死亡事故を起こしても人生終わりではない!?弁護士が解説
自動車やバイクなどの運転によって死亡事故を起こしてしまった場合、「これで人生が終了した」と絶望的な気持ちになる方も少なくありません。
結論からいえば、死亡事故を起こしたからといって、それで人生が終了することはありません。
もちろん、被害者の命が失われる死亡事故は交通事故の中でも最も重大なものであり、厳しい責任が発生するのは事実です。
しかし、事故後に適切な対応を取ることによって、生じる不利益を最小限に食い止めつつ、社会復帰を目指していくことは十分可能です。
交通死亡事故を起こしたからといって、それで人生が終了するわけではありません。
なぜそのように言えるのか、この記事では交通死亡事故について、加害者に生じる責任や事故後の適切な対応方法などをご紹介し、死亡事故を起こしても人生が終了するわけではないことを弁護士が解説します。
目次
交通死亡事故を起こした!人生は終わりか?
交通死亡事故を起こしても、人生は終わりではありません。
実際、日本では年間2,500件程度の死亡事故が発生しています。
参考:令和5年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について|政府統計の総合窓口
死亡事故の加害者の人数もこれに近しい数と思われますが、毎年それだけの数の加害者の人生が終了しているとは考え難いところです。
たしかに、死亡事故は最悪の結果を招く事故で非常に重大なものではあるものの、それで「人生終了」というのは飛躍のしすぎであり、一種の錯覚といえるのではないでしょうか。
死亡事故で「人生終了」と錯覚する理由
死亡事故を起こした加害者には重い責任が発生しますが、そのことで人生が終了するわけではありません。
むしろ、生じた責任を適切に果たしていくためにも、その後の人生をしっかり舵取りしていく必要があるといえます。
にもかかわらず、死亡事故を起こすと人生が終了だと錯覚する方が少なからずいらっしゃるようです。
死亡事故で人生が終了するかのように思えてしまう理由は、次のようなところにあると思われます。
精神的なショック
交通死亡事故を起こした場合、被害者の命を奪ってしまったという精神的なショックで、加害者は強く動揺し一種のパニックのような状態となるケースが多々あります。
「頭が真っ白」や「目の前が真っ暗」といった表現があるように、このようなパニックに陥った状態では、思考力や判断能力が低下し視野が狭くなると考えられます。
そのような状況で自分の今後や将来について考えてみても、明るい見通しが持てないのは当然といえます。
被害者の死という事実を重く受け止めることはもちろん大切なことではありますが、それは長い時間をかけてきっちり向き合うべき事柄です。
死亡事故の直後は加害者にとっても強い精神的負荷がかかっている状態ですので、まずは時間をおいて、物事を冷静に考えるためのメンタルコンディションを整えることに集中するのが良いのではないでしょうか。
正しい知識や情報の欠如
死亡事故で人生が終了すると感じられる理由には、法律や制度についての正確な知識や情報が不足していることもあげられます。
死亡事故を起こした加害者がどのような責任を負うのかについて正確な知識がないと、自分にどのような処分が下るのかがわかりません。
その結果、上記のような不安定な心理状態も相まって、悪い方向に想像が膨らんでしまい、「人生が終了した」と過度に悲観的な心境に陥るものと考えられます。
つまり、正しい情報を知っておくことで、極端に偏った思考に陥らないで済むといえます。
以下では、死亡事故の加害者が実際にどのような形で責任を負うのかを解説します。
交通死亡事故は尊い人命が失われる非常に重大なものであり、そのこと自体は重く受け止めなければなりませんが、それで加害者の人生が終了するということはありません。
ぜひこの点をご理解いただき、死亡事故の加害者が負うべき責任について正しい知識を身に着けていただければと思います。
加害者が負う3つの責任とは?
交通死亡事故の加害者が負う法律上の責任は、大きく3つに分けて考えることができます。
それぞれの責任の内容は、以下のとおりです。
これらは互いに別個独立の責任であり、交通死亡事故では多くのケースで3つの責任すべてが生じるのが原則となります。
刑事責任
死亡事故はいわゆる交通犯罪ですので、刑事責任が発生し刑事罰の対象となります。
ただし、一口に死亡事故といっても、事故の態様によって成立する罪名や科される罰則は異なります。
交通死亡事故によって成立する可能性があるのは、主に自動車運転死傷行為処罰法(正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」)違反です。
その法律の中でも、死亡事故について成立する可能性のある犯罪にはいくつかの類型が設けられています。
法が定める一定の危険な運転によって被害者を死亡させると、危険運転致死罪となります(自動車運転死傷行為処罰法2条)。
「危険な運転」には定義があり、法律には以下の8つの類型が定められています。
- ① アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での運転
- ② 制御困難な高速度での運転
- ③ 進行を制御する技能を有しないでの運転
- ④ 人や車の通行を妨害する目的で、危険な速度での割り込みや接近する行為
- ⑤ 車の通行を妨害する目的で、走行中の車に接近し又は前方で停止する行為
- ⑥ 高速道路で5の行為を行って走行中の車を停止又は徐行させる行為
- ⑦ 危険な速度で赤信号を殊更に無視する行為
- ⑧ 危険な速度で通行禁止の道路を通行する行為
参考:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律|電子政府の総合窓口
いずれについても、死亡事故を起こしかねない危険なものであり、悪質性が高いものとなっています。
これらの悪質な運転によって死亡事故を起こすことは、一般的な交通事故と同視することはできず、特に強い非難に値するといえます。
実際、飲酒運転による悲惨な事故をきっかけに、もっと厳罰化すべきだといった声が報道されているのを覚えている方もいらっしゃるかと思います。
このような厳罰化の流れもあり、後述する過失運転致死罪と区別して、特に悪質な運転による死亡事故は危険運転致死罪として処罰されることになっているのです。
準危険運転致死罪は、アルコールや薬物、又は一定の病気等の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、被害者を死亡させる罪です(同法3条)。
一見すると、危険運転致死罪の1番目の類型と変わらないように見えるかもしれませんが、こちらは正常な運転に支障が生じる「おそれがある」とされているのがポイントです。
つまり、危険運転致死罪が成立するためには、正常な運転が困難な状態にあることの認識が運転者に必要となるのに対し、準危険運転致死罪では、そのような状態に陥る「おそれ」を認識していれば足りるということです。
また、準危険運転致死罪では、アルコールや薬物のほか、統合失調症やてんかんといった特定の病気を原因とする場合も含まれています。
準危険運転致死罪が成立し得る病気は、次のとおりです。
(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気)
第三条 法第三条第二項の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。
- 一 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症
- 二 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)
- 三 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)
- 四 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症
- 五 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む。)
- 六 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害
引用元:自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令|電子政府の総合窓口
過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪は、アルコール又は薬物の影響下にある者が過失運転致死罪を犯した場合に、その発覚を免れるために、追加でアルコール等を摂取したり、現場を離れて体内の濃度を減少させたりすることによって成立します(同法4条)。
これは、事故後にアルコールを摂取することによって、事故当時に飲酒していたことの発覚を免れるといった行為を防止するため、そのような隠ぺい行為自体を処罰対象とするものです。
