略式起訴の罰金の相場はいくら?弁護士が解説!

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

 

略式起訴とは?

略式起訴とは、比較的軽微な事件につき、裁判官が裁判を開くことなく、書面のみによる審査を行い、100万円以下の罰金又は科料のうちいずれかの処分を決定する、簡略化された刑事手続です。

略式起訴により、罰金刑が相当であると裁判官が判断した場合、裁判官は罰金額を明示した「略式命令」を出します。

この略式命令は、身体拘束を受けている被疑者に対しては直接交付により、在宅の被疑者に対しては郵送により、それぞれ渡されることになります。

後日、検察庁から郵送される納付告知書を使用し、指定された金融機関か検察庁の窓口において現金で納付することで、刑事手続が全て終了することとなります。

 

 

略式起訴の罰金の相場は?

それでは、略式起訴となった場合の罰金刑の相場はどれくらいなのでしょうか。

罰金刑の金額は成立する犯罪によって異なります。

そのため、以下、犯罪ごとの法定刑を見てみましょう。

1. 傷害罪

傷害罪の法定刑は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっており(刑法204条)、事案によって刑の重さにかなりの幅があります。

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暴行の内容や怪我の程度にもよりますが、略式起訴による処分がなされる事案においては、概ね20万円から30万円程度の罰金となるケースが多いようです。

もっとも、傷害罪の場合、相手に対し、概ね全治1ヶ月程度を超えるような重傷を負わせてしまった場合は、略式起訴ではなく、公判請求がなされる可能性が高まります。

 

2. 暴行罪

暴行罪の法定刑は、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料となっています。

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暴行罪は、傷害罪と異なり、相手方が怪我をしていないことが前提となっています。

怪我をしない程度の暴行を加えたということで、暴行の内容自体、傷害罪の場合よりも軽微であることが多いです。

そのため、罰金額は傷害罪よりも低額になることが多いといえます。

具体的には、概ね10万円から20万円程度の罰金刑が科されることが多いようです。

 

3. 窃盗罪

窃盗罪の法定刑は、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっており(刑法204条)、こちらも傷害罪と同様、事案によって刑の重さが大きく異なります。

刑の重さは、盗まれた物の被害総額がどの程度か、どのような手段で盗んだかなど、様々な事情により左右されます。

窃盗罪のうち、略式起訴での処理がなされやすいのは、被害額がさほど高額ではない万引きのケースです。

万引きによる被害額が数百円〜数千円程度であれば、略式起訴が選択される可能性は十分にあるといえるでしょう(前科・前歴がある場合を除きます)。

略式起訴によって処理される事案では、概ね20〜30万円程度の罰金刑となるケースが多いようです。

他方、空き巣やひったくりなど、より悪質な手段を用いているか、被害額が高額である場合は、公判請求され、正式に裁判を受けるケースが多くなります。

 

4. 迷惑行為防止条例違反

いわゆる痴漢や盗撮については、都道府県ごとの迷惑行為防止条例によって罰則規定が異なります。

福岡県の場合、痴漢や盗撮を行った場合の罰則は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています。

初犯の場合はこれらの犯罪も、略式命令による罰金刑で処理されることが多いといえます。

具体的には、概ね20〜30万円程度の罰金刑となるケースが多いようです。

 

5. 公然わいせつ罪

公然わいせつ罪については、実際に被害者の身体を触ったり、撮影行為を行なったりといった、直接的な被害は生じていないことが前提となります。

そのため、罰金額は痴漢や盗撮の事案に比べて、やや低くなる傾向があります。

事案にもよりますが、概ね10〜20万円の罰金刑が科されるケースが多いようです。

 

6. 器物損壊罪

器物損壊罪の法定刑は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料とされています。

基本的には、前科等がなく、壊してしまった物につき被害弁償がなされているような場合、起訴猶予処分となるケースが多いですが、被害弁償ができていない場合、概ね10万円〜20万円の範囲での罰金刑となるケースが多いようです。

 

7. 酒気帯び運転

酒気帯び運転の法定刑は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。

一般的に、酒気帯び運転の事案においては、運転中に事故を起こしていたり、スピード違反や通行区分違反、無免許運転といった、別の交通法規違反も同時に犯していたりと、複数の罪が成立するケースが多いです。

このような場合は、略式起訴ではなく公判請求がなされ、正式な裁判が開かれる可能性が高まりますが、単純な酒気帯び運転のみの事案の場合、初犯であれば略式起訴により終了するケースもしばしば見られます。

この場合の罰金額は、概ね30万円前後となるケースが多いようですが、呼気検査により検出されたアルコールの数値によっては、事案が悪質であると評価され、さらに高額になる可能性もあります。

 

8. 無免許運転

無免許運転の場合の法定刑も、酒気帯び運転の場合と同じく、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金とされています。

この場合も、無免許運転以外に交通法規違反が見られないようであれば、略式起訴により終了する可能性があります。

この場合の罰金額は、概ね30万円前後になると考えられます。

罪名 罰金額の目安
傷害 20〜30万円程度
暴行 10〜20万円程度
窃盗(万引き等) 20〜30万円程度
迷惑行為防止条例違反(痴漢・盗撮) 20〜30万円程度
公然わいせつ 10〜20万円程度
公務執行妨害 20〜30万円程度
器物損壊 10〜20万円程度
酒気帯び運転 30万円前後
無免許運転 30万円前後

※あくまで参考であり、実際に言い渡される金額は異なる可能性があります。

 

 

略式起訴で罰金刑になった場合の支払いの流れ

次に、略式起訴となる事件の、捜査から罰金の支払いまでの流れを見ていきます。

 

罰金刑が科されるまでの流れは、以下の図のとおりです。

 

事件が発覚した後、まずは警察による捜査が行われます。

その後、事件が検察庁に送致され、検察官からも事情を聞かれたりすることになります。

そして、検察官が略式起訴によることが相当であると判断した場合、検察官は被疑者に対し、略式起訴の制度について説明を行い、被疑者が略式起訴で事件処理を進めることに同意すれば、略式起訴によって事件処理を行うことについての同意書を作成します。

この同意書に被疑者が署名・押印を行うと、検察官は手持ち証拠の中から必要な物を選別し、裁判所に提出します。

裁判所が、証拠を精査した上で、略式手続による罰金刑が相当な事案であると判断すれば、裁判所から被疑者に対し、略式命令を出します。

この略式命令というのが、通常の刑事事件でいうところの判決であるとイメージしていただければと思います。

略式命令が出されれば、裁判所から、略式命令謄本という書類を受け取ることになります。

その後、検察庁から納付告知書が届きますので、これを使用し、指定された金融機関や検察庁の窓口で罰金を支払うことになります。

 

罰金はいつ支払う?

それでは、略式起訴による罰金刑となった場合、いつ罰金を納付すればいいのでしょうか。

 

原則として、略式起訴によったとしても、通常の裁判と同様、裁判所の決定(判決)が確定しない限り、刑の執行はできません。

そのため、正式な支払時期は、「略式命令が確定した時」以降となります。

略式命令が確定するのは、略式命令の告知を受けた日の翌日から起算して14日後となります(刑事訴訟法465条1項、470条、55条)。

刑事訴訟法465条1項、470条、55条

第四百六十五条 略式命令を受けた者又は検察官は、その告知を受けた日から十四日以内に正式裁判の請求をすることができる。

第四百七十条 略式命令は、正式裁判の請求期間の経過又はその請求の取下により、確定判決と同一の効力を生ずる。正式裁判の請求を棄却する裁判が確定したときも、同様である。

第五十五条 期間の計算については、時で計算するものは、即時からこれを起算し、日、月又は年で計算するものは、初日を算入しない。但し、時効期間の初日は、時間を論じないで一日としてこれを計算する。

