アスベストが原因で発症する病気の1つに「石綿肺」があります。
石綿肺は肺組織が線維化して呼吸が困難になる病気であり、「じん肺」の一種です。
本記事では、アスベストとじん肺の関係、健康被害の種類、そして被害者が利用できる救済制度について、弁護士の立場から分かりやすく解説していきます。
アスベストとじん肺の関係について詳しく知りたいという方は、ぜひ参考にしてください。
目次
じん肺はアスベストが原因?
アスベストはじん肺の原因となる粉じんの一つですが、アスベストだけがじん肺の原因ではありません。
「じん肺」とは、粉じんを長期間吸入することで肺に異常な変化が生じる職業性疾患のことです。
特に鉱業や建設業など、粉じんが多く発生する職場で働く人々に多く見られます。
アスベストによるじん肺は、「石綿肺(せきめんはい)」または「アスベスト肺」と呼ばれます。
じん肺とアスベストの関係
アスベストは、じん肺を引き起こす主要な原因の一つです。
アスベスト繊維を長期間吸入すると、肺組織に蓄積し、炎症や線維化を引き起こします。
この状態が石綿肺であり、じん肺の一種として分類されます。
じん肺とは
じん肺は、長期間にわたって微細な粉じんを吸入することで発症する職業性肺疾患です。
特に鉱山、建設業、製造業など、粉じんが発生する環境で働く人が発症しやすいといわれています。
この病気には、肺組織が線維化(肺組織が硬くなること)して、弾力性を失うという特徴があります。
じん肺は、アスベストだけでなく、さまざまな種類の粉じんによって引き起こされる病気です。
じん肺と中皮腫の違い
じん肺と中皮腫は、どちらも粉じんを吸い込むことで引き起こされる病気ですが、発症部位、病態には大きな違いがあります。
じん肺は、肺の組織が広範囲に渡って線維化する病気です。
症状は徐々に進行し、進行すると咳や息切れなどの呼吸器症状が現れます。
これに対し、中皮腫(ちゅうひしゅ)は、主に胸膜や腹膜に発生する悪性腫瘍です。
症状としては、胸や腹部の痛み、呼吸困難、腹部膨張感などがあり、じん肺とは異なる臓器や組織に影響が及びます。
じん肺の症状
じん肺は、初期段階ではほとんど症状が現れないことが特徴です。
病気が進行するにつれて、以下のような症状が現れます。
咳 | 乾いた咳が長期間続く |
痰 | 粘り気のある痰が増加する |
呼吸困難 | 日常の軽い運動や歩行時に息苦しさを感じる 進行すると安静時でも呼吸が困難になる |
動悸 | 心臓に負担がかかることにより、動悸を感じる |
疲労感 | 慢性的な疲労感を覚えるようになる |
体重減少 | 進行すると、食欲不振などから体重が減少することがある |
じん肺の原因
じん肺の主な原因は、長期間にわたって粉じんを吸入し続けることです。
特に、鉱山、建設業、製造業などの仕事に就いていて、鉱物や金属、石炭などの微細な粉塵を吸い込む機会が多い人々が発症しやすい病気です。
じん肺を引き起こす原因物質の代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。
- シリカ(石英)
- アスベスト(石綿)
- タルク(滑石)
- 珪藻土
- セメント
- アルミニウム
- 黒鉛など
- じん肺の治療
じん肺は、一度発症してしまうと、肺の組織が硬くなってしまいます。
現時点では、この硬くなった肺組織を元の健康な状態に戻すことができる治療法は存在しません。
そのため、主には、症状の緩和や生活の質の向上を目指した対症療法や合併症を防止するための治療が中心となります。
症状を悪化させる可能性があるため、煙草を吸っている方は禁煙するよう指導されます。
また、粉じんをこれ以上吸入しないようにするために、職場の環境によっては、転職の必要がある場合もあります。
アスベストとは?
アスベストとは、天然に産出する繊維状の鉱物のことです。
「耐熱性、耐火性に優れている」「摩擦、酸、アルカリに強い」「丈夫で変化しにくい」といった優れた性質から、かつては、建材や工業製品など、幅広い分野で使用されてきました。
しかし、アスベストの使用には大きな問題点がありました。
それは、アスベストが深刻な健康被害を引き起こすということです。
アスベスト繊維は非常に細かく、目に見えないほど小さいため、空気中に舞い上がりやすいという特徴があります。
この繊維を吸い込むと、肺などの臓器に深刻なダメージを与え、重篤な病気を引き起こします。
アスベストの吸入でどんな病気になる?
