示談したのに起訴される? 示談の意味や、起訴されないためのポイント
被害者のいる刑事事件において、相手方と示談することはきわめて重要です。
示談が成立していれば、起訴をまぬがれるなど、処分が寛大な方向に傾くことを期待できるからです。
このページでは、
- 示談とは正確にはどういうことを意味するのか
- 示談すれば必ず不起訴になるのか
といった点を、弁護士がわかりやすく解説していきます。
刑事事件における示談の重要性をご理解いただけますので、ぜひ最後までお読みいただければ、と思います。
目次
そもそも示談とは?
示談とは一般に、裁判手続を経ず当事者同士の話し合いによって紛争を解決することを指します。
加害者側から謝罪の意思を示すとともに、通常は示談金ないし解決金等の名目でいくらかの金銭を支払い、被害者がこれを受け入れることで、示談は成立します。
また、示談成立のための必須要件ではないのですが、紛争を確実に解決しのちに問題を残さないために、示談書という形で書面を交わすのが実務上の慣例です。
示談成立までのくわしい流れをお知りになりたいときは、こちらをご覧ください。
刑事事件において示談がもつ意味
刑事事件において示談が成立することは、どのような意味をもつのでしょうか。
示談の成立は、加害者側にとって有利な事情であることは間違いありません。
なぜ有利にはたらくかというと、次の2点が考慮されるからです。
- 加害者が被害者に謝罪し、金銭的にも被害をつぐなっている(加害者側の反省)
- 被害者が謝罪を受け入れ加害者を許している(被害者側の許し)
つまり、「加害者が反省しており」、かつ「被害者も許している」という2つの側面から、処罰の必要性が低下していると判断されるということです。
示談したからといって必ず不起訴になるわけではない
示談が成立していれば、必ず不起訴になるのでしょうか。
実は、たとえ示談が成立していたとしても、起訴されることはあり得ます。
被疑者の起訴・不起訴を決定するのは、検察官です。
そして示談が成立したとしても、あくまで処罰の必要性が「低下する」に留まりますから、示談の成立を考慮してもなお一定の刑罰を科すべきだと検察官が判断した場合は、起訴に至ることもあるのです。
示談で起訴を免れることができる確率は?
それでは、示談することで不起訴となる確率は、どのくらいあるのでしょうか。
法務省の発行している犯罪白書によれば、令和4年には、約23万人が起訴されているのに対し、不起訴はその倍ほどの約48万人となっていますから、犯罪として認知された件数のうち、3分の2ほどは不起訴となっていることになります。
これは不起訴となった全体の件数ですので、すべてが示談成立を理由とする不起訴というわけではありませんが、少なくとも統計上はおよそ6割強の確率で不起訴となることが見込まれるといえそうです。
示談が成立しているケースの不起訴となる確率は、上記の示談の意味合いからすると、更に高くなることが予想されます。
なお、統計上のデータではなく、筆者の主観となりますが、示談が成立すれば、後述するケースに該当する犯罪でない限り、ほとんどのケースが不起訴となる傾向です。
示談したのに起訴されるケースとは?
このように、統計的には3件のうち2件は不起訴となっているなかで、示談が成立しているにもかかわらず起訴されてしまうのは、どのようなケースでしょうか。
示談が有利な影響を及ぼす理由として、「処罰の必要性が低下するから」と説明しました。
そうすると、起訴されるのは、「示談の成立を考慮してもなお処罰の必要性が残るケース」ということができるでしょう。
ここで、処罰、すなわち被告人に刑事罰を科す目的を考えてみると、ざっと次のような視点から整理できます。
- ① 加害者に反省を促し、更生させる(再犯の防止)
- ② 被害者に代わって被告人に制裁を科すことで、被害者の処罰感情にこたえる
- ③ 社会秩序を回復する
示談が成立しているということは、被害者の許しを得ているということになりますので、②の点は基本的に解消されているといえます。
それでもなお処罰の必要性を認めるということは、上記の①加害者の反省又は③社会秩序の回復という点を考慮したときに、なお処罰することが相当と判断されたものといえます。
少し抽象的な話となってしまいましたが、以下にいくつか事例を挙げてみますので、具体的なイメージをつかんでいただければと思います。
加害者の反省に問題があるケース
犯罪が重大な場合
加害者の「反省」とは、今回の事件について被害者に対し申し訳ないと思うのはもちろんのこと、2度と同じ過ちを繰り返さず再犯に及ばないという決意をも含みます。
犯罪が重大な場合、加害者が再度犯行に及べば新たな被害者を生み悲劇が繰り返されることとなってしまいますから、検察官としても、加害者が心から反省し再犯に及ばないかという点を、特に慎重に検討することになります。
その結果、たとえ被害者との間で示談が成立していても、なお刑罰を科すことで反省をさらにいっそう深めさせることが適当だと判断されることがあり得ます。
前科前歴がある場合
加害者に前科前歴がある場合も、不起訴の確率は確実に低下します。
注:前歴とは、過去に捜査機関によって一定の捜査の対象となった事実・経歴を意味します。
前科前歴が時間的に直近のものであったり、今回の件と同種あるいは類似の事案であったりする場合は、特にその傾向が強いでしょう。
以前にも同種の事件を起こしておきながら再度犯行に及んだのでは、反省の言葉をいくら並べたところで、うわべだけのものと疑われるのも当然といえ、「懲りていない」と捉えられるのもやむを得ないでしょう。
社会的な影響が大きいケース
一般に、犯罪行為は社会に動揺を与えるものであり、刑事裁判の手続にはこの社会的動揺をしずめて社会の正常な状態を回復するという作用があります。
少し難しい話かもしれませんが、犯罪の内容次第では、もはや被害者・加害者間だけの問題に留まらず、社会全体が納得するような解決が求められるということです。
検察官は、検察庁法4条において「公益の代表者」とされており、被害者はもとより、社会全体の利益を考えて振る舞うべき立場にあります。
犯罪が重大で社会的な影響が大きい場合、「あれだけのことをやっておきながらお咎めなしでいいのか」という不信感やわだかまりを社会に残さないために、たとえ被害者が納得していてもあえて起訴に踏み切る、ということが考えられるのです。
起訴されないために重要なポイントとは?
