アスベストの事前調査とは、建物の解体・改修などの工事前に、建築物等に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを調査することをいいます。
アスベストとは、天然に産出される鉱石の一種で、繊維状の鉱物のことをいいます(石綿(いしわた・せきめん)と呼ばれることもあります。)
アスベストは、繊維が細かく、肺がんや中皮腫(ちゅうひしゅ。胸膜や腹膜にできるがん)などの重篤な健康被害を引き起こす可能性が高いため、建築物等の解体・改修などの工事を行う場合、全ての材料について、必ず事前調査を行わなければなりません。
この記事では、アスベストの事前調査義務の有無や事前調査の内容や流れ、費用等について記載しておりますのでご覧ください。
目次
アスベストの事前調査とは
アスベストの事前調査とは、建物の解体・改修などの工事前に、建築物等に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを調査することをいいます。
アスベストは大きく分けて次の2つに分かれています。
- 飛散性
- 非飛散性
なお、アスベストの規制に関する法令は、以下の2つが存在します(詳しくは、後記「事前調査に関する法改正のポイント」をご覧ください。)。
- 大気汚染防止法
- 石綿障害予防規則
アスベストの事前調査の目的
アスベストの事前調査の目的としては、大きく分けて次の2つがあります。
- ① 大気の汚染に関して、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全すること(大気汚染防止法1条参照)
- ② 石綿による労働者の肺がん、中皮腫その他の健康障害を予防すること(石綿障害予防規則1条1項参照)
アスベストのうち「飛散性」のアスベストは、空気中に放出される可能性があります。
そのため、事前調査により、アスベストの適切な管理と除去策を実施し、大気の汚染や生活環境の安全性を確保することが重要なのです。
また、アスベストは繊維が細かく、肺がんや中皮腫(胸膜や腹膜にできるがん)などの重篤な健康被害を引き起こす可能性が高いです。
そのため、事前調査により、建物利用者や作業者の健康被害を防止することが重要なのです。
アスベストの事前調査の必要性
アスベストは、肉眼では見ることができない極めて細い繊維からなっています。
そのため、アスベストは吸入されると、人間の肺胞に沈着しやすいという特徴があります。
さらに、アスベストは丈夫で変化しにくい性質のため、人間の肺胞に沈着すると、肺の組織内に長く滞留することになります。
これにより、肺がん、悪性中皮腫(あくせいちゅうひしゅ、胸膜や腹膜にできるがん)などの病気を引き起こすことがあるのです。
実際に、アスベストによる令和3年度の健康被害としては、中皮腫が 14,248 件、肺がんが 2,421 件、石綿肺が 85 件、びまん性胸膜肥厚が 227件となっています。
このように、アスベストは重篤な健康被害を引き起こす可能性が高いため、事前調査によりこのような健康被害を少しでも減らす必要があるのです。
事前調査に関する法改正のポイント
石綿規制に関する法令は、以下の2つが存在します。
- 大気汚染防止法
- 石綿障害予防規則
アスベストの事前調査に関する上記法令が改正されて、次のように新しく規定されています。
①規制対象の拡大
令和3年4月1日からは、建築物の解体・改修などの工事対象となる全ての材料について、アスベストが含まれているかどうかを書面(設計図書など)による調査と目視による調査で行うとともに、その調査結果の記録を3年間保存する必要があります。
②直接罰の新設
令和3年4月1日からは、直接罰の規定が新たに設けられたことにより、事前調査の結果を報告しない場合には、30万円以下の罰金に科せられます。
③事前調査結果の報告
令和4年4月1日からは、一定規模以上の建築物、特定の工作物の解体・改修工事の元請業者又は自主施工者は、事前調査の結果を電子システムで報告することが義務付けられました。
④事前調査を行う者の制限
令和5年10月1日からは、事前調査は、一定の知識を有する者でなければ行うことができません。
なお、「一定の知識を有する者」とは、次のような者のことをいいます。
- 特定建築物石綿含有建材調査者
- 一般建築物石綿含有建材調査者
- 一戸建て等石綿含有建材調査者
アスベスト事前調査が不要な場合とは?