自動車を運転する上で必要な注意を怠り、よって人を死亡させた場合、過失運転致死罪となります(同法5条)。
不注意の例としては、居眠り運転、わき見運転、前方不注視、信号無視等が考えられます。
過失運転致死傷罪についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
罪名 | 事故の原因 | 罰則 |
---|---|---|
危険運転致死罪 | 飲酒運転、無謀運転など | 1年以上の有期懲役 |
準危険運転致死罪 | 飲酒・薬物・病気などの影響下での運転 | 15年以下の懲役 |
過失運転致死アルコール等影響発覚免脱罪 | 飲酒・薬物の影響下での運転 | 12年以下の懲役 |
過失運転致死罪 | 不注意 | 7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金 |
民事責任
民事責任とは、相手に与えた損害を賠償する責任のことをいいます。
死亡事故の民事責任としては、精神的な苦痛に対する「慰謝料」と財産上の損害を償う「損害賠償」などがあります。
慰謝料は、死亡事故によって被害者が被った精神的な苦痛を金銭によって償うものです。
まず、事故による直接の被害者自身が慰謝料を請求する権利を取得しますが、本人は死亡しているため、権利を行使することができません。
そこで、遺族がこの権利を相続して請求することになります。
また、遺族の方も家族を失ったという精神的苦痛を被っていますので、相続した被害者本人の慰謝料とは別に、遺族固有の慰謝料を請求することができます。
慰謝料の金額は被害者の立場によって幅がありますが、おおむね2,000万円から2,800万円程度が相場となります。
死亡事故における慰謝料についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
損害賠償は、死亡事故によって発生した財産上の損害を償うものです。
交通事故では、車両などの物的損害が発生していれば、これを賠償しなければなりません。
さらに死亡事故では、被害者がその後の人生で得たであろう利益、典型的には給料相当額についても、財産上の損害として賠償する義務を負います。
これを、事故によって取得する機会を逸した利益という意味で、「逸失利益」と呼びます。
逸失利益は、被害者の年齢や職業に基づいて算定されるため、金額は被害者の属性によって幅が広くなります。
もし被害者が若ければ、その後の人生における稼働期間も長いことから、逸失利益は数千万円や1億円を超える額となることもあり得ます。
死亡事故における逸失利益についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
行政上の責任
以上の刑事及び民事上の責任に加え、交通死亡事故では、さらに行政上の責任も発生します。
交通事故における行政上の責任としては、運転免許の効力の停止や取り消しなどの処分を受ける責任があります。
運転免許ではいわゆる「点数制度」が採用されており、交通違反による点数が一定の基準にまで累積すると、ペナルティを受けることになります。
死亡事故を起こした場合は、過失運転致死罪でも15点以上の点数が加算されるため、一発で免許取り消しとなります。
さらに、より悪質な危険運転致死罪が成立する場合では、62点もの点数が加算され、欠格期間も5年間に及びます。
交通死亡事故の加害者に科される刑罰の相場
死亡事故には、以上のように厳しい罰則が定められています。
ただし、危険運転致死罪がきわめて危険な無謀運転によって成立するのに対し、過失運転致死罪の場合は、危険運転に準じるような悪質性の高いものから、一般の自動車運転者なら誰でも起こす可能性のある軽微な過失によるものまで、幅があります。
そのため、法律では科すことのできる刑の上限と下限を定めるにとどまり、実際に科される刑罰は、個別の事案に応じて裁判官が適当な刑を判断します。
そこで、実際にこれらの罪が成立する場合にどの程度の判決が出ているのかを、確認してみます。
まず、令和4年における危険運転致死罪では、有罪となった21件のうち、19件が5年以上の懲役又は禁錮となっています。
他方で、過失運転致死罪の判決では、1,002件の有罪判決中、3年を超える判決はわずか3件のみとなっています。
いずれも「死亡事故」という点では異なりませんが、判決の実態としては雲泥の差となっています。
危険運転致死罪が悪質性の高い運転によって人の命をうばうものであり強い非難に値するのに対し、過失運転致死罪の場合は、事案にもよりますがそこまで悪質とはいえません。
過失運転致死罪は、たとえ善良なドライバーであっても、自動車運転者であれば誰でも起こす可能性がある犯罪といえます。
このような事故に対してあまりにも重い罰則を科すことは不均衡であることから、このように判決の傾向が大きく分かれているといえそうです。
死亡事故を起こした加害者の心境
死亡事故を起こしたことは、被害者だけでなく、加害者にとっても大変にショックな出来事です。
ここでは、死亡事故を起こした加害者の心境について考察してみます。
