B型肝炎の無症候性キャリアとは?診断された場合の対処法

B型肝炎の無症候性キャリアとは、B型肝炎ウイルスに感染し、体内にB型肝炎ウイルスを持っている状態が継続しているものの、肝炎の症状が出ていない状態をいいます。

幼少期にB型肝炎に感染すると、免疫機能が未熟なためウイルスが排除されず、約90%の方が、症状のないまま体内にウイルスを持ち続ける「無症候性キャリア」となります。

このページでは、B型肝炎の無症候性キャリアと診断された場合にすべきことや、B型肝炎の無症候性キャリアの場合も給付金の受給対象になるのかなどについて、弁護士が解説します。

B型肝炎の無症候性キャリアとは

B型肝炎の無症候性キャリアとは、肝炎の症状が出ていないものの、体内にB型肝炎ウイルスを持っている状態をいいます。

免疫機能が確立した成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、そのほとんどは免疫の働きによってウイルスが体内から排除され、または急性肝炎を発症した後、機能的に治癒します。

これに対して、幼少期にB型肝炎に感染すると、免疫機能が未熟なためウイルスが排除されず、約90%の方が、症状のないまま体内にウイルスを持ち続ける「無症候性キャリア」となるのです。

B型肝炎の無症候性キャリアのうち約10~15%が慢性肝炎を発症し、年率約2%の割合で肝硬変、さらに年率約1.2~8.1%の割合で肝がんに進行します。

幼少期の代表的な感染原因としては、国が過去に行った集団予防接種での注射器の使いまわしや母子感染などがあげられます。

成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合と幼少期に感染した場合の経過の違いは、次の図のとおりです。

B型肝炎の無症候性キャリアのイメージ

参考:厚生労働省|これだけは知っておきたいB型肝炎ガイド

 

 

無症候性キャリアの場合もB型肝炎ウイルスは他人にうつる?

肝炎を発症していない無症候性キャリアの場合でもあっても、以下のような場合には、他人に感染してしまうリスクがあります。

  • 性交渉
  • 妊娠・出産(母子感染)
  • その他血液の直接的な接触

他方で、食事やトイレ、風呂やプールなどで感染させてしまうことは特殊な事情がない限りありません。

B型肝炎ウィルスの感染に関して、詳しくは以下のページをご覧ください。

 

 

無症候性キャリアかどうかは検査でわかる?

B型肝炎ウイルスの無症候性キャリアかどうかは、血液検査(肝炎検査)で調べることができます。

肝炎検査ができる病院は、こちらの「肝ナビ」で検索することができます。

参考:肝炎医療ナビゲーションシステム

地方自治体が実施している肝炎検査では、初めて肝炎検査を受ける方は無料で検査をすることができます。

詳しくはお住まいの地方公共団体にお問い合わせください。

 

 

B型肝炎の無症候性キャリアと診断されたらすべきこと

日本におけるB型肝炎のキャリア数は、約110万から140万人にも及ぶと推定されています。

以下では、B型肝炎の無症候性キャリアと診断されたらすべきことを紹介します。

 

専門の医療機関を受診する

上で説明したように、B型肝炎の無症候性キャリアのうち10~15%が慢性肝炎を発症し、さらには肝硬変や肝がんに進展していく可能性があります。

肝臓は「沈黙の臓器」といわれ、不調をきたしても症状がなかなか表れません。

症状を自覚したころにはかなり病気が進行していた、ということも少なくないのです。

B型肝炎の無症候性キャリアと診断されたら、症状がなくても、定期的に専門の医療機関で診断を受けることが必要です。

 

都道府県の助成を申請する

国と都道府県は、肝炎の重症化予防を目的とした「肝炎総合対策」を推進しており、専門医療機関の受診を促進する取り組みを行っています。

その一環として、検査費用や医療費の助成が行われています。

無症候性キャリアの方が利用することができるのは、検査費用のうち初回精密検査に関する費用の助成のみですが、病状が悪化して慢性肝炎等になった方に対しては、定期検査の費用や治療にかかる医療費の助成が行われています。

ご参考までにあわせてこれらもご紹介します。

助成の内容や条件は都道府県によって異なる可能性がありますので、詳細は各都道府県の窓口にお問い合わせください。

 

①検査費用の助成

肝炎ウイルス検査で陽性と判定された方が、一定の条件を満たす場合には、(ア)初回精密検査や(イ)定検査に関する費用の助成を受けることができます。

 

