保釈とは?【弁護士が解説】
保釈とは、勾留という直接の身体拘束に代えて、保釈保証金の納付を条件として課した上で、被告人の身体を釈放する裁判・執行のことをいいます。
以下、保釈の注意点やポイントを詳しく解説いたします。
目次
保釈とは
保釈とは、簡単に言うと、保釈金を支払ってもらうことと引き換えに、被告人の身体を解放することです。
第八十八条 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。
引用元:刑事訴訟法|電子政府の窓口
被疑者(起訴前)については、現行法上保釈は認められていません(同法第207条ただし書き)。
保釈は何のためにあるの?
ホームページをご覧になられている方の中には、何故犯罪者に保釈を認める必要があるのか、と感じる方もいらっしゃると思います。
しかし、刑事被告人は、有罪の判決を受けるまでは、無罪と推定されています。
したがって、裁判が確定するまでは、できる限り、身体の拘束を避けるべきです。
保釈の制度は、この無罪推定の原則という考えが背景にあります。
保釈の手続きの流れ
保釈の条件とは?
保釈には2種類あります。
権利保釈(刑訴法第89条)と裁量保釈(刑訴法第90条)です。
権利保釈について
権利保釈とは、以下の6つの例外事由に当てはまらないことを条件として釈放されることをいいます。
いずれの事由にも当てはまらなければ、必ず保釈が認められることから「権利」保釈と呼ばれています。
- ① 被告人が死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
- ② 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
- ③ 被告人が常習として長期3年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
- ④ 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- ⑤ 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- ⑥ 被告人の氏名又は住居が分からない時
権利保釈と言っても、なかなか保釈は認められていないのが現状です。
保釈率
2019年の5万1106人であったところ、1万6783人であり、保釈率は全体の約33%でした。
引用元:司法統計|最高裁判所
2009前の保釈率が16%程度であったことと比較すれば、大幅に改善されていますが、欧米諸国と比べるとまだまだ低い水準です。
弁護人が保釈に向けた有利な証拠を収集し、説得的な保釈請求書を作成することで、保釈許可の可能性を高める必要があるでしょう。
裁量保釈について
裁量保釈とは、上記の権利保釈が認められない場合に、裁判所が裁量で釈放することをいいます。
刑訴法第90条に「裁判所は、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」という規定があります。
裁量保釈が認められるためには、権利保釈が認められない理由(何号に該当するのか)を適切に把握した上で、保釈を許しても実際上の弊害がないことを説得的に論じる必要があります。
保釈金とは
裁判所は、保釈を許す場合、必ず、保釈金(保証金額)を定めなければならないことになっています(刑訴法93条1項)。
保釈金は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければなりません(同2項)。
実務上は、上記の他に、被告人の生活環境、身元引受人の有無、他事件との均衡などが考慮されています。
現実の問題として、被告人ご本人やそのご家族が調達できる金額でなければ、保釈を許可されても不許可になったのと同じ結果となります。
したがって、弁護人は、担当裁判官と面接する際に、被告人側が準備できる金額の範囲内で許可が得られるように努力しなければなりません。
なお、保釈金は、釈放してもらうことの対価ではなく、逃亡等を防止するための保証金です。
したがって、判決の言い渡しを受けた場合、無罪の場合はもちろん、有罪だったとしても全額が返金されます。
保釈と釈放との違い
釈放とは、刑事施設に収容されている受刑者・被疑者・被告人などの身柄の拘束を解くことをいいます。
保釈と異なり、被告人に限定されていません。
また、保証金を支払う必要もありません。
保釈のメリットとは?
保釈されると、基本的には自由に社会生活を送ることができるようになれます。
すなわち、ご家族とも一緒に生活できますし、会社や学校に行くことも可能です。
ただし、保釈の場合は、裁判所が保釈の条件として、住居の制限、その他の条件が付されることもあります。
また、刑事裁判のための弁護士との打ち合わせもしやすくなるので、十分防御をした上で、裁判に臨めるようになります。
保釈後の生活
上記のとおり、自宅で生活したり、会社等に通勤することも可能です。
ただし、保釈条件としては、下記のような制限がなされることが通例です。
- 逃亡しない
- 証拠隠滅を行わない
- 刑事裁判を欠席しない
- 事件関係者と接触しない
- 海外旅行や3日以上の旅行をする場合裁判所の許可を得ること
保釈条件に反すると、当然、保釈は取り消されます。
また、保釈金の全部又は一分が没収されてしまうので注意してください。
保釈に期間はある?
保釈の期間は、当該審級の裁判が終わるまでです。
第一審の裁判での保釈であれば、その裁判が終わるまでとなります。
実刑となるとどうなる?
第一審で、禁錮以上の刑に処する実刑判決の言い渡しがあった場合、保釈が失効して直ちに収容されることになります。
執行猶予や罰金等の裁判を予想していても、その予想に反して実刑判決の宣告があるケースも想定されます。
そのため、万一の場合に備えて、再保釈請求の準備を進めておくべきでしょう。
まとめ
以上、保釈について、詳しく解説しましたがいかがだったでしょうか。
保釈は、認められれば基本的には逮捕前の生活に戻れるため、ご本人のご負担を大幅に軽減できます。
また、刑事裁判の打ち合わせ等もしやすくなるため、とても重要な制度です。
しかし、保釈が認められるためには、その要件に該当することを説得的に主張する必要があります。
また、保釈金が高額にならないようにしなければなりません。
そのため、保釈についてご心配な方は、刑事事件専門の弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
この記事が刑事事件でお困りの方にとってお役に立てれば幸いです。