病気を人にうつしてしまったら犯罪か?
インフルエンザにかかってしまったのですが、周りにうつしていないか心配です。
うつした場合、罪に問われることはあるのでしょうか。
傷害罪に該当する可能性はありますが、基本的に罪に問われることはありません。
新型コロナウイルスについての報道が連日続いており、街中でもマスクをしている人が多くなったように思います。
そのような時節柄、マスクをせずに咳やくしゃみをする方がいた場合、病気をうつされるのではないかと不安に思うことでしょう。
今回は、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症のような病気を人にうつしてしまった場合に何らかの罪に問われるか、という問題を考えていきたいと思います。
傷害罪の可能性がある
考えられる犯罪としては、傷害罪(刑法207条)が挙げられます。
傷害罪における「傷害」とは、「人の生理的機能を害することまたは健康状態を不良に変更すること」と考えられています。
傷害と聞いて、一般的に思い浮かべるのは暴行によって打撲や骨折といった外傷を負うことでしょう。
しかし、このような外傷でなくとも、中毒症状や病気に罹患することといったものも、生理的機能を害していることに変わりはありませんので、「傷害」に当たることになります。
判例においても、以下のように判断されています。
判例 傷害に当たるとした裁判例
「傷害罪は他人の身体の生理的機能を毀損するものである以上、その手段が何であるかを問わないのであり、本件のごとく暴行によらずに病毒を他人に感染させる場合にも成立するのである。」
【最高裁判所昭和27年6月6日付判決】
このような「傷害」の定義からすると、人に風邪やインフルエンザのような感染症をうつしてしまった場合、法律上は生理的機能を害したとして傷害罪に該当する可能性があるということになります。
現実的には処罰困難
ただし、犯罪が成立するためには、故意や因果関係というものも必要です。
つまり、加害者が被害者へ、意図的に病気をうつしたということが証明されなければなりません。
そしてこの事実の立証は一般的に困難を極めるといえます。
まず、病気をうつしてしまうことは多々ありうることであり、意図的であったということを証明するためには、積極的に嘘をついて自分からの感染リスクが高い行動をとること等が必要になるでしょう。
先に引用した判例は、性病を感染させるおそれがあることを認識しつつ、性病であることを秘して性行為に及んで性病に感染させたという事例です。
また、誰からうつされたかという点についても、よほどの閉鎖空間で、特殊な病気を持っているのが加害者しかありえないということであれば、特定の人からうつされたと証明することも可能かもしれません。
しかし、多くの人は日常生活を送る中で膨大な数の人と接触していますから、病気をうつされたとしても、誰からどのように感染したかは分かりません。
そのため、現実的にはただの風邪やインフルエンザといった感染症をうつしてしまったとしても、傷害罪として処罰されることはないと考えてよいでしょう。
とはいえ、周りへの配慮なしに咳やくしゃみをしていると、周囲に不快な思いをさせてしまうことは事実です。
そのことが原因で喧嘩となり、暴行事件等に発展しないとも限りません。
きちんと咳エチケットを守ることが無用のトラブルを避けることに繋がります。