HBs抗体とは、B型肝炎ウイルスに対応して作られる抗体のことです。
HBs抗体が陽性ということは、B型肝炎ウイルスに対する免疫を獲得しているということです。
HBs抗体が陽性になる理由としては、2つのパターンが考えられます。
1つは、過去にB型肝炎ウイルスに感染し、現在は治癒しているパターンです。
もう1つは、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したパターンです。
この記事では、HBs抗体の検査数値の見方も含めて、HBs抗体について詳しく解説を行います。
HBs抗体とは?
HBs抗体とは、B型肝炎ウイルスの「HBs抗原(表面抗原)」に対する抗体のことです。
「表面抗原」とは、ウイルス粒子の外側を覆っているたんぱく質のことです。
体内にウイルスが入ったとき、この表面抗原が人の免疫系に認識されます。
そして、体は表面抗原に対する抗体を作り、ウイルスと戦います。
つまり、HBs抗体は、B型肝炎ウイルスと戦うために、HBs抗原というB型肝炎ウイルスの表面抗体に対抗して体内で作られる抗体ということです。
このような働きをする抗体のことを「中和抗体」と言います。
HBs抗体が陽性だとどうなる?
HBs抗体が陽性だということは、B型肝炎ウイルスの免疫を獲得しているということです。
HBs抗体は、HBs抗原(B型肝炎ウイルス)に対抗するために体内で作られる中和抗体です。
HBs抗体ができている場合、もしB型肝炎ウイルスが体内に入ってきたとしても、この抗体がB型肝炎ウイルスと結合して感染を防いでくれます。
HBs抗体の陽性はうつる?
HBs抗体はウイルスではなく、B型肝炎ウイルスに対抗するために人の体内で作られる物質です。
そのため、HBs抗体は他人にうつる(感染する)ことはありません。
HBs抗体が陽性となる原因
HBs抗体が陽性となる原因は、B型肝炎ウイルスに対する免疫を獲得することです。
HBs抗体が陽性になるパターンは、以下の2通りが考えられます。
- 過去にB型肝炎ウイルスに感染し、現在は治癒して免疫を獲得している
- 過去にB型肝炎ウイルスのワクチンを接種し、免疫を獲得している
検査結果の数値の見方〜高いとどうなる?
HBs抗体の数値が高いほど、B型肝炎ウイルス(HBV)に対する免疫力が強いことを示しています。
すなわち、過去にB型肝炎ウイルスに感染して治癒したあと、体内に強い抗体ができた状態だということです。
もしくは、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種した方の場合は、ワクチンによって十分な量の抗体ができたということです。
HBs抗体の数値が高ければ高いほど、B型肝炎ウイルスに対する体の防御力が強く、感染のリスクが低いということができます。
HBs抗体の基準値
CLIA法による検査の場合、以下のように判断されます。※
HBs抗体の数値 | 判定 |
---|---|
10.0IU/ml未満 | 陰性 |
10.0IU/ml以上 | 陽性 |
※検査手法によって、陽性と判断される数値(基準)は異なります。
HBs抗体が1000以上の意味
HBs抗体の数値が1000mIU/mL以上と非常に高い場合、体内にB型肝炎ウイルスに対する強い免疫(防御力)ができていることを意味しています。
具体的には、以下のようなことが考えられます。
- B型肝炎のワクチンを接種したことで、体が多くのHBs抗体を作り出した
- B型肝炎ウイルスに感染したことがあり、その際に体が強く反応して多くのHBs抗体を作り出した
HBs抗体の数値が測定できる範囲を超えて高すぎた場合、「1000以上」や「>1000」と表示される場合があります。
しかし、一般的には、HBs抗体が1000以上の数値となることは、ワクチン接種の後では、そこまで珍しいことではありません。
つまり、HBs抗体の数値が1000mIU/mL以上であったとしても、それはB型肝炎ウイルスに対する強い免疫ができているということであり、心配する必要はないでしょう。
ただし、数値が異常に高すぎる場合には、非特異反応による偽陽性の可能性も完全には否定できないため、心配な場合は、別の測定系での検査等をかかりつけ医に相談してください。
看護師はHBs抗体が陽性であることが多い?
看護師はHBs抗体が陽性であることが多いと言えます。
その理由としては、大きく分けて2つ考えられます。
- B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したことがある
- B型肝炎ウイルスに感染したことがあり、現在は治癒している
詳しくご説明します。
まず、医療従事者はB型肝炎ウイルスのワクチンを接種することが望ましいとされていますので、勤務している医師や看護師にB型肝炎ウイルスのワクチンを接種する病院が多くあります。
医療関係者のためのワクチンガイドラインでは、「医療機関では、患者や患者の血液・体液に接する可能性のある場合は、B型肝炎に対して感受性のあるすべての医療関係者に対してB型肝炎ワクチン接種を実施しなければならない」との記載があります。※
ただし、あくまでも法的に義務化されているわけではないので、ワクチン接種については個人の判断に任されています。
また、B型肝炎ウイルスは感染者の血液・体液が傷口や粘膜に接触することで感染します。
看護師は職業柄、色々な人の血液・体液に接触する機会がどうしても多くなってしまいます。
そのため、自分でも気づかないうちにB型肝炎ウイルスに感染し、その後治癒して免疫を獲得し、結果としてHBs抗体が陽性となっている方も一定数いると考えられます。
これらの理由から、看護師はHBs抗体が陽性であることが多いのです。
参考:医療関係者のためのワクチンガイドライン第3版(一般社団法人日本環境感染学会)
HBs抗体とHBs抗原との違い
「HBs抗原」はB型肝炎ウイルスの一部であり、「HBs抗体」はB型肝炎ウイルスに対する抗体(免疫)という違いがあります。
HBs抗原は、B型肝炎ウイルスの外側を覆っているたんぱく質のことです。
体内にウイルスが入った時、体はウイルスに対抗するために抗体というものを作り出します。
B型肝炎ウイルスの場合、HBs抗原に対応して作られる抗体がHBs抗体です。
つまり、HBs抗体が陽性であれば、B型肝炎ウイルスに対する免疫を獲得しているということなので安心ですが、HBs抗原が陽性であれば、今現在B型肝炎ウイルスに感染しているということになります。
名前が似ているので混乱しがちではありますが、HBs抗体とHBs抗原は逆の意味(働き)を持っているという大きな違いがあります。
HBs抗原は陰性でHBs抗体のみ陽性の原因とは?
HBs抗原が陰性でHBs抗体のみ陽性になる原因は、主に2つの場合が考えられます。
- 過去にB型肝炎ウイルスに感染していたが、その後ウイルスを排除して治癒した
- B型肝炎のワクチンを接種した
HBs抗原はB型肝炎ウイルスの一部であるため、B型肝炎ウイルスに感染すると、最初はHBs抗原が陽性になります。
その後、体内でHBs抗体が作られてウイルスを排除できた場合には、HBs抗原は陰性になります。
この場合、HBs抗体は体内に残り続けますので、HBs抗原は陰性でHBs抗体のみが陽性という状態になります。
なお、成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、約70-80%の方は自らの免疫によってウイルスを体内から排除することができます。
また、B型肝炎のワクチンを接種した場合には、HBs抗原(B型肝炎ウイルス)が体内で増殖しないまま、HBs抗体のみが作られることになります。
そのため、ワクチンを接種した方の場合も、HBs抗原は陰性でHBs抗体のみ陽性という状態になります。
B型肝炎とは?
