死亡事故で不起訴となる確率は?弁護士が解説
死亡事故で不起訴となる確率は成立する罪名によって異なり、危険運転致死罪であれば不起訴率は低く、過失運転致死罪の場合はこれよりは高い確率で不起訴になると考えられます。
刑事事件では、起訴されると99パーセント以上の確率で有罪判決となるため、どの程度の確率で不起訴となるかが重要なポイントとなってきます。
この記事では、死亡事故について、どのような犯罪が成立する可能性があるかをご紹介した上、その罪で起訴されている割合や、不起訴となるためのポイントなどについて、弁護士が解説します。
なぜ不起訴率が重要か
「不起訴」とは、検察官が容疑者を起訴しない、つまり刑事裁判にかけずに事件を終了させることを意味します。
死亡事故は「交通犯罪」という犯罪の一種であり、刑事罰の対象となりますが、不起訴となれば刑罰が科されることはありません。
不起訴の場合は刑事裁判自体が行われませんので、有罪無罪を判断されることすらなく、事件の手続きがそこで終了するのです。
犯罪なのに裁判にかけられないというと、そんなことがあり得るのかと疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、実務上は、不起訴処分は決して珍しいものではありません。
犯罪の種類によっては、起訴される割合の方が低いものも存在します。
刑事罰は矯正効果が高いものの、本人にとって非常に負担がかかるものであり、科さずに済むのならそれに越したことはない、「最終手段」のようなものです。
そこで検察官は、事案が軽微であったり、本人に十分な反省が見られたりといった事情により、刑事罰を科す必要性が高くないと判断すると、事件を不起訴にしてそこで手続きを打ち切るのです。
逆にいうと、起訴された事件というのは、検察官にとっては「刑事処分を免れさせるわけにはいかないと判断した事案」ということができます。
検察官は、絶対に有罪判決を取れるという確信を持って起訴するのが実務上の通例となっており、実際に起訴されると、統計上99パーセント以上の割合で有罪判決が出ています。
このため、起訴されるか否かは、事実上有罪判決を受けるか否かとほとんど同じといっても過言ではなく、不起訴率が重要な意味を持つといえるのです。
死亡事故で成立する犯罪とは?
以上のように、不起訴となる確率は、事実上有罪判決を受ける割合に等しいものですが、不起訴となる割合は、成立する犯罪ごとに異なります。
悪質な犯罪では不起訴で済ませることは難しいケースも多い一方、そこまで悪質性が高くない事案の場合は、示談の成立や加害者の反省といった事情があれば、刑罰を科すまでの必要はないという判断もしやすくなるためです。
そこでまずは、死亡事故でどのような犯罪が成立するのかをご紹介します。
死亡事故を起こした場合、自動車運転死傷処罰法違反(正式名称は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」)となることが考えられます。
自動車運転死傷処罰法は複数の罪を定めており、死亡事故において成立する可能性があるのは、危険運転致死罪や過失運転致死罪などです。
それぞれの犯罪の概要は、次のとおりです。
先にイメージをお伝えすると、危険性が高く特に悪質性の高いものが「危険運転致死罪」であり、不注意の程度によって悪質性が高いものから低いものまで幅広いものが「過失運転致死罪」です。
危険運転致死罪とは
危険運転致死罪は、飲酒運転やあおり運転といった危険な運転のうち、法律が定める悪質な運転によって被害者を死亡させることによって成立します。
ここでいう危険運転とは、文字通りの危険な運転をすべて指すわけではなく、法律が特に定めたものに限られます。
従来はすべて過失運転致死罪として処理されていたもののうち、特に悪質性が高いものをより厳しく処罰するために、一定の危険運転による死亡事故を危険運転致死罪として類型化したものと考えることができます。
過失運転致死罪とは
過失運転致死罪とは、自動車を運転するにあたって必要な注意を怠ったことにより死亡事故を起こした際に成立する犯罪です。
必要な注意を怠ることは「過失」と呼ばれ、居眠り運転や脇見運転、前方不注視などが典型的な過失の例です。
死亡事故の不起訴率
死亡事故を起こした場合、危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があります。
危険運転致死罪の方がより悪質性の高い犯罪であるため、前者のほうが不起訴となる割合は低いものと推測されます。
これらの犯罪ではどの程度の割合で起訴されているのか、実際のデータを確認してみましょう。
危険運転致死傷罪の場合
直近の統計を見ますと、危険運転致死傷罪での不起訴率は24.5パーセントとなっています。
この統計は「致死」と「致傷」を区別しておらず、双方を含んだ数字であることに注意してください。
当然ながら、怪我にとどまる「致傷」よりも、死者を出した「致死」の方が重罪ですので、致死罪に限定した場合の不起訴率は、これよりも低くなると考えられます。
危険運転致死罪では、被害者との示談が成立している事案であっても重い判決となっているケースが少なくないこともあわせて考慮すると、不起訴率は0パーセントに近いような数字になってくると推定されます。
過失運転致死傷罪の場合
過失運転致死傷罪の不起訴率は、84.2パーセントとなっています。
危険運転致死罪と同じく、「致死」の事案に限定した場合の割合はもう少し低くなると考えられます。
また、危険運転致死傷罪よりは高い不起訴率であろうことも加味すると、80パーセントから30パーセントの間のあたりに収まってくると考えられます。