(ア)初回精密検査


対象者:1年以内に肝炎ウイルス検査で陽性と判定された方

対象費用:肝炎ウイルス検査で陽性と判定された後、初回の精密検査(都道府県所定の項目)に関する費用

助成条件:定期的な状況確認の連絡(フォローアップ)を受けることへの同意

回数:1回

 

(イ)定期検査(※無症候性キャリアは対象外)


対象者:B型肝炎ウイルスの感染を原因とする慢性肝炎、肝硬変及び肝がんの患者(治療後の経過観察の方を含みます。)

対象費用:道府県指定の肝臓専門医療機関での定期検査(所定の項目)に関する費用の全部または一部(ただし別途収入要件があります。)

助成条件:

  • 収入が一定額未満であること
  • 定期的な状況確認の連絡(フォローアップ)を受けることへの同意
  • B型肝炎治療医療費助成の受給者証の交付を受けていないこと

回数:年2回(初回精密検査を含みます。)

 

②医療費の助成(※無症候性キャリアは対象外)

各都道府県は、B型肝炎の治療にかかる医療費の助成を行っています。

対象者:慢性肝炎と診断され、「インターフェロン治療」または「核酸アナログ製剤治療」を受けた方

助成条件:一定の認定基準を満たすこと(それぞれの治療によって異なります。)

対象費用:保険診療の費用のうち、患者の自己負担額(患者の収入に応じて、月額10,000円または20,000円)を超える費用

回数:インターフェロン治療は原則1回、核酸アナログ製剤治療は申請により更新可能

 

B型肝炎給付金の請求を検討する

B型肝炎給付金は、過去の集団予防接種等によってB型肝炎に感染した方を救済するために支給される給付金で、その金額は、病状に応じて50万円から3600万円です。

B型肝炎給付金の請求とは、国を相手に訴訟を提起して、B型肝炎給付金の対象者として認めてもらう手続きのことをいいます。

無症候性キャリアであっても、過去の集団予防接種等によってB型肝炎に感染した場合には、B型肝炎給付金の対象者となる可能性があります。

B型肝炎給付金の給付を受けるための要件や手続きについては、以下で詳しく解説していきます。

 

 

B型肝炎の無症候性キャリアは給付金の受給対象になる?

無症候性キャリアの給付金受給の要件

無症候性キャリアの方でも、B型肝炎訴訟の中で、過去の集団予防接種等をきっかけにB型肝炎に感染した受給対象者にあたることを証明できれば、給付金を受給することができます。

B型肝炎給付金の受給対象者は、

  1. ① 一次感染者(ご自身が集団予防接種等を受けたことでB型肝炎ウイルスに感染した場合)
  2. ② 二次感染者(一次感染者である母親(父親)からの母子(父子)感染によりB型肝炎ウイルスに感染した場合)
  3. ③ 三次感染者(二次感染者である母親(父親)からの母子(父子)感染によりB型肝炎ウイルスに感染した場合)

のいずれかです。

そして、受給対象者にあたることを証明するためには、それぞれ次のような要件をすべて満たすことが必要です。

一次感染者 


  1. 1)B型肝炎ウイルスに持続感染していること
  2. 2)満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること
  3. 3)集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと
  4. 4)母子感染または父子感染のいずれでもないこと
  5. 5)その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと

二次感染者


  1. 1)ご自身がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
  2. 2)母親(父親)が一次感染者の要件をすべて満たすこと
  3. 3)母子(父子)感染であること

三次感染者


  1. 1)ご自身がB型肝炎ウイルスに持続感染していること
  2. 2)母親(父親)が二次感染者の要件をすべて満たすこと
  3. 3)母子(父子)感染であること

B型肝炎の給付金対象者にあたるかの判断には専門的な知識が必要な面もあり、ご自身での判断はなかなか難しいかもしれません。

判断に迷ったら、まずは弁護士などの専門家に相談してみましょう。

 

給付金の支給額

無症候性キャリアの方が受け取ることのできる受給金の額は、以下のとおり、B型肝炎への感染から訴訟提起までに20年を経過しているかどうかによって異なります。

「B型肝炎の感染から」とは、それぞれ、一次感染者の場合は集団予防接種等を受けた日から、二次感染者や三次感染者の場合は出生日等から、を指します。

  • 感染から20年を経過していない無症候性キャリア:600万円
  • 感染から20年を経過している無症候性キャリア:50万円

感染から20年を経過している無症候性キャリアの方は、特別措置法等に基づいて、以下の費用や手当の支給を受けることができます。

定期検査に関する費用
所定の定期検査(血液検査および画像検査)に関する費用(年4回※まで)
※画像検査のうち、CT検査/MRI検査については年2回まで
定期検査手当
定期検査1回につき1万5000円の手当(年2回まで)
母子感染防止にかかる費用
国との和解成立後、子を出産し、母子感染防止のために血液検査やワクチン等の投与を行った場合の費用(一定の回数上限あり)
同居家族への感染防止にかかる費用
国との和解成立後、新たに同居家族となった者に対し、感染防止のために血液検査やワクチン投与を行った場合の費用(一定の回数上限あり)

