ひき逃げ、当て逃げについて
ひき逃げとは何か
道路交通法第72条1項前段は、
「交通事故があったときは、当該交通事故にかかる車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」と定めています。
このように、交通事故のうち、人の死傷を伴う場合、事故を起こした車両等の運転者には、直ちに停止して負傷者を救護する義務があります。
この救護義務に違反してその場から立ち去ることを「ひき逃げ」といいます。
ひき逃げを行うと、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金という刑事罰を受ける可能性があります(道路交通法第177条1項)。
なお、交通事故による死傷の原因がひき逃げをした者にある場合には、刑事罰が10年以下の懲役又は100万円以下の罰金と重たくなります(道路交通法第177条2項)。
報道でひき逃げ事件として扱われているような事件のほとんどは、死傷の原因がひき逃げをした者にある場合でしょう。
更に、ひき逃げと評価される場合、当然死傷者が出ていることから、運転者が運転条必要な注意を怠り、人を死傷させたと認められる場合には、自動車運転過失致死傷罪にも該当することになります(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条)。
このように2つの犯罪が成立する場合、これらの罪は併合罪として処理され、懲役刑の上限が1.5倍加重されます。
すなわち、ひき逃げをした場合、最長で15年の懲役刑を言い渡される可能性があるということです。
ここで注意していただきたいことは、自転車の運転者も道路交通法の適用を受けますから、交通事故を起こした場合には救護義務が生じるということです。
そのため、自転車に乗っているときに交通事故を起こしてしまい、救護義務を果たさなければ上記のような刑事罰を受ける可能性があります。
当て逃げとは何か
当て逃げとは、物の損壊を伴う交通事故を引き起こした車両等の運転者が、直ちに停止して道路における危険を防止する等の措置をする義務を無視して、その場から立ち去ることをいいます。
当て逃げをした場合、1年以下の懲役または10万円以下の罰金を科されることになっています(道路交通法117条の5第1号)。
既に述べたとおり、当て逃げが問題となる場合はあくまで物損事故ですので、その場から立ち去らなければ、本来刑事事件に発展するものではありません。
事故の相手方との民事上の問題のみで済んでいたはずなのに、逃げてしまうことによって犯罪に該当してしまいます。
逃亡したとしても何も得はありませんので、事故の相手方としっかりと話し合うべきです。
弁護方針
ひき逃げ、当て逃げを認める場合
近年、ひき逃げは、交通事故の社会的関心の高まりを受けて、厳罰化傾向にあります。
そのため、ひき逃げをした場合、多くのケースで、正式に起訴され、裁判が行われています。
また、被疑者は、ひき逃げを行った以上、今後も逃亡のおそれがあると判断され、逮捕・勾留されることが多くなっています。
逮捕・勾留されれば、最大23日間の身体拘束を受けます。
早期に釈放をされるためには、被害者と示談を成立させることが重要です。
また、被害者に生じさせた傷害が軽症にとどまる場合、示談が成立すれば、不起訴となることがあります。
起訴された場合でも、示談が成立していることで、罰金刑にとどまる可能性や、執行猶予付き判決にとどまり刑務所に入る必要が無くなる可能性が増大します。
その意味でも、示談を成立させることはとても重要です。
多くのケースで被疑者は逮捕勾留されていますので、示談交渉は弁護士が迅速に行う必要があります。
在宅事件の場合、保険会社に被害者対応を任せる方が多くいらっしゃいますが、この場合でもやはり弁護士に示談交渉を依頼するべきです。
なぜなら、保険会社はあくまでも民事上の損害賠償として支払額を決めることが任務ですので、合意書で被害者の処罰意思に触れていないことも見受けられます。
また、賠償額について被害者との隔たりが大きい場合に強硬的な姿勢を見せることもあり(保険会社の立場としては当然です。)、被害者の処罰感情をかえって強めてしまい、刑事事件で求められている示談ができなくなってしまうケースもあるからです。
弁護士の技量と熱意によって、示談交渉の結果は大きく左右されますので、刑事事件に注力した弁護士を選任することが重要といえるでしょう。
ひき逃げ、当て逃げを認めない場合
ひき逃げを認めないケースとしては、大きく分けて2種類考えられます。
一つは、そもそも交通事故を起こしていないという主張、もう一つは、交通事故を起こしたことに、車を降りるまで気がつかなかったというケースです。
前者のケースでは、被疑者の利用自動車に事故の痕跡が見当たらないこと、犯行時刻に事故現場付近を運転していないこと等を証拠によって証明する必要があります。
目撃者供述がある場合には、その目撃者の視認状況が悪く、誤って認識をしたのではないかということを説得的に論じる必要があります。
後者のケースでは、事故態様から、被疑者が事故に気づくことが不可能であったことを再現実験等によって示す必要があります。
そして、証拠を探し出し、検察官や裁判官に提出するためには、被疑者は身体を捜査機関に拘束されていることが多いですから、弁護士が迅速に証拠の収集に臨む必要があります。
弁護士の技量と熱意によって、証拠の収集も大きく影響を受けますから、刑事事件に特化した弁護士を選任することが重要となります。
まずは当事務所にお気軽にご相談ください。