このように、示談が成立していれば100パーセント起訴を免れる、ということはいえません。
そこで、少しでも不起訴の確率を高め、寛大な処分を得るためのポイントを整理してみます。
適切に示談する
まずは当然のことながら、被害者と示談することが最優先です。
示談に当たっては、謝罪の気持ちを表明し、適切な示談金を支払い、被害者の許しを得た上で、示談が成立した事実を示談書に的確に落とし込む必要があります。
また、その間に起訴されてしまっては元も子もありませんので、時間との勝負でもあります。
非常に高度な事務処理が必要になってきますので、刑事事件の処理経験が豊富な弁護士を見つけて一任するのがよいでしょう。
示談できない場合
示談は当事者双方が合意に至ることが前提ですから、折り合いがつかず不成立に終わることも考えられます。
資力がなければ十分な示談金を用意できないでしょうし、被害者の処罰感情が強い事案では、「いくらもらっても絶対に許さない」といわれてしまうこともあるでしょう。
あるいは、万引きの事案で、コンビニや大型ショッピングモールといった全国展開しているような企業では、本社の方で「示談にはいっさい応じない」という方針が定められていることがあり、このような場合は、交渉の余地すらほとんどありません。
もっとも、このような厳しい状況に置かれた場合でも、できることがないわけではありません。
以下に示すような対応を尽すことで、事案が軽微であれば不起訴処分に終わることも十分あり得ますし、仮に起訴された場合であっても、判決に際して有利な事情として考慮されることが期待されます。
示談を申し出る
たとえ結果的に示談にいたらないとしても、示談を持ちかけることにはそれ自体で意味があります。
なぜなら、「被害者の許し」は得られてはいないものの、反省の態度を示しているという点で、示談が成立した場合には劣るとしても、処罰の必要性が多少なりとも低下しているといえるからです。
謝罪文(手紙)を書く
示談金を用意する資力がないとしても、せめて謝罪文を書いて反省の気持ちを伝えられるよう試みるべきです。
謝罪文を書くという行為も同様に、反省の態度の表れとして考慮されることが期待できるからです。
罪と向き合う
ある意味では、これがもっとも大切なことかもしれません。
それは、自身が犯した罪ときっちり向き合うことです。
これは上記の謝罪文にも関係してくる話ですが、自分の行動のどこに問題があったのか、被害者に対しどのような迷惑をかけたのか、今後同じ過ちを繰り返さないために自分はどうすべきなのか、といった点について、しっかりと自問自答することが大切です。
このような反省を経ないで表面的に謝罪の言葉を並べただけの謝罪文では、気持ちが伴っていないことがすぐに見抜かれてしまい、かえって被害者の感情を逆なですることにさえなりかねません。
何が問題で、今後それをどう改善していくのか、ということを自分の言葉で説明できるように整理しておくことは、今後の更生を考えるに当たっても、きわめて重要なプロセスといえるでしょう。
まとめ
刑事事件における示談の重要性についてご理解いただけましたでしょうか。
最後にもう一度、示談の意義を簡単にまとめてみます。
- 加害者が謝罪の意を示し、被害者がこれを受け入れ許しているという意味において、処罰の必要性を低下させる意義をもつ。
- 示談が成立している場合、検察官としても処罰の必要性がないと考え、不起訴処分とする方向に傾くが、最終的には社会に与える影響や前科の状況等をふまえての総合的な判断となるため、必ず不起訴になるとは限らない。
- 仮に起訴されたとしても、示談が成立していれば(あるいは成立していなくても、示談しようと試みただけであっても)判決において有利に考慮されることが期待できる。
- 以上のような有利な効果を確実に得るためには、刑事事件に精通した弁護士の協力が不可欠。
不起訴の判断を得るために示談の成立はきわめて重要な意味を持ちますが、その前提として、まずは加害者として自分の行動を省み、しっかりと反省することが何よりも大切といえるのではないでしょうか。
そのような気持ちが整った上で、被害者と示談をしたいということであれば、そこから先は交渉のプロである弁護士の仕事です。
示談交渉の経験が豊富な弁護士に依頼なされば、最善の解決に向けて全力のサポートが得られることでしょう。