B型肝炎がうつる確率は、感染経路によって異なります。
血液や体液が傷口や粘膜に付着することに気をつけていれば、風呂、銭湯、プール、スポーツ、遊び、食事、トイレ等の日常生活でB型肝炎に感染する危険性はほとんどありません。
母子感染の場合、乳児の免疫機能が発達していないため、ワクチン接種を行わない限り、ほぼ100%の確率で感染するといわれています。
このページでは、B型肝炎の感染経路や感染する確率、感染しているかどうかを調べる方法などについて解説いたします。
B型肝炎とは
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の病気です。
B型肝炎ウイルスへの感染は、継続的に感染状態が続く場合と、一過性の感染で終わる場合があります。
B型肝炎キャリアとは
B型肝炎のキャリアとは、6ヶ月以上にわたって体内にB型肝炎ウイルスを持っている状態(持続感染)をいいます。
日本では、約110万人から140万人(およそ100人に1人)がB型肝炎のキャリアであると推定されています。
B型肝炎の症状と経過
B型肝炎ウイルスに持続感染した場合(B型肝炎キャリアとなった場合)、多くは症状のないまま体内にB型肝炎ウイルスを持ち続けます(これを「無症候性キャリア」といいます)。
B型肝炎キャリアの10%〜15%は慢性肝炎へと進行し、さらに年に数%の割合で肝硬変、さらには肝がんなどの命に関わる病気へと進行していきます。
慢性肝炎の症状は、主に、けん怠感や食欲不振、疲労などで、場合によって微熱や上腹部の不快感を伴うことがあります。
もっとも、慢性肝炎は徐々に進行するため、肝硬変や肝がんに至るまで自覚症状がないことも少なくありません。
B型肝炎ウイルスへの感染が一過性の感染で終わる場合、70%〜80%は症状が現れないまま治癒し、20%〜30%は急性肝炎を発症します。
急性肝炎を発症すると、発熱・全身倦怠感・食欲不振・黄疸(皮膚が黄色くなること)・嘔吐・黒褐色尿(ウーロン茶やコーラのような色の尿)・関節痛などの症状が現れ、数週間続きます。
急性肝炎を発症した患者のうち、10%前後は慢性肝炎へと進行する可能性があります(慢性化する可能性は、B型肝炎ウイルスの型によって異なります)。
また、急性肝炎を発症した患者の1〜2%が、致死率の高い劇症肝炎を発症する可能性があります。
B型肝炎がうつる確率
B型肝炎ウイルスは、C型肝炎ウイルスやHIVウイルスよりも感染力の強いウイルスで、B型肝炎ウイルスに感染している人の血液や体液(月経血、傷口浸出液、膣分泌液や精液、唾液、尿など)が、他の人の傷口や粘膜に接触することで感染します。
空気感染・飛沫感染することはなく、傷口がない状態であれば、単なる皮膚の接触(握手など)によって感染することもありません。
つまり、血液や体液が傷口や粘膜に付着することに気をつけていれば、日常生活の中でB型肝炎に感染する危険性はほとんどありません。
B型肝炎の感染経路は、大きく、母子感染(垂直感染)と水平感染にわかれますが、B型肝炎がうつる確率は、感染経路によって異なります。
以下では、B型肝炎がうつる確率について、それぞれの感染経路ごとに説明していきます。
母子感染
母子感染とは、B型肝炎ウイルスに持続感染している母親から子へ出産時に感染することをいい、「垂直感染」ともいわれます。
母子感染の場合、出産の際に産道で血液を介して子に感染します。
乳児は免疫機能が発達しておらず、ウイルスを異物として認識し排除する能力が弱いため、ワクチン接種を行わない限り、ほぼ100%の確率でB型肝炎ウイルスに感染し、90%が持続感染(B型肝炎キャリア)となります。
症状については上で説明したとおりで、大半は無症状のままB型肝炎ウイルスを持ち続ける無症候性キャリアとなりますが、10%〜15%は慢性肝炎を発症し、肝硬変・肝がんへと進行する可能性があります。
もっとも、わが国では1985年に国による母子感染防止対策(B型肝炎キャリアの妊婦からの出生児に対するワクチン投与等)が導入されており、現在では新たな母子感染はほとんど発生していません。
性交渉やそれに準ずる行為
母子感染以外の感染経路による感染を「水平感染」といいます。
水平感染において、近年最も多い感染経路は性交渉による感染です。
B型肝炎キャリアの40〜50%の感染経路は異性間の性交渉によるもの、という調査結果もあります。
B型肝炎キャリアの膣分泌液や精液、唾液にはB型肝炎ウイルスが含まれており、これが粘膜の接触を通じて感染します。
