HBVキャリアとは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染し、体内にウイルスを持ち続けている状態の方のことを指します。
感染者の血液や体液を介して体内にHBVが入ると、HBVは肝臓で増殖を開始します。
免疫機能が機能している方がHBVに感染した場合には、免疫によって体内からウイルスが排除され、そのまま治癒することが一般的です。
しかし、免疫機能が未発達な乳幼児などが感染した場合には、生涯HBVを体内に保有し続けるキャリアになる確率が非常に高くなります。
また、現在日本でも感染例が見られるジェノタイプAのHBVの場合、成人が感染したとしても約10%の確率でキャリア化することがわかっています。
この記事では、HBVキャリアの詳細や治療方法、寿命などについて詳しく解説をしていきます。
目次
HBVキャリアとは
HBVキャリアとは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染後、ウイルスが体内から排除されずに持続感染している状態の方のことです。
通常、免疫機能がすでに発達している成人がHBVに感染した場合には、多くは免疫機能によってウイルスが排除されます。
しかし、乳幼児期や免疫機能が低下している時にHBVに感染した場合、ウイルスを排除することができず、非常に高い確率でキャリア化してしまいます。
ただし、HBVキャリアの約90%は、「無症候性キャリア」としてなんら重篤な病気を発症せず、生涯を過ごすことができます。
無症候性キャリアとは、体内にウイルスが存在するものの、ウイルスが活発に活動しておらず、肝炎の症状も出ていない状態の方のことです。
しかし、HBVキャリアの約10%は、慢性肝炎を発症し、肝硬変や肝がんへと進展するリスクがあります。
HBVの定義
HBVは「Hepatitis B Virus」の略称であり、日本語では「B型肝炎ウイルス」と呼ばれます。
HBVは、Hepadnaviridae科に属するDNAウイルスです。
ウイルス粒子は直径約42nmの球形で、外殻(エンベロープ)と内部のコア(核)から構成されています。
主に肝臓に感染して急性および慢性の肝疾患を引き起こします。
世界中で約3億5000万人の慢性感染者がいると推定され、特にアジアやアフリカ地域での感染が多いといわれています。
HBVとB型肝炎との違い
HBVとB型肝炎は一見同じ言葉のように思えますが、厳密には異なる意味を持っています。
端的にいうと、HBVはB型肝炎の原因となるウイルスそのものであり、B型肝炎はHBVによって引き起こされる肝臓の病気という違いがあります。
HBVに感染すると、HBVは主に肝細胞で増殖をはじめます。
HBVが増殖するにつれて体の免疫系がHBVを認識できるようになり、免疫反応によってHBVに感染している肝細胞を攻撃します。
これらの過程で、肝臓に炎症が起こります。
つまり、HBVというウイルスが原因で生じる肝臓の炎症のことを「B型肝炎」といいます。
HBVキャリアとなる原因
HBVに感染したとしても、その後にキャリア化するかどうかは個人差が大きく、キャリア化の原因を一概に断定することは困難です。
しかし、感染時期や免疫系の強さ、HBVのジェノタイプ(遺伝子型)などの要因から、HBVに感染した際のキャリア化リスクを把握することができます。
1つずつ解説をしていきます。
HBVの感染経路
HBVは、感染者の血液や体液を介して感染するウイルスです。
HBVの主な感染経路は、垂直感染と水平感染の2つに大別されます。
垂直感染とは、HBVに感染している母親から生まれた子どもへの感染のことです。
これに対し、水平感染とは、日常生活や医療行為を通じて他の人に感染が広がることを指します。
水平感染の例としては、性行為、歯ブラシやカミソリの共用、不衛生な道具を使った刺青やピアスの施術、針刺し事故などが挙げられます。
感染時期
HBVは、感染した時期(タイミング)によってキャリア化のリスクが大幅に異なります。
乳児期や幼児期に感染した場合、免疫系が未熟であるため、90%以上の確率で慢性化し、HBVキャリアとなるリスクが非常に高いといえます。
これに対し、成人期に感染した場合は、免疫系が発達しているため、約90〜95%の方はキャリア化しません。
残りの約5〜10%の方は感染が慢性化し、キャリアとなることがあります。
免疫系の強さ
HBVは、感染してから約6ヵ月以内に体内からウイルスを排除できなければ、ほとんどの場合、生涯ウイルスを体内に保有するキャリアとなります。
現在、HBVを体内から排除することができる薬はないため、個人の免疫機能の強さによって、ウイルスを体内から排除できるかどうかが変わってきます。
乳幼児は免疫機能が発達していないため、HBVに感染した場合、体内からウイルスを排除することができず、約90%の確率でキャリア化します。
また、病気の治療のために透析を受けている方や免疫抑制剤を使用している方についても、免疫機能が低下しているため、キャリア化のリスクが高まります。
HBVのジェノタイプ
HBVはジェノタイプによって、現在A〜Jまでの10タイプに分類されています。
日本の場合、A〜Dの4タイプのいずれかに感染している方が多くを占めます。
近年、日本でも感染者が見られるようになったジェノタイプAのHBVは、従来のジェノタイプBやCのHBVに比べて、成人でもキャリア化しやすいという特徴があります。
ジェノタイプAのHBVに成人期以降に感染した場合、約10%前後の頻度でキャリア化するといわれています。
HBVキャリアの感染力は強い?
HBVキャリアの感染力は、ウイルスの増殖状態や血中のウイルス量によって大きく異なります。
当然のことですが、血中に含まれるウイルス量が多いほど、感染力は強くなります。
体内のウイルス量をはかる指標として、「HBe抗原」の数値が非常に参考になります。
HBe抗原とは、HBVウイルスが増殖する過程で、過剰につくられるたんぱく質のことです。
HBe抗原の数値が高いということは、血中にHBVが多量に含まれており、感染力が強いということを示します。
HBe抗原の数値が低い場合、血中のウイルス量はそこまで高くなく、感染力は弱いといえます。
しかし、HBVは、HIV(ヒト免疫不全ウイルス:通称「エイズ」)に比べて約50〜100倍感染力が強いといわれています。
感染力が低下しているHBVキャリアであっても、他者に感染させるリスクは十分に考えられます。
HBVキャリアはどのような経過をたどるの?
乳幼児期にHBVに感染した場合、青年期までは「免疫寛容期(無症候性キャリア期)」が続きます。
その後、「免疫応答期」に移行します。
「免疫応答期」の後は、HBVの活動量が抑えられれば「非活動性キャリア期」に移行しますが、HBVの活動量が抑えられなかった場合は慢性肝疾患を発症することになります。
また、稀にではありますが、非活動性キャリア期から慢性肝疾患を発症することがあります。
慢性肝疾患には、慢性肝炎・肝硬変・肝がんがあり、いずれの病気を発症しているかによって、予後は大きく異なります。
免疫寛容期(無症候性キャリア期)
乳幼児期にHBVに感染した場合、約90%がHBVのキャリアとなります。
この場合のHBVキャリアは、まず「免疫寛容期(無症候性キャリア期)」を過ごします。
この時期は、ウイルスが活発に活動しているにもかかわらず、感染者の免疫系が未発達のためウイルスを攻撃できず、肝炎の症状が現れない状態です。
多くの場合、体の免疫機能が発達する青年期(20〜30歳頃)まで免疫寛容期が続きます。
免疫応答期
体の免疫機能が発達してくる青年期以降は、体がHBVを認識して攻撃を開始する「免疫応答期」に移行します。
免疫応答期では、HBVに感染している肝細胞を免疫機能によって攻撃する結果、肝炎の症状があらわれます。
免疫応答期が続く期間には、個人差があります。
非活動性キャリア期
約85〜90%の方は、免疫応答期のあと、体の免疫機能によってHBVの活動量が抑えられ、「非活動性キャリア期」に移行します。
非活動性キャリア期は、体の免疫系がHBVの増殖を一定程度抑制している状態です。
多くの場合、非活動性キャリア期のまま生涯を終えることができます。
しかし、一部の方では体内のHBVが再活性化し、慢性肝疾患を発症するおそれがあります。
慢性肝疾患を発症
約10〜15%の方は、免疫応答期が長引き、慢性肝疾患を発症する可能性があります。
慢性肝疾患とは、「慢性肝炎」「肝硬変」「肝がん」などの病気のことです。
肝臓に炎症が起きている状態が長期間続いている状態のことを慢性肝炎といいます。
慢性肝炎からは、年約2%の確率で肝硬変に進行します。
また、肝硬変からは年約1.2〜8.1%の確率で肝がんへと進行するリスクがあります。
HBVキャリアの寿命
HBVキャリアと一口に言っても、発症している病気の状態は様々のため、HBVキャリアの寿命を一概に言うことはできません。
非活動性キャリア期の方の場合、HBVが原因で死亡するリスクはほとんどありません。
しかし、慢性肝疾患を患っている方の場合は、発症している病気や合併症によって死亡リスクが大きく異なります。
例えば、肝がんを患っている方の場合は、5年後死亡率は約64%との報告があります。
HBVキャリアの対処法
HBVキャリアだということがわかったら、まずは適切な治療をすることが大切です。
適切な治療をすることで、ウイルスの増殖を抑制し、肝臓のダメージを軽減することができます。
しかし、治療にはどうしてもお金がかかります。
そのため、治療を続けながら、B型肝炎給付金の受給を検討しましょう。
B型肝炎給付金を確実かつスムーズに受け取るためには、B型肝炎に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
HBVキャリアの治療
HBVキャリアになってしまった場合、今の医療ではHBVを体内から完全に排除することはできません。
そのため、HBVキャリアの治療の目的は、ウイルスの増殖を抑制し、肝臓のダメージを軽減することとなります。
HBVキャリアの主な治療には、「抗ウイルス療法」と「肝庇護療法」の2つの治療法があります。
抗ウイルス療法は、ウイルスの増殖を抑制するために行われます。
抗ウイルス療法で主に使用される薬には、「インターフェロン」と「核酸アナログ製剤」があります。
インターフェロンとは、注射で投与する薬で、自己の免疫を強化することでウイルスの増殖を阻害する効果のある薬です。
核酸アナログ製剤とは、口から摂取する薬で、HBVのDNA合成を直接阻害することでウイルスの増殖を阻害する効果のある薬です。
インターフェロンは副作用が強く出ることが多いのに比べて、核酸アナログ製剤は副作用が比較的出にくいと言われています。
どちらの薬を使用するかについては、患者の年齢、肝炎のステージ、ウイルスのタイプ、体への負担などを総合的に判断して、医師が判断します。
肝庇護療法は、ウイルスを減少させる効果はありませんが、肝臓のダメージを軽減するために行われます。
肝庇護療法で主に使用される薬には、「グリチルリチン製剤」「ウルソデオキシコール酸」「小柴胡湯」などがあります。
B型肝炎給付金の申請を検討する
HBVキャリアの方は、B型肝炎給付金の申請を検討しましょう。
B型肝炎給付金は、最大で3600万円を国から受け取ることができる制度です。
B型肝炎給付金を受け取るための要件の1つとして、「B型肝炎に持続感染していること」という要件があります。
HBVキャリアの方は、この要件については満たしていますので、他の要件を満たしているかどうかを確認しましょう。
例えば、「一次感染者」と定義される方の場合は、以下の要件を全て満たしていれば、給付金を受け取ることができます。
- ① B型肝炎ウイルスに持続感染していること
- ② 満7歳になるまでに集団予防接種等を受けていること
- ③ 集団予防接種等における注射器の連続使用があったこと
- ④ 母親からの感染(母子感染)でないこと
- ⑤ その他集団予防接種等以外の感染原因がないこと
その他、「二次感染者」「三次感染者」「一次感染者〜三次感染者のご遺族(相続人)」も給付金を受け取ることができますが、要件が微妙に異なります。
B型肝炎給付金の詳しい要件について知りたい方は、以下のページをご参照ください。
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B型肝炎に詳しい弁護士へ相談
B型肝炎訴訟を提起する場合、資料の収集や裁判所に提出する書類の作成をする必要があります。
そのため、B型肝炎訴訟では、法律的な知識に加えて、B型肝炎に関する知識を有している方が、より有利に訴訟を進めることができます。
また、B型肝炎に詳しい弁護士に相談することで、訴訟の手続きは全て弁護士に任せつつ、治療に専念することもできます。
B型肝炎給付金を確実に受け取りたいという方は、ぜひB型肝炎に詳しい弁護士に相談してください。
HBVキャリアについてのQ&A
HBVキャリアに関するご質問にお答えします。
B型肝炎キャリアは献血できますか?
B型肝炎ウイルスは、感染者の血液や体液を介して感染が広がります。
B型肝炎キャリアは、B型肝炎ウイルスを体内に保有しているため、他人にB型肝炎ウイルスを感染させるリスクがあります。
そのため、B型肝炎キャリアは献血をすることはできません。
また、日本赤十字社では、輸血用血液製剤の安全性を確保するために、B型肝炎ウイルスの検査が実施されています。
そして、検査の結果、過去に1度でもB型肝炎ウイルスに感染したと思われる方の血液は、輸血に使用しないこととしています。
B型肝炎のキャリアは何人に一人ですか?
日本全体でいうと、約110万〜140万人程度のB型肝炎キャリアがいると考えられています。
まとめ
HBVキャリアになってしまった場合、今の医療ではHBVを体内から完全に排除することはできません。
しかし、HBVキャリアの約85〜90%の方は、体の免疫機能によってHBVの活動量が抑えられるため、非活動性キャリア期のまま生涯を終えることができます。
また、慢性肝炎、肝硬変、肝がんなどの慢性肝疾患を発症した場合でも、適切な治療を続けることでウイルスの活動を阻害し、病気と付き合いながら長生きすることは可能です。
金銭的な負担で治療を諦めなくていいように、B型肝炎給付金の受け取りができるかを確認することも重要です。
HBVキャリアの方は、少なくともB型肝炎給付金の要件の1つである「B型肝炎に持続感染していること」という要件は満たしています。
その他の要件についても、よく調べてみたら満たしていたということが十分ありえます。
1人で悩む前に、身近な方や専門家である弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士法人デイライト法律事務所では、B型肝炎に注力する弁護士が多数在籍しております。
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