受け止め方は人それぞれに異なる面もあるかもしれませんが、一例として次のような心境になることが多いと考えられます。
自責の念
死亡事故では、被害者の命が失われるという最悪の結果を招いています。
人の死は、文字通り取り返しのつかないものです。
損害賠償の支払いや刑務所の服役によって、法的には責任を果たしたことにはなりますが、それで亡くなった人が帰ってくることはありません。
人命を奪ってしまったことで、自分を責めてしまう加害者の方は多くいらっしゃると思われます。
人の死ということの重みを考えますと、「気に病む必要はありません」などと軽々しくいうことはできません。
刑事事件において、被害者の立場を思って反省を深めることは更生を図る上で重要なことであり、この点は交通事故事件であっても同様です。
被害者の死という事実としっかり向き合いながら、時間をかけて少しずつ気持ちの整理をしていく必要があるといえるでしょう。
処分への不安
死亡事故の加害者は、自分の処分がどのようになるか、不安を抱く方も多いと思われます。
死者の発生という結果の重大性にかんがみると、処分は厳しいものとなるのもやむを得ない面もあるといえます。
ただし、どのような責任が発生するのかを知らないと、不安ばかりが過度に膨らんでしまうことにもなりかねません。
「正しく恐れる」という言葉があるとおり、漠然と不安感を抱くのではなく、死亡事故でどのような責任が発生するのかを認識した上で、対処法を考えるのが適切といえます。
死亡事故の加害者が負う責任についてはこの記事内で詳細に解説していますので、まずは正しい知識を身に着けていただきたいと思います。
保身の気持ち
一般的に、犯罪を犯した場合、できるだけ軽い処罰で済ませたいと思うのが普通です。
このような感情自体は自然なものですので、不適切ということはありません。
犯罪には基本的に、強い非難に値する要素と、容疑者にとって有利に考慮すべき要素の両面があるのが通常ですが、検察官は立場上、前者を強調して主張してきます。
このため、被害者に対する謝罪の念を忘れないのは当然ですが、それとは別個の問題として、不相当に重たい責任を問われることのないよう、弁護士などと相談しながら対応を進めていく必要があるといえます。
交通死亡事故の流れ
交通死亡事故が発生すると、次のような流れで手続きが進みます。
①事故発生、捜査
警察が事故の事実を把握すると、捜査が開始します。
捜査には、容疑者を逮捕するケースと、逮捕せずに取り調べの際に容疑者を呼び出す形で進める在宅捜査があります。
警察の捜査は主に、証拠物の収集や、関係者からの聞き取りを書面化して調書を作成するといった形で進んでいきます。
②送検
捜査が終結すると、警察は検察官に対し事件を送検します。
事件の送検を受けた検察官は、刑罰を科すのが相当と判断すると、容疑者を起訴して刑事裁判に移行します。
他方で、刑罰を科す必要がないと判断された場合や、有罪の立証が困難と考えた場合などは、不起訴処分となり、事件はそこで終結します。
③刑事裁判、判決
刑事裁判では、検察官が起訴した容疑者が有罪であるかが審理され、有罪と判断されると、裁判官が刑を言い渡します。
刑に執行猶予がつくと、刑は直ちには執行されず、その期間中は執行が猶予されます。
執行猶予がつかない場合は、実刑判決といって、刑の執行を受けることになります。
④刑の執行
執行猶予のない有罪判決が確定すると、刑が執行されます。
実際に罰金を納付したり、刑務所で服役したりすることによって、刑事上の責任を果たすことになります。
交通死亡事故の発生直後にすべきこと
交通死亡事故が発生した直後は気が動転するのが普通ですが、そのような中でも、やらなければならないことが多くあります。
ここでは、交通死亡事故が発生した直後にすべきことをご紹介します。
どれもおろそかにできない重要なものばかりですので、もしもの際の参考にしてください。
道路交通法の義務に従う
道路交通法では、交通事故を起こした際に、3つの措置義務と警察官に対して事故を報告する義務を定めています。
3つの措置とは、運転の停止、負傷者の救護、危険の防止を指します(道路交通法72条)。
引用元:道路交通法|電子政府の総合窓口
交通死亡事故の発生直後は、まずは法律の定めに従って義務を果たさなければなりません。
これらの義務を整理すると、次のとおりです。
運転を停止し、現場の状況を確認する
交通事故を起こした場合、まずは停車して、現場の状況を確認する必要があります。
停車は、法律上「直ちに」と定められています。
一度現場を離れてしまうと、「すぐに戻ってくるつもりだった」といった弁解は通用しません。
轢き逃げと捉えられることにもなりかねませんので、そのようなことがないよう気を付けてください。
負傷者の救護
交通死亡事故が発生した直後、停車とならんで最優先にすべきなのが、負傷者の救護です。
被害者が死亡していれば救護の余地がないようにも思われますが、そもそも事故が「死亡事故」であることは、あくまで後になって判明するものです。
迅速に救急要請することで被害者が一命を取り留める可能性もありますし、仮に即死であったとしても、そのことを素人が勝手に判断するのは危険です。