そのため、性交渉やこれに準ずる行為(濃厚なキス等)によってB型肝炎ウイルスに感染する可能性があります。
性交渉等は免疫機能が発達した段階で行われるため、乳幼児の段階で感染する母子感染の場合とは異なり、一過性の感染にとどまることがほとんどです。
もっとも、近年増加している欧米型ウイルスに感染した場合には、感染者の10%程度が慢性肝炎を発症するといわれています。
風呂、銭湯、プール等
風呂や銭湯、プール等が原因でB型肝炎ウイルスに感染する可能性は極めて低く、これらを原因とする感染例は報告されていません。
確かに、B型肝炎ウイルスを含む血液や体液が水中に溶け込むことが考えられますが、水で薄められているため、感染力はほとんどありません。
また、基本的には風呂や銭湯、プール等において、粘膜や傷口への接触を伴うこともありません。
したがって、日常生活で入浴の順番を制限したり、浴槽やプールを区別したりする必要はありません。
スポーツ、遊び
一般的には、スポーツや遊びの中でB型肝炎ウイルスに感染する可能性は低いとされています。
もっとも、感染の可能性はゼロではなく、激しい接触を伴うスポーツ(相撲やラグビー等)、保育園等における子ども同士の遊びについては、感染例が報告されています。
上で説明したように、B型肝炎ウイルスは血液や体液が傷口や粘膜に接触することで感染します。
激しいスポーツや子ども同士の遊びでは負傷して傷口ができることがあり、その傷口に血液や汗が触れることで感染する可能性があるのです。
傷口ができる可能性のないスポーツや遊びに関しては、それほど神経質になる必要はありません。
食事、トイレ
食事(食器の共用等)やトイレの共用等によって、B型肝炎ウイルスに感染する可能性は極めて低いといえます。
食事については、箸やスプーンから食べ物を介して微量の唾液が混じる可能性があるものの、B型肝炎ウイルスは、食べ物や水分等によって薄められます。
したがって、基本的には、B型肝炎キャリアの方と料理をシェアしたり、鍋を一緒に食べたりすることによってウイルスが感染することはありません。
ただし、乳幼児への口うつしについては、多量の唾液が口内の粘膜に接触することとなるため、感染の可能性があります。
トイレについては、用を足した後に水を流す、手指をよく水洗いする、月経血等の付着したものは月経血等が他人に触れない状態にして処分する、などの基本的なマナーを守って生活する限り、B型肝炎ウイルスを含む血液や体液が皮膚や粘膜に接触する可能性は極めて低いといえます。
B型肝炎の潜伏期間
世界保健機関(WHO)によると、B型肝炎ウイルスの潜伏期間は平均75日で、人によって30日から180日程度と個体差があります。
もっとも、B型肝炎ウイルスは、感染後30日から60日で検出可能な状態となるといわれています。
そのため、B型肝炎ウイルスに感染した可能性のある時点から60日程度が経過した段階であれば、検査によって感染の有無を確認することができます。
B型肝炎の検査方法
B型肝炎に感染しているかどうかは、血液検査で調べることができます。
具体的には、血液中の「HBs抗原」の有無を調べます。
血液中からHBs抗原が検出される場合、B型肝炎ウイルスに感染していることを意味します。
各都道府県・市町村等がHBs抗原の有無を調べるための血液検査を実施しており、対象者は無料で検査を受けることができます。
自然治癒する場合はある?
免疫機能の発達していない乳幼児期(6歳未満)にB型肝炎ウイルスに感染した場合、高確率でB型肝炎ウイルスに持続感染し、無症候性キャリアとなります。
WHOによれば、1歳以下で感染した乳児の80%〜90%(出生時の感染は100%)、6歳未満で感染した幼児の30%〜50%が持続感染となります。
B型肝炎に持続感染した場合、体内からウイルスが完全になくなる(完治する)ことはありません。
免疫機能が確立した成人がB型肝炎ウイルスに感染した場合、ほとんどは免疫の働きによってウイルスが体内から排除され、自然に治癒します(急性肝炎を発症することもありません)。
急性肝炎を発症した場合であっても、ほとんどの場合には自然治癒します。
もっとも、上で説明したように、ウイルスの型によっては10%前後が慢性肝炎へ進行し、1〜2%が、致死率の高い劇症肝炎を発症する可能性があります。
B型肝炎の治療法は?
急性肝炎は、自然治癒する場合がほとんどであることから、特別な治療は行わず、安静にして自然にB型肝炎ウイルスが排除されるのを待ちます。劇症肝炎を発症したときは、抗ウイルス薬の投与や、体内から有害な物質を取り除くための治療等を行います。
B型肝炎は予防できる?
