執行猶予とは?弁護士がわかりやすく解説!
執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予することができる制度のことをいいます。
刑事事件で、「被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する」というような判決が出ることがあります。
これを執行猶予付きの判決といいます。
執行猶予の期間は、裁判所が定めており、1年〜5年の間です。
執行猶予がつけば、有罪判決であっても刑務所に入らずに済み、通常の社会生活を送ることができます。
さらに、猶予期間を無事に経過すると裁判官からの刑の言渡しの効力は無効になります。
この記事では、執行猶予の趣旨・目的、執行猶予がつく条件などを解説します。
執行猶予とは
執行猶予の趣旨とは?
執行猶予とは、有罪判決による刑の執行を一定期間猶予することができる制度のことをいいます(刑法25条)。
引用元:刑法 | e-Gov法令検索
執行猶予の趣旨・目的は、
- ① 刑事責任が比較的軽い者について、
- ② 刑務所に服役するデメリット(刑務所内での悪風感染や社会復帰の困難化)を回避するとともに、
- ③ 判決の感銘力や執行猶予取消しの威嚇によって、社会内での自発的な更生を促し、再犯を防止する
といった点にあるとされています。
執行猶予がつく割合は?
起訴されて、第1審で執行猶予がつく割合は、約60~65%の範囲で推移しています(令和4年の全部執行猶予率は64.2%でした)。
参考:令和5年版犯罪白書
執行猶予がつくとどうなるの?
執行猶予の期間は、1年から5年の間で、裁判所が定めます。
執行猶予がつけば、有罪判決であっても、刑務所に入らずに済み、通常の社会生活を送ることができます。
そして、猶予期間を無事に経過すると、刑の言渡しの効力は失われます。
【具体例】懲役3年、執行猶予5年の場合
例えば、前刑で「被告人を懲役3年に処する。この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する」という判決を受けたとします。
この場合、懲役3年という有罪判決を受けていますが、5年の執行猶予がついています。
したがって、刑務所に入る必要はありません。
そして、猶予期間である5年を無事に経過すると、刑の言い渡しの効力が失われます。
しかし、猶予期間中に再び犯罪(=再犯)を犯し、これについて懲役刑・禁固刑の判決を受ければ、「再度の執行猶予」がつかない限り、執行猶予が取り消されて、前刑と再犯の刑が併せて執行されることになります。
再度の執行猶予とは
再度の執行猶予とは、現在執行猶予中の者が再度、刑の執行を猶予されることをいいます。
再度の執行猶予が認められる条件は厳しく、量刑が1年以下の懲役・禁錮刑であることが必要となります。
上記のケースでは、5年の猶予期間中に再犯を犯し、再犯について「被告人を懲役1年に処する」という判決を受けた場合、前刑の執行猶予が取り消されて、3+1=4年間の懲役刑が執行されるということになります。
執行猶予が取り消される割合
猶予期間中に再犯を犯して執行猶予が取り消される割合は、約10%です(令和4年は10.5%でした)。
なお、執行猶予と同時に「保護観察」がつけられる場合もあるのですが、この場合には取り消される可能性が高くなり、約25%となります(令和4年は26.2%でした)。
参考:令和5年版犯罪白書
執行猶予がつくとどうなるかについては、以下ページに詳しく解説しています。
執行猶予がつく条件
執行猶予の条件
執行猶予の条件は、刑法25条1項で次のように定められています。
①ⅰ禁錮以上の刑に処せられたことがない者、又は、ⅱ禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終えた日から5年以上が経た者に対して
②ⅰ3年以下の懲役・禁錮、又は、ⅱ50万円以下の罰金を言い渡す場合
引用元:刑法|e−GOV法令検索
執行猶予がつく可能性のある犯罪
執行猶予がつく可能性があるのは、「3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金を言い渡す場合」です。
殺人罪の刑は最低でも「5年以上の懲役」とされていて、執行猶予をつけることができないと思われるかもしれません。
しかし、酌量減軽という処理が行われれば、「2年6月以上の懲役」となり、執行猶予の対象となります。
同じく、殺人罪より重い強盗致傷罪も、最低でも「6年以上の懲役」なのですが、酌量減軽が行われれば、「3年以上の懲役」となり、執行猶予をつけることが可能となります。
このように、執行猶予は、理論上、ほとんどの犯罪につけることができます。
重要な「情状」
これまでお伝えしたのは形式的な条件です。
形式的な条件をすべて満たしたとしても、実際に執行猶予をつけるかどうかは、「情状」によって判断されます。
情状は、犯情と一般情状に分かれます。
犯情とは、犯罪行為そのものに関する事情です。
被害の重大性、行為態様、犯意の強さ、計画性、犯行に至る経緯・動機などをいいます。
また、一般情状とは、反省態度、再犯のおそれ、更生の見込みなどをいいます。
例えば、万引きをしたけれども示談をしたというような場合、示談によって、被害の重大性が回復され、反省態度が示されていると判断してもらえることとなります。
執行猶予がつく条件については、以下ページをご覧ください。
よくある質問
執行猶予と保護観察はどう違うのですか?
執行猶予と同時に保護観察にも付するかどうかは、原則として、裁判所の裁量で決定されます。
ただし、執行猶予を受けた者が再犯を犯し、再犯について猶予期間中に刑を言い渡す際に、再び執行猶予を付ける「再度の執行猶予」をつける場合には、必ず保護観察にも付されます。
保護観察に付された場合、猶予期間中、保護観察官や保護司と面談しなければならず、そこで指導監督や補導援護が行われます。
指導監督では、個別に決められたルール(健全な生活の保持、犯罪性のある者との接触や過度の飲酒等の禁止、労働従事など)に従って生活しているかの確認が行われます。
また、補導援護では、自立した生活を営むために、住居・医療・就職の支援などが行われます。
保護観察に付されれば、保護観察中に再犯を犯した場合には再度の執行猶予を受けることができない(必ず実刑となる)、個別に決められたルールに違反した場合には執行猶予が取り消される可能性がある、といった不利益があります。
その意味で、単純な執行猶予よりも重い処分であるといえます。
なお、執行猶予と同時に保護観察にも付せられる割合は、約10%です(令和4年は6.2%でした)。
参考:令和5年版犯罪白書
執行猶予が終わったら前科は消えますか?
猶予期間を無事に過ごせば、刑の言渡しの効力が失われるとされています。
したがって、法律上は、前科が消える(前科がなかった)という取扱いがなされます。
しかし、実際問題として、前科の記録(執行猶予付きの判決を受けたという記録)が消えることはありません。
したがって、仮に再び犯罪を犯した場合には、猶予期間を無事に過ごして前刑の言渡しの効力が失われた後でも、前科があることを考慮されて、前科がない場合に比べて重い判決を受ける可能性があります。
まとめ
執行猶予は、1~5年の猶予期間を定めて、社会の中での更生を行わせるための制度です。
刑法で、執行猶予がつくための条件が定められており、その中でも特に情状が重要です。
条件を満たした場合に執行猶予がつく割合は、約50~60%です。
この記事が執行猶予について関心がある方のお役に立てれば光栄です。