無罪推定とは?推定無罪の原則の理由や条件について解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  

無罪推定とは、刑事裁判において、被告人は有罪判決が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければならないという原則のことをいいます。

無罪推定は、被告人の人権を守るための重要な考え方です。

普通の日常生活を送る中で意識する機会は少ないかもしれませんが、突然犯罪の嫌疑をかけられたり、裁判員に選任されたりといったことがないわけではありません。

そこでこの記事では、無罪推定について、その意味や根拠規定、果たしている役割、実際に無罪判決を得る上でのポイントを弁護士が解説します。

無罪推定とは?

無罪推定とは、刑事裁判において、被告人は有罪判決が確定するまでは無罪と推定される原則のことをいいます。

 

無罪推定の意味

無罪推定とは、刑事裁判において、被告人は有罪判決が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければならないという原則のことをいい、「推定無罪」と表現することもあります。

そもそも刑事裁判は、容疑者(被告人)が本当に起訴内容どおりの犯行を行ったのか、すなわち真犯人であるのかを審理・判断するために行われるものです。

まさにそれを審理している最中であるにもかかわらず、被告人があたかも犯人であるかのような扱いをしてしまうと、この人が犯人であるという先入観を生むおそれがあります

そのような先入観は、被告人を色眼鏡で見ることになり、十分な審理を尽くさずに有罪判決を出すことにもなりかねません。

有罪・無罪の結論が判決として出るまでの間は、まだ被告人が真犯人かどうか分からないため、罪人ではなく一般市民、つまり罪を犯していない人として扱わなければならないというのが、無罪推定の考え方です。

 

「疑わしきは被告人の利益に」とは?

無罪推定に関連して、「疑わしきは被告人の利益に」という原則もあります。

これは、刑事裁判の中において、「疑わしいが確実とまではいえない」という事実があった場合には、被告人にとって有利となる方に認定しなければならないという原則であり、「利益原則」とも呼ばれます。

裁判官は、「有罪のようにも思えるが、確証はもてない」という心証を抱いたのであれば、疑わしきは被告人の利益にという原則に従って、無罪判決を出さなければなりません。

このことは、有罪の立証責任は検察官が負っているということもできます。

起訴された被告人は、自らの無実を積極的に証明する必要はなく、検察官が有罪の立証に成功しない限りは無罪判決を受けることになるのです。

 

なぜ「無罪推定の原則」が採用されているのか

無罪推定の原則は、公正な裁判によって人権擁護を実現するための原則といえます。

刑罰は国家によって科される大変重たい処分ですので、「たぶん」や「だろう」といったあやふやな根拠で有罪判決を出すことは許されません。

誤って無実の人を罰すること、すなわち冤罪(えんざい)は重大な人権侵害であり、絶対にあってはならないのです。

少し固い表現ですが、「無辜 (むこ) の不処罰」という言い方があります。

「無辜(むこ)」とは、真犯人ではない無実の人のことを指します。

推定無罪を徹底すると、中には真犯人に対して無罪判決を出すというケースが生じることも想定されますが、誤って無実の人を罰することに比べればまだその方がよいと考えられているのです。

このことは、「たとえ10人の真犯人を逃すことになっても、1人の無実の人を処罰してはならない」と表現されることもあります。

無罪推定や利益原則は、無辜の不処罰を実現するための重要な原則なのです。

 

無罪推定の根拠

無罪推定は、冤罪を防止し国民の人権を守るための重要な原則ですが、これは単なる理念ではなく、法律をはじめとする各所に根拠規定が存在しています。

 

世界人権宣言

世界人権宣言は、1948年に国際連合総会で採択された、人権に関する世界的な宣言です。

同宣言の11条1項は、「犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。」として無罪推定の原則を定めています。

引用:世界人権宣言|外務省ホームページ

世界人権宣言は総会決議であり、それ自体が直接に加盟国を拘束するものではないとされます。

ただし、その趣旨を踏まえた人権規約のひとつとして「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(b規約)が具体化されており、その14条2項においても無罪推定の原則が定められています。

