B型肝炎とは
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の病気です。
B型肝炎ウイルスの感染は、一時的な感染で終わるもの(一過性感染)と、6ヶ月以上にわたって感染が継続するもの(持続感染)の2つに分けられます。
免疫機能が確立した成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、一過性感染にとどまることがほとんどです。
一過性感染の場合、20%〜30%の方が急性肝炎を発症し、70%〜80%の方は自覚症状がないまま治癒します。
ただし、急性肝炎を発症した方のうち、1〜2%は劇症肝炎を発症する危険性があります。
幼少期にB型肝炎に感染した場合、免疫機能が未熟なためウイルスが排除されず、約90%の方が持続感染となります。
B型肝炎に持続感染した場合、85%〜90%の方は、症状のないまま体内にウイルスを持ち続ける「無症候性キャリア」となりますが、10%〜15%の方は慢性肝炎を発症します。
慢性肝炎を発症した場合、さらに肝硬変や肝がんへと進行する可能性があります。
治療方法
急性肝炎の場合、自然治癒が期待されるため、特別な治療は行いません。
食欲低下の症状が見られるときは、水分や栄養を補給するために点滴などを行いますが、基本的には、安静にして自然にB型肝炎ウイルスが排除されるのを待つのみです。
ただし、急性肝炎の中でも劇症肝炎を発症したときは、抗ウイルス薬(核酸アナログ製剤)の投与や、体内から有害な物質を取り除くための血漿(けっしょう)交換、血液透析等の治療を行います。
持続感染により慢性肝炎を発症した場合、ウイルスを体外へ排出することはほぼ不可能です。
そのため、肝硬変や肝がんへの進行を予防し、生活の質を維持することが治療の目的となります。
慢性肝炎の治療方法は、主に、インターフェロン(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)による抗ウイルス治療です。
なお、症状のない無症候性キャリアの場合、特に治療法はありませんが、病状が慢性肝炎等に進行していないかを確認するために、定期的に検査を受けることが大切です。
インターフェロンは、ウイルスに感染したときに、体を守るために体内で作られるタンパク質の一種で、ウイルスを攻撃したり増殖を抑えたりする働きがあります。
このインターフェロンを人工的に薬として製造し、注射によって体内に入れるのが「インターフェロン治療」です。
インターフェロン(α製剤、β製剤)による治療は、基本的に週3回の注射が必要です。
近年では、ペグインターフェロンという製剤が承認され、週1回の注射でインターフェロンと同様の効果が得られるようになりました。
インターフェロンやペグインターフェロンによる治療は、24週間から48週間にわたって行われます。
インターフェロン療法によってB型肝炎が鎮静化し、再発しない割合は30%〜40%といわれています。
インターフェロン治療による主な副作用は、インフルエンザのような高熱・全身倦怠感・関節痛・筋肉痛などです。
人によっては、白血球、赤血球、血小板の低下、膠原病の悪化、間質性肺炎、うつ状態、脱毛、眼底出血、たんぱく尿などの副作用を伴うことがあります。
核酸アナログ製剤は、B型肝炎ウイルスの遺伝子を構成する核酸(DNA)の合成を阻害することによって、B型肝炎ウイルスの増殖を抑え、肝炎を鎮静化させる内服薬(飲み薬)です。
現在、日本で使用されている核酸アナログ製剤は次の4種類です。
- ラミブジン(商品名:ゼフィックス錠)
- エンテカビル(商品名:バラクルード錠)
- テノホビル・ジソプロキシルフマル酸塩(商品名:テノゼット錠)
- テノホビル・アラフェナミドフマル酸塩(商品名:ベムリディ錠)
核酸アナログ製剤は、毎日1回1錠の服用を長期間続ける必要があります。
核酸アナログ製剤による副作用は、短期的にはほとんどありませんが、自己判断で中止した場合、肝炎の急激な悪化を招くことがあるため、注意が必要です。
また、薬の服用を中止すると肝炎が再燃する可能性が高く、長期間の服用により核酸アナログ製剤の効かない変異株が出現することもあります。
B型肝炎の治療費はいくら?
インターフェロン治療の治療費
インターフェロン製剤にかかる費用は、保険適用(3割負担)で1本あたり2500円〜1万2000円前後と、製剤によって開きがあります。
インターフェロン製剤の場合、週3回の注射が必要となりますので、自己負担額の月額は、最も安い場合で3万円前後、最も高い場合で14万円4000円前後となります。
ペグインターフェロン製剤にかかる費用は、保険適用(3割負担)で1本あたり8,500円前後です。
ペグインターフェロン製剤の場合、週1回の注射が必要となりますので、自己負担額の月額は約3万4000円前後となります。
核酸アナログ製剤治療の治療費
核酸アナログ製剤にかかる費用は、保険適用(3割負担)で1錠あたり75円(ジェネリックの価格)〜350円前後と、製剤によって開きがあります。
核酸アナログ製剤の場合、毎日1錠を飲み続ける必要がありますので、自己負担額の月額は、最も安い場合で2250円、最も高い場合で1万前後となります。
参考:B型肝炎の患者さんへ|地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター
医療費の助成制度を利用しよう!
