器物損壊とは?器物損壊罪になる条件、示談のポイント【弁護士解説】
器物損壊とは、他人の所有物を壊す、もしくは使えない状態にすることです。
器物損壊罪とは、故意に他人の所有物を壊す、もしくは使えない状態にした場合に成立する犯罪のことです。
器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
もっとも、他人の物を壊したからといって、常に処罰対象となるわけではありません。
このページでは、どのような場合に器物損壊罪が成立するのか、弁護士が法律家の視点から解説します。
また、器物損壊罪が成立する場合の示談のポイントについても解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
器物損壊とは
器物損壊とは、他人の所有物を壊す、もしくは使えない状態にすることをいいます。
例えば、他人の車の窓ガラスを割る、などが典型例です。
器物損壊罪が成立する条件は?
刑法は、犯罪行為が成立するための要件を明確に定めています(犯罪を構成するための要件という意味で、「構成要件」といいます)。
犯罪成立の要件があいまいであると、なにをするにも「犯罪として処罰されたらどうしよう」という不安がつきまとい、のびのびと生活できません。
そこで刑法は、犯罪となる行為がどのようなものかを、あらかじめ明示してくれているのです。
それでは、器物損壊罪となるための要件はどのように定められているのか、さっそく刑法の条文を確認してみましょう。
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
引用:刑法│電子政府の窓口
「前三条に規定するもののほか」というのは、とりあえず無視していただいてかまいません。
刑法上の器物損壊とは、「他人の物」を「損壊」又は「傷害」する行為とされています。
「人の物を壊してはいけない」ということを定めているだけのシンプルな条文に見えますが、法的には色々と解説するべきポイントがあります。
以下に、これらの要件の法的な意味を詳しく説明していきます。
「他人の物」
「物」とは、文書と建造物以外のあらゆる財物をいいます。
文書と建造物が除かれているのは、別に条文が設けられているからであって、決してこれらは壊してもいいという意味ではありません(権利義務に関する文書や建造物の損壊については、むしろより重い罰則が定められています)。
「他人の」とあるのは、自分の物を損壊しても罪に問われないということですから、一見当然のようにも思えますが、刑法の262条は、たとえ「自己の物」であっても、「差押えを受けた」物や「賃貸」している物については損壊を禁止していますので、こちらも注意が必要です。
差押えを受けたり賃貸したりしている場合、所有者といえども自由な処分は許されないということですね。
「損壊」「傷害」
「損壊」とは、「物の効用を害する一切の行為」を指します。
難しく聞こえるかもしれませんが、壊す、汚す、隠すといったような、「使えなくする」行為を広く含むとお考えください。
たとえば自動車を例に取ると、タイヤをパンクさせる行為は、タイヤを破損させ正常な運転を不可能にするものであるため、明らかに「損壊」にあたります。
これがパンクではなくタイヤの空気を抜いたのだとすると、微妙な問題を生じます。
空気を入れ直せばまた使用できるため、「損壊」に当たらないのではないか、といった議論があり得るからです。
この場合、「容易に元の状態に戻せるか」が重要なポイントとなってきます。
筆者の私見になりますが、自転車であれば簡単に空気を入れられるため「損壊」に当たらない可能性が高く、自動車の場合は空気を入れるにもコンプレッサー等の特殊な道具を用いた大がかりな作業となってきますから、回復が容易とはいえず、「損壊」に当たると判断される余地もあるように思われます。
ただし、回復が容易かどうかは相対的な問題であるため、最終的には一切の事情を考慮した事例ごとの判断となります(たとえば自転車であっても、自転車店に侵入して店内の全ての自転車の空気を抜いたような場合は、回復が容易とは言い難いように思えます)。
また、自動車の車体を傷つけたような場合、走行性能に影響はないため「使えなくなった」わけではありませんが、これもやはり「損壊」に当たります。
美観が損なわれており、元のような完全な状態では使用できないという意味で、「効用が害されている」というわけです。
さらに、この「損壊」には、心理的な意味で使えなくすることも含まれます。
物を汚損した場合などで、たとえ洗浄することで物理的には完全なきれいな状態になったとしても、普通の感覚では使用するに堪えないというときには、これも「損壊」に当たるのです。
有名な事件として、「食器に放尿」した事例がよく知られています(大判明示42・4・16)。
「傷害」とは、動物を傷つけることであり、対象が動物であるため言葉が使い分けられているにすぎず、意味としては「損壊」と同様に捉えていただければ十分です。
器物損壊は親告罪
器物損壊で起訴される?