参考:市民的及び政治的権利に関する国際規約|外務省ホームページ

こちらは条約として法的拘束力を有するため、無罪推定の原則は国際法のレベルで根拠を有しているといえます。

 

憲法

日本国憲法では、直接的に無罪推定という言葉は使われていませんが、その精神を反映した条文が存在します。

たとえば、31条は「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由をはれ、又はその他の刑罰を科せられない。」と定めています。

引用:日本国憲法|電子政府の総合窓口

また、37条1項は「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と定めています。

これらを総合すると、国民には裁判を受ける権利が保障されており、裁判によらない限りは刑罰を科されない、つまり有罪と扱われることはないという意味で、実質的に無罪推定を要求していると見ることができます。

 

刑事訴訟法

刑事訴訟法は、刑事事件の捜査や刑事裁判の手続きについて定めた法律であり、無罪推定の考え方に基づく規定が存在します。

たとえば、336条は「被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。」と定めています。

犯罪の証明がない限りは無罪となるということですから、これらの規定は無罪推定の考え方を反映したものということができます。

 

 

どのような場合に有罪と判断できるのか

刑事訴訟法の条文をご覧いただいたとおり、刑事裁判で有罪となるのは、犯罪の証明があったときです。

そこで、どの程度の確証が得られれば「犯罪の証明があった」といえるのかが問題となります。

被告人を有罪とするために必要な「犯罪の証明」の程度としては、判例上、「合理的な疑いをさしはさむ余地のない程度の立証が必要」とされています。

参考判例:最判平成19年10月16日|最高裁ホームページ

つまり、被告人が犯人であることにつき疑いが残っているとしても、その疑いが合理的なものでないのであれば、有罪の立証を妨げないということです。

疑いが合理的か否かは、健全な社会常識に照らして判断されます。

たとえば、DNA鑑定の結果が証拠として存在する場合に、被告人が「自分には生き別れになった双子の兄弟がいる」と主張した場合を考えてみます。

理論的には、双子の兄弟と生き別れになることもあり得ない話ではないため、100パーセント虚偽であるとまでの断定はできないかもしれません。

しかし、そのような事態はきわめて確率の低いものであり、ましてやその兄弟が偶然今回の犯行を行ったとなると、常識的にはほとんど無視できるほどの稀な事象と多くの方が考えるのではないでしょうか。

このような不合理な疑いをすべて排除することを検察官に要求していては刑事裁判が成り立ちませんので、合理的な疑いが残らなければそれで立証としては足りるとされているのです。

 

 

無罪推定の原則は機能していない!?

以上のように、無罪推定の原則は刑事裁判による人権侵害を防止するための重要な考え方ですが、十分に機能していないという指摘がしばしばあるようです。

その背景には、次のような事情があると考えられます。

 

有罪率の高さ

日本の刑事裁判における有罪率は非常に高く、統計的には99.9パーセントを超えています。

これは、検察官において有罪立証できる可能性を精査した上で起訴を行っているからであり、何でもかんでも有罪にしているというわけではありません。

ただし、そのような事情は広く知られているわけではないため、有罪率の数字を表面的に見た結果、裁判官が有罪と決めつけた上で裁判を行っているという印象で捉えられてしまうケースがあるようです。

 

報道の問題

刑事事件で容疑者として逮捕されると、まるで犯人と決まったかのような扱いで報じられてしまうのが現状です。

無罪推定の原則は刑事事件における取り扱いに関するものであり、直接的には報道の在り方を規制するものではありませんが、法的には無罪と推定されている段階の人物を犯人扱いで報道するのが適切であるかは、議論の余地があるでしょう。

世間の注目を集めたいがために配慮を欠いた報道が常態化してしまうと、無罪推定の原則が機能していないという見方につながる可能性もあるのではないでしょうか。

 

 