厚生労働省と各都道府県では、肝炎が我が国最大の感染症であることから、肝炎の早期治療を推進するために、医療費の助成を行っています。
B型肝炎にかかる医療費の助成制度は、インターフェロン治療および核酸アナログ製剤治療にかかる医療費の自己負担額(月額)を、世帯の所得額に応じて、1万円または2万円に軽減するものです。
助成の範囲
B型肝炎の治療には、上で説明したような製剤の治療費に加え、治療を行うために必要な診察料などがかかります。
B型肝炎の医療費助成においては、初診料、再診料、検査料、入院料等のほか、インターフェロン治療による副作用の治療が助成の範囲に含まれます。
ただし、インターフェロン治療を中断して行う副作用の治療については対象外です。
また、助成対象となる治療と無関係の治療や、保険適用外の治療費については助成の範囲に含まれません。
対象者と認定基準
医療費助成の対象者は、①申請先の各都道府県に住所があり、②国民健康保険等の公的医療保険に加入している方またはその扶養家族の方で、③医師によりB型肝炎の治療(インターフェロン治療または核酸アナログ製剤治療)が必要と診断された方です。
ただし、他の法令等による医療給付を受けている方は、原則としてそちらの制度(例えば、感染症法、障害者自立支援法、特定疾患治療研究事業など)が優先されます。
インターフェロン治療については、B型慢性肝炎と診断されたうえで、以下の認定基準を満たすことが必要です。
- HBe抗原陽性かつHBV-DNA陽性のB型慢性活動性肝炎で、インターフェロン治療を行う予定、またはインターフェロン治療実施中の者のうち、肝がんの合併のない者
- ただし、ペグインターフェロン製剤を用いる治療に限っては、HBe抗原陰性のB型慢性活動性肝炎も対象とする
核酸アナログ製剤治療については、B型慢性肝炎、B型代償性肝硬変またはB型非代償性肝硬変と診断されたうえで、以下の認定基準を満たすことが必要です。
- B型肝炎ウイルスの増殖を伴い肝機能の異常が確認されたB型慢性肝疾患で、核酸アナログ製剤治療を行う予定、または核酸アナログ製剤治療実施中の者であり、医師が継続治療を必要と認める場合
- 自己負担額はいくら?
医療費助成を受けた場合の自己負担額は、以下のとおりです。
なお、市町村民税の課税年額(所得割)は、各市町村から送付される住民税の課税通知書によって確認することができます。
所得区分 | 自己負担額の上限(月額) |
---|---|
世帯全員の市町村民税(所得割)課税年額が235,000円以上 | 2万円 |
世帯全員の市町村民税(所得割)課税年額が235,000円未満 | 1万円 |
たとえば、世帯の市町村民税(所得割)の課税年額が30万円で、インターフェロン治療に月額6万円の医療費がかかる場合、自己負担額は2万円となります。
医療費助成の申請方法
医療費助成の申請は、各都道府県の住所地を管轄する保健所の窓口に必要書類を提出して行います。
その後、各保健所により認定要件を満たしているかどうかの審査が行われます。
助成対象として認定されると、受給者証(各自治体によって呼称や形式が異なる場合があります)が交付されます。
B型肝炎の治療のために医療機関を受診する際には、この受給者証と健康保険証を提示することで、自己負担額の上限(所得に応じて1万円または2万円)を超える医療費の支払いは発生しません。
なお、申請を行ってから受給者証の交付を受けるまでには2ヶ月程度かかるとされており、その間に受けた治療にかかる費用については、自己負担額を超える場合でも、その全額を支払う必要があります。
ただし、その後に各都道府県に申請することによって、受給者証の有効期限の開始日に遡って、自己負担額の上限を超える医療費の返還を受けることができます。
必要書類
医療費助成の申請には、主に次のような書類の提出が必要です。
- 受給者証交付申請書
- 医師の診断書(各都道府県の指定する医療機関が作成したもの)
- 健康保険証の写し
- 世帯全員の記載がある住民票の写し
- 世帯全員の市区町村民の課税年額を証明する書類(市区町村が発行する課税証明書や非課税証明書等)
各都道府県によって必要な書類や申請書の様式が異なる場合がありますので、詳細は最寄りの保健所等にお問い合わせください。
B型肝炎給付金の対象か確認しよう!
