殺人、殺人未遂について
殺人罪はどのような場合に成立するのか
殺人罪は、その罪名のとおり、人を殺した場合に成立します。
法定刑は「死刑又は無期懲役、若しくは5年以下の有期懲役」です(刑法199条)。
殺人罪が成立するためには、犯人が行なった行為が殺人罪の実行行為であること、つまり、人を死に至らしめる危険性の高い行為であることが必要になります。
具体的には、頭部や胸部等、身体の枢要部に向けて凶器で攻撃を加えたような場合が考えられます。
他方、相手に暴行を加えていたら相手が転んでしまい、その際の打ちどころが悪く死亡してしまったような場合には、一般的に人を死に至らしめる危険性が高い行為とはいえません。
このような行為はせいぜい傷害結果を引き起こす危険性しかない行為であると考えられるため、殺人罪の実行行為とは認定されません。
そのため、このような場合、傷害致死罪が成立することになります。
また、暗がりで咄嗟に手に取った物を、被疑者が棒だと思って相手に振りおろしたが、実際は斧や鉈のようなもので相手を死亡させてしまったような場合はどうでしょうか。
このような場合、客観的には人を死に至らしめる危険性が高い行為を行なっています。
しかしながら、被疑者には相手を殺害する危険性があるような凶器を振りおろしているつもりはなく、殺人罪の故意がないということになりますので、この場合も殺人罪は成立しません。
殺人罪の量刑は?
同じ殺人罪であっても、動機が何であったか等の個別事情によって、量刑は大きく異なります。
死刑となる可能性についてはこちらをご覧ください。
動機以外にも犯行態様や被害者の数等も量刑には影響しますが、以下では動機が大きく量刑に影響したと思われる裁判例を紹介します。
介護疲れによる殺人の場合の裁判例として次のようなものがあります(宇都宮地方裁判所平成30年6月28日)。
判例 介護疲れによる殺人の裁判例
脳梗塞により右半身麻痺及び言語障害の後遺症を負った当時78歳の妻の介護をする中で、被告人は心身ともに疲弊していた。
その中で、周囲と満足に意思疎通ができないようなもどかしい生活では妻の人生に希望はない、「寝たきりになったら延命治療はしないでほしい」と言っていた妻の希望にも沿うことだとの考えを持ってその殺害を決意した。
被告人の家で、妻に対して殺意を持ってその頸部にタオルを巻いて締め付け、頸部圧迫により窒息死させた。
<判決>
懲役2年6月
【宇都宮地方裁判所平成30年6月28日】
これに対して、保険金目当ての殺人の場合の裁判例としては次のようなものがあります(京都地方裁判所平成28年11月14日)。
ただし、この事例は、詐欺、詐欺未遂も同時に審理されている事件です。
判例 保険金目当ての殺人の裁判例
被告人は、自分が代表取締役を務める会社の従業員を被保険者とし、同社を保険金受取人とする保険契約に基づく生涯死亡保険金を入手するために、従業員を殺害しようと企てた。
そして、フィリピンにおいて拳銃で弾丸数発を発射し、被害者である従業員の頭部等に命中させ、頭部銃槍による脳損傷により死亡させて殺害した。
<判決>
無期懲役
【京都地方裁判所平成28年11月14日】
このように、同情の余地があるような事例では刑期が比較的短くなっている一方、保険金目的のような身勝手かつ悪質な動機に基づく犯行である事例では無期懲役のような厳罰が科されています。
殺人罪の時効は?
公訴時効については、刑事訴訟法第250条1項が「時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く)については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。」と定めています。
殺人罪の法定刑には死刑がありますので、どれだけ期間を経過しても時効が完成しないということになります。
そのため、殺人罪を犯してしまった方は、時効により処罰を免れることが出来ません。
弁護方針
殺人罪を認める場合
殺人罪は、死刑から懲役5年まで、かなり幅広い法定刑になっています。
場合によっては、執行猶予付きの判決が得られることもあります。
ですので、被疑者に有利な証拠を多く収集することが重要な弁護活動になります。
殺人罪の刑罰を決めるに当たっては、殺人行為を行うに至った経緯・理由、実行行為の危険性の程度、被害者の数、反省の有無・程度などが斟酌されます。
弁護士としては、被疑者と入念に接見を繰り返す中で、今回の事件の発端、具体的な実行行為の内容を明らかにしていくとともに、被疑者に反省を促し、謝罪文を作成し、被害者遺族との示談交渉に臨むことになります。
また、殺人罪は、裁判員裁判対象事件です。
量刑判断に当たっては、裁判の中で行われる被告人質問における被告人の発言も大きな影響を与えることになります。
被告人質問で頭がパニックになって反省の意が裁判員に伝わらない状況に陥っては困りますから、入念に被告人質問についても打ち合わせを行うことになります。
パニックに陥ったとしても、被告人を落ち着かせ、被告人の反省が裁判員に伝わるよう工夫することも弁護士の重要な役割です。
証拠の収集についても、裁判における被告人質問についても、弁護人の熱意と技量によって大きな影響を受けます。
専門特化し注力している弁護士に依頼することが重要となります。
殺人罪を認めない場合
相手に殺されそうになったから、やむをえず殺した場合には、正当防衛が成立し、殺人罪は成立しません。
また、相手が殺してくれと懇願するからやむなく殺した場合も、殺人罪は成立しません(嘱託殺人罪が成立します。6月以上7年以下の懲役にとどまります。)。
さらには、全く身に覚えがないにもかかわらず殺人罪で逮捕され、起訴されることもあり得ます。
これらの場合、被疑者の主張を裏付ける証拠を豊富に収集し、裁判所に提出する必要があります。
正当防衛の主張であれば、目撃者を探し出し当時の状況を語らせたり、被害者が常日頃から被疑者に暴力を振るっていたことなどを示したりすることが考えられます。
他に真犯人がいるようなケースであれば、被疑者に犯行の機会がなかったこと、被疑者に被害者を殺害する理由がないこと、検察官が決定的証拠として考えている証拠が決定的なものではないことを示すことが考えられます。
いずれにせよ、殺人罪については一件一件特殊性が大きいため、経験に基づき最適な弁護活動を行うことが無罪判決獲得のために重要になります。
判決は、弁護人の熱意と技量によって大きな影響を受けます。専門特化し注力している弁護士に依頼することが重要となります。
まずは当事務所にお気軽にご相談ください。