被害者から承諾があった場合には何をしても許される?
保険金を得るために怪我をしたいから、ちょっと殴ってほしいと言われました。
殴った結果、友人は怪我をしてしまったのですが、同意に基づいてやったことだから処罰はされませんよね?
被害者が同意していたとしても、傷害罪が成立する可能性はあります。
被害者の承諾とは
法律によって保護されている利益(法益)の主体である被害者が、その侵害に対して許容していることがあります。
例えば、本の持ち主の同意を得た上で本を燃やすような場合や、漫才においてツッコミとして相手を叩く場合などです。
このような場合には、そもそも犯罪が成立しなかったり、客観的には犯罪に該当する行為であったとしても違法性がないと判断されたりすることがあります。
それでは、どのような場合に被害者からの承諾があったと判断されるのでしょうか。
まずは、前提として、有効に法益侵害に対する承諾をする能力が必要です。
この承諾能力とは、保護されている法益を放棄することが、どのような意味を持つかをきちんと理解できる能力のことをいいます。
例えば、幼児や通常の意思能力すら認められない者にはこの承諾能力が認められないと考えられていますので、このような者から承諾を得たとしても、意味はありません。
真意に基づくものであるか
次に、被害者の承諾は、真意に基づくものである必要があります。
そのため、脅す等の行為によって強制的に得た承諾は意味を持ちません(福岡高等裁判所宮崎支部平成元年3月24日判決)。
騙されたり勘違いしたりして行なった承諾については、様々な議論がありますが、もし錯誤に陥っていなければ承諾をしなかったであろうと考えられる場合には、承諾を無効とする考え方に近い結論を出した判例があります(最高裁昭和33年11月21日付判決)。
そのため、お金をあげるから殴らせてほしいとお願いして、承諾を得て殴った後にお金を渡さなかったような場合には被害者の承諾は無効となり、傷害罪が成立すると考えてよいでしょう。
また、仮に真意に基づく承諾があったとしても、傷害罪の成否について、「単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体障害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合わせて」決めるべきだと判断した判例があります(最高裁昭和55年11月13日付判決)。
この判例の事件は、保険金を騙し取る目的で人身事故を起こしたというもので、結論としては傷害罪の成立が認められた事件です。他にも反社会的勢力における指詰めなども上記のような事情を考慮して行為の違法性が認められています。
冒頭の事例では、友人に有効な承諾をする能力があることを前提とすると、承諾自体は有効に行われていると考えられます。
しかし、上記の裁判例と同じく、承諾を得た動機や目的が保険金を得るためという不法なものであることを踏まえると、社会的に相当な行為とは考えられずに傷害罪が成立する可能性は十分にあるといえるでしょう。
承諾があっても犯罪となる類型もある
また、被害者が承諾していたとしても、犯罪の成立に影響しないケースもあります。
例えば、16歳未満(13歳以上16歳未満は5歳以上年下)の者に対する不同意性交等罪については、被害者が性交等に同意していたとしても犯罪が成立することとされています(刑法第177条)。
これは、16歳未満の者が性的なことについて正しく判断できる能力が備わっていないと考えられているためです。
また、被害者の同意を得て殺人を行なった場合も、同意殺人罪として処罰されます(刑法第202条)。生命に対する自己決定については、完全に犯罪を否定する効果があるものとは考えられていないからです。
まとめ
このように、そもそも同意があったとしても犯罪となる類型も存在しますので、承諾があれば何をしても大丈夫というわけではありません。
被害者が承諾していたといっても、簡単に処罰を免れるわけではありませんので、くれぐれも不用意な行動を行わないように気をつけなければなりません。
被害者の承諾があったといえるか、処罰を免れることができる承諾なのかは個別の事案によって異なります。
専門家に相談して、最適な活動方針を決める必要がありますから、被害者の承諾があったのではないかと思われる事件に巻き込まれてしまった方はぜひ弁護士にご相談ください。