器物損壊罪は、法律上「親告罪」とされています。
第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
引用:刑法│電子政府の窓口
「告訴」とは、被害者が警察又は検察に対し、犯罪の事実を申告し犯人の訴追を求める意思表示のことです。
「公訴を提起」とは、検察官が犯人の処罰を求めて裁判所に訴えを起こすことをいい、「起訴する」ともいわれます。
すなわち、親告罪では、被害者により「告訴」されない限り起訴されることはないということです。
器物損壊で生じる被害はあくまで物の破損にとどまり、金銭的に賠償されればそれで解決する問題ともいえますので、被害者が犯罪として処理することを求めていないのであればその意思を尊重しよう、という配慮に基づく規定といえるでしょう。
ただし、「告訴」と似て非なるものとして、「被害届」の提出というものがあります。
犯罪事実の申告という点では両者は共通するのですが、「告訴」が法に定められた厳格な手続であるのに対し、「被害届」は被害者が警察に通報し犯罪を報告する際に、警察官が聞き取った内容を書き留めて作成する実務的な聴取記録のようなものです。
このように、告訴と被害届は明確に区別されているため、被害届が出されたに留まる段階では、告訴の要件を満たさないため、起訴されることはありません。
もっとも、警察としては犯罪として申告を受けているわけですので、刑事事件として捜査を開始する可能性があり、加害者は事情を聴取されたり、場合によっては逮捕されたりすることもあり得るでしょう。
被害届を出されたら
被害届が出された場合、その後の捜査の展開次第では、告訴に繋がり起訴に至る、ということも考えられます。
このような事態を避けるためには、被害者と示談することがきわめて有効です。
示談が成立していると言うこと自体、被害者と加害者の間では話がついているということですので、不起訴の方向に大きく傾きますし、被害者は告訴をしない(すでに告訴している場合はこれを取り下げる)というところまで合意できれば、親告罪である器物損壊罪においては、起訴される可能性は完全に消滅するといえます。
器物損壊罪の示談
親告罪である器物損壊罪においては、示談が特に重要な意味をもつことをご理解いただけましたでしょうか。
刑事事件における示談については、以下ページでくわしく解説しております。
ここでは、器物損壊罪との関係で示談が成立することのメリットや、示談までの流れを簡単に説明したいと思います。
示談するメリット
示談は通常不起訴の可能性を高めるものとして重要な意味をもつのですが、上でも述べたとおり、器物損壊罪は親告罪ですので、告訴しないことまで合意できれば、不起訴を確実なものとすることができます。
示談の進め方・注意点
被害者との示談を進めるに当たっては、刑事事件の処理に精通した弁護士に依頼することが有効です。
以下、示談の流れに沿って解説します。
①連絡先の電話番号を取得
被害者と示談の話を進めるためには、当然相手方と連絡を取る必要があります。
相手方と面識があれば問題ありませんが、そうでない場合、連絡先を入手するところから始めなければなりません。
警察官又は検察官に対し、相手方と示談したいので被害者の連絡先を知りたいと申し出ることになりますが、たとえ示談目的としても、個人情報を本人に無断で教えてはくれません。
加害者に連絡先を教えてもよいか確認を取った上、教えてもらえる場合はよいのですが、被害者の中には、「弁護士にならば教えてもよいが、加害者には教えたくない」とおっしゃる方も少なくありません。
このような場合、弁護士が関与しなければ示談交渉の第一歩でつまずくことになってしまいます。
②被害弁償を申し入れる
連絡先を入手できれば、被害者に対し被害の弁償を申し出ることになります。
被害を弁償したうえで示談書を作成するのですが、確実に不起訴となるためには告訴関係の処理をしっかりと示談書に落とし込む必要がありますので、ここでも弁護士の関与が事実上必須といえるでしょう。
③示談交渉をする
示談交渉を行う上で、重要なことは、示談金の相場を理解しているということです。
刑事事件に精通した弁護士であれば、示談金の相場を把握していますので、適正額について、ご相談されると良いでしょう。
器物損壊の示談金の相場
器物損壊罪では物に対する損害が生じていますので、ある程度客観的な算定が可能です。
物が壊れていれば修理費用が損害額となりますし、修理不可能な場合は、買い直すための費用を弁償するのが原則です。
慰謝料は支払わないといけない?
以上のように、少なくとも物損を償うに足りるだけの示談金を支払うのが原則ですが、事案によっては、これに加えて慰謝料を上乗せする必要があります。
慰謝料とは、損害賠償とは別に一定の金銭を交付することで、被害者の被害感情を慰謝して許しを得るための「迷惑料」のようなものです。
慰謝料は事案の性質(悪質性)のみならず、被害者の性格や被害の受け止め方によっても左右されるため、いくらが適正ということは一概にいいがたいものです。
高額の慰謝料を要求された場合、資力に余裕があり確実に不起訴となりたいということであれば、もちろん支払ってもよいのですが、そうでない場合、とりあえず客観的な物損に相当する額だけ支払うというのもひとつの選択です。
検察官は事案に関するあらゆる事情を考慮して被疑者の起訴・不起訴を決定しますので、被害者の告訴があるからといって、必ず被疑者を起訴しなければならないわけではありません。
器物損壊罪自体、犯罪としては比較的軽微な部類に入りますので、たとえ被害者の告訴があっても、客観的な損害がひとまず償われていれば、不起訴となる可能性も十分考えられます。
物損のみ償うのか、慰謝料を含めて支払うのかといった判断や交渉についても、やはり経験豊富な弁護士の協力なくしては、適切に進めていくことが困難といえるでしょう。
弁護活動のポイント
器物損壊事件については、不起訴処分の獲得が目標になります。
また、逮捕された場合は、早期釈放も目標として弁護活動を行うことになります。
弁護活動としては、示談交渉が中心になります。
その他、行為態様が悪質ではないこと、あなたに酌むべき事情があること、これまで前科前歴なく真面目に暮らしてきたこと、反省を深め更生を誓っていること等を意見書の形にして、処分決定権のある検察官に提出した上で検察官面会を求める活動も考えられます。
意見書に添付する形で証拠をも提出することが有益ですから、証拠の収集にも取り組むことになります。
やはり最重要任務は、示談交渉です。
器物損壊を認める場合
器物損壊を認める場合、逮捕はされるものの、勾留まではされないというケースが多いです。
検察官によって、在宅のまま起訴するか不起訴処分とするかが決定されます。
器物損壊罪は比較的軽微な犯罪として捕らえられています。
ですが、損壊した物の価値や、被害者との従前の関係性(トラブルになることが多かったなどの事情があるかどうか)、被害者の処罰感情によっては、勾留される可能性もありますし、懲役刑を科されることもありますので、被害者と早期に示談を成立させることが重要です。
器物損壊罪は、親告罪とされています(刑法264条)。
すなわち、被害者の処罰を求める意向(告訴)があって初めて検察官が起訴をすることが可能となるような仕組みになっています。
そこで、器物損壊を認める場合に重要になってくるのが、可能な限り早期から被害者に謝罪・交渉を重ね、可能な限り早期に示談を成立させ、告訴を取り消してもらうことです。
示談が成立すれば、釈放されますし、不起訴処分を手にすることができます。
また、被害額や前科の有無によっても左右されますが、仮に告訴を取り消してもらうことができなかったとしても、被害弁償を受け取ってもらえた場合は、不起訴処分となる可能性は残るといえます。
示談交渉に、被疑者が自ら臨むのは困難です。
被害者は、大切なものを壊した被疑者に敵対心を持っていますから、歩み寄ることはなかなかできません。
そのため、選任された弁護士が迅速に示談交渉に臨む必要があります。
示談交渉は、弁護士の技量と熱意によって大きく影響を受けますから、刑事事件に特化した弁護士を選任することが重要となります。
示談を成立させることができず、被害弁償も受け取ってもらえなかった場合、被害額によりますが、初犯であれば十数万円程度の罰金刑に処される可能性が高いといえます。
懲役刑となる可能性は高いとはいえませんが、罰金刑とはいえ前科であることには変わりがありませんので、前科がつくことを回避したいと考えるのであれば、早い段階で弁護士を通して示談交渉を進めていかなければなりません。
器物損壊を認めない場合
器物損壊を認めず、無罪を主張する場合としては、①過失で物を壊してしまっただけであり、故意はなかったという主張、②犯人は自分ではなく全く身に覚えがないという主張が考えられます。
いずれの場合も、起訴前であれば検察官に、起訴後であれば裁判官に、無罪を基礎付ける有利な証拠を豊富に提出し、説得する必要があります。
証拠の収集は、弁護士の熱意と技量がものをいいますから、刑事事件に専門特化した弁護士を選任することが重要となります。
まずは当事務所にお気軽にご相談ください。
よくある質問
器物損壊罪の刑罰は?
罰金を支払ったからといって被害者に対する民事上の賠償責任を免れるわけではありませんので、その意味では、速やかに物損を償って起訴を免れる方が、経済的な意味でも合理的といえるでしょう。
器物損壊に時効はある?
故意ではなかったが、器物損壊罪になる?
これは「故意犯処罰の原則」といって、刑法が、特に明記した場合を除いて、故意がある行為のみを処罰対象とする旨定めているためです(刑法38条1項)。