喧嘩で怪我をさせたら逮捕される?【刑事弁護士が解説】
喧嘩をしてしまいました。相手が怪我をした場合、逮捕されますか?
飲酒の席で暴力を奮ってしまいました。逮捕の可能性はどの程度ありますか?
相手にも非がある場合に処罰されますか?
当事務所の刑事弁護チームには、このような喧嘩と逮捕に関するご相談がたくさん寄せられています。
また、お酒の席での傷害事件などでお困りの方も多くいらっしゃいます。
刑事弁護はスピードが勝負です。手遅れになる前に、まずはお気軽にご相談ください。
目次
喧嘩は犯罪となる?
喧嘩で相手が怪我をすると、傷害罪が成立する可能性があります。
刑法は、第204条において、次のように規定しています。
(傷害)
第204条 人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
刑法第204条の「傷害」の意義については、身体の完全性を害することであるとする説(完全性毀損説)と、生理機能や健康状態を害することであるとする説(生理機能障害説)が対立しています。
両説の違いは、身体の外貌に重大な変化を生じさせた場合に傷害罪となるか否かです。
例えば、相手方の髪の毛をハサミでばっさりと切ったような事案で、完全性毀損説では傷害罪が成立しますが、生理機能障害説では傷害罪は成立しません。
髪の毛がばっさり切られると、身体の完全性は毀損されますが、生理機能までは通常失われないからです(真冬であれば頭が冷えて風邪をひくかもしれませんが、通常そのようなことはありません。)。
この点、裁判例の中には、女性の髪の毛を根本から切った事案で、傷害罪の成立を認めなかったものがあります。
そのため、実務は生理機能障害説が取られていると考えられます。
なお、仮に、傷害罪が成立しなくても、髪の毛を切れば暴行罪が成立すると考えられます。
暴行罪についてはこちらをごらんください。
ご質問の事案は、相手が怪我をしています。そのため「人の身体を傷害した」といえるので、傷害罪の構成要件に該当します。
傷害罪について、くわしくはこちらをごらんください。
飲酒で傷害を正当化できる?
刑法は、「心神喪失者」の行為については、「罰しない」と規定しており、「心神耗弱者」の行為については、「その刑を減軽する」と規定しています(39条)。
そのため、飲酒して、意識障害を起こすほどの病的(重度)な酩酊状態であれば、傷害罪として罰せられないか、刑が減刑される可能性があります。
刑法が、心神喪失者や心神耗弱者の行為について、上記のように規定しているのは、犯罪の実行段階で責任能力がなければ、これに対して非難を加えることは妥当でないという考えに基づいています。
これを「行為と責任の同時存在の原則」と言います。
しかし、飲酒して病的なほどの酩酊状態になるケースは決して多くありません。
また、仮にそのような状態であれば、急性アルコール中毒の状況であり、人に危害を加える行為を行うことは難しいでしょう。
そのため、飲酒の事案で心神喪失や心神耗弱が認められるケースは、極めて少ないと考えられます。
喧嘩で傷害を正当化できる?
世間的には「喧嘩両成敗」ともいいますが、刑法において「喧嘩だから犯罪が成立しない」とはなりません。
したがって、基本的には傷害罪が成立すると考えられます。
もっとも、刑事裁判において、相手方にも落ち度があったとして、情状面で有利となる可能性はあります。
すなわち、傷害罪自体は成立しますが、刑罰が軽くなる可能性があります。
傷害=逮捕?
傷害罪は、被害者がいるため、犯罪としては決して軽いものではありません。
しかし、傷害を犯したからといって、必ず逮捕されるとは限りません。
逮捕は、人権を侵害する行為です。すなわち、逮捕は、人に対して精神的苦痛を与え、社会的信用を失墜させ、経済的損失等の打撃をも与えます。
そのため、逮捕するには、法律で定めた要件が必要です。
逮捕の要件
人を逮捕するには、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要性」がなければなりません(刑訴法199条2項)。
刑事訴訟法には、詳細な規定はありませんが、法文にあるものとして、以下の場合があります(刑訴法199条1項但書、60条)。
住居不定
罪証隠滅のおそれ
逃亡のおそれ
上記の「おそれ」の有無については、被疑者の年齢、境遇、犯罪の軽重・態様その他の事情に照らして判断されます(刑訴規則143条の3)。
逮捕についてくわしくはこちらをご覧ください
喧嘩で逮捕される場合とは
それでは、喧嘩の事案で、逮捕されるのはどのような場合なのか、逮捕の要件に照らし合わせて解説します。
被害者から警察に被害届が出された場合
被害者や目撃者から喧嘩の通報があった場合
病院から警察に通報があった場合
取り調べにおいて黙秘している場合
取り調べにおいて容疑を否認している場合
警察からの呼び出しを受けているのに応じない場合
定まった住所がない場合
被害者との示談が成立していない場合
被害者に対して敵意を表している場合
喧嘩で正当防衛を主張できる?
「正当防衛」という言葉は日常用語化しています。
喧嘩の事案においては、正当防衛を主張できないかという相談が多いのも事実です。
刑法は、正当防衛について、次のように規定しています。
(正当防衛)
第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
すなわち、正当防衛が成立するためには、
①急迫不正の侵害があること
②防衛の意思があること
③防衛の必要性があること
④防衛行為に相当性があること
の4つの要件を満たす必要があります。
喧嘩の場合、加害者本人も積極的に相手方を攻撃しようという意思があったと認定されることが多く、上記の要件を満たすことは難しいと考えられます。
正当防衛について、くわしくはこちらをごらんください。
そのため、喧嘩の事案で正当防衛が認められるケースは、極めて少ないと考えられます。
喧嘩事案の逮捕の問題点
逮捕されると不利になる
捜査機関は、逮捕すると、被疑者に対して、無罪推定の法理をはじめとする憲法上の保障である適切手続の履行を無視した過酷な追求を行う傾向にあります。
捜査機関が想定している供述を得られない場合、長時間の取調べ、食事を与えない、眠らせない、脅迫行為、暴力などの違法行為も考えらます。
被疑者が、過酷な取り調べによって、疲弊し、事実と異なる自己に不利益な供述を行ってしまうことが多々あります。
例えば、喧嘩の相手が積極的に仕掛けてきたのに、警察の担当者から、自分が仕掛けたと供述させられるなどが典型的です。
このような自己に不利益な供述は、後々覆そうと思っても、簡単には行きません。
そして、裁判でも、情状が悪くなって刑が重くなる可能性があります。
そのため、逮捕前に、刑事事件に詳しい弁護士に相談して対策を講じておくことが必要です。
逮捕後は示談が難しい
喧嘩など、被害者がいる犯罪では、示談交渉の成否が起訴・不起訴に多大な影響を及ぼします。
すなわち、示談が成功して被害者自身が被害届を取り下げてくれれば、被害者の処罰感情が消失している以上、捜査機関もわざわざ容疑者を起訴して処罰する必要が小さくなるからです。
そのため、喧嘩の傷害事案では、被害者との示談交渉を弁護士にご依頼されることを強くお勧めしています。
ところが、逮捕されてしまうと、弁護士との打ち合わせがしにくくなるため、スピーディーな示談交渉が難しくなる可能性があります。
また、逮捕されると、会社を解雇される心配もあります。解雇されると金銭的な余裕がなくなり、示談金を準備することが難しくなる可能性があります。