 

 

B型肝炎の給付金を受け取るまでの流れ

B型肝炎給付金を受け取るまでの手続きとそれに要する時間の目安は、以下のとおりです。

  1. ① 訴訟の準備(医療機関などからの証拠収集):約3カ月から5カ月
  2. ② 国を相手とする訴訟の提起~国との交渉~和解成立:約1年から1年6カ月
  3. ③ B型肝炎給付金の請求~給付金の支払い:約2カ月

このように、準備期間を合わせると、1年6カ月から2年ほどかかり、場合によっては2年以上かかることもあります。

また、B型肝炎給付金の請求には期限があり、2027年(令和9年)3月31日までに訴訟を提起する必要があることから、早めに準備を始めることをおすすめします。

国との間で和解が成立した場合には、国から弁護士費用の一部が支給されますので、訴訟の準備等に不安がある方は、弁護士の利用をご検討ください。

 

 

病状が進行した場合は追加給付金が受け取れます

B型肝炎給付金は、病状によって金額が異なり、重篤な病状であるほど金額が大きくなります。

もっとも、一度B型肝炎給付金をもらった後に病状が悪化した場合には、新たに発生した病状に合わせて追加で給付金(追加給付金)を受け取ることができます。

無症候性キャリアとして一度B型肝炎給付金を受給した場合、追加給付金の額は下表のとおりです。

和解時の状況 すでに受給した額 進行した病状
死亡・肝がん・肝硬変
(重度)
肝硬変(軽度) 慢性肝炎
感染日から20年を経過していない
無症候性キャリア
600万 3000万円 1900万円 650万円
感染日から20年を経過している
無症候性キャリア
50万 3600万円 2500万円 1250万円

例えば、感染日から20年を経過していない無症候性キャリアの方が600万円の給付金を受領した後、病状が進行して軽度の肝硬変になってしまった場合、1900万円を追加給付金として請求することができます。

追加給付金を請求する場合、再度訴訟を提起する必要はありません。

ただし、追加給付金の請求は病状が進行したことを知ってから5年以内に行う必要があり、この期限を過ぎると権利が消滅してしまうため、注意が必要です。

 

 

まとめ

  • B型肝炎の無症候性キャリアとは、肝炎の症状が出ていないものの、体内にB型肝炎ウイルスを持っている状態をいいます。
  • 集団予防接種や母子感染等により幼少期にB型肝炎に感染した場合、90%の方が無症候性キャリアとなります。
  • 無症候性キャリアと診断されたら、重症化を防ぐため、自覚症状がなくても定期的に専門の医療機関で診断を受けましょう。
  • 各都道府県は、B型肝炎と診断された方に対する初回精密検査の費用助成を行っており、無症候性キャリアもこの制度を利用することができます。
  • さらに、過去に行われた集団予防接種等によって、B型肝炎の無症候性キャリアとなった場合には、B型肝炎訴訟を提起し国と和解することで、B型肝炎給付金を受け取ることができます。
  • 無症候性キャリアがもらえる給付金の額は、感染から20年を経過しているかどうかによって、50万円または600万円です。
  • B型肝炎給付金を受け取るためには、訴訟の提起やそのための準備が必要であり、給付金の受け取りまでに、平均で1年6カ月から2年程度かかります。
  • 感染から20年を経過している無症候性キャリアの方は、もらえるB型肝炎給付金の額が50万円と他の症状に比較して少ないことから、訴訟の提起をためらってしまうかもしれません。
  • しかし、感染から20年を経過している無症候性キャリアの方は、50万円の給付金以外に、定期検査の費用や近親者への感染防止に関する費用定期検査手当の支給を受けることができます。
  • また、無症候性キャリアとして一度B型肝炎給付金を受給した後、病状が悪化した場合には、悪化した病状に合わせて、再び訴訟を提起することなく追加給付金を受け取ることができます。

そのため、症状がまだ出ていないうちに、B型肝炎給付金の請求を行っておくことをおすすめします。

 

 

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