B型肝炎ワクチンの利用
B型肝炎は、B型肝炎ウイルスの予防接種(B型肝炎ワクチン)によって予防することができます。
4〜6ヶ月の間に3回のワクチン接種を行うことで、体内にB型肝炎ウイルスに対する免疫(抗体)が作られ、これによってB型肝炎ウイルスの感染を予防する効果が20年以上続くとされています。
もっとも、B型肝炎ワクチンの接種によって免疫(抗体)を獲得することができる確率は、年齢によって異なります。
B型肝炎ワクチンを40歳までに3回接種した場合には95%の確率で免疫を獲得できるのに対し、40〜60歳では90%の確率に、60歳以上になると65%〜70%の確率に下がります。
平成28年4月1日以降に生まれた0歳児については、B型肝炎ワクチンは「予防接種法」に基づいて行政の費用負担で行われる「定期接種」の対象とされています。
1歳になる前に3回の接種を終わらせる必要があり、1歳になってしまうと定期接種の対象外となり、接種を希望する場合は自己負担となりますので、注意が必要です。
また、母子感染予防のためのB型肝炎ワクチン接種(次項で説明します。)を含む治療を受けた場合、定期接種の対象外となります。
母子感染予防のためのB型肝炎ワクチン接種とは、B型肝炎ウイルスに感染している母親から生まれてきた子どもに対して、B型肝炎の感染を予防するために行われるワクチン接種です。
出生直後(生後12時間以内が望ましい)、1ヶ月後、6ヶ月後に接種を実施します。
また、3回の接種が完了した1〜2ヶ月後に血液検査を行い、B型肝炎への感染の有無と免疫(抗体)の有無を調べます。
このワクチン接種にかかる費用は健康保険の適用対象(一般的には2割の自己負担額)となります。
定期接種の対象となる0歳児以外(1歳以上の乳幼児、大人など)は、自己負担でB型肝炎ワクチンの接種を受けることができます(任意接種)。
費用は病院により異なりますが、1回あたり5000円から1万円程度が相場です。
確実に免疫(抗体)を作るためには3回の接種が必要となりますので、合計で1万5000円〜3万円程度の費用がかかります。
日常生活で気をつけること
B型肝炎の感染を防ぐために、日常生活では以下のことに気をつけましょう。
血液・体液が傷口や粘膜に付着しないように注意すれば、入浴や食器、トイレ等を区別する必要はありません。
- 歯ブラシ、ひげ剃り等の血液が付着する日用品は個人専用にし、貸し借りしない
- 血液のついたものは、むき出しにならない状態で捨てる
- 血液や分泌物が直接皮膚につかないよう注意し、万一皮膚についたときは、すぐに水洗いする
- トイレの後は、流水でよく手を洗う
- 乳幼児に口うつしで食べ物を与えない
- 性交渉時にはコンドームを使用する(ただし、完全に予防できるわけではありません)
給付金や助成金がもらえるって本当?
過去に国の施策として行われた予防接種やツベルクリン反応検査が原因でB型肝炎ウイルスに持続感染している方については、B型肝炎給付金をもらえる可能性があります。
もらえる給付金の額は、病状等に応じて、50万円から3600万円です。
給付金をもらうためにはB型肝炎訴訟を提起して、給付金の対象者として認められる事が必要です。
心当たりがある方は、弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。
また、肝炎がわが国最大の感染症となっていることから、国は、肝炎の治療にかかる医療費の助成制度を設けています。
助成の内容は、世帯の所得額に応じて、B型肝炎の治療にかかる医療費の自己負担額(月額)を1万円または2万円に軽減するというものです(基本的には「助成金」が支給されるわけではありません)。
助成の対象者は、B型肝炎給付金の対象者に限られません。
詳細については、お住まいの地域の保健所等にお問い合わせください。
まとめ
- B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスによって引き起こされる肝臓の病気です。
- B型肝炎キャリアとは、6ヶ月以上にわたって体内にB型肝炎ウイルスを持っている状態(持続感染)をいいます。
- B型肝炎ウイルスは、比較的感染力の強いウイルスで、血液や体液(月経血、傷口浸出液、膣分泌液や精液、唾液、尿など)が傷口や粘膜に接触することで感染します。
- 血液や体液が傷口や粘膜に付着することに気をつけていれば、日常生活(風呂、銭湯、プール、スポーツ、遊び、食事、トイレ等)の中でB型肝炎に感染する危険性はほとんどありません。
- 母子感染(B型肝炎ウイルスに持続感染している母親から子へ出産時に感染することをいいます。)の場合、乳児の免疫機能が発達していないため、ワクチン接種を行わない限り、ほぼ100%の確率で感染します。
- 免疫機能が確立した大人については、B型肝炎ウイルスに感染する確率は低くなりますが、近年では性交渉等による感染が増加しており、ウイルスの型によっては10%前後が慢性肝炎を発症するといわれています。
- B型肝炎の潜伏期間は平均75日ですが、感染後60日程度でウイルスが検出される状態となり、検査して感染の有無を判定することができます。
- B型肝炎に感染しているかどうかは血液検査(HBs抗原検査)で調べることができます。
- B型肝炎は、B型肝炎ワクチンの予防接種(4〜6ヶ月の間に3回の接種が必要)で予防することができます。
- 過去に行われた予防接種やツベルクリン反応検査が原因でB型肝炎ウイルスに感染した場合、B型肝炎給付金の対象となる可能性がありますので、心あたりの場合は弁護士などの専門家に相談してみることをおすすめします。