国選弁護人とは?|メリットデメリットや私選弁護人との違いを解説
刑事事件では、被疑者や被告人に対して国が弁護人を付ける制度として、国選弁護制度があります。
自ら弁護人に依頼できない被疑者・被告人にとっては心強い味方ともなり得る国選弁護人ですが、利用には一定の条件があり、また、必ずしもメリットばかりともいえません。
このページでは、国選弁護人の位置づけや利用条件、国選弁護人に依頼した場合の費用やメリット・デメリットを解説します。
国選弁護人とは
国選弁護人とは、刑事事件の容疑者が経済的事情により弁護士に依頼できない場合に、国によって選任された弁護人です。
自身で弁護士費用を支払って依頼する弁護人を「私選弁護人」といいますが、刑事事件の容疑者は経済的に困窮していることも多く、全員が自分で弁護士に依頼できるとは限りません。
他方で我が国の憲法は、すべての刑事被告人に対し弁護人を選任する権利を認めています。
③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
引用元:憲法|電子政府の総合窓口
このように、刑事被告人はいかなる場合にも弁護人を依頼できるとされているほか、「被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。」として、国選弁護という制度が設けられているのです。
被疑者国選弁護制度と被告人国選弁護制度の違い
犯罪の疑いをかけられている者を「被疑者」といい、容疑が固まって検察官に起訴された者を「被告人」といいます。
一般には、「容疑者」や「被告」といった呼び方の方がなじみがあるかもしれません。
憲法の条文上は、国選弁護制度を利用できるのは「刑事被告人」となっており、被告人のための国選弁護制度は「被告人国選制度」と呼ばれます。
他方、現在の刑事訴訟法では、起訴前の捜査段階、すなわち「被疑者」についても、勾留されていれば国選弁護人に依頼することができるとされています(37条の2)。
これが「被疑者国選制度」です。
すなわち現行法下では、一定の利用条件はあるものの、起訴の前後を問わず、被疑者・被告人ともに国選弁護制度が設けられているということです。
逮捕から判決に至るまでの刑事事件全体の詳しい流れについては、こちらをご覧ください。
国選弁護人を利用できる条件
国選弁護人を利用するための条件は、「資力要件」と「勾留状の発付」です。
資力要件
国選弁護人を利用するためには、被疑者・被告人の資力が基準額以下でなければなりません(刑事訴訟法36条の3第1項)。
具体的には、不動産のような現金化に時間を要する資産を除いた流動性資産(現金や預貯金)が50万円以下である必要があります(刑事訴訟法第三十六条の二の資産及び同法第三十六条の三第一項の基準額を定める政令2条)。
その趣旨は、資力があるのであれば国の支援を受けずとも自ら弁護人に依頼できるであろうというところにあります。
したがって、資力が50万円を超えるときには私選で弁護を依頼するのが原則となってくるのですが、これには2つの例外があります。
ひとつは、弁護士会に対して私選弁護人の紹介を申し出たものの、紹介された弁護士が依頼を受けてくれなかった不受任の場合です(刑事訴訟法36条の3第1項)。
弁護士のつてがなく、弁護士会へ紹介を依頼しても受任に結びつかなかったような場合、自力で弁護士を見つけるのは困難だろうということで、国選弁護制度を利用できることとされています。
もうひとつは、必要的弁護事件における被告人国選の場合です。
必要的弁護事件とは、弁護人がいなければ開廷できない事件であり、「死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件」がこれに当たります(刑事訴訟法289条1項)。
この場合、被告人の意向とは関係なく、弁護人がいないと審理が行えないという裁判所側の事情によって弁護人が必要となってくるため、被告人の資力を問わずに国選弁護制度が利用できるのです。
これらの例外規定に該当しない限りは、資力が50万円を超える場合は私選で弁護人に依頼しなければなりません。
なお、国選弁護制度を利用したいがために資力について虚偽の申告をした場合、10万円以下の過料に処せられるため注意してください(刑事訴訟法38条の4)。
勾留状の発付
被疑者段階において国選弁護制度を利用するためには、「被疑者に対して勾留状が発せられている」か、少なくとも「勾留を請求され」ている必要があります(刑事訴訟法37条の2)。
勾留とは、逮捕に引き続く身体拘束であり、逮捕の効果が最長で72時間であるのに対し、勾留の効果は10日間(延長を含めれば最長で20日間)です。
被告人の国選制度が憲法上保障されているのに対して、被疑者国選制度は刑事訴訟法の改正によって徐々に拡大されてきた歴史があり、現在では被疑者が勾留されているすべての事件が対象となっています。
以上をまとめますと、国選弁護制度を利用できるのは、勾留の請求がされかつ資力が50万円以下である場合であり、資力が50万円を超えるときは、私選の申し出を拒否されるか、必要的弁護事件に当たるかといった例外事情があることを要します。
国選弁護人の費用
国選弁護人というと、国が付けてくれる弁護士なので、費用がかからないとのイメージがあるかもしれません。
実は刑事訴訟法の定めでは、被告人本人が費用を負担するのが原則とされています。
刑の言渡をしたときは、被告人に訴訟費用の全部又は一部を負担させなければならない。但し、被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるときは、この限りでない。
引用元:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口
もっとも、国選弁護制度を利用している時点で資力が50万円以下であることが通常でしょうから、多くの場合が、「被告人が貧困のため訴訟費用を納付することのできないことが明らかであるとき」に当たると思われます。
実際に、実務上は上記文言を適用し、本人には訴訟費用を負担させないとの判決が出ることも多いです。
この場合、国選弁護人の費用は国が負担しますので、被疑者・被告人の負担は発生しません。
国選弁護人のメリット・デメリット
国選弁護制度を利用した場合、費用がかからないケースも多いため、「わざわざ私選で弁護人を依頼する意味はないのでは?」と思われるかもしれません。
ですが、国選弁護人に依頼することは必ずしもメリットばかりとも言い切れません。
以下に見るとおり、国選弁護にはメリットとデメリットがあり、ちょうど私選弁護の場合と表裏の関係にあるのです。
刑事事件で弁護人を依頼するときには、国選と私選のメリット・デメリットを比較しいずれかを選択する必要がありますので、検討の際の参考としていただければと思います。
メリット
弁護士費用の負担がない
国選弁護を利用した場合の最大のメリットは、多くのケースにおいて費用負担が生じないことです。
デメリット
弁護士を選べない
国選弁護制度の最大のデメリットは、自分で弁護士を選ぶことができないという点にあります。
国選弁護は名簿に登載されている順番にしたがって機械的に割り当てられるため、誰が選任されるかはそのときの成り行きに任せるほかないのです。
刑事事件において、弁護士選びは極めて重要です。
国選弁護人を選任するということは、弁護士を選ぶ権利を放棄するということを意味するため、この点は大きなマイナスといえるでしょう。
刑事事件に強い弁護士が選任されるとは限らない
国選弁護人は名簿に登録してある弁護士の中から選ばれるわけですが、その名簿は、弁護士であれば基本的に誰でも登録できるものです。
そのため、選ばれた弁護士が必ずしも刑事事件を得意とする弁護士だとは限らないのです。
また、刑事事件を専門とする弁護士は少数です。
したがって、国選において、刑事事件を専門とする弁護士が選任される可能性は低いと考えるべきでしょう。
もちろん、刑事事件専門ではなくとも弁護士である以上、最低限の事件処理能力は備えています。
しかし、刑事事件の容疑者として勾留されているというのは人生の一大事ですので、できるだけ刑事事件に強い弁護士に依頼して安心を得たいと思うのも、また当然の感情といえます。
もし、費用を自己負担してでも刑事事件に強い弁護士に依頼して万全のサポートを受けたいということであれば、国選弁護制度は不向きといえるでしょう。
原則として解任・交代はできない
このように、国選弁護制度はどの弁護士が選任されるかわからない制度なのですが、解任や交代についても、よほど特殊な事情がない限り認められません。
具体的には、刑事訴訟法38条の3第1項が定めるとおり、国選弁護人の解任は、弁護人に職務を行えない事情があるといったような例外的な場合に限定されています。
このような事情が本当に存在するときには解任を請求することもできるのですが、実際に解任が認められる事例はほぼないと考えたほうがよいでしょう。
逮捕直後は対応できない場合が多い
国選弁護制度を利用できる条件として、勾留されているか、少なくとも勾留の請求がされている必要があるとご説明しました。
言い換えると、逮捕されてから勾留請求されるまでの間は国選弁護人に依頼することはできないということです。
捜査の最初期である逮捕直後の段階で助言が得られない点は、国選弁護制度の大きなデメリットといえます。
私選弁護人に依頼するメリット
私選弁護人に依頼するメリットは、上述した国選弁護人のデメリットの裏返しといえます。
以下の点をご覧になってメリットを感じられる場合は、私選弁護人の利用を検討されるとよいでしょう。
私選弁護人と国選弁護人の違いについてさらに詳しくお知りになりたい方は、こちらをご覧ください。
勾留請求前からサポートしてもらえる
国選弁護制度は勾留が請求されるまで利用できないのに対し、私選弁護人は自ら費用を支払って依頼するわけですので、このような制限はありません。
逮捕直後はもちろん、それ以前の、たとえば任意捜査が先行しているような段階であっても依頼することができます。
刑事事件に強い弁護士に依頼できる
国選弁護人の場合、どの弁護士が選任されるかはそのときのめぐり合わせ次第ですが、私選弁護人であれば、自らの選択によって最適と思われる弁護士に依頼することができます。
刑事事件に強い弁護士を選ばれると、弁護士と信頼関係を築き安心して弁護を任せることができるでしょう。
刑事事件の弁護士の選び方について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
よくある質問
国選弁護人から私選弁護人に変更できる?
国選弁護人から私選弁護人に変更することは可能です。
国選弁護人の解任は原則として認められないと説明しましたが、私選の弁護人を選任した場合は、話が異なります。
そもそも国選弁護制度は、被疑者・被告人に弁護人を依頼する資力がない場合の制度ですので、被疑者・被告人が自ら弁護人を選任したときは、もはや国が弁護人を付ける必要はなくなったといえます。
そこで、私選弁護人が選任されたことは国選弁護人の解任事由とされているのです(刑事訴訟法38条の3第1項1号)。
国選弁護人が選任されているが、私選に切り替えることを検討したいという場合は、こちらをご覧ください。
国選弁護人制度で費用負担することは絶対にない?
国選弁護制度を利用している時点で被告人は無資力であることが多く、実務上は、訴訟費用を被告人に負担させないとの判断が下ることが多いです。
もっとも、先にご紹介したとおり、法律上の原則では訴訟費用はあくまで被告人が負担すべきものであり、免除されるのは例外という位置づけになっています。
国選弁護制度を利用した場合に被告人の費用負担となることは多くはありませんが、絶対にないとまでは言い切れません。
民事事件でも国選弁護人をつけられる?
民事事件では、国選弁護人をつけることはできません。
国選弁護制度は、刑事被告人が国家(捜査機関)と対等に渡り合うことを保障するための制度です。
一方、民事事件はあくまで個人間の紛争に過ぎず、逮捕されることも有罪判決を受けることもありません。
このような私的な紛争については、自らの費用と責任において弁護士に依頼して対応すべきことから、国選弁護制度は刑事事件でのみ利用できる制度となっています。
まとめ
以上、国選弁護人について、メリット・デメリット等を詳しく解説しましたが、いかがだったでしょうか。
国選弁護人のメリットとしては、基本的に費用負担がないという点です。
しかし、刑事事件に強い弁護士を選ぶことができないというのは大きなデメリットとです。
また、国選の場合、捜査の初期段階や逮捕直後といった重要な場面において、刑事弁護のサポートを受けることができないのも大きな懸念点といえます。
私選の場合、ご依頼される際には弁護士費用が必要となりますが、刑事専門の弁護士がいる法律事務所の場合、初回無料の法律相談を提供している場合があります。
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この記事が刑事事件でお困りの皆さまのお役に立てれば幸いです。