宅下げはどのようなものであれば可能ですか?【弁護士が解説】
夫が逮捕されました。夫が生活費の通帳やキャッシュカードを所持していたので困っています。
宅下げというものがあるとうかがったのですが、どのようなものであれば可能でしょうか?
罪名などにもよりますが、通帳などは宅下げが認められる場合もあります。
宅下げとは?
宅下げとは、逮捕・勾留されている容疑者から、接見に来た者に対して物品を渡すことをいいます。
差し入れの逆と考えればよいでしょう。
どのような場合に認められる?
捜査機関が容疑者の私物等を本人の意志に反して保管するには、法令の根拠が必要となります。
そして、法律では、容疑者の私物等については、原則として宅下げを認めることとしており、これを制限できるのは次の3つの場合に限定されます。
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- ① 留置施設の規律及び秩序を害するおそれがある
- ② 刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品
- ③ 改善更生に支障を生ずる(受刑者)
(保管私物又は領置金品の交付)
第百九十七条 留置業務管理者は、被留置者が、保管私物又は領置されている金品(第二百二十七条において準用する第百三十三条に規定する文書図画に該当するものを除く。)について、他の者(その留置施設に留置されている者を除く。)への交付(信書の発信に該当するものを除く。)を申請した場合には、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、これを許すものとする。
一 交付(その相手方が親族であるものを除く。第三号において同じ。)により、留置施設の規律及び秩序を害するおそれがあるとき。
二 被留置者が未決拘禁者である場合において、刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品であるとき。
三 被留置者が被留置受刑者である場合において、交付により、その改善更生に支障を生ずるおそれがあるとき。
引用:刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律|電子政府の窓口
上記のうち、一般的に問題となるのは②の「刑事訴訟法の定めるところにより交付が許されない物品」の場合と考えられます。
そして、刑事訴訟法は、物の授受に関して、被疑者(容疑者)の逃亡、罪証の隠滅、戒護に支障のある物の授受を防ぐための必要な措置をとることができると規定しています(39条2項)。
第三十九条
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあっては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
② 前項の接見又は授受については、法令(裁判所の規則を含む。以下同じ。)で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。
③ 検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。
但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
上記の中で、実務上問題となりやすいのは、「罪証の隠滅」と考えられます。
そのため、基本的には、当該物品を授受することで、証拠隠滅などにつながるのか、という視点をもっているとよいでしょう。
もっとも、警察によって対応がまちまちですので、弁護士に宅下げを依頼するとより確実になるでしょう。
以下、ご相談が多くものについて、ご紹介します。
通帳
主人が管理所持していた通帳を受け取りたいという相談が多く寄せられています。
宅下げが認められるかどうかは、罪名・犯罪事実の内容との兼ね合いで、認められることも認められないこともあると考えられます。
たとえば、暴行罪や傷害罪、覚せい剤単純所持罪などで逮捕されたという場合、通帳の宅下げは認められることが多いですが、現金の窃盗や横領、詐欺などで逮捕された場合、通帳の宅下げは認められないことが多くなります。
というのは、後者のケースですと、銀行口座の利用状況・振込み状況が証拠として重要であり、通帳を証拠として警察・検察が所持し続ける必要があるからです。
キャッシュカード
銀行のキャッシュカードも、生活費の引き出しのために必要と考えられます。
また、示談金の支払いのために必要というケースも多くあります。
通帳と同様に、窃盗などの財産犯の場合、認められない可能性もあります。
しかし、通帳と異なり、取引履歴は確認できないため、キャッシュカードが犯罪に使用されたような状況でなければ、宅下げが認められる可能性はあると考えます。
手紙や本など
その他、容疑者の方から家族への手紙や書籍を宅下げすることが多くあります。
これらについては、基本的には認められると思われます。
接見禁止がなされている場合
接見禁止がされている場合、弁護士以外の方については、宅下げが認められません。
接見禁止とは、逃亡または罪証隠滅の恐れがある場合、検察官の請求により又は職権で裁判所が接見禁止決定を行うものです。
接見等禁止となった場合、弁護士以外の方は接見や物(食料を除く。)の授受をすることはできません。
宅下げのポイント
通帳やキャッシュカードの場合を例に上げると、犯罪に用いられた通帳等とその他の通帳等を明確に区分できるのであれば、そのほかの通帳等については宅下げが認められる可能性が高まります。
また、宅下げの必要性を説得的に論じることで、宅下げが認められることがありますから、なぜ通帳等が必要なのかを具体的に説明することが必要です。
刑事事件に注力する弁護士を選任し、警察側に意見書等を提出するとともに、宅下げを拒否する運営に抗議をすることで、状況が変わる可能性もあります。
さらに、接見禁止がついている場合は、弁護士しか宅下げは認められないと考えられます。
当事務所には刑事事件に注力する弁護士が在籍していますから、まずはお気軽に当事務所にご連絡ください。
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