アスベストの事前調査の対象となる工事
事業者は、次のような工事を行う場合に、アスベストの事前調査を行わなければなりません(石綿障害予防規則3条1項)。
- 建築物、工作物または船舶(鋼製の船舶に限ります。)の解体工事
- 建築物、工作物または船舶(鋼製の船舶に限ります。)の改修工事
そして、上記の工事を行う場合、工事を行う建築物、工作物または船舶(鋼製の船舶に限ります。)の全ての材料について事前調査を行う必要があります(石綿障害予防規則3条2項)。
アスベストの事前調査の流れ
アスベストの事前調査においては、大きく分けて重要な調査が3つあります。
- ① 書面による調査
- ② 目視による調査
- ③ 分析による調査・石綿含有みなし
①書面による調査
書面による調査の目的は、大きく分けて次の2つがあります。
- 調査の対象となった建築物等に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかの把握漏れを防止すること
- 目視による調査の効率性を高めること
後述するような書面を調査したり、発注者、過去の経緯をよく知る施設管理者、工事業者等の関係者からヒアリングしたりすることで、調査の対象となった建築物に石綿が含まれているかどうかの判定を行います。
これによって、目的(1.調査の対象となった建築物等に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかの把握漏れを防止すること)や目的(2.目視による調査の効率性を高めること)を達成することができます。
なお、書面による調査で調査の対象となる「書面」とは、次のようなものをいいます。
- 設計図(確認申請書、確認済証)
- 竣工図
- 改修図
- 対策工事記録
- 過去の維持管理のための調査記録、改造補修時の記録
- 過去の石綿含有に関する調査記録
など
※なお、上記書面から石綿の使用の有無に関係する情報を適切に読み取るために、発注者、過去の経緯をよく知る施設管理者、工事業者等の関係者からヒアリングして、情報を集めることもあります。
②目視による調査
調査の対象となった建築物等の石綿の使用状況を十分に把握するため、原則として、現地において目視による調査を行う必要があります。
なぜなら、設計図や竣工図、発注主や関係者からのヒアリングだけでは、必ずしも調査の対象となった建築物の石綿の使用状況に関する情報を把握できるとは限らないからです。
目視による調査では、次のようなことを行います。
- 建築物の外観・屋上等の把握・確認
- 内装や下地等の内側の確認
- 調査したことについての現場メモの作成
など
現地での目視による調査を踏まえ、調査の対象となった建築物等に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかを判断します。
③分析による調査・石綿含有みなし
調査の対象となった建築物等に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかの判断がつかない場合、以下のいずれかの方法がとられます。
- 分析による調査
- 石綿含有みなし
1.分析による調査
調査の対象となった建築物等に使用されている建材に石綿が含まれているかどうかが不明な場合、分析による調査を行わなければなりません(石綿障害予防規則3条4項)。
※ただし、石綿含有みなしとして扱う場合には、分析による調査は不要となります(石綿障害予防規則3条4項ただし書)。
分析による調査により石綿が含まれているかどうかを判定する場合には、試料採取を行います。
試料採取については、適切な分析を行うために、目的とする分析対象を採取できるようにしなければなりません。
そのため、同一材料と判断される建築材料ごとに、代表となる試料を選び、採取しなければなりません。
なお、試料採取にあたっては、次のような器材を準備するようにしましょう。
- 呼吸用保護具・保護眼鏡・作業衣または保護衣・手袋などの保護具
- 採取対象の材料に適したもの・採取用トレー・採取袋(大・小)・カメラ・ホワイトボードなどの採取用具
- 安全衛生用具高性能真空掃除機・養生シート・養生テープ・粉じん飛散抑制剤・粉じん飛散防止処理剤・ウェットティッシュ(保護具の付着物除去)など
2.石綿含有みなし
当該建築物等に対して調査を行った結果、石綿が含まれているかどうかが不明である場合には、原則として分析による調査を行うが、分析による調査を行わずに石綿含有「みなし」とすることができます。
分析による調査を行うかどうかは、事業者や発注者等が選択することになります。
なお、石綿が含まれているとみなした場合には、解体工事等は石綿が含まれる建材の除去等に該当することになります。
さらに、当該建材が廃棄物となった場合には、廃石綿等又は石綿含有産業(一般)廃棄物として扱うことになるので注意しましょう。
アスベストの事前調査の方法
前述のとおり、アスベストの事前調査の方法としては、①書面による調査、②目視による調査、③分析による調査・石綿含有みなしがあります。
以下は、それぞれの調査をまとめたものです。
書面を調査したり、施設管理者、工事業者等の関係者からヒアリングしたりすることで、調査の対象となった建築物に石綿が含まれているかどうかの判定を行う。
原則として、現地において、建築物等の石綿の使用状況等の調査を目視によって行う。
試料採取によって分析したり、石綿が含まれているとみなしたりします。
アスベストの調査報告について
調査報告の方法
令和4年4月1日からは、一定規模以上の建築物、特定の工作物の解体・改修工事の元請業者又は自主施工者は、事前調査の結果を電子システムで報告することが義務付けられました。