また、事故直後に救急要請しておけば、そのことが後の刑事裁判で有利な事情のひとつとして考慮される可能性もあります。
これらのことから、事故直後の救急要請は、何にも増して最優先で行うべきといえます。
危険防止の措置
道路交通法では、負傷者の救護に加え、道路における危険を防止するための措置を取ることを義務付けています。
危険防止の措置を怠った場合、後続車に追突の危険が生じるなど、事故の被害が拡大するおそれがあります。
そのため、交通事故の直後には、道路上の危険を除去する措置をとって安全を確保しなければなりません。
具体的にどのような行為をするべきかは、天候や時間帯、現場の状況によって変わりますので一概にはいえませんが、たとえば後続車を適切に誘導するなど、二次的な被害が生じないように対応する必要があります。
警察への通報
道路交通法では、上記の3つの措置義務に加え、警察事故の状況を報告する義務を定めています。
法律上、警察に報告すべきとされている事項は、次のとおりです。
- 交通事故が発生した日時及び場所
- 死傷者の数及び負傷者の負傷の程度
- 損壊した物及び損壊の程度
- 事故車両の積載物
- 交通事故について講じた措置
これらの項目を常に頭に入れておくのは現実的ではありませんので、事故直後はまず110番通報で一報を入れ、あとは到着した警察官の質問に答えていけば、自然と上記の事項を網羅できると思われます。
保険会社の連絡
以上の措置や報告は道路交通法によって義務付けられているものですが、これらのほか、加入している保険会社への連絡も重要になります。
保険の約款では、加入者に事故の状況や損害の発生状況などの詳細を通知するよう義務付けています。
正式な通知は書面によって行うことになりますが、多くの保険会社では事故対応のための窓口を設けていることと思います。
保険会社によっては、24時間事故受け付けを行っている会社も存在します。
まずは電話で構いませんので、早い段階で一報を入れ、その後の手続きについて案内を受けましょう。
通知を怠っていると適切な補償を受けられない可能性が出てきますので、注意してください。
交通死亡事故後に加害者が検討すべきこと
交通死亡事故の直後には、以上のように道路交通法の定めに従って行動することが求められます。
その後は、事故について刑事責任を問われる可能性がありますので、次のような対応を検討すべきといえます。
示談交渉を行う
交通死亡事故を起こした場合、示談の成立を目指すことが重要となります。
示談とは、加害者が被害者に対して謝罪し損害を賠償することで、和解を合意することをいいます。
示談は、損害を賠償し被害者が納得することによって成立しますので、示談が成立すると、3つの責任のうち、民事責任については責任を果たしたことになります。
また、示談はあくまで民事上の賠償責任を果たしたにすぎず、これによって直接刑事責任が消滅するものではありませんが、実際には、示談が成立しているという事実は刑事処分を決定する上でも大きな影響を与えます。
示談が成立しているということは、本人が反省していることの現れと評価できますし、被害が弁償され被害者の処罰感情もある程度解消しているといえます。
つまり、示談が成立していない場合と比べると処罰の必要性が低下しているため、刑事責任を問われる上でも、処分が軽くなる可能性があるのです。
さらに、被害者が死亡するような重大事故においては、示談によって被害者の許しを得ることは、加害者が更生する上でも大きな意味を持ちます。
事故によって被害者の命をうばってしまったという事実は大変重いものではありますが、そのことで一生自責の念を抱え続けるとなると、その後の人生が非常につらいものとなります。
もちろん、二度と同じ過ちを繰り返さないためにも、事故の事実をきっちり受け止めることは大切ですが、加害者にもその後の人生がある以上、どこかの段階で前を向いて立ち直っていく必要があります。
示談によって被害者遺族から許しを得ることができれば、それ以上自分のことを責めずに済むという、ひとつのきっかけになるのではないでしようか。
示談についてのさらに詳しい解説は、こちらの記事でご確認ください。
刑事事件に強い弁護士に相談する
交通死亡事故では、刑事事件に強い弁護士に相談することも重要です。
被害者のいる刑事事件において相手方と示談が成立していることは、処分を左右する重要な事実となります。
しかし死亡事故では、家族の命をうばわれた被害者遺族の処罰感情はかなり強いのが通常であり、被害者の納得を得て示談を成立させるのは簡単なことではありません。
このような困難事案で示談を成立させるためには、専門性や経験に裏付けられた、高い交渉能力が必要となってきます。
刑事事件に強い弁護士であれば、交通事故をはじめとする様々な事件での被害者対応を経験していますので、被害者の気持ちに配慮した丁寧な対応により、示談成立に向けたスムーズな交渉が期待できます。
刑事事件における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。
死亡事故を起こしても、人生終了ではない!
この記事では、死亡事故を起こした場合にどのような責任が発生するのかについて解説してきました。
総じていえることは、「死亡事故で生じる責任は決して軽くはないが、人生が終了するようなものではない」ということです。
たしかに、死亡事故は人の死という重大な結果を招くものであり、加害者には民事・刑事ともに重い責任が生じることが見込まれます。
特に、悪質性の高い危険運転致死罪が成立する場合、10年を超える懲役が科されることもあり得ます。
ただし、そのような重い罪であっても、罪を償って責任を果たした後はまた一般の市民としての生活を送ることになります。
また、危険運転致死罪が成立するケースはさほど多くなく、死亡事故の多数は過失運転致死罪として処理されています。
過失運転致死罪でも実刑判決となることもありますが、刑事事件に強い弁護士に依頼して示談を成立させるなど、適切な対応をとることができれば、執行猶予つきの判決となることもじゅうぶん考えられます。
死亡事故で人生が終了することはありませんので、その点はぜひご理解いただきたいと思います。
交通死亡事故に関するQ&A
事故で人を死なせたら懲役何年ですか?
また、同じ罪名で処罰される場合でも、事案の悪質性に応じて、法定刑の範囲内で実際の懲役の期間が決まります。
危険運転致死罪であれば「1年以上20年以下の懲役」となりますが、下限である1年に近い判決となることは稀であり、5年や10年といった長期となる傾向にあります。
過失運転致死罪の場合は「7年以下の懲役」が法定刑となっていますが、実際の判決では3年を下回ることが多いようです。
また、過失運転致死罪ではおよそ94パーセントで執行猶予がついており、服役を回避できるケースも多くなっています。
過失運転致死傷罪についての詳しい解説は、こちらをご覧ください。
交通死亡事故の捜査は在宅で行われますか?
逮捕されるかどうかは、容疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがあるかといった事情を考慮して決められます。
轢き逃げの事案や身分が不安定などの理由で逃亡のおそれが認められれば逮捕される可能性もある一方、職業や家族関係が安定しており、罪を認めているなど逃亡のおそれがないケースであれば、死亡事故であっても身柄を拘束せず在宅で捜査が進むこともあります。
逮捕の流れや逮捕を防ぐ方法については、こちらをご覧ください。
死亡事故で免許取り消しとなるのは何年?
過失運転致死罪であれば、15点で1年間、危険運転による死亡事故の場合は62点となり5年間の欠格期間が発生します。
交通死亡事故の場合に入る刑務所は?
千葉県市原市の市原刑務所や、兵庫県加古川市の加古川刑務所などがこれに当たります。
まとめ
この記事では交通死亡事故について、加害者に生じる責任や事故後の適切な対応方法などをご紹介し、死亡事故を起こしても人生が終了するわけではないことを解説しました。
記事の要点は次のとおりです。
- 死亡事故は人命をうばうものであり、厳しい責任が発生することを覚悟する必要があるが、人生が終了するというのは誤解である。
- 死亡事故で人生が終了すると錯覚してしまうのは、事故後の不安定な心理状況が一因であり、生じる責任についての正しい知識を身につけることで不安が解消されることが期待できる。
- 死亡事故で加害者に発生する責任には、民事責任、刑事責任、行政上の責任の3種類がある。
- 死亡事故の直後は、道路交通法の定める義務を果たす必要があり、その後においては、刑事事件に強い弁護士に依頼して示談の成立を目指すことが重要である。
当事務所は、刑事事件のご相談の予約に24時間対応しており、LINEなどのオンライン相談を活用することで、全国対応も可能となっています。
まずは、お気軽に当事務所までご相談ください。
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