誤想防衛とは?【弁護士が解説】
相手が殴ってくると勘違いして、相手を攻撃してしまい逮捕されてしまいました。
「誤想防衛」という言葉を耳にしたことがあるのですが、私の行為は誤想防衛にあたりませんか?
誤想防衛にあたると無罪となるのですか?
状況しだいでは誤想防衛の可能性もあります。
誤想防衛に該当する場合は犯罪が成立しない可能性があります。
誤想防衛とは何か
誤想防衛とは、実際には正当防衛が成立するような「急迫不正の侵害」がないにもかかわらず、これがあるものと誤信し、防衛の意思をもって、やむを得ぬ反撃行為をすることをいいます。
例えば、Bさんが、Aさんを脅かそうと、Aさんに対し、おもちゃのピストルを向けたところ、Aさんが本物のピストルであると誤信し、Bさんに対し、手元にあった金属バットで暴行を加え重傷を負わせたようなケースです。
Aさんの主観で起きている事実が、実際に起きていた場合、Aさんには正当防衛が成立するでしょうが、実際にはそのような状況はないので、正当防衛は成立しないことになります。
しかしながら、Aさんは、Bさんを傷つけたくて攻撃したわけではなく、防衛の意思で、やむなく暴行を加えたのだとすると、通常の傷害罪で処罰するのが相当とはいえません。
このような誤想防衛のケースは、どのように扱われるのでしょうか。
誤想防衛の取り扱いについて
判例は、誤想防衛は「故意」がなく、犯罪は成立しないとしています。
すなわち、前記Aさんに傷害罪は成立しないことになります。(しかしながら、誤想につき過失があった場合には、過失傷害罪が成立する可能性があります。)
判例
Xは空手三段の在日外国人だった。
Xは、酩酊したA女とこれをなだめていたB男とが揉み合ううち。A女が尻もちをついたのを目撃して、A女がB男から暴行を受けているものと誤解し、A女を助けるべく両者の間に割って入った。
そのとき、Xは、B男が防御のため両こぶしを胸の前辺りに上げたのを自分に殴りかかつてくるものと誤信し、自己及びA女の身体を防衛しようと考え、とっさに空手技の回し蹴りをB男の顔面付近に当て、同人を路上に転倒させた。その結果、B男は後日死亡した。
「本件回し蹴り行為は、被告人が誤信した播磨による急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし、被告人の所為について傷害致死罪が成立し、いわゆる誤想過剰防衛に当たるとして刑法三六条二項により刑を減軽した原判断は、正当である」
原審は、誤想防衛の場合に、防衛行為が相当であったときは、事実の錯誤により故意が阻却されると述べていました。
しかし、防衛行為が相当性を欠いて過剰にわたり、相当性を基礎づける事実につき錯誤が認められないときは故意は阻却されないものの、刑法三六条二項に準拠して刑の軽減または免除をなしうるとの見解を示しています。
第三十六条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
引用元:刑法|電子政府の総合窓口
誤想防衛を主張したい方々へ
誤想防衛の主張は、警察官や検察官や裁判官に、なかなか信じてもらえるものではありません。
客観的な証拠として、攻撃意思のない人に対してあなたが攻撃したことを示すものが収集されているからです。
しかしながら、やむをえず攻撃をしたに過ぎないあなたが有罪判決を受けることは避けなければなりませんから、あきらめずに主張し続ける必要があります。
また、あなたが誤想をしてしまいかねないような客観的状況にあったことを示す証拠や、あなたが誤想なくして攻撃をするはずがないことを示す証拠を、豊富に収集する必要があります。