無実とは? 無実の罪を着せられないためにどうすればいい?
無実とは、犯罪の嫌疑をかけられているが、実際にはその犯罪を行っていないことをいいます。
無実は、法的な概念というよりは日常用語に近く、一般的に使用されている言葉です。
ただし、無実は法的な概念ではないものの、たとえば「無罪」とは明確に区別されるなど、一般的な用語としての意味を考えることはできます。
この記事では無実に関して、その意味や無罪など似た言葉との違い、無実なのに逮捕されるケースやその際の対処法などについて、弁護士が解説します。
善良な一般市民であっても、無実の罪で逮捕・起訴される可能性もないわけではないため、その正確な意味を知っておくことは無駄ではありません。
無実について関心をお持ちの方は、ぜひ参考になさってください。
無実とは?
無実とは、犯罪の嫌疑をかけられているが、実際にはその犯罪を行っていないことをいいます。
慣用表現としては、「濡れ衣」といった言い方をされることもあります。
無実は、辞書的な意味でいえば「事実がないこと」を広く含む言葉ではありますが、特に犯罪事実がないことを指す用法で用いられることが多いです。
この記事でも、特に刑事事件における無実の意味を中心に解説していきます。
無実の意味
「無実」という言葉は、一般的な言葉としては、根拠となる事実や実質が無いという意味で使われます。
たとえば、名前ばかりで中身を伴わないことを「有名無実」などといいます。
このような一般的な意味からの派生で、特に犯罪の嫌疑に関して、犯行を疑われているが実際にはやっていないことを、犯罪事実が無いという意味で「無実」といいます。
無実の英語
無実は英語で”innnocent”といいます。
innocent は、汚れない、潔白といった意味の英単語であり、日本語の無実に相当する意味でも使われます。
法的には”not guilty”という表現もありますが、こちらは後ほど解説する「無罪」に当たる表現になります。
無実と無罪との違い
「無実」と似た言葉に、「無罪」というものがあります。
両者は意味も字面も似ていることから混同されがちですが、厳密には違った意味をもちます。
「無実」とは、これまでご説明してきたとおり、疑われている犯罪事実が存在しないという潔白のことをいいます。
この犯罪事実が存在しないというのは、犯行を行ったと疑われている人(容疑者)を基準としたものです。
つまり、被害申告が虚偽や勘違いであるケースのようにそもそも犯罪の事実それ自体が存在しない場合だけでなく、犯罪はたしかに発生したが、真犯人は別に存在し、容疑者とされている人物は犯人ではないという場合も、犯罪事実がないということになります。
他方で「無罪」とは、刑事裁判の手続きで犯罪事実について審理した結果、その事実の有無が判断できず無罪判決が出ることをいいます。
無罪のポイントは、「事実の有無が判断できない」というところです。
つまり、容疑者は犯人ではない(無実)と判断できた場合だけでなく、容疑者の犯行かもしれないが、確証までは持てないという「真偽不明」の場合も無罪となるのです。
「無実」が、容疑者が実際に犯行を行ったのか、すなわち真実がどうなのかという問題であるのに対し、「無罪」は裁判所として犯罪事実を認定するに至らなかったことを意味します。
すなわち「無罪」の中には、本当に容疑者が犯行を行っていなくて無罪となった「無実であり、かつ無罪」のケースと、実際には容疑者が真犯人であるが、そのことが裁判上認定できなかったという「無実ではないが無罪」のケースがあることになります。
無実と無罪は、一見すると同じことを意味するように思えるかもしれませんが、後者の例のように、無実と無罪が必ずしもイコールにならないケースがあり得ます。
そのため、両者を混同せずに意味の違いによって正しく使い分ける必要があるのです。
無実と冤罪との違い
「無実」と似た概念としてもうひとつ、「冤罪 (えんざい)」というものがあります。
「冤罪」は法令用語ではなく日常表現であるため、意味が法的に定義されているわけではありません。
そのため、やっていない犯罪の嫌疑をかけられるという、無実に近い意味で使用されることもありますが、一般的には、無実の罪によって罰せられることを指すことが多いです。
つまり、疑われている犯罪を実際には行っていないのが「無実」であり、無実であるにもかかわらず誤って有罪判決を受けることが「冤罪」ということになります。
無実の人に刑罰を科すことになる冤罪は、司法による重大な人権侵害として、絶対にあってはならないこととされています。
無実と不起訴との違い
不起訴とは、検察官が容疑者を起訴しないことをいいます。
不起訴の場合は刑事裁判自体が開始されないため、裁判所によって有罪・無罪を判断されることもありません。
検察官は、容疑者の性格や年齢、犯罪の状況といった事件に関する事情を総合的に考慮して、容疑者を処罰する必要性を吟味した上で、起訴・不起訴の決定をします(刑事訴訟法248条)。
犯罪の容疑者だからといってすべてを起訴するわけではないというこのような運用を、「起訴便宜主義」といいます。
このため不起訴には、容疑者が犯人ではない、すなわち無実と判断して不起訴とする場合だけでなく、証拠不十分の場合や、被害者の意向などを考慮し起訴を見送る場合など、様々なケースが存在します。
無罪の場合と同じく、不起訴についても、必ずしも容疑者が無実であるとは限らないということになります。
不起訴についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。
無実なのになぜ逮捕・起訴されるのか?
