日本版DBSとは?
DBS(Disclosure and Barring Service)とは
日本版DBSとは、対象の事業者が、子どもに関わる仕事に就こうとする者に性犯罪履歴がないかどうかを国に確認することができる制度のことを言い、イギリスの制度を参考としているため、「日本版DBS」といいます。
日本版DBSを創設する法案は、本年5月から国会で審議されています。
DBSは、性被害が子どもの将来に与える影響は計り知れないことから、教育従事者による子どもへの性暴力を防止することを目的としており、現在審議されている法案では、事業者に対し、新規採用者だけでなく現職者についても特定の性犯罪の前科の有無を確認するなどの措置を義務付ける内容を含んでいます。
同法案は対象事業を営む雇用主に、従業員の性犯罪の前科を確認させることを可能にさせる一方で、現職者に性犯罪歴が確認できた場合には当該従業員の配置転換を行うなどの対応が求められます。
現職者については性犯罪歴が確認されなくとも、子どもから申し出があり「性加害の恐れがある」と判断されれば同様に配置転換を行ったり、場合によっては解雇などの措置をとることも求められます。
それだけでなく、前科というのは他人に知られたくないプライバシーの中でも最も重要な部類に位置付けられるものであるため、事業者である雇用主はDBSにより従業員や新規採用者の性犯罪歴を知った場合、当該情報が漏洩しないよう適切に維持管理しなければなりません。
現在審議されている法案でも、事業者が情報を漏洩した場合の罰則が設けられる予定です。
このように、DBS法案は対象の事業主に対して新たな義務を課すものであり、知らない間にDBS法に違反していた、とならぬよう今後の動向を注視する必要があります。
対象となる事業
では、DBS制度の対象となる事業とはどのような事業なのでしょうか。
まず、学校や認可保育所、幼稚園、児童養護施設などは前科の確認が「義務」となります。
このほか、認可外の保育所や学習塾、子どもが通うスポーツクラブなどの事業主は原則任意ですが、一定の条件をクリアした場合に国が認定する仕組みとなっています。
DBSの問題点
DBSは、教育事業など子どもと関わる事業を営む事業主の方や保護者の方々にとっては、子どもと関わる人間が性犯罪歴のない者であることを担保する点で安心材料になるといえます。
他方で、DBSはあくまで性犯罪前科のある者に対し、子どもを被害者とする再犯をさせないことを柱としています。
性犯罪の有罪判決を受けた場合、子どもと関わる仕事に就くことを困難にさせる点でDBSには一定の抑止力があるといえますが、初犯の性犯罪を防ぐ実効性は限定的といえるでしょう。
事業者に求められることとは
DBSは新規に採用する者の性犯罪歴だけでなく、現在すでに働いている者も対象としています。
DBS法案の施行により、現職者の性犯罪歴が明らかになった場合、雇用主には配置転換などの措置をとる必要があります。
具体的には、子どもと二人きりにはさせないような物理的・人事的配慮を行う、当該従業員を子どもと関わらせない業務に従事させるといった措置が考えられます。
このような措置が不可能か、当該従業員が頑なに応じないといった場合には解雇の可能性も視野に入れる必要が出てくるでしょう。
また、国から得られた前科に関する情報は、従業員のプライバシーに関わる情報ですので、適切な情報管理体制を構築しなければなりません。
罰則も伴うため、どのように情報管理すべきかは慎重に対策する必要があります。
DBS法案が施行される前に、一度弊所企業法務部や労働事件部の弁護士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
まとめ
このように、DBS法案は一見すると刑事事件の手続きのようにも思えますが、対象事業の事業主にとっては労働事件にも発展しかねない内容が含まれています。
対象事業主の方で、新規採用を考えている方や現職員の前科をDBS法に基づき調査することを検討されている方がいましたら、制度の仕組みや申請手続きなど、DBS法を正しく理解する必要があります。
弊所では、刑事事件だけでなく企業法務や労働事件に精通している弁護士が多数在籍しておりますので、お困りの際は遠慮なくご相談ください。
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