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって発生する肝臓の病気のことです。
B型肝炎ウイルスは、感染者の血液・体液を介して感染が拡大します。
B型肝炎ウイルスに感染すると、肝臓に炎症が引き起こされます。
この炎症が長期化した場合、将来的に肝硬変や肝がんになるリスクが高くなります。
集団予防接種等の際にB型肝炎ウイルスに感染した方やその方のご家族については、国から給付金を貰える場合があります。
B型肝炎の意味
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって発生する肝臓の病気のことです。
B型肝炎ウイルスに感染すると、肝臓に炎症が引き起こされます。
この炎症が6ヵ月以上にわたって継続した場合、肝臓の損傷と修復が繰り返されることになります。
肝臓の損傷と修復が繰り返されると、肝臓が少しずつ硬く小さくなる「線維化」という症状が進行し、肝硬変になる可能性があります。
また、肝硬変から肝がんに進行するリスクもあります。
つまり、B型肝炎に感染し、肝炎が慢性化した場合、将来的に肝硬変や肝がんになるリスクが高くなるという特徴があります。
B型肝炎の症状
B型肝炎に感染したとしても、多くの場合は症状が出ないまま治癒します。
しかし、一部の人は急性B型肝炎を発症し、体の全体的な疲労感、食欲不振、吐き気、嘔吐、濃い茶色の尿、黄疸(皮膚や目が黄色くなる)といった症状が出る場合があります。
これらの症状は自然に治癒することが多いです。
しかし、まれに急性肝炎が急速に悪化して劇症肝炎となる場合があり、この場合は死亡リスクが非常に高いので、注意しなければなりません。
急性B型肝炎から慢性B型肝炎に進行した場合、初期段階では症状が現れないことが多々あります。
これは、肝臓の代替機能によるものです。
肝臓は一部に炎症などの異常が起きていたとしても、健康な肝細胞が代わりを務めることで、ある程度の機能低下を補い、肝臓本来の役割を果たそうとする能力があります。
そのため、慢性B型肝炎を発症した場合には、症状が現れないことが多いので、肝炎が進行していないかどうかの定期的な検査が必要です。
B型肝炎の感染経路
B型肝炎ウイルスは、感染者の血液・体液が体内に入ることで感染します。
B型肝炎ウイルスの主な感染経路は、以下の通りです。
- 母子感染
- 血液を介した感染
- 体液を介した感染
感染が広まる際には、「垂直感染」と「水平感染」の2つのパターンがあります。
垂直感染は母子間の感染を指し、水平感染は人から人や物から人への感染を指します。
B型肝炎ウイルスの感染経路として多いものは、①母子感染、②注射針の使い回しによる感染(血液を介した感染)、③性交渉による感染(体液を介した感染)です。
B型肝炎給付金とは
B型肝炎給付金は、かつての集団予防接種等の際に注射器が再利用されたことにより、B型肝炎ウイルスに感染して健康被害を被った人に対して、国から支払われる補償金です。
給付金の金額は、肝炎・肝硬変・肝がんなど病気の重症度によって異なりますが、最高で3600万円が支給されます。
給付金を受け取るためには、国を相手に裁判を起こして、給付金の受給条件を満たしていることを国に認められる必要があります。
この裁判は2027年3月31日までに提起しなければいけませんので、裁判を起こそうか検討されている場合は、期限に注意しましょう。
HBs抗体についてのQ&A
HBs抗体についてのご質問にお答えしていきます。
HBs抗体プラスとはどういう意味ですか?
HBs抗体がプラスの場合、B型肝炎ウイルスに対する免疫ができていることを意味します。
HBs抗体がプラスになる原因としては、過去にB型肝炎ウイルスに感染して治癒した場合と、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したことがある場合の2パターンが考えられます。
HBs抗体が陽性だったらどうしたらいいですか?
B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したことでHBs抗体が陽性になった方については、検査や治療は当然不要です。
ワクチンを接種していない方の場合は、過去にB型肝炎ウイルスに感染したことでHBs抗体が陽性になったと考えられます。
この場合であっても、HBs抗体が陽性になっているということは、B型肝炎はすでに治癒していると考えられるため、検査や治療の必要性は高くありません。
ただし、まれにB型肝炎が慢性化しているにも関わらず、HBs抗体が陽性となる方がいますので、体調不良や黄疸などの症状がある場合には、B型肝炎ウイルスの検査を実施した方が良いでしょう。
HBs抗体PHAとは何ですか?
カモの赤血球にB型肝炎ウイルスを付着させ、これに患者の血清(血液から血球成分を除いた液体部分)を混ぜます。
もし患者の血清中にHBs抗体が存在すれば、HBs抗原と反応して赤血球が凝集します。
赤血球の凝集の有無を観察することで、HBs抗体の存在が確認できるという検査手法です。
まとめ
HBs抗体が陽性だということは、現在はB型肝炎ウイルスに対する免疫ができているということです。
HBs抗体は、B型肝炎ウイルスのワクチンを接種したことがある場合や、過去にB型肝炎ウイルスに感染したことがある場合に陽性となります。
現在、HBs抗体が陽性の方の場合、すでにB型肝炎は治癒している方がほとんどです。
ただし、まれにではありますが、HBs抗体が陽性であるにも関わらず、B型肝炎が慢性化しているという方がいらっしゃいます。
HBs抗体が陽性だという方でも、体のだるさや黄疸といった症状がある場合には、医療機関等でB型肝炎ウイルスに関する検査をしてみることをおすすめします。
B型肝炎給付金を受け取れるかどうかなど、1度専門家に相談してみたいという方は、ぜひ弁護士法人デイライト法律事務所にご相談ください。
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