私選弁護人と国選弁護人の違いとは?【弁護士が解説】
私選の場合は国選と異なり、①専門性のある弁護士を自由に選任できること、②捜査の初期段階から弁護士のサポート・助言を受けることができることなどのメリットがあります。
他方で、私選の場合は弁護士報酬が自己負担となります。
刑事事件においては、弁護士のサポートによって結果が大きく異なる場合があります。
そのため、刑事事件の当事者の方は、弁護士を私選にするか、国選にするかで悩まれていることでしょう。
ここでは、私選弁護人と国選弁護人のメリットやデメリット、弁護士費用の相場、選任後の流れ等について、弁護士がくわしく解説します。
ぜひ、ご参考にされてください。
私選弁護人とは
私選弁護人とは、被疑者・被告人から直接、特定の刑事事件の弁護人として選任された弁護士のことをいいます。
私選弁護人を選任する場合、ご自身で弁護士を見つけて、その弁護士と自由に契約を締結できることになります。
私選弁護人のメリット
私選弁護人のメリットとしては、以下の4つがあります。
- ① 自分に合う弁護士を自ら探すことができること
- ② 早期段階から弁護士のサポート・助言を受けることができること
- ③ いつでも弁護士を解任し変更することができること
- ④ 刑事事件に注力している弁護士を選べば、早期釈放、不起訴処分、無罪判決、執行猶予等の獲得可能性が高まること
以下、詳しく解説します。
①自分に合う弁護士を探すことができます
弁護士には、20代の弁護士もいれば、70代、80代の弁護士までいます。
気さくで話しやすい雰囲気の弁護士もいれば、厳格な雰囲気の弁護士もいます。
被疑者・被告人一人ひとり、何を弁護士に求めるのか、どのような弁護士が理想なのかは異なるはずです。
私選で弁護士を選ぶのであれば、直接弁護士に会って、その弁護士に依頼するかどうかを自ら決めることができます。
早期釈放、不起訴処分、無罪判決、執行猶予等を獲得するためには、被疑者と弁護人が信頼し合い、両者が目標達成に向けて全力を尽くすことが必要です。
「自分で選んだ弁護士がいる」という意識を持てることは、被疑者が逮捕・勾留などされて精神的に追い込まれている状況ではとても重要になってくるのです。
また、本来はあってはならないことではあるのですが、国選弁護は弁護士に支払われる報酬が低額であることもあり、国選弁護人の中には、被疑者・被告人にこまめに連絡をとらない弁護士、示談交渉に消極的な弁護士、接見に形式的にしか行かない弁護士がいることも事実です。
私選弁護であれば、そのような弁護士はほぼいないといえるでしょう。
仮にそのような弁護士を私選で選任してしまったとしたら、即座に解任し、他の弁護士を選任することをお勧めします。
自分で選任した弁護士なのですから、気楽に、いつでも現状報告を求め、接見に来ることを求め、弁護方針についての意見共有を求めることができるでしょう。
これは私選弁護の大きなメリットであるということができます。
②初動の段階から弁護士のサポート・助言を受けることができます
刑事事件においては、初動がとても重要であるといわれています。
すなわち、犯罪が発覚した場合、警察官は捜査を開始し、必要があれば被疑者を逮捕し、身体を拘束します。
逮捕は最大72時間(3日間)続きます。
警察官はこの3日間で、被疑者から自白等を取るべく取調べを入念に行います。
また、警察官は逮捕をあえて遅らせ、任意取調べの形で被疑者から自白を取ろうとすることもあります。
現行法制度では、これらの段階で、国選弁護人をつけることはできません。
逮捕は、長くとも3日間ですので、会社などのコミュニティに逮捕された事実が知れ渡ったり、会社を解雇されたりするリスクは高くありません。
しかし、弁護士のアドバイスを受けることができずに、逮捕中の取調べで対応を誤ってしまうと、本来認められるべきでない勾留(逮捕に引き続く身体拘束)が認められてしまうおそれがあります。
勾留は最大で20日間にも及びますから、解雇等のリスクが大幅に増加してしまいます。
さらに言うと、逮捕段階での自白が決め手となって起訴され、有罪判決を受け前科をつけられてしまうおそれもあるのです。
以上のこともあり、刑事事件では、捜査段階の刑事弁護が最も重要であると考えられているのです。
捜査段階から弁護士による適切なサポートを受けてこそ、不当な身体拘束や、不当な判決から免れる道が見えてきます。
私選であれば、勾留される前の段階(任意に取調べを受けている段階や、逮捕段階)であっても、自由に弁護士を選任することができます。
私選弁護人は、被疑者から依頼を受ければ迅速に弁護活動を開始します。
被疑者のもとへ即座に接見に行き、取調べへの対応についてアドバイスをすると同時に、不当な取調べがある場合には被疑者に代わって警察官に強く抗議します。
また、被疑者にとって有利な証拠を収集すべく、動き出すことになります。
そして検察官に対して、勾留請求をすべきではなく釈放すべきであることを説得的に論じることになります。
被害者がいる事件で、示談が成立すれば勾留されずに釈放されることが見込める場合には、示談交渉にも可能な限り早く乗り出します。
示談交渉が成功すれば、起訴されない可能性が高くなります。
③いつでも弁護士を解任し変更することができます
国選弁護人制度は、いったん機械的に弁護士を割り振られると、その弁護士が最後まで弁護士として就き続けることになりますが、私選弁護人の場合は、いつでも解任し、新たな弁護士を選任することができます。
早期釈放、不起訴処分、無罪判決、執行猶予付き判決獲得のためには、被疑者・被告人と弁護士の信頼関係が不可欠です。
私選弁護人を選任することは、それ自体が両者の信頼関係構築に一役買うものであり、大きなメリットといえるでしょう。
国選から私選への切り替えは可能?
国選弁護人が割り振られた後であっても、私選弁護人を選任することはできます。
この場合、自動的に国選弁護人は解任されたものとして取り扱われます。
国選弁護人の弁護活動に不安・不満がある場合には、私選弁護人の選任を検討してみることをお勧めします。
逮捕・交流による身体拘束中であれば、接見に来た親族に、私選弁護人を探したい旨伝えて、親族に弁護士を探してもらうと良いでしょう。
④早期釈放、不起訴処分、無罪判決、執行猶予等の獲得可能性が高まること
弁護士の多くは、民事事件を中心業務としており、刑事事件を中心業務としている弁護士は、少ないのが現状です。
国選で回ってきた事件についてのみ刑事弁護をする、という弁護士が大半ではないでしょうか。
ですが、刑事弁護活動は、自首同行、接見、取調べ対応のアドバイス、警察官・検察官への抗議、検察官・裁判官への意見書の作成、検察官・裁判官面会、示談交渉、有利な証拠の収集、保釈請求、準抗告、証拠開示請求、尋問、最終弁論など、民事とは異質の内容のものがほとんどであり、刑事事件の経験実績、刑事事件への熱意が非常に重要です。
私選弁護人のデメリットとは
私選弁護人のデメリットとしては、国選弁護人と異なり、弁護士費用が必要ということが挙げられます。
すなわち、国選弁護人制度は、弁護士費用の負担を国が代わってしてくれるのです。
したがって、「弁護士費用を支払いたくない」という方には、私選よりも国選の方がよいとも思えます。
しかし、国選弁護人制度には次の問題点があります。
国選弁護人制度の3つの問題点
貧困状態にある者しか利用できない
国選弁護人制度を利用する場合、資力申告書を提出しなければならず、現金や預金に代表される資産の合計額が50万円未満でなければなりません。
50万円以上の資産がある場合は、あらかじめ弁護士会に弁護人選任を申し出ていた場合を除き、国選弁護人は選任されません。
したがって、一定程度の資産がある方の場合、そもそも利用できないという問題があります。
逮捕段階では弁護人をつけることができない
国選弁護制度は、被疑者が勾留されている事件については勾留段階になって初めて、勾留されていない事件については起訴後になって初めて、弁護士が選任されることとなります。
すなわち、勾留される前の段階(任意に取調べを受けている段階や、逮捕段階、逮捕後に勾留されず釈放された段階)では、国選弁護人は選任されません。
上記の通り、刑事事件は初動が極めて重要であるところ、国選弁護人の場合、被疑者の防御活動ができずに、刑事事件では不利になってしまうことが懸念されます。
弁護士を自由に選び、変えることができない
国選弁護人制度の下では、被疑者・被告人は、弁護士を自由に選ぶことができませんし、途中で変えることもできません。
国選弁護人は、国選弁護人として登録された名簿から機械的に割り振られる制度となっているのです。
そして一度国選弁護人が決定すると、よほどのことがない限り、変更はされません。
