警察官の嘘で、身に覚えがないのに自白。切り違え尋問とは
切り違え尋問とは
逮捕・勾留がなされた場合、最長23日間という長期にわたる身体拘束を受けながら、警察官による取調べを受けることになります。
共犯関係を疑われている者も同時に逮捕されているような場合、並行して取調べがなされることになります。
取調べ室は密室であり、弁護人の立会いも認められません。
そのため、警察官がどのような取調べを行っているかは、外部には全く分からないのです。
そのような状況下において、被疑事実について身に覚えがない等の理由から否認を続けているような場合に、警察官から「共犯者は全て自白した。これ以上黙っていても意味がないので、正直に話した方がいい。」などと言われることがあるようです。
いわゆる「切り違え尋問」という手法であり、このような尋問手法は、一緒に捕まった人間が自白をしていると聞けば、真実がどうであったとしても、もはや何を言っても無駄だと諦め、やってもいない罪を認めてしまうことにつながるものであるといえます。
その意味では、冤罪を生むことにつながりかねないため、厳に慎むべき手法と言えるでしょう。
取調べの現状
このような警察官の言葉は、安易に信用すべきではありません。
実際には共犯関係を疑われている者も含め、誰も自白していないにもかかわらず、このような虚偽を述べ、自白を強要するかの如き取調べが、現在においてもなされる場合があるのです。
もとより、このような取調べによって得られた自白は、任意性がないとして、刑事裁判において証拠として採用することが禁じられています(最高裁昭和45年11月25日刑集 24巻12号1670頁)。
「思うに、捜査手続といえども、憲法の保障下にある刑事手続の一環である以上刑訴法一条所定の精神に則り、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ適正に行なわれるべきものであることにかんがみれば、捜査官が被疑者を取り調べるにあたり偽計を用いて被疑者を錯誤に陥れ自白を獲得するような尋問方法を厳に避けるべきであることはいうまでもないところであるが、もしも偽計によつて被疑者が心理的強制を受け、その結果虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、右の自白はその任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法三一九条一項の規定に違反し、ひいては憲法三八条二項にも違反するものといわなければならない。」
このように、昭和45年に明確な最高裁判例が出ているにもかかわらず、現在でもこのような取調べが未だに横行しているのです。
警察による違法な取調べの対応
しかしながら、警察官の上記のような話が本当なのか嘘なのかは、逮捕され、外部との接触を一切絶たれた状態では、全く判断できません。
そのため、唯一接見を許された存在である弁護人がこまめに接見を行い、被疑者の取調べ状況について聞き取った上で、不適切な取調べが行われていないかどうか、逐一チェックする必要があります。
また、守秘義務との兼ね合いで困難な場合もありますが、必要に応じて共犯関係を疑われた者の弁護人とも連携を取り、警察官が虚偽を述べたりしていないか、情報を共有することもあります。
そして、上記のように違法な取調べが行われていることが発覚した場合は、直ちに警察署に対して厳重に抗議を行い、同様の取調べが今後一切なされないよう強く求めるとともに、取調べを担当する警察官を交代させるよう求めたりすることになります。
このように、警察による違法な取調べに対応するためには、弁護人の熱意と迅速な対応が必要不可欠です。
しかしながら、刑事事件にあまり熱心でない国選弁護人に対応を任せた場合、十分な回数の接見を行わず、弁護士からのアドバイスもないままに、警察官の言葉を前提とした虚偽の自白をしてしまう可能性があります。
取り調べ・事情聴取の注意点について、詳しくはこちらからどうぞ。
まとめ
こうした虚偽の自白に基づき、供述調書を作成されてしまうと、その記載内容が誤りであったと後の裁判で主張したとしても、そのような主張を認めさせることは決して容易ではありません。
そのため、虚偽の自白について供述調書を作成されることは、何としても避けなければなりません。
逮捕直後の段階で、刑事事件に注力する弁護士に事前に依頼しておくことにより、頻繁に接見を行い、外部の情報を少しでも共有するとともに、取調べ状況を見ながら、今後の取調べに対しどのように対応すべきか、詳細にアドバイスします。
これにより、上記のような違法な取調べを受けた場合でも、警察官の話に流されることなく、自白を強制されることを防ぐことができます。
また、万一警察官の話に乗ってしまい、虚偽の自白を行ってしまったような場合でも、直ちに警察署への抗議を行うとともに、その後の取調べにおいても同様のことが起きないよう、早期に牽制を入れておくことができるのです。
このような活動は、その後起訴され裁判になった場合においても、自白調書の証拠能力を否定する上で重要な意味を持ちます。
「身に覚えがない罪で逮捕されるかもしれない」など、ご不安の際は、お早めに刑事事件に注力する弁護士にご相談ください。
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