危険運転致死罪では、その犯罪が成立している時点で悪質な事案であるのが原則ですが、過失運転致死罪では、ほとんど危険運転致死罪に等しいような危険なものから、一般的なドライバーであれば誰でも犯す可能性のある軽微なものまで程度に差があります。
過失運転致死罪では、統計的な起訴率も無視はできませんが、それ以上に、今回の事案の悪質性が、全体の中でどの程度の位置づけになるのかの方が重要といえるでしょう。
死亡事故で不起訴となるまでの流れ
死亡事故は、危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があり、犯罪の一種ともいえます。
そのため、死亡事故が発生すると、刑事事件として捜査の対象となります。
事件が不起訴となるまでの手続きの流れは、次のとおりです。
①事故発生、捜査
死亡事故が発生すると、警察が刑事事件として捜査を開始します。
捜査には、容疑者を逮捕して身柄を拘束するケースと、逮捕せずに取り調べの際に容疑者を呼び出す形で進める在宅捜査とがあります。
警察の捜査は主に、現場検証や、証拠の収集、関係者への事情聴取などを中心にして進んでいきます。
②送検
送検とは、警察が事件を検察に送致することをいいます。
捜査段階で容疑者を逮捕している場合は、容疑者の身柄ごと送検する身柄付きの送検となります。
この場合は、容疑者の身柄を拘束している関係で時間の制約があり、逮捕から48時間以内に送検されることになります。
他方で、容疑者の身柄を拘束しない在宅事件として捜査された場合は、事件記録のみを送検する「書類送検」となります。
書類送検には時間の制約がないため、警察が捜査を終え次第の送検となります。
③検察官による捜査
事件の送致を受けた検察官も、事件を捜査します。
証拠の収集のような基本的な捜査は警察が行いますので、検察としての捜査は、容疑者の取り調べを行い、送検された資料と矛盾しないかを確認することが中心となります。
④起訴・不起訴の決定
捜査を終えた検察官は、容疑者を起訴するか否かについての終局的な判断を行います。
容疑者が起訴されると刑事裁判が開始しますが、不起訴処分となると、そこで事件は終結します。
死亡事故で不起訴を獲得するためのポイント
容疑者の起訴・不起訴は、検察官が諸事情を総合的に考慮して判断します。
検察官にとって、不起訴処分を選択するということは、刑事裁判によって刑罰を科す必要はないとい判断することを意味します。
検察官にそのような判断をしてもらうためには、次のような点がポイントとなります。
示談交渉を成功させる
死亡事故で不起訴の処分を獲得するためには、被害者の遺族と示談することはきわめて重要です。
示談とは、加害者が被害者に対して謝罪するとともに、損害を賠償して和解することをいいます。
示談が成立しているということは、すでに民事上の責任を果たしており、損害が償われていることを意味します。
示談が成立していれば被害者の処罰感情も低下しているのが通常ですので、検察官としても、刑事裁判によって刑罰を科す必要性はないと判断しやすくなります。
このため、死亡事故で不起訴処分の獲得を目指す上では、被害者と示談しておくことが重要な意味を持つのです。
容疑者を起訴するかは、「刑罰を科す必要があるか」という観点からの総合的な判断になります。
このため、たとえば悪質性が非常に高いような事案であれば、たとえ示談が成立していても、起訴して刑罰を科すべきとの判断となることもあり得ます。
とはいえ、示談が成立していない場合に比べると不起訴の確率が高くなることは期待できますし、仮に起訴された場合であっても、示談の成立は判決を軽くする方向に働く事情でもあります。
紛争を円満に解決するためにも、示談の成立に向けて積極的に行動することが大切といえます。
示談についての詳しい解説は、以下ページをご覧ください。
刑事事件に強い弁護士に相談する
死亡事故で不起訴処分を獲得するためには、刑事事件に強い弁護士に相談することも重要です。
不起訴処分とは、刑罰を科す必要がないと判断されることを意味しますが、被害者が死亡するような重大事件でそのような処分を獲得することは、簡単ではありません。
そこで上記のように被害者との示談を成立させて、加害者が反省しており損害も償われているといった事情を積み重ねていくことが重要となりますが、これもやはり簡単なことではありません。
家族の命をうばわれた遺族にとっては、損害が賠償されたからといって、それで簡単に加害者を許す気持ちになれないのは当然のことです。
死亡事故のような重大な被害が生じている事件での示談交渉は、被害者の感情に配慮して丁寧に進めていかなければなりません。
刑事事件に強い弁護士であれば、死亡事故を含めた刑事事件での示談交渉経験が豊富にありますので、事件の勘所を押さえた適切な対応が期待できます。
刑事事件における弁護士選びの重要性については、以下ページをご覧ください。
まとめ
この記事では、死亡事故について、成立する可能性がある犯罪と、その罪で起訴されている割合、不起訴となるためのポイントなどについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 刑事事件では、起訴されると100パーセントに近い確率で有罪判決がでるのに対し、不起訴となるとそこで事件は終了するので、不起訴処分を獲得することが重要である。
- 死亡事故では危険運転致死罪や過失運転致死罪が成立する可能性があり、前者で不起訴となるのは厳しいと思われるが、後者では事案によって不起訴となることが期待できる。
- 死亡事故で不起訴処分となるためには被害者と示談を成立させることが重要であり、そのためには刑事事件に強い弁護士に相談することが効果的である。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか