偽計業務妨害罪とは?具体例や罰則について解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  

  • 「気に入らない店のデマをインターネット上に書き込んだら偽計業務妨害罪に問われるのだろうか…」
  • 「バイト中の悪ふざけ動画をSNSにアップしたら偽計業務妨害罪に問われるのだろうか…」
  • 「偽計業務妨害罪で逮捕された後の流れや対応方法は…?」

2022年1月に実施された大学入学共通テストでは、試験時間中にスマホを利用して問題を流出させた受験生に対して、偽計業務妨害罪の疑いで捜査が進められているとの報道がなされています。

この記事では、どのような行為が偽計業務妨害罪に問われるのか、偽計業務妨害罪の構成要件・具体例・罰則、偽計業務妨害罪で逮捕された場合の流れ・対応方法などを弁護士が解説します。

 

 

偽計業務妨害罪とは

偽計業務妨害罪の定義

偽計業務妨害罪とは、「偽計を用いて人の業務を妨害した」ときに成立する犯罪です(刑法233条)。

根拠条文
(信用毀損及び業務妨害)
第二百三十三条 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

引用元:刑法|e−GOV法令検索

同じ刑法233条には信用棄損罪という犯罪も定められていますが、この記事では、特にご相談の多い偽計業務妨害罪に絞って詳しく解説します。

 

偽計業務妨害罪が成立するための構成要件

偽計業務妨害罪が成立するための構成要件は、①偽計と②(ⅰ)業務(ⅱ)妨害です。

いずれの構成要件も、日常で用いられる意味を超えて広く解釈されており、偽計業務妨害罪に当たる行為の範囲はとても広いものとされています。

以下、それぞれの構成要件の意味について解説します。

 

①偽計とは

偽計とは、人の勘違いや知らないことを利用したり、人を騙したりすることをいいます。

業務を行う人自身を騙したりすることはもちろんのこと、業務を行う人の取引相手や消費者などを騙したりすることも含みます。

また、人に直接働きかけて騙したりすることだけでなく、人が業務に用いる機械や商品などに不正な工作を加えることも偽計に当たるとされています。

なお、偽計業務妨害罪と似たような法律の定めとして、軽犯罪法1条31号に「他人の業務に対して“悪戯”などでこれを妨害した者」を処罰するとの規定があります。

引用元:軽犯罪法|e−GOV法令検索

偽計と悪戯には重なる部分もあるのですが、単なる悪戯よりも悪質性が高いものが偽計に当たるとされています。

 

②(ⅰ)業務とは

業務とは、継続して従事することが予定されている事業・事務をいいます。

経済的な利益を目的とする営利的なビジネスはもちろんのこと、非営利的な活動(ボランティア活動、サークル活動、同窓会、マンション管理組合、PTA、地域の自治会など)も広く含まれます。

 

②(ⅱ)妨害とは

妨害とは、業務を妨害するおそれのある状態が発生したことをいいます。

実際に業務運営を妨害した結果が発生した場合はもちろんのこと、実際には結果が発生していなくても、業務運営を妨害するおそれのある状態が発生しただけで「妨害」に当たるとされています。

 

偽計業務妨害罪の構成要件は広く解釈されている

このように、偽計業務妨害罪の構成要件はいずれも、用語が日常で用いられる意味を超えて、かなり広く解釈されていることがお分かりいただけたかと思います。

思いがけない行為が裁判実務上は偽計業務妨害罪に当たるとされている場合もありますので、少しでもご不安な点がおありの場合には弁護士に相談なさることをお勧めします。

 

偽計業務妨害は親告罪?

上記のとおり、偽計とは、人を騙したり、人の勘違いや知らないことを利用したりすることをいいますから、堂々と行われることは少なく、秘かに行われることが多いのが実情です。

そのため、真実や被害に気付いた被害者からの告訴がない限り起訴されない「親告罪」であると勘違いされることがありますが、それは誤りです。

偽計業務妨害罪は「非親告罪」であり、被害者からの告訴がなくても、警察などの捜査機関が犯罪のあったことを把握すれば捜査が始まり、起訴されて刑事裁判を受ける可能性がある犯罪です。

非親告罪の詳しい解説については、次のリンクも参照してください。

 

偽計業務妨害罪と威力業務妨害罪の違いは?

偽計業務妨害罪と似たような名前の犯罪として、威力業務妨害罪(刑法234条)があります。

引用元:刑法|e−GOV法令検索

これら2つの犯罪は、どちらも「人の業務を妨害する」という点は共通しますが、「業務を妨害する手段・方法」が大きく異なります。

偽計の意味はすでに解説したとおりで、その特徴は、非公然・隠密的、不可視的に行われることが多いといった点にあります。

他方、威力とは、人の意思を制圧するに足りる勢力を示すことを意味します。

暴行や脅迫はもちろん、地位などを利用した威迫、多衆の力の誇示、騒音喧騒なども含みます。

そして、その特徴は、(偽計とは正反対の)公然・誇示的、可視的に行われることが多いといった点にあります。

これら2つの犯罪を表にすると次のようになります。

偽計業務妨害罪 威力業務妨害罪
共通点 人の業務を妨害する
相違点 非公然・隠密的
不可視的
公然・誇示的
可視的

 

 

 

偽計業務妨害罪の成立する裁判例・具体例

ここでは、どのような行為が偽計業務妨害罪に当たるのかの具体的なイメージをつかんでいただけるよう、実際に偽計業務妨害罪が成立するとされた裁判例を3つのカテゴリーに分類して紹介します。

人を直接騙したり、人の勘違いや知らないことを利用したりする類型

人に対して直接働きかけることによって業務の運営に支障を生じさせた事例です。

これらの事例は比較的イメージをしやすいものではないかと思われます。

 

人が業務に用いる機械や商品などに不正な工作を加えるなどした類型

人を直接騙したりしたわけではありませんが、業務に用いる機械や商品に不正な工作を加えた事例です。

  • 海底に障害物を沈め、漁に出た船の網を破損させたことにより、漁を不可能にさせた事例
  • 店の商品に針を混入させた事例
  • パチンコ台の大当たりの確率を制御するロムを偽物に取り換えた事例
  • 電力メーターに工作して実際の使用料よりも少ない数値を表示させ、本来支払う必要のある料金を免れた事例
  • 暗証番号を盗撮するカメラを設置するためにATMを約1時間30分占拠して、その間、同ATMの利用を不可能とさせたた事例(参考判例:最判平成19年7月2日|最高裁ホームページ

 

偽計業務妨害罪が成立する限界とされている類型

人に対する働きかけも、業務に用いる機械などに対する工作もない事案ですが、偽計業務妨害罪が成立するとされた事例です。

  • 監視員の目を盗んでしじみを密漁した事例

 

上記の裁判例を見ていただくことにより、偽計業務妨害罪が成立する範囲はかなり広いということがお分かりいただけるかと思います。

このほかにも、

  • インターネット上に犯罪予告を書き込んで偽計業務妨害罪の疑いで捜査が行われた事例(多数)
  • 試験で替え玉受験やカンニングをして偽計業務妨害罪の疑いで逮捕された事例
  • 立証責任と立証方法
  • バイトテロの動画をSNSにアップして偽計業務妨害罪の疑いで書類送検された事例

などもあり、軽い気持ちで行った身近な行為が偽計業務妨害罪という犯罪に当たるという可能性も十分に考えられます。

ここで紹介した事例は偽計業務妨害罪に当たるとされた例のごく一部に過ぎませんので、ご自身の行為が偽計業務妨害罪に当たるのではないかと少しでも不安な点がおありの方は、弁護士にご相談なさることをお勧めします。

 

 

偽計業務妨害罪の罰則

偽計業務妨害罪の罰則(法定刑)は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金と定められています(刑法233条)。

引用元:刑法|e−GOV法令検索

悪質性が高い事案や、社会的な影響が大きい事案の場合には、初犯であっても執行猶予のない実刑判決が下され、刑務所に入らなければならない可能性もあります。

 

 

偽計業務妨害罪の時効

偽計業務妨害罪の時効は、犯罪行為が終わった日から数えて3年と定められています(刑事訴訟法55条1項ただし書、250条2項6号)。

引用元:刑事訴訟法|e−GOV法令検索

 

 

偽計業務妨害罪で逮捕された後の手続の流れ・対応方法

偽計業務妨害罪の裁判例・具体例でみたように、軽い悪戯のつもりでしたことが偽計業務妨害罪に当たるということも少なくありません。

しかし、業務に大きな支障をきたすおそれがあったり、社会に与える影響が大きいなど悪質性が高い場合には、逮捕されることも十分に考えられます。

そこで、偽計業務妨害で逮捕された後の流れと対応方法を解説します。

逮捕された後の手続の流れについては、次のリンクも参照してください。

 

逮捕された後の手続の流れ

逮捕された後の手続の流れを図で示すと、次のようになります。

 

逮捕段階

逮捕されると、多くの場合は警察署の中の留置場に身柄を拘束されます。

逮捕の期間は最長72時間で、その間、面会できるのは弁護士だけとなり、弁護士以外の家族・友人などとの面会や連絡は一切禁止されます。

逮捕に引き続いて勾留されてしまうと、さらに最低でも10日間・最長で20日間身柄を拘束される可能性がありますので、そうなると仕事や学校などにも大きな支障が生じかねません。

そのため、逮捕段階では、そもそも検察官に勾留を請求させない、あるいは、検察官が勾留を請求したとしても裁判所に勾留を認めさせない弁護活動が必要となります。

具体的には、被害者との間で被害弁償をして示談を成立させること、身元引受人を見つけること、勾留されれば仕事を失ったり学校を退学になるおそれがあると主張することなどによって、勾留を阻止し、逮捕段階での釈放を求めることになります。

 

勾留段階

逮捕後は、約94%の事案で、検察官が裁判所に勾留を請求し、勾留に移行することとなります。

また、裁判所が検察官の勾留請求を認める割合は約96%ですから、検察官の勾留請求に対して何らの弁護活動を行わなければ、検察官の請求どおり身柄が拘束される可能性が極めて高くなってしまいます。

参考:被疑者の逮捕と勾留|令和5年版犯罪白書

そして、勾留請求が認められてしまうと、逮捕段階とあわせて最長23日間の身柄拘束を受けることとなります。

勾留中は弁護士以外とも面会ができるようになることが多いのですが、弁護士以外との面会には、平日の日中のみ・1日1~3回まで・1回15~20分まで・警察官の同席ありなど、様々な制限があります。

そのため、裁判所が勾留を認めた場合には、勾留を認めた判断を取り消すよう、裁判所に申し立てることとなります。

また、勾留期間の途中であっても、被害者との間で示談や被害弁償が済んでいたり、取調べや捜査がすべて完了したりしていれば、それ以上身柄を拘束する必要はありませんので、勾留を取り消して釈放するよう、裁判所に申し立てることとなります。

勾留段階の詳細については、次のリンクも参照してください。

 

起訴されてから判決まで

日本の裁判の有罪率は99.9%ですから、起訴されてしまうと、ほぼ間違いなく前科が付いてしまいます。

執行猶予付きの判決であれば、ひとまずは刑務所に入らなくても済みますが、有罪判決である以上、前科が付くことには変わりありません。

また、勾留されたまま起訴されてしまうと、裁判が終了するまでさらに身柄を拘束されることになります。

もっとも、起訴された後は保釈を請求できるようになり、保釈が認められれば、日常生活を送ったまま裁判を受けることが可能です。

しかし、保釈のためには保釈保証金を納付することが必要で、保釈保証金の相場は最低で150万円・通常で200万円といわれており、金銭的に大きな負担がかかってしまいます。

また、保釈が認められたとしても、裁判は平日の日中に行われますので、裁判を受けるために仕事や学校を休む必要も出てきます。

このように、起訴されることによる不利益は極めて大きなものです。

逮捕された場合には、早期釈放だけではなく、最終的には不起訴を獲得することまでを見据えて対応する必要があります。

 

逮捕されたときの対応方法

早期釈放を実現する

このように、万が一逮捕されてしまうと、長期間の身柄拘束によって仕事や学校などの日常生活に大きな支障が生じることとなってしまいますので、まずは早期釈放を実現する必要があります。

早期釈放のための弁護活動については、次のリンクも参照してください。

 

最終目標は不起訴を獲得すること

勾留が続いていればもちろんのこと、釈放された場合でも、事件に対する捜査が終了するわけではなく、検察官が起訴・不起訴を決めるために捜査は続けられます。

勾留されている場合には、起訴されたかどうかは遅くても23日以内に分かりますが、釈放されて在宅で捜査が続いていると、忘れたころに起訴されて裁判所からの出頭命令が届くということも少なくありません(捜査機関にとっても、在宅の事件には時間制限がないため、どうしても処理が後回しにされがちです)。

そのため、釈放された場合であってもそうでない場合であっても、起訴されて前科が付くことを避けるために、不起訴を獲得することが必要です。

また、釈放されて在宅のままで捜査が続けられている場合には、起訴されるかもしれないという不安定な立場に長期間置かれることになりかねませんので、速やかに捜査を終えて不起訴とするよう、捜査機関に求める必要もあります。

不起訴を獲得するための弁護活動については、次のリンクも参照してください。

 

 

まとめ

偽計業務妨害罪は、軽い悪戯のつもりの行為であっても成立する可能性があり、逮捕されれば長期間の身体拘束を受けたり、起訴されれば懲役刑(=刑務所に入る)を科されることもあり得る犯罪です。

偽計業務妨害罪の疑いをかけられた場合には、早い段階で弁護士に相談いただくことで、速やかに被害弁償や示談を成立させて逮捕を阻止したり、勾留を阻止したり、不起訴を獲得したりするなど、幅広い弁護活動を行うことが可能となります。

少しでも不安な点がおありの場合には、速やかに弁護士にご相談なさることをお勧めします。

 

 

 



なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

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