早期の身体釈放や、不起訴処分、無罪判決を獲得するためには、被疑者・被告人と弁護士の強い信頼関係が不可欠です。
にもかかわらず、自由に自分に合う弁護士を探すことができず、機械的に弁護士が割り振られるというのは、国選弁護人制度を利用する大きな問題といえるでしょう。
また、弁護士の中にも刑事弁護に熱心ではない方もいますし、他の弁護士業務で忙しく、こまめに接見に行くこともできない方もいます。
そして、刑事弁護の経験がほとんどないといった方もいます。
刑事事件において、誰が弁護士となるのかということは、今後の人生を大きく左右するものです。
上記のような、望ましくない弁護士が選任されてしまった場合には、被疑者・被告人の不利益は大きいといえます。
そして、その弁護士を自由に変更することもできないわけですから、国選弁護制度を利用するということは、運に身を委ねるという一面があることを理解しておく必要があります。
以上、私選と国選とのメリット・デメリットをまとめると、下表のとおりとなります。
メリット | デメリット |
---|---|
捜査の初期の段階から弁護士のサポートや助言を受けることができる | 弁護士費用がかかる |
刑事事件に注力している弁護士を選べば、早期釈放、不起訴処分、無罪判決、執行猶予等の獲得可能性が高まる | |
自分に合う弁護士を自ら探すことができる | |
いつでも弁護士を解任し変更することができること |
メリット | デメリット |
---|---|
|
逮捕段階では国選をつけることができないため、不利になる可能性がある |
国選弁護人の熱意・技能には大きな差異があるが、弁護士を自由に選び、変えることができない |
私選弁護人の費用
私選弁護人にかかる弁護士費用は、法律事務所によって異なりますが、多くの場合は着手金と報酬金に分けられています。
着手金とは、ご依頼時に発生する費用で、報酬金は事件終了時に出来高に応じて発生する費用です。
多くの場合は、着手金も報酬金も数十万円程度と思われます。
刑事事件を専門とする法律事務所の場合、弁護士費用をホームページ上で公開しているところが多いと考えられますので、まずはそちらを確認されるとよいでしょう。
もっとも、依頼される具体的な内容、事件の難易度や複雑性等によっても弁護士費用は異なります。
そのため、まずは法律相談を受けられて見て、見積もりを出してもらうと良いでしょう。
明朗会計をスタンスとする法律事務所であれば、見積もりを出してくれるはずです。
私選弁護人の費用の分割払いは可能?
弁護士費用は、上記のとおり、決して安くはありません。
そのため、一括でのお支払いが難しいという方もいらっしゃいます。
一般的には一括払いが基本的だと思われますが、弁護士費用と同様に法律事務所によって異なります。
したがって、見積もりと同様に分割払いの可否についても尋ねれ見られると良いでしょう。
私選弁護人に依頼するには?
上記の通り、私選弁護人は自由に選ぶことができますが、専門性の高く、かつ、ご自身にあった弁護士を選ぶことが重要となります。
ポイントしては、以下の4つが挙げられます。
- ① 刑事事件に注力していること
- ② 迅速に対応してくれること
- ③ 親身に対応してくれること
- ④ 実際に相談してみる
私選弁護人の呼び方
容疑者ご本人が逮捕・勾留されている場合、私選弁護人を自分で選んで依頼するということが難しい状況です。
このような場合、ご家族が法律事務所に行き、ご本人との接見を依頼するという方法があります。
依頼を受けた弁護士は警察署や拘置所等に行ってご本人と面談し、今後の流れや注意点についての助言をします。
そして、ご本人が刑事弁護を正式に依頼するという流れです。
刑事事件を専門とする法律事務所の場合、このような接見だけのサポートも提供しているところもあるので、まずは相談されてみると良いでしょう。
まとめ
以上、私選と国選との弁護士の違いについて、メリットでデメリットを解説しましたがいかがだったでしょうか。
刑事事件は容疑者の一生を変える可能性が高い重要な案件であり、万全の体制で対応すべきです。
私選の弁護士の場合、一定程度の弁護士費用がかかりますが、適正な価額である場合、それだけの価値があると考えるべきでしょう。
もっとも、経済的なご負担もあるため、後悔されないように弁護士を選ばれることが重要です。
そのため、まずは無料の法律相談を受けて見られて、信頼できるか否かをよく検討されることをお勧めいたします。