無罪を争うポイント

無罪を争うポイント

刑事事件で起訴された場合、判決が出るまでは無罪と推定される一方、実際の判決では99パーセント以上の割合で有罪となります。

そのような厳しい戦いの中で無罪を争う上では、次のようなポイントがあります。

 

罪を認めない

無実の罪であれば、絶対に罪を認めてはいけません

無実を主張すると、警察官や検察官などの捜査機関は執拗に、ときには暴言を用いて無理やり自白を得ようとすることがあります。

捜査機関の過酷な取り調べによって、精神が強い人でも諦めてしまい、自白してしまうケースがあります。

自白をすると、捜査機関にとって都合が良い供述調書が作られます。

この自白の供述調書にサインをしてしまうと、無実を証明することが難しくなります

自白の供述調書は、刑事裁判において有罪の証拠として提出されるからです。

刑事裁判において、供述調書に書いてある内容が事実と異なるものであると主張しても、裁判官が信じてくれない可能性が高いです。

したがって、無実であるのであれば、捜査段階において罪を認めないようにすることが重要です。

 

合理的な疑いを主張する

疑わしきは被告人の利益にという原則のもと、検察官が有罪を立証しない限り、裁判官は無罪判決を出すことになります。

有罪を立証するということは、被告人が犯人であることについて合理的な疑いを残さないということでした。

すなわち、被告人の側で積極的に無罪を立証する必要はなく、真偽が定かではないという状態であればそれで無罪判決となるのです。

もちろん、無罪を立証できるのであればそれでも良いのですが、実際は検察官の主張が誤りであることを弁護側で証明する必要はなく、「それ以外の可能性も否定できない」といえればそれで足りるのです。

もっとも、不合理な弁解は裁判では通用しませんので、弁護士と相談の上、被告人が有罪とは言い切れない(合理的な疑いが残っている)ことを丁寧に主張する必要があります。

無罪の立証についての詳しい解説は、こちらの記事をご覧ください。

 

アリバイを主張する

「捜査機関が主張する犯行時刻に何か他のことをしていた」などのアリバイがあれば、その事実を主張しましょう。

その際、アリバイを裏付ける証拠を提出することがポイントとなります。

例えば、防犯カメラの映像、一緒にいた方の証言、領収証やレシート、スケジュール帳などが考えられます。

 

刑事事件に強い弁護士に依頼する

刑事事件で無罪を争う上では、刑事事件に強い弁護士に依頼することが重要です。

刑事事件で無罪判決が出ることは統計的に見ると非常に珍しいケースといえ、無罪を獲得するには、刑事事件に強い弁護士による丁寧な弁護活動が不可欠です。

その中には、証拠の収集・保全のように迅速さが求められるものや、主張の組み立てなどの高いスキルを必要とするものなどが少なくありません。

そのため、刑事事件で無罪判決の獲得を目指すのであれば、刑事事件についての高い専門性と豊富な経験を有する弁護士に依頼することが重要となるのです。

刑事事件における弁護士選びの重要性については、こちらをご覧ください。

 

 

無罪推定についてのQ&A

無罪推定と推定無罪に違いはありますか?

基本的には、両者はほとんど同じ意味で使われています

どちらかといえば「無罪推定」の表現が多く用いられている印象もありますが、推定無罪といっても意味は伝わりますので、誤りではありません。

 

 

 

まとめ

この記事では、無罪推定について、その意味や根拠規定、果たしている役割、実際に無罪判決を得る上でのポイントを解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 無罪推定とは、刑事裁判で被告人は有罪判決が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければならないという原則のことであり、人権保障のための重要な原則である。
  • 無罪推定の原則は国際人権規約や日本国憲法、刑事訴訟法など随所に法的根拠をもつ。
  • 刑事裁判では検察官が有罪の立証責任を負っており、有罪について合理的な疑いが残っている状態であれば無罪判決となる。
  • 刑事事件で無罪を争うためには、刑事事件に強い弁護士に依頼することが重要である。

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