アスベストの吸引によって引き起こされる主な病気には、以下のものがあります。
石綿肺 | アスベスト繊維が肺に蓄積することで肺組織が線維化する |
肺がん | 気管支や肺胞の細胞ががん化する |
中皮腫 | 胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜などに発生する悪性腫瘍 |
びまん性胸膜肥厚 (びまんせいきょうまくひこう) |
胸膜が厚くなり、呼吸が困難になる |
良性石綿胸水 (りょうせいせきめんきょうすい) |
胸腔内に水がたまる |
胸膜プラーク | 胸膜に石灰化した斑点状の変化が生じる |
アスベストの被害者の5つの救済制度
アスベストの被害者を救済するために、様々な制度が設けられています。
この記事では、救済制度の中でも特に重要度の高いものについて解説を行います。
国からの建設アスベスト給付金を請求する
石綿にさらされる建設業務に従事していたことが原因で石綿肺を発症し、「じん肺管理区分2」以上と決定された場合、建築アスベスト給付金を受け取ることができる可能性があります。
建築アスベスト給付金では、病態区分に応じて550万円〜1300万円が支給されます。
建築アスベスト給付金について、より詳しい情報を知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
国とのアスベスト訴訟の和解手続を利用する
石綿を取り扱う工場等で粉じんにばく露する作業に従事したことが原因で石綿肺を発症し、「じん肺管理区分2」以上と決定された場合、アスベスト訴訟によって国から賠償金を受け取ることができる可能性があります。
アスベスト訴訟で受け取ることができる賠償金の額は、病態区分に応じて550万円〜1300万円とされています。
アスベスト訴訟について、より詳しい情報を知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
労災の申請をする
労働者として石綿ばく露作業に従事していたことが原因で石綿肺を発症し、以下いずれかの「じん肺管理区分」と決定された場合、労災保険給付を受けることができる可能性があります。
- ① じん肺管理区分4
- ② じん肺管理区分2、3、4かつ以下のいずれかの合併症を発症
- 肺結核
- 結核性胸膜炎
- 続発性気管支炎
- 続発性気管支拡張症
- 続発性気胸
労災について、より詳しい情報を知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
石綿健康被害救済制度による給付を請求する
なんらかの原因で著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺を発症した場合、石綿健康被害救済制度による給付を受けることができる可能性があります。
この制度は、労災の対象とならない方を救済する目的で作られた制度のため、自営業者・主婦・学生など仕事以外の場面でアスベストにばく露した方や、労災保険給付を受ける権利が時効によって消滅してしまった方でも、給付を受けることができます。
石綿健康被害救済制度について、より詳しい情報を知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
会社に対して損害賠償を請求する
アスベストが原因で石綿肺を発症した場合、原因を作り出した会社に対して損害を賠償するよう請求することができる可能性があります(損害賠償請求訴訟)。
請求先の会社としては、「アスベスト製品の製造メーカー」「勤務先の会社」などが考えられます。
会社に対する損害賠償請求訴訟について、より詳しい情報を知りたいという方は、以下の記事をご参照ください。
アスベスト健康被害の5つのポイント
アスベストによる健康被害は、本人だけでなく家族にも大きな影響を与えます。
しかし、正しい知識に基づく行動を取ることで、影響を限りなく小さくすることができます。
ここでは、アスベストによる健康被害について、5つの重要なポイントを解説します。
しっかりとした治療をうける
アスベストによる健康被害を受けた場合、最も重要なのは、早期に適切な医療機関で診断と治療を受けることです。
また、アスベスト被害による病気は専門的な知識を必要とするため、一般的な医師ではなく、アスベストや呼吸器系疾患に詳しい専門医を受診することが大切です。
健康被害を家族に伝える
アスベストによる健康被害は、直接的なばく露を受けた本人だけでなく、その家族にも間接的に影響を与えることがあります。
家族がアスベスト繊維にばく露することによって発生する「二次被害」を防ぐため、早い段階で家族にアスベスト被害の可能性を伝えた方がよいでしょう。
特に、アスベストが付着した作業着を家に持ち帰っていた場合には、家族に二次被害が生じる可能性が高くなります。
複数の救済制度を利用する
アスベストによる健康被害に対しては、複数の救済制度が存在します。
これらの救済制度には、併用してお金を受け取ることができるものがありますので、なるべく複数の救済制度を利用するようにしましょう。
併用できる組み合わせの一例については、以下をご参照ください。
- ① 建設アスベスト給付金 + 労災 + 会社に対する損害賠償請求訴訟
- ② アスベスト訴訟 + 労災 + 会社に対する損害賠償請求訴訟
- ③ 建設アスベスト給付金 + 石綿健康被害救済制度 + 会社に対する損害賠償請求訴訟
- ④ アスベスト訴訟 + 石綿健康被害救済制度 + 会社に対する損害賠償請求訴訟
なお、時効が成立している場合など、ケースによっては併用ができないこともありますので、その点ご留意ください。
請求できる期限に注意
アスベストによる健康被害について救済制度を利用する場合には、請求期限(時効)に注意を払うことが非常に重要です。
請求可能な期限を過ぎてしまうと、補償や賠償金を受け取ることができる権利が消滅してしまいます。
アスベストによる疾患は、症状が出るまでに長い潜伏期間があります。
そのため、何十年も過去にさかのぼって証拠を集める必要があるケースもあり、証拠収集に長期間かかることも稀ではありません。
請求期限内に手続きを完了させるためには、発症後なるべく早く手続きにとりかかることが大切です。
アスベストにくわしい弁護士へ相談する
アスベストによる健康被害は、被害者とその家族に大きな負担をもたらします。
しかし、適切な法的サポートを受けることで、適切な補償を受け、将来の医療費や生活費の心配を軽減することができます。
少しでも不安や疑問がある場合は、早めにアスベストに詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
じん肺とアスベストについてのQ&A
じん肺とアスベストに関するご質問にお答えします。
じん肺になりやすい職業は?
特に、粉塵が発生する作業環境で長時間働く職業の方が高いリスクにさらされます。
以下に、じん肺になりやすい職業を紹介します。
- 鉱山労働者
- 建設作業員
- 鋳造工
- 溶接工
- 石材加工業
- セメント加工業
- 造船業
- 窯業
- ガラス製造業
まとめ
本記事では、じん肺とアスベストの関係について解説を行いました。
アスベストによる健康被害は複雑で、法的にも医学的にも専門的な知識が必要となります。
そのため、被害が疑われる場合や、過去にアスベストばく露の可能性がある場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。
弁護士法人デイライト法律事務所では、アスベストを含む労災事故に取り組む人身障害チームを設け、アスベスト被害に悩む方を強力にサポートしております。
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