無実であっても、警察などの捜査機関に逮捕・起訴されることがないとはいえません。
無実での逮捕について
逮捕は、犯罪が疑われる場合に、容疑者の逃亡や証拠隠滅などを防ぐことを目的として、その身体を拘束するものです。
刑事裁判で有罪判決を出す際には犯罪事実の厳格な立証が求められるのに対し、容疑者を逮捕するのは捜査がこれからという段階であり、容疑はあるものの確定的ではないこともあります。
このため、犯罪の容疑者として逮捕したものの、 実際その人は無実だったといういわゆる誤認逮捕が生じることがあるのです。
当然ながら、このような誤認逮捕はあってはならないことではありますが、容疑が確定的でなくても行えるという逮捕の性質上、ときおり発生してしまうことがあります。
無実での起訴について
起訴については、検察官が証拠に照らして間違いなく容疑者が犯人であると確信できた場合に限り行われるのが基本です。
ただし、検察官の判断といえども常に正しいわけではなく、ときには誤って無実の人を被告人として起訴してしまうことがあります。
無実であるのに起訴されるケースとしては、物的証拠の価値や目撃証言の信用性などを検察官が過大に評価するような場合が考えられます。
たとえば、捜査機関が犯人の摘発を焦るあまり無理に捜査を進めたようなケースなどでは、一見証拠が固まっているように見えても、よく検討すると必ずしも容疑者の犯行を裏付けるものではない、といったことがあり得ます。
また、警察による捜査の段階で、強引な取り調べや自暴自棄になったなどの理由で、やっていないのにやったと自白してしまったような場合に、その記録を偏重して起訴されることも考えられます。
このように、無実であっても逮捕・起訴されることがないわけではないため、意味を正確に理解して無実の場合の対処法を知っておくことは有益といえるのです。
無実を証明するにはどうしたらいい?
無実を証明することは、ときに大きな困難を伴います。
相手は検察庁という専門的な国家的組織であるのに対して、こちらは一個人ですので、刑事裁判に対する経験値やマンパワーの点で大きな格差があります。
加えて、ある事実の「存在すること」を証明することに対して、「存在しないこと」の証明は非常に難しく、その困難さから「悪魔の証明」と呼ばれることもあります。
このように、無実を証明することのハードルはきわめて高いといえます。
そこで刑事裁判では、被告人の側で自らの無実を証明する必要はなく、検察官が被告人の有罪を立証できていなければ裁判官は無罪判決を出さなければならないとされているのです(刑事訴訟法336条)。
もっとも、無実を証明するためにできることがないわけではありません。
無実の証明を目指すときは、たとえば以下のようなことを検討します。
アリバイを証明する
一般的には無実の証明は困難であるといわれますが、アリバイを証明するという方法であれば、状況によっては可能なことがあります。
アリバイは日本語では「現場不在証明」といい、犯行時刻にその現場にいなかったということをいいます。
犯行時刻に別の場所にいたことを証明することができれば、必然的に犯行現場にはいなかったことになりますので、アリバイの証明となります。
特に近年では防犯カメラが多く設置されていますので、外出していればどこかに映像が残っている可能性があります。
また、だれかと一緒にいたのであれば、その人の証言によってアリバイが証明できることもあります。
他にも、たとえば電車に乗った際のICカードの乗車記録や、買い物をした際のレシートなど、一つ一つの証拠としては十分でないとしても、これらを積み重ねることによってアリバイの証明となることもあります。
無実の証明についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
刑事弁護に強い弁護士に依頼する
無実を証明する上では、刑事弁護に強い弁護士に依頼することがとても重要になります。
上記のとおり、無実を証明することは簡単ではなく、弁護を担当する弁護士にも高いスキルと豊富な経験が求められます。
刑事事件に強い弁護士は、無実を証明することがいかに困難であるかを深く理解しており、事案に即した丁寧な弁護活動が期待できます。
無実の証明を目指すのであれば、刑事事件に強い弁護士への依頼を検討することはとても重要といえるでしょう。
刑事事件における弁護士選びの重要性については、こちらの記事をご覧ください。
無実についてのQ&A
やっていないのに疑われる罪は?
無実なのに逮捕されたらどうすればいい?
無実の場合、取り調べに対しては黙秘することが有効ともいわれますが、適切な事件対応はあくまでケースバイケースとなります。
そのため、弁護士に具体的な状況を相談した上で対応を決められることをおすすめします。
まとめ
この記事では無実に関して、 その意味や無罪など似た言葉との違い、無実なのに逮捕される ケースやその際の対処法などについて解説しました。
記事の要点は、次のとおりです。
- 無実とは、犯罪の嫌疑をかけられているが、 実際にはその犯罪を行っていないことをいう。
- 無罪や不起訴は、裁判官や検察官の判断結果であり、実際に容疑者が無実であるかと必ずしもイコールではない。
- 無実を証明することは簡単ではないが、アリバイを明らかにすることで無罪を証明できることがある。
- 無実であるのに逮捕・起訴された場合は、刑事事件に強い弁護士に依頼するべきである。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか