無銭飲食で詐欺罪が成立する?【弁護士が解説】
無銭飲食は犯罪、すなわち詐欺罪が成立し、処罰される可能性があります。
無銭飲食は詐欺罪に該当するのかについて、当事務所の弁護士が解説します。
無銭飲食とは?詐欺罪となる?
無銭飲食とは、対価(代金)を支払わずに、飲食店等で飲食をすることをいいます。
詐欺罪の構成要件は、①詐欺行為、②(相手方の)錯誤、③交付・処分行為、④財産権の移転です。
以下のような無銭飲食は、これらの要件を満たすのでしょうか。
具体例① 入店当初から、お金がないことを把握して飲食物を注文した場合
「お金はないが、空腹で耐えられない・・・」と、あなたが無銭飲食を決意したとします。
あなたは、飲食店を探し、入店し、飲食物を注文します。
注文を受けた飲食店は、注文の飲食物を提供します。
それをあなたは飲食し、お金を支払わずにお店を出ようとしたところを捕まります。
あなたの行為に、①詐欺行為はあるのでしょうか。
たしかにあなたは、積極的にお金を持っていることを表現していません。
しかしながら、通常、飲食店で飲食物を注文する行為は、「(お会計のときに飲食代金を支払うから、)生ビールと・・・をください。」という意味に捉えられますから、代金を支払うつもりがない(お金がない)のに、飲食物を注文したあなたの行為は、詐欺行為ということになります。
あなたの①詐欺行為によって、飲食店は、②「この客は、飲食代金を支払う気がある」と錯誤に陥り、③生ビールを注ぎ、調理をし、あなたに提供するという交付・処分行為を行います。
そして④あなたはそれらを飲食し、財産権の移転を受けます。
以上からわかるとおり、入店当初から、お金がないことを把握して飲食物を注文した場合、詐欺罪が成立します。
このように、積極的な詐欺行為はないけれども一定の言動等によって相手方を偽る行為を、黙示的詐欺行為と呼ぶことがあります。
飲食店から警察に被害届が出された場合、高い確率で逮捕され、起訴されることになります。
身体解放、不起訴処分の獲得、執行猶予付き判決の取得のためには、早期に弁護士を選任し、示談交渉等を行うことが重要でしょう。
上記例のほか、お金がないことを隠して旅館・ホテルに泊まる行為、お金がないことを隠してカラオケ店でカラオケを楽しむ行為、営業が行き詰まり代金を支払える見込みもその意思もないのに、商品を買い付ける行為等が、黙示的詐欺行為の代表です。
具体例② 代金を支払うつもりであったが、財布にお金が入っておらず、焦って逃げ出した場合
「お金はあるし、飲みに行こう」と、あなたが飲食店に入ったとします。
あなたは、飲食店を探し、入店し、飲食物を注文します。
注文を受けた飲食店は、注文の飲食物を提供します。
それをあなたは飲食し、お会計をしようとしたところ、財布にお金が入っていないことに気がつきます。
やむを得ない・・・と、支払いをせずにお店を出ようとしたところを捕まります。
この場合にも詐欺罪は成立するのでしょうか。
代金を支払うつもりであったなら詐欺行為にはあたらない。
前述のとおり、詐欺罪が成立するためには、①詐欺行為、②(相手方の)錯誤、③交付・処分行為、④財産権の移転が必要です。
あなたは、「生ビールと・・・をください。」と発言をしていますが、そのとき、真に代金を支払うつもりであったのですから、何ら相手をだまそうとする行為をしていません。
結果的にあなたはお金がなかったわけですから、飲食店に迷惑をかけることになりますが、発言時に飲食店を騙すつもりがなかった以上、あなたの行為は詐欺行為には当たらないのです。
よって、①詐欺行為を欠き、犯罪は成立しないことになります(詐欺の故意がないという見方もできます)。
焦って逃げたことについて、何らかの犯罪が成立するのではないかと思われるかもしれませんが、現行法上は、何も犯罪が成立しないと考えられています。
物を盗んで、逃げる窃盗罪と近いように思われますが、窃盗罪は、「他人の財物を摂取した者は・・・」という犯罪であり、代金の支払いを免れたのみでは、成立しないのです(利益窃盗と呼ばれています)。
なお、詐欺罪については、刑法第246条が、
その1項において、「人を欺いて財物を交付させた者は・・・」と規定するとともに、
その2項において、「前項の方法により、財産上不法の利益を得又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。」と規定していますから、
代金の支払いを、詐欺行為によって免れれば、詐欺罪(2項詐欺と呼ばれています)が成立します。
具体例③ 嘘を言って支払いを免れた場合
財布にお金が入っていないことに気づき、飲食後、店員に、「自宅に戻ってお金をとってきます」と嘘を言って支払いを免れた。
この場合に、刑法第246条2項が意味を持ってきます。
注文時には詐欺行為はありませんが、飲食店を離れ、支払いを免れるために、真実は支払いのために飲食店に戻る気がないのに、①「自宅に戻ってお金を取ってきます」等と詐欺行為をしたのであれば、それによって飲食店は、②「この人は財布を忘れただけで、支払う気はある。いったん帰らせても戻ってくる」と錯誤に陥り、③支払いをしていないあなたが店外に出ることを許すという処分行為を行います。
そしてあなたは、④支払いを免れるという財産権の移転を受けます。
詐欺罪が成立することになります。
無銭飲食全てに刑事処罰の可能性があります
以上からわかるとおり、本来、場合によっては無銭飲食をしても詐欺罪は成立しないことになります。
しかしながら、現実には、全ての無銭飲食について、詐欺罪で逮捕され、有罪判決を受ける恐れがあります。
「元から支払いをする気がなかったのではないか」と警察官や検察官から厳しい追及を受け、逮捕・勾留され、裁判所にも信じてもらえず、有罪判決を受ける可能性があります。
早期に刑事事件に注力する弁護士を選任し、迅速かつ適切な弁護活動を展開する必要があります。
無銭飲食の刑の重さは?
無銭飲食によって詐欺罪が成立すると、法定刑は10年以下の懲役です。
ただし、初犯で常習性がなく、反省の態度が見られるような場合、起訴猶予となることも考えられます。
代金踏み倒しで暴行を加えたら何罪?
上記のとおり、無銭飲食については、詐欺罪が成立する可能性があります。
それでは、ただの無銭飲食ではなく、代金を踏み倒す意思で飲食し、その後、店員さんに暴行を加えて代金の支払いを免れるとどうなるのでしょうか。
この場合、何罪が成立するかについては争いがあり、次のような3つの見解があります。
この見解は、無銭飲食によって、詐欺罪は成立しますが、依然として代金の支払い義務は残っていることから、その代金支払い義務を暴行によって免れることは、新たに財産上を得たことになると評価するものです。
強盗罪については、いわゆる2項強盗罪(※)が成立するという見解です。
※ 暴行又は脅迫を用いて、他人の財物を強取すると1項強盗(刑法236条1項に規定がある)、財産上不法の利益を自分で得たり他人に得させたりすると2項強盗(刑法236条2項に規定がある)が成立します。
もし、強盗罪が成立する場合、法定刑は5年以上の有期懲役となります。
有期懲役は原則として20年以下の期間が指定されます(刑法12条1項)。
そのため、強盗罪の法定刑は、5年以上20年以下の懲役です。
もっとも、併合罪などにより刑を加重する場合には最長30年までとなります(同法14条2項※)。
※併合罪において、2個以上の罪について有期懲役に処する場合、その最も重い罪の刑について定めた刑の長期(刑期の上限)にその2分の1を加えたものが長期となります(刑法47条)。
したがって、仮にA説の見解で処断される場合、5年以上30年以下の懲役となります。
強盗罪の刑の長期:20年
20年+10年(20年の2分の1)=30年
この見解は、事後強盗罪の考え方を類推し、詐欺罪で得られている利益を暴行によって守るのであるから、強盗罪が成立すると考えるものです。
B説の場合、処断刑は5年以上20年以下の懲役です。
この見解は、既に詐欺罪が成立しているのであるから、強盗罪を考慮する余地はないとするものです。暴行罪は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料が法定刑です。
詐欺罪と暴行罪について、懲役に処せられる場合、15年以下の懲役となります。
詐欺罪の刑の長期:10年
10年+5年(10年の2分の1)=15年
無銭飲食の時効は?
無銭飲食の場合、刑事責任と民事責任が問題となります。
そのため時効についても分けて解説します。
刑事責任
詐欺罪が成立する場合、刑事の時効(※)は7年間です(刑訴法250条2項4号)。
※【公訴時効】犯罪が終わった時から一定期間を過ぎると公訴が提起できなくなることをいいます。
したがって、無銭飲食の場合、7年が経過すると、検察官が詐欺事件として起訴することができなくなります。
ただし、上記のとおり、代金を踏み倒す意思で暴力を加えると、強盗罪が成立する可能性があります。
強盗罪の場合、公訴時効は10年間となります(刑訴法250条2項3号)。
民事責任
無銭飲食は、民事上、不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性があります。
この場合の時効は、損害及び加害者を知ったときから3年間となります(民法724条)。
ただし、無銭飲食を行ったのが誰か不明の場合、時効期間は無銭飲食のときから20年となります。
無銭飲食で通報されたら?
無銭飲食で通報されるのは、飲食した後、お金を払わずにその場から逃走した場合等です。
これに対して、飲食店に飲食した後、お金を持ち合わせていなかったことに気づき、お店の人に正直に謝罪したような場合は通報される可能性は上記と比べて低くなると思われます。
財布を持っていると誤解して飲食したり、財布の中に現金が入っていると誤解して飲食するようなことは日常的にも起こりうることです。
このようなとき、お店に対して事情を話し、すぐに現金を持ってくると伝えれば、すぐに警察を呼ばれる可能性は高くないと考えられます。
もっとも、高級料理やお酒を頼むなどして、飲食代金が高額になっている場合、「財布を忘れました」と言っても不信感があるため、警察に通報されるかもしれません。
このような場合、焦ってその場から逃走などしないようにすべきです。
警察にもきちんと事情を話し、支払う意思があることを誠意を持って伝えるべきです。
警察は、詐欺の可能性がないと判断すれば、逮捕などせずに済ませてくれると考えられます。
防犯カメラは証拠となる?
無銭飲食で現場から逃走したような場合、防犯カメラの映像が決め手となって、犯人逮捕につながる可能性があります。
近年、防犯カメラは安価に入手でき、かつ、画質も向上しているので、無銭飲食の事件では犯人の特定につながり、刑事裁判においても証拠となる傾向にあります。
特に、無銭飲食の常習犯については、警察も重視して捜査している可能性があります。
無銭飲食を防止するために
客側の注意点
現在、キャッシュレス化の流れにより、財布を持たずに飲食する方が増加していると考えられます。
すなわち、以前からあったクレジットカードに加え、スマホ決済や交通系ICカードでの支払いなどが目立つようになっています。
これらは「現金を持ち歩かなくてよい」という利便性がある反面、現金払いでしか支払いを認めていないお店との間でトラブルに発展する可能性があります。
特に、地方都市や田舎ではキャッシュレス化に対応していないというお店もまだ多くあります。
このような状況のため、飲食店に入る前に、現金を持ち合わせているか確認する癖をつけておくと、トラブル防止になると考えられます。
お店側の注意点
お店側としては、次の対策が考えられます。
防犯カメラは、いざ無銭飲食が起こってからだけではなく、無銭飲食の防止にもつながります。
防犯カメラを客から見えやすい場所に設置し、「防犯カメラ設置」などの文字を掲げておくと、無銭飲食の常習者から狙われにくくなると考えられます。
「お支払いは現金でお願いします」などの掲示をしておくと、キャッシュレス化に対応していると誤解して飲食する客の発生を一定程度、防止できると考えられます。
近年、外国人観光客等の増加により、外国人の無銭飲食も増加しているようです。
防犯カメラや現金払いについて、外国人も理解できるように英語等での表記も検討するとよいでしょう。
まとめ
無銭飲食をしてしまった方、無銭飲食をするつもりではなかったのに詐欺罪で逮捕されてしまった方、任意で取調べを受けている方、ご家族が詐欺罪で逮捕されお困りの方は、刑事事件に注力する弁護士が在籍している当事務所に、まずはお気軽にご連絡ください。
弁護士が、具体的な状況をヒアリングして、犯罪成立の可能性や今後の対応方法について助言いたします。
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