トランスジェンダーの場合の刑事収容施設での処遇について

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士

刑事収容施設での処遇について
トランスジェンダーの場合の刑事収容施設での処遇について教えてください。

 

 

刑事収容施設での問題

刑事収容施設でのトランスジェンダーの方をめぐる問題は、LGBTという言葉が社会に広まった現在でも未だに残っています。

その内容としては、①戸籍上の性別ではなく、性自認の性別で扱ってもらえるのか、②ホルモン治療を行っている場合には、そのホルモン治療を収容中も続けられるのか、といったものです。

 

①性自認の性別で扱ってもらえるか?

戸籍上の性別を変更している場合には、その変更した性別の収容所に入ることになりますが、変更していない場合については、戸籍上の性別の収容所に入ったうえで、ある程度の配慮がされるという扱いになっています。

 

②ホルモン治療を行っている場合には、そのホルモン治療を収容中も続けられるのか?

原則としてホルモン治療等は行わないということになっていますが、個別的な事情から必要と認められる場合にはホルモン治療を行ってもらえる場合もあります。

 

 

刑事収容施設でのトランスジェンダーの扱い

まず、問題の前提ですが、トランスジェンダーと言っても、性同一性障害であるとして戸籍上の性別を変更している者、戸籍を変更はしていないが性別適合手術やホルモン治療を受けている者、戸籍を変更はしておらず特に手術等も行っていない者など、様々です。

この中で、戸籍を変更している場合には、刑事収容施設においても戸籍上の性別に従って扱われることになるため、特に問題はありません。

しかし、戸籍上の性別を変更していない場合には、自己の性自認とは異なる戸籍上の性別に従って刑事収容施設に入れられるため、その扱いについても戸籍上の性別に従ってなされることになります。

もっとも、国は、平成23年及び平成27年に「性同一性障害等を有する被収容者の処遇指針について」という通知を出し、刑事収容施設においても性同一性障害の方に配慮するという方針を出しました。

 

 

通知により定められた配慮内容

居室

収容施設の居室については、原則として単独室に収容するものとされています。

また、職員の職務の正当性を担保するため等の目的で、なるべく廊下の監視カメラがきちんとある区域の居室とすることや、必要に応じて監視カメラが設置されている居室へ収容することも検討されます。

 

入浴や身体検査などの着衣を付けない場面

着衣を付けない場面というのは、適切な配慮がなされなければ羞恥心が害されることになりますので、しっかりした配慮が求められる場面です。

このような場面では、なるべく他の被収容者と接触させないようにする他、個々の事情によって、衝立を設置するなどの配慮をするよう努められています。

また、MFTかFTMか、外形変更の有無によっても扱いが変えられています。

MTF(生物学的には男性なのだけど、気持ちは女性の方)の場合

外形変更あり:女子職員による対応をする。

外形変更なし:原則として複数の男性職員で対応をする。必要に応じて女子職員を含めての対応をする。

FTM(生物学的には女性だけど気持ちは男性の方)の場合

外形変更のありなしにかかわらず、原則として女子職員が対応する。

また、着衣のない場面では、他の被収容者と接触させない配慮なども規定されています。

 

下着の規制について

受刑者の衣類については、通知において次のように定められています。

「性別によって品名が限られているものは、原則として戸籍上の性別にかかるもののみ使用を許すことが相当であるが、外形変更済みの者について、豊胸手術をしているためブラジャーの使用が必要であるなど、個別の事情により、使用の必要が認められる場合には、使用を許しても差し支えない。」

外形変更済みの者しか戸籍上の性別と異なる下着を着用することが出来ないという内容であり、問題です。

トランスジェンダーであれば外形変更を必ず行うというわけではありませんから、この点については未だ日本の考え方が遅れていると言わざるを得ないでしょう。

 

その他

髪型について、FTMの方には短髪とすることを認めたり、MTFの方に調髪を行わないことを認めたりしています。

その他にも必要に応じて、ヘアピン、整髪料、くしなどを使用することを認めるなどしています。

 

 

ホルモン治療の扱い

ホルモン治療がしてもらえるかについては、以下のように通知されており、原則として認められず、特に必要な事情がある場合に治療を受けさせるということになっています。

「性同一性障害者等についての積極的な身体的治療(ホルモン療法、性別適合手術等)に関しては、きわめて専門的な領域に属するものであること、また、これらの治療を実施しなくても、収容生活上直ちに回復困難な損害が生じるものと考えられないことから、特に必要な事情が認められない限り、法第56条に基づき国の責務として行うべき医療上の措置の範囲外にあると認められる」

もっとも、通知では上記のとおり原則として治療を必要としないとあるものの、ホルモン治療を止めた場合には、身体的・精神的両面において影響が出るとされており、治療が原則として不要とされていることには疑問が呈されています。

 

 

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