿肺 | 10年未満 | |
著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚 | 3年未満 | |
中皮腫、良性石綿胸水 | 1年未満 | |
発症した病気が肺がんで喫煙の習慣があった方 |
また、会社等に対する損害賠償請求を行い、損害賠償金等を受け取った場合には、事案に応じて給付金の減額がされることがあります。
建設アスベスト給付金の申請方法
建築アスベスト給付金の申請を行う際は、必要書類をそろえて、以下の宛先に郵送で提出します。
東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎第5号館
厚生労働省労働基準局労災管理課
建設アスベスト給付金担当 宛て
建築アスベスト給付金の請求書等については、以下のURLよりダウンロードすることができます。
石綿健康被害救済制度による給付内容と申請方法
石綿健康被害救済制度は、アスベスト関連疫病にかかっているが、労災の対象とならない方について、迅速に補償を行うために設けられた制度です。
石綿健康被害救済制度の対象者である場合、医療費などを国から受け取ることができます。
石綿健康被害救済制度の対象者
石綿健康被害救済制度の対象者となるのは、以下のアスベスト関連疫病を発症しているが、なんらかの事情で労働者災害補償法等での補償がされない方です。
- 中皮腫
- 石綿による肺がん
- 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
対象者本人が給付金を受け取らずに死亡した場合には、ご遺族(相続人)が給付金を受け取ることができます。
石綿健康被害救済制度でいくらもらえる?
石綿健康被害救済制度で受け取ることができるお金については、以下の表をご覧ください。
給付の種類 | 請求者 | 給付金額 |
---|---|---|
医療費 | 本人 | 自己負担分 |
療養手当 | 本人 | 月10万3870円 |
葬祭費 | 葬祭を行う方 | 19万9000円 |
特別遺族弔慰金 | 生計が同一であったご遺族 | 280万円 |
特別葬祭料 | 生計が同一であったご遺族 | 19万9000円 |
救済給付調整金 | 生計が同一であったご遺族 | 上限280万円 |
特別遺族年金 | 労働者の死亡当時、その者の収入によって生計を維持していたご遺族 | 年240万円(原則) |
特別遺族一時金 | ご遺族(特別遺族年金を受け取れる方がいない場合のみ) | 1200万円 |
石綿健康被害救済制度の申請方法
石綿健康被害救済制度の申請を行う際は、必要書類をそろえて、以下のいずれかの場所に郵送または持参にて提出します。
・環境省地方環境事務所
・保健所等
石綿健康被害救済制度の申請書類等については、以下のURLよりダウンロードすることができます。
参考:独立行政法人環境再生保全機構「申請・請求時に必要な書類一覧から選ぶ」
労災による給付内容と申請方法
労災(労働災害)とは、従業員が、仕事中または通勤中の事故等により被った負傷、疾病、障害、死亡などのことです。
労災が認められた場合、労災保険から療養(補償)給付などのお金を受け取ることができます。
労災による給付の対象者
労災による給付金を受け取ることができるのは、以下の要件を全て満たす人です。
-
- 石綿を含有する鉱石または岩石の採掘、搬出、粉砕その他石綿の精製に関連する作業
- 倉庫内などにおける石綿原料などの袋詰めまたは運搬作業
- 石綿製品の製造工程における作業
- 石綿の吹付け作業
- 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱もしくは保温のための被覆またはその補修作業
- 石綿製品の切断などの加工作業
- 石綿製品が用いられている建物、その附属施設などの補修または解体作業
- 石綿製品が用いられている船舶または車両の補修または解体作業
- 石綿を不純物として含有する鉱物などの取り扱い作業
- 上記作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
- 上記作業の周辺などにおいて、間接的なばく露を受ける作業
-
- 石綿肺
- 中皮腫
- 肺がん
- 良性石綿胸水
- 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
対象者本人が給付金を受け取らずに死亡した場合には、ご遺族(相続人)が給付金を受け取ることができます。
労災でいくらもらえる?