給付金対象者と給付金額
B型肝炎ウイルスの感染が、過去に国の施策として行われた集団予防接種やツベルクリン反応検査に由来する場合、上で説明した医療費助成とは別に、B型肝炎給付金を受給することができます。
次のいずれかに該当する方がB型肝炎給付金の対象者となります。
- ① 一次感染者:ご自身が集団予防接種等を受けたことでB型肝炎ウイルスに感染した方
- ② 二次感染者:一次感染者である母親(父親)からの母子(父子)感染によりB型肝炎ウイルスに感染した方
- ③ 三次感染者:二次感染者である母親(父親)からの母子(父子)感染によりB型肝炎ウイルスに感染した方
- ④ ①②③の相続人:①②③の方が給付金を受け取る前に亡くなり、その相続人となった方
もらえる給付金の額は、次の表のとおりです。
病状等 | 除斥期間経過前 | 除斥期間経過後 |
---|---|---|
死亡・肝がん・重度の肝硬変 | 3600万円 | 900万円 |
軽度の肝硬変 | 2500万円 | 600万円(治療中の場合) 300万円(治癒している場合) |
慢性肝炎 | 1250万円 | 300万円(治療中の場合) 150万円(治癒している場合) |
無症候性キャリア | 600万円 | 50万円 |
表からわかるように、もらえる給付金の額は病状等に応じて異なり、重篤な病状ほど金額が大きくなります。
また、B型肝炎の請求には除斥期間(じょせききかん)という一定の期間が定められており、この期間を経過した後はもらえる金額が大幅に少なくなってしまいます。
追加給付金がもらえる場合も!
いったん給付金を受け取った方の症状がその後に悪化した場合、新たに発生した症状に合わせて、「追加給付金」を受け取ることができます。
たとえば、除斥期間経過前に給付金の請求を行い、軽度の肝硬変について2500万円の給付金を受け取った方が、その後に病状が悪化し肝がんになってしまった場合、肝がんの給付金(3600万円)との差額1100万円について、追加給付金を受け取ることができます。
最初に給付金の請求をした時点で除斥期間を経過していなければ、病状が悪化した時点で除斥期間を経過していたとしても、除斥期間経過前の金額を基準として追加給付金を受け取ることができます。
給付金の請求には期限があることに加え、請求の準備には時間がかかることから、できるだけ早く準備を進め、できるだけ早く請求することをおすすめします。
将来的に必要な検査費用等がもらえる場合も!
除斥期間が経過してしまった無症候性キャリアの方は、もらえる給付金の額が50万円と少ないため、もしかしたら給付金の請求を迷われるかもしれません。
しかし、除斥期間が経過してしまった無症候性キャリアの方については、50万円の給付金に加えて、以下の4つの費用・手当の支給を受けることができますので、ぜひ前向きに検討してみましょう。
- ① 慢性肝炎等の発症を確認するための定期検査(血液検査、画像検査など)
- ② 母子感染防止のための医療費
- ③ 世帯内感染防止のための医療費
- ④ 定期検査手当
なお、除斥期間を経過した無症候性キャリア以外の給付金対象者の方(慢性肝炎等を発症した方や除斥期間経過前の無症候性キャリアの方など)や、給付金の支給対象者とならない無症候性キャリアの方については、これらの費用・手当をもらうことはできません。
まとめ
- B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の病気です。
- B型肝炎ウイルスへの感染が継続する持続感染の場合、多くの方は症状のないまま体内にウイルスを持ち続ける「無症候性キャリア」となりますが、一部の方は慢性肝炎を発症します。
- 慢性肝炎の治療方法は、主に、インターフェロン(注射薬)と核酸アナログ製剤(内服薬)による抗ウイルス治療です。
- B型肝炎の治療にかかる治療費は高額となる場合が少なくなく、人によっては保険適用(3割負担)で月額10万円超の医療費がかかることがあります。
- B型肝炎にかかる医療費の負担を軽減するため、厚生労働省と各都道府県は、インターフェロン治療および核酸アナログ製剤治療について、医療費の自己負担額(月額)を、世帯の所得額に応じて、1万円または2万円に軽減する助成制度を設けています。
- 医療費の助成を受けるためには、各市町村の保健所窓口への申請を行い、一定の認定基準を満たすことを認められる必要があります。
- B型肝炎ウイルスへの感染が、過去に行われた集団予防接種等に由来する場合、医療費の助成とは別に、最大3600万円のB型肝炎給付金を受給することができます。
- 給付金の請求には期限があるため、できるだけ早く準備を進め、できるだけ早く請求することをおすすめします。