そのため、原則として、事前調査の結果の報告は専用の電子システム「石綿事前調査結果報告システム」で行う必要があります。
調査報告書の記入例
インターネット環境がないなど、「石綿事前調査結果報告システム」を利用できない場合は、紙様式による報告も可能です。
紙様式で調査報告をされる場合には、下記を参考にされることをおすすめします。
アスベストの調査資格について
令和5年10月1日からは、アスベストの事前調査は、厚生労働大臣が定める一定の知識を有する者でなければ行うことができません。
「一定の知識を有する者」とは、次のような者のことをいいます。
- 特定建築物石綿含有建材調査者(特定調査者)
- 一般建築物石綿含有建材調査者(一般調査者)
- 一戸建て等石綿含有建材調査者(一戸建て等調査者)
なお、日本アスベスト調査診断協会に登録している者も「同等以上の能力を有する者」として認められています。
アスベストの事前調査にかかる費用
令和3年4月1日からは、建築物の解体・改修などの工事対象となる全ての材料について、アスベストが含まれているかどうかを書面(設計図書など)による調査と目視による調査で行わなければなりません。
そのため、アスベストの事前調査の費用が必ず発生することになります。
アスベストの事前調査にかかる費用の相場は、次のとおりとなります。
調査の種類 | 費用の相場 |
---|---|
書面による調査 | 20,000円~30,000円 |
目視による調査 | 20,000円~50,000円 |
分析による調査 | 30,000円~60,000円 |
※実際の費用は、調査の対象となる建築物等の規模や調査を行う現地の場所等によって変動します。
アスベストの事前調査を行う場合の注意点
調査業者の選び方
アスベストの事前調査を行う調査業者を選ぶ際は、次のようなことを考慮して選ぶようにしましょう。
- 調査報告書の作成実績が高い調査業者である
- 適切な資格を持った者が検査してくれる
- 調査にかかる費用が適切な額で、事前に教えてくれる
調査報告書の作成実績が高い調査業者である
アスベストの調査報告書は、都道府県などの公的機関に提出しなければなりません。
そのため、調査報告書は、正確で不備がなく、誰が見ても分かりやすい明確なものであることが重要です。
調査報告書の作成については、実績の高い調査業者を選び、正確で不備がなく、誰が見ても分かりやすい明確な調査報告書を作成してもらうようにしましょう。
適切な資格を持った者が検査してくれる
令和5年10月1日からは、アスベストの事前調査は、厚生労働大臣が定める一定の知識を有する者でなければなりません。
そのため、事前調査を依頼する場合には、適切な資格を持った者が調査してくれるのかを確認するようにしましょう。
調査にかかる費用が適切な額で、事前に教えてくれる
アスベストの事前調査を依頼する側としては、事前調査にどのくらいの金額がかかるのかも関心が高い事項といえます。
事前に調査にかかる費用を提示していない会社等の場合、後から高額な費用を請求されることもあります。
そのため、事前に適切な金額を提示してくれる調査業者を選ぶようにしましょう。
アスベスト問題にくわしい弁護士へ相談
弁護士への相談・依頼を考えている場合、アスベスト問題に詳しい弁護士に相談・依頼するようにしましょう。
なぜなら、アスファルト問題を法的に解決しようとする場合、必要資料の収集をする必要がありますが、アスベスト問題に詳しい弁護士であれば、この収集手続きをスムーズに行うことができるからです。
また、必要書類を収集した後には、カルテなどの医療記録から重要な事実を読み解く必要があります。
弁護士の中には、医学的な記録を読み解くことが得意でない者もいますが、アスベスト問題に詳しい弁護士であれば、このような記録を的確に読み解くことができます。
そのため、弁護士への相談・依頼を考えている場合、その法律事務所がアスベスト問題を取り扱っているかどうかを確認するようにしましょう。
まとめ
- アスベストの事前調査とは、建物の解体・改修などの工事前に、建築物等に使用されている建材にアスベストが含まれているかどうかを調査することをいう。
- アスベストの事前調査は、生活環境を保全したり、アスベストによる労働者の肺がん、中皮腫その他の健康障害を予防するために行う。
- 大気汚染防止法や石綿障害予防規則が改正され、これによって、①規制対象の拡大、②直接罰の新設、③事前調査結果の報告、④事前調査を行う者の制限などの規定が創設された。
- アスベストの事前調査は、①書面による調査→②目視による調査→(アスベスト含有が不明な場合は、)③分析による調査・石綿含有みなしという流れを経て、アスベストが含まれているかどうかを判断する。
- 一定規模以上の建築物、特定の工作物の解体・改修工事の元請業者又は自主施工者は、原則として、事前調査の結果を電子システムで報告することが義務付けられた。
- アスベストの事前調査の費用は、相場として、①書面による調査と②目視による調査で約40,000円~80,000円、分析による調査も行うと合計70,000円~130,000円程度になることが多い。
当法律事務所には、アスベストなどの人体への影響があった場合に、これを法的に解決することに精通した弁護士で構成された人身障害部があり、アスベストの問題について悩んでいる被害者をサポートしています。
当法律事務所では、初回無料のオンライン相談や電話相談を活用した全国対応も行っていますので、アスベストの問題でお困りの方は、いつでもお気軽にご相談ください。