労災で受け取ることができるお金については、以下の表をご覧ください。
給付の種類 | 給付の内容 |
---|---|
療養(補償)給付 | 治療費、入院料、移送費など通常療養のために必要な金額を支給 |
休業(補償)給付 | 休業4日目から休業1日につき給付基礎日額の60%を支給 さらに給付基礎日額の20%を支給(休業特別支給金) |
傷病(補償)年金 | 療養開始から1年6か月経過後、傷病が治癒していない場合に、傷病等級に応じ、給付基礎日額の245日〜313日分の年金を支給 |
障害(補償)給付 | 障害が残った場合に、障害等級に応じて年金または一時金を支給 年金の場合、給付基礎日額の131日〜313日分 一時金の場合、給付基礎日額の56日〜503日分 |
介護(補償)給付 | 重い後遺障害が残り介護が必要となった方に対し、介護費用としてかかった実費を支給 |
遺族(補償)給付 | 遺族に対し年金または一時金を支給 |
葬祭料(葬祭給付) | 遺族に対して葬祭料を支給 |
労災の申請を行う際は、必要書類をそろえて、以下の場所に提出します。
労災の申請書類等については、以下のURLよりダウンロードすることができます。
その他の被害者救済制度について
アスベストによる健康被害を受けた方が利用できる救済制度には、以下の制度も挙げられます。
- アスベストの訴訟
- 損害賠償請求訴訟
これらの制度は、これまでご説明してきた救済制度とは異なり、裁判所(訴訟)を介して損害賠償を求める制度という特徴があります。
国とのアスベスト訴訟の和解手続
石綿工場で勤務したことが原因でアスベストによる健康被害を受けた場合、国を相手に裁判をし、和解手続を利用して賠償金を受け取ることも考えられます。
この手続きによって賠償金を受け取ることができるのは、以下の要件を全て満たす人です。
- 昭和33年5月26日から昭和46年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事した
- アスベスト関連疾病にかかった
⑴中皮腫
⑵肺がん
⑶石綿肺(じん肺管理区分管理2~4)
⑷びまん性胸膜肥厚など
国との間で和解が成立した場合に受け取ることができるお金は、以下の表をご覧ください。
症状等 | 賠償額 | |
---|---|---|
1 | 石綿肺管理2で合併症がない方 | 550万円 |
2 | 石綿肺管理2で合併症がある方 | 700万円 |
3 | 内容石綿肺管理3で合併症がない方 | 800万円 |
4 | 内容石綿肺管理3で合併症がある方 | 950万円 |
5 | 石綿肺管理4、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚の方 | 1150万円 |
6 | 上記1または3により死亡した方 | 1200万円 |
7 | 上記2、4、5により死亡した方 | 1300万円 |
会社に対する損害賠償請求
アスベストによって健康被害を受けた場合、会社に対して損害賠償請求をすることも考えられます。
損害賠償請求の相手方となるのは、「勤務先の会社」または「石綿含有建材等を作った建材メーカー」などです。
損害賠償金として受け取ることができるお金は、発生した損害等によって異なりますが、おおむね1000万円〜3000万円程度となることが一般的です。
この手続きによって損害賠償金を受け取りたい場合には、訴状等の必要書類を作成し、裁判所に提出します。
アスベスト被害の給付申請のポイント
アスベスト被害の給付申請のポイントは、以下の3つです。詳しく解説を行います。
申請期限に注意する
アスベスト被害の救済制度は、期間の長短はありますが、いずれも申請期限が設定されています。
短いものだと、請求できる時点から2年の経過で申請期限となるものもあります。
申請期限を過ぎてしまった場合、基本的には給付を受けることができなくなりますので、申請期限は必ず確認しておきましょう。
複数の給付を申請できないか検討する
アスベスト被害の救済制度は、複数の給付を申請できる場合があります。
例えば、「労災による補償」「国とのアスベスト訴訟」「会社に対する損害賠償請求」の3つは、要件を満たすのであれば、同時に請求することができます。
他にも、同時に請求できるケースがありますので、複数の給付を申請できるかどうかを必ず検討しましょう。
アスベストに詳しい弁護士へ相談する
アスベスト被害の給付申請をするにあたっては、様々な書類を作成する必要があります。
また、申請期限が短いものがあったり、複数の救済制度を同時に利用できるケースがあったりと、救済制度についての詳細な知識が求められます。
アスベストに詳しい弁護士であれば、救済制度に関する知識を有している上に、書類の作成等の作業もスムーズに行うことができます。
給付金を余すことなく受け取るためにも、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
アスベストの申請についてのQ&A
アスベストの申請についてよくあるご質問にお答えします。
アスベストの申請はどこに相談した方がいい?
建築アスベスト給付金や労災の申請をしたい場合には、労災保険相談ダイヤルが相談窓口となっています。
石綿健康被害救済制度の申請をしたい場合には、石綿救済相談ダイヤルが相談窓口となっています。
その他、国や会社に対する裁判をしたい場合や、自分がどの給付(補償)制度に申請したらいいかわからないという場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
まとめ
アスベストによる健康被害を受けた場合には、「建設アスベスト給付金」「石綿健康被害救済給付金」「労災保険給付金」のいずれか(または複数)の申請をまず検討しましょう。
また、これらの給付金に当てはまらない場合には、国に対するアスベスト訴訟や会社に対する損害賠償請求訴訟を検討しましょう。
給付金の申請で迷った場合や、訴訟の提起を考えている場合には、アスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士法人デイライト法律事務所には、アスベスト被害に注力する弁護士が在籍しています。
対面だけではなく、電話、メール、オンラインでのご相談にも対応しております。
アスベストの健康被害に関するご相談については、初回の相談料と着手金を原則いただいておりませんので、お困りの方は、ぜひお気軽に当事務所までご相談ください。