量刑はどのように判断されますか?【弁護士が解説】
量刑とは
刑事裁判において、「量刑」という言葉が使われるのを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
量刑とは、刑事裁判にかけられている被告人の、犯罪行為にふさわしい刑事責任を明らかにすることと定義されます。
罪を犯した場合にどのような刑を科されるかについては、法律において規定されています(法定刑)。
科される刑罰の重さには、法律で決められた幅があります。
同じ名前の罪を犯した場合でも、科される刑の重さは、その事件の軽重やその他の様々な事情に応じて、その幅の中で決められます。
すなわち、裁判において現れた全ての事情をもとに、犯してしまった罪の重さに応じて、法定刑の幅の中でどのような刑罰を与えるのが適切であるかを判断するのが、量刑を決めるということなのです。
例えば、窃盗罪の場合、刑法第235条において、「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」と規定されています。
つまり、窃盗罪を犯した場合、(1ヶ月以上)10年以下の懲役又は(1万円以上)50万円以下の罰金という幅の中から、どのような刑を科すのかが決定されます。
100円のジュースを万引きしたという窃盗事件の被疑者・被告人と、数億円相当の金塊を盗んだ窃盗事件の被疑者・被告人に対し、同じ刑を科すのが妥当な結論とはいえないことは明らかでしょう。
量刑の判断基準
量刑の判断において、重要とされているものとして以下のものが挙げられます。
犯罪の動機
犯罪結果の重大性
被告人の性格
被告人の一身上の事情
被告人の前科前歴
被告人の反省
被害者処罰感情(示談成立の有無、被害弁償の有無)
社会の処罰感情
社会的影響
社会的制裁
これらの事情の中でも、量刑判断を行う上でとりわけ重要とされるのは、犯行方法及び犯行態様の悪質性、犯罪結果の重大性、犯罪の動機の3つです。
これらは、「犯情」と呼ばれる事情であり、量刑を決める裁判官は、その他の事情である「一般情状」よりも、この「犯情」に該当する事実を重視します。
犯行方法及び犯行態様の悪質性
犯罪の方法及び犯行態様の「悪質性」は、残忍性、執拗性、危険性、巧妙性、反復性等から総合的に判断されるものです。
例えば傷害罪においては、平手で肩を叩く行為もあれば、ナイフで顔面を切りつける行為もあります。
一度だけの攻撃にとどまる場合もあれば、数10回攻撃を繰り返し多くの怪我を負わせる場合もあります。相手の抵抗を許すような方法での攻撃もあれば、夜間に背後から襲い反抗を許さないような攻撃もあります。
悪質性が高ければ高いほど、処罰の必要性は大きいと判断され、重い刑に科されることになります(傷害罪であれば、1ヶ月の懲役から15年の懲役まで幅がありますが、犯行方法及び犯行態様が悪質であればあるほど、15年の懲役に近づいていきます)。
犯罪結果の重大性
先の例でいうと、100円のアイス万引きの被害は100円(原価で考えるとさらに安い)ですが、金塊窃盗の被害は約7億円です。
100円のアイス万引きが被害者に与える影響は小さいものですが、金塊窃盗の被害は、計り知れないものでしょう。
全治10日の打撲と顔に一生残ってしまうナイフの傷跡も同様に考えることができます。
また、被害者が多ければ多いほど、処罰の必要性も大きくなるでしょう。
例えば、殺人罪においては、複数人を殺害した場合に死刑の確率が大幅に上昇します。
犯罪の動機
被告人がなぜ罪を犯してしまったのか、という動機の内容についても、量刑判断においては大きな意味を持ちます。
「誰でもよかった」という無差別での殺人と、「長期にわたって親の介護を続け、精神的に疲弊して無理心中を図った」という経緯があっての殺人とでは、前者の方がより厳しい刑罰が下される可能性は高まるでしょう。
当然ながら、いかなる経緯があったとしても、犯罪行為は許されるものではありません。
しかし、他にどうすることもできなかった、もしくはそう考えてしまうほどに精神的・身体的に追い込まれていたというような事情が存在する場合、そうした事情は十分に考慮されなければならないのです。
量刑を有利にするには
刑事裁判において、量刑に関する判断を少しでも有利に導くためには、犯行方法及び犯行態様の悪質性、犯罪結果の重大性、犯罪の動機という3つのポイント、すなわち犯情につき、弁護側の主張を十分に考慮してもらう必要があります。
- 犯行態様につき、検察官が主張するほどの危険性はないこと
- 生じた結果はさほど重大とまではいえないこと
- 動機に酌量の余地があること
など、その事案が同種の事案と比較してそこまで重大なものではない、という主張を行います。
一方で、一般情状についても主張を行う必要があります。
- 被告人が深く反省していること
- 被害者との間で示談が成立していること
- 被告人が今後心療内科での治療を受ける意向を示していること
などといった事情を積み重ねていくことで、最終的な量刑をより軽い方向に調整していく、ということになります。
犯情については、自身が過去に行なってしまった事実であり、後から変更を加えることはできません。
しかし、こうした一般情状については、自身の行為を振り返って反省し、再犯防止に向けてどのような対策を取っていくかなどといった、未来のことについての主張が可能です。
二度と再犯に及ぶことはないという決意を裁判官に理解してもらうことができれば、量刑につき有利な判断がなされることも期待できるといえます。
私選弁護人の勧め
量刑は、弁護側が全力かつ適切な弁護活動を早期から展開しなければ、不当に重いものとなってしまいます。
私選で弁護士を選任することで早期からの充実した弁護活動を期待することができます。
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まとめ
いかがでしたでしょうか。
量刑を少しでも有利なものにしていくためには、裁判に向け綿密な打ち合わせを行った上で、情状に関しても説得的な主張を行い、量刑面で考慮してもらえる可能性を高めていかなければなりません。
もちろん、罪を犯してしまったことは反省しなければいけませんし、そのために適正妥当な刑に服していただくことは必要です。
しかし、不当に重すぎる刑が科されることは、被告人の人権を侵害するものであり、許されません。
裁判の中で自身がしてしまった行為と真摯に向き合い、判決に納得することができて初めて、更生に向け新たな一歩を踏み出せるのではないでしょうか。
そのためには、被告人が抱えていた事情などもしっかりと法廷に届け、裁判官に理解してもらうことが必要不可欠です。
裁判の見通しや、自身に言い渡される判決の量刑にご不安がおありの方は、ぜひ一度、刑事事件に注力する弁護士にご相談ください。