死亡事故の罰金の相場はいくら?弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  


死亡事故の罰金の相場は、おおむね50万円から100万円程度です。

死亡事故を起こした場合、加害者が受ける刑罰としては、懲役や禁錮だけでなく罰金刑となることもあります。

死亡事故を起こすと、被害者に対して多額の損害賠償責任が発生することが多く、その上で刑事罰として罰金まで支払うとなると、経済的な打撃もかなりのものとなってきます。

そのため、死亡事故を起こしてしまうとどのくらいの罰金を科されることになるのか、その金額の相場についても関心を持たざるを得ません。

そこで、この記事では死亡事故の罰金について、相場や罰金以外の責任などの関連する事項について、弁護士が解説します。

死亡事故の罰金の相場

死亡事故の罰金の相場は、おおむね50万円から100万円程度です。

死亡事故において罰金がどの程度になるのか、法律の規定や実際の罰金額の実態について確認してみましょう。

 

死亡事故で成立する犯罪と刑罰

死亡事故を起こした場合、自動車運転処罰法(正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」)違反の罪に問われることが考えられます。

具体的には、運転の態様によって、危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があります。

それぞれの罰則は、次のように定められています。

  • 危険運転致死罪:1年以上の有期懲役
  • 過失運転致死罪:7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金

参考:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律|電子政府の総合窓口

危険運転致死罪は、飲酒運転やあおり運転などの危険な運転行為によって死亡事故を起こす罪であり、悪質性が高いことから、罰金で済むことはないように懲役刑のみが定められています。

一方、過失運転致死罪は過失の程度によって、悪質性の高いケースから誰でも起こし得るような軽微な不注意によるものまで幅があり得ます。

そこで、事案の性質に応じた柔軟な罰則を科すことができるように、懲役や禁錮だけでなく罰金刑も規定されているのです。

法律の定めの上では、危険運転致死罪の場合は罰金が科される余地はなく、過失運転致死罪であれば100万円以下の罰金を科される可能性があることがわかります。

 

死亡事故の罰金の実態

死亡事故の罰金は、過失運転致死罪の場合に「100万円以下」と定められていることがわかりました。

次に気になるのは、100万円以下という範囲のなかでも、実際の相場としてどの程度の額になるのかという点です。

そこで、死亡事故における罰金の実態を統計から確認してみましょう。

罰金刑は多くの場合、「略式手続」という手続きによって正式な刑事裁判を開始することなく科されますが、少数ながら、裁判手続によって罰金刑となるケースも見られます。

令和4年では、過失運転致死傷罪における罰金の状況は次のようになっています。

罰金額 合計 刑事裁判 略式手続
100万円以上 67 1 66
100万円未満 6,317 42 6,275
50万円未満 12,539 30 12,509
30万円未満 6,524 13 6,529
20万円未満 7,9547 16 7,938
10万円未満 15 2 13
5万円未満 3 0 6

出典:令和5年版犯罪白書|検察庁ホームページ

統計的に見ると、20万円から100万円までのところがボリュームゾーンとなっていることがわかります。

ただしこの統計は、「致死」だけでなく「致傷」も含んだ分布であることに注意が必要です。

当然ながら、「致傷」の事案は「致死」よりも軽い判決となる傾向があるでしょうから、致死の場合に限定すると、この分布の中でも比較的高額の方に寄ってくるものと思われます。

また、死者が出ている死亡事故の事案では、罰金よりも懲役や禁錮といった刑罰が選択されることも多く、罰金刑にとどまる事案自体が少ない印象もあります。

 

罰金額はどう決まる?

死亡事故での罰金は、事案の悪質性に応じて適切な刑罰を科すことができるように「100万円以下の罰金」と幅が持たせてあります。

罰金額は一律の定額ではなく、事案の悪質性に応じて、上記の範囲内において決定されます。

実際の罰金額は、算定のための計算式があるわけではなく、裁判官が過去の事例とのバランスなども考慮しながら、個別の事案ごとに決定します。

一般論としては、悪質性の高い事案ではより高額に、低い事案では罰金額もさほど高額にはならないということはいえそうです。

以下はあくまで一例ですが、これらのような事情を総合的に考慮して、実際に科される罰が決定されます。

罰金が高くなる要素 罰金が低くなる要素
  • 居眠りやスマートフォンの操作など、不注意の程度が著しい
  • 被害者が多数
  • 示談が成立している
  • 不注意が重大とまではいえない
  • 被害者が少数
  • 示談が成立していない

 

 

死亡事故で実刑となる場合

死亡事故で罰金刑となる場合の相場についてご紹介しましたが、死亡事故では罰金ではなく懲役や禁錮といった判決を受ける可能性もあります。

懲役や禁錮の場合は、執行猶予がつかなければ、「実刑判決」といって、実際に刑務所で服役することになります。

死亡事故で実刑となる可能性は、適用される罪名によって大きく変わってきます。

たとえば令和4年では、危険運転致死罪は21件すべてが実刑判決となっているのに対し、過失運転致死罪であれば実刑判決となったのは4パーセント程度となっています。

出典:令和5年版犯罪白書|検察庁ホームページ

危険運転致死罪で実刑を回避するのはかなり困難である一方、過失運転致死罪であれば実刑を回避することも十分期待できる状況となっています。

死亡事故で刑務所に入るかについてのさらに詳しい解説は、以下ををご覧ください。

 

 

死亡事故の加害者が負うのは罰金や懲役だけでない

ここまで、死亡事故で加害者が負う可能性のある罰金や懲役について解説しましたが、これはあくまで刑事上の責任です。

死亡事故の加害者は刑事責任を追及されるだけでなく、民事責任や行政上の責任も負うことになります。

死亡事故は尊い人命をうばうものですので、厳しい責任を問われることになるのです。

 

民事責任

民事責任とは、相手に与えた損害を賠償する責任のことをいいます。

死亡事故における民事責任としては、家族を失ったという精神的な苦痛に対する「慰謝料」と、金銭的な損害を償う「損害賠償」に大別することができます。

 

慰謝料

慰謝料とは、死亡事故によって被害者の被った精神的な苦痛を金銭によって償うものです。

まず、直接の被害者自身が慰謝料を請求する権利を取得しますが、本人は死亡しているため、家族がこれを相続することになります。

また、遺族は家族を失ったという精神的苦痛を被っていますので、相続した被害者本人の慰謝料とは別に、遺族固有の慰謝料を請求することができます。

慰謝料の金額は被害者の立場によって幅がありますが、おおむね2,000万円から2,800万円程度が相場となります。

死亡事故における慰謝料についての詳しい解説は、以下をご覧ください。

 

損害賠償

損害賠償は、死亡事故によって生じた財産上の損害を償うものです。

死亡事故では、車両などの物的損害に加え、被害者がその後の人生で得たであろう利益、典型的には給料相当額についても、財産上の損害として賠償する義務があります。

これを、事故のせいで取得する機会を逸した利益という意味で、「逸失利益」といいます。

逸失利益は、被害者の年齢や職業に基づいて算定されるため、金額は被害者の属性によって幅が広くなります。

もし被害者が若ければ、その後の人生における稼働期間も長いことから、逸失利益は数千万円や1億円を超える額となることもあり得ます。

死亡事故における逸失利益についての詳しい解説は、以下をご覧ください。

 

行政上の責任

死亡事故においては、さらに行政上の責任も発生します。

交通事故における行政上の責任とは、運転免許の効力の停止や取り消しなどの処分を受ける責任のことをいいます。

運転免許では、いわゆる「点数」と呼ばれる制度が採用されており、交通違反に対する点数が累積して一定の基準に達した場合に、ペナルティを受けることになります。

死亡事故では、過失運転致死罪であっても15点以上の点数が加算され、これは一発で免許取り消しとなる水準です。

なお、危険運転致死罪は特に悪質性が高いため、62点もの点数が加算され、欠格期間も5年間に及びます。

 

 

死亡事故の罰金が払えないとどうなる?

死亡事故の損害賠償については、加入している自動車保険で賄えるケースも多いと思いますが、罰金については保険の対象となりません。

死亡事故の罰金は最高で100万円ですので、支払いたくても高額すぎて払えないというケースもあるかもしれません。

そのような場合は、検察庁から支払いを求める督促を受け、それでも支払わなければ「労役場留置」という処分を受けることになります。

【根拠条文】
(労役場留置)
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2~6 (略)

引用元:刑法|電子政府の総合窓口

労役場留置は、労役場という作業場のようなところに留置され、そこで労役という作業に従事するという処分です。

イメージとしては懲役に近いかもしれませんが、懲役は刑務所に身柄を収容し刑務作業を科すこと自体が刑罰であるのに対し、労役場留置は、あくまで罰金を支払えない分を実際の労働によって代替するものです。

罰金から労役に刑の内容を換えることから、「換刑処分」とも呼ばれます。

労役場での労働は1日あたり5,000円として計算されますので、仮に100万円の罰金計の場合は、200日の労役が必要ということになります。

罰金の分割払いは可能?

罰金はすぐに払えない、でも労役場留置となるのも困るという場合、罰金を分割払いにできないかと考えられる方もいらっしゃるかもしれません。

結論としては、罰金は一括納付が基本であり、分割払いは認められないのが原則です。

一応、規定の上では分割払いを認めることはできるとされていますが、これはあくまで例外的な措置であり、簡単には認められないのが現状となっています。

一括で罰金が支払えない場合は、上記の労役場留置という処分を受けることを想定する必要があるといえるでしょう。

 

 

まとめ

この記事では、死亡事故の罰金について、相場や罰金以外の責任などの関連する事項について解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

・死亡事故の罰金は事案の性質によって異なるが、おおむね50万円から100万円程度が相場である。

・死亡事故では、危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があり、過失運転致死罪では100万円以下の罰金刑が出る可能性があるのに対し、危険運転致死罪が成立する場合は罰金刑となることはない。

・死亡事故では、罰金だけでなく、懲役や禁錮などの刑罰を受ける可能性があるほか、民事責任や行政上の責任も発生する。

・罰金が支払えない場合は、罰金刑に換えて労役場留置という処分を受けることになる。

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