引用元:刑事訴訟法|e−GOV法令検索

略式命令の告知とは、上記の図でいう「略式命令謄本の受領」のことを指すとお考えください。

被疑者が身体拘束を受けている場合は、検察庁で略式命令謄本を直接受け取ることもあります(「在庁方式」といいます)。

この場合は、略式命令謄本を直接受領した時点で、略式命令の告知がなされたことになりますので、受領の翌日から起算して14日が経過すれば、罰金刑が確定します。

他方、在宅事件の場合は、後日に裁判所から略式命令謄本が郵送されます(「送達」といいます)。

この場合は、略式命令謄本を郵送により受領した時点で、略式命令の告知がなされたことになります。

略式命令謄本は本人かその家族に直接手渡さなければならないため、不在の場合は持ち帰られることになります。

そのため、知らないうちに郵便ポストに投函されてしまうような事態が生じることはありません。

 

罰金はどこに支払う?

罰金刑の確定後、2週間ほどすると、検察庁から「納付告知書」が郵送されてきます。

 

罰金を納付するには、この納付告知書が必要になります。

納付告知書を持って、最寄りの郵便局や銀行、信用金庫に行き、窓口に提出することで、罰金を納付することができます。

このほか、検察庁の窓口においても、罰金の納付は受け付けてもらえます。

 

罰金の支払い方法は?

罰金は、原則として現金の一括払いのみとされています。

 

しかしながら、分割での納付ができる可能性が全くないわけではありません。

法務省が定めている徴収事務規程によれば、罰金額の全額ではなく一部しか納付できない場合や、直ちに罰金を支払うことが困難である場合に、一部納付や納付期限の延期を許可すべき事由があると徴収主任(検察事務官)が認めた場合であれば、罰金額の一部のみを納付することや、罰金の納付期限を延期することが認められる可能性があります(徴収事務規程第16条、第17条)。

ただし、分割納付や納付期限の延期が認められるケースはごく僅かであり、単に「お金がない」というだけでは、分割納付に応じてもらえることは難しいと考えられます。

徴収事務規程第16条、第17条

(一部納付の申出等)

第16条 徴収金について納付義務者から納付すべき金額の一部につき納付の申出があった場合において、徴収主任は、事情を調査し、その事由があると認めるときは、一部納付願を徴して検察官の許可を受けるとともに、検察システムによりその旨を管理する。2 徴収金が送付された場合において、その金額が納付すべき金額の全部に満たないときも、前項と同様とする。ただし、この場合において、やむを得ない事情があるときは、一部納付願はこれを要しない。

 

(納付延期の申出等)

第17条 徴収金について納付義務者から納付延期の申出があった場合において、徴収主任は、事情を調査し、その事由があると認めるときは、検察官の許可を受けるとともに、検察システムによりその旨を管理する。
この場合において、過料、没取、訴訟費用、費用賠償、犯罪被害者等保護法第17条第1項の費用又は民訴法第303条第1項の納付金に係る徴収金について時効の更新の必要があると認められるときは、納付義務者から納付延期願を徴する。

引用元:法務省|徴収事務規程

 

 

略式起訴の罰金が払えないとどうなる?

それでは、略式起訴により罰金刑が確定したにもかかわらず、罰金を支払うことができなかった場合、どうなるのでしょうか。

 

前述のとおり、罰金刑は一括での支払いが原則です。

一括での支払いができない場合、財産に対する強制執行がなされ、財産や給与などが差し押さえられる可能性があります。

差し押さえるべき財産もない場合、労役場留置(刑法18条)といって、刑務所内の労役場に入り、作業を行うことになる可能性があります。

労役場留置(刑法18条)
(労役場留置)
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
(以下省略)

引用元:刑法|e−GOV法令検索

多くのケースでは、1日あたり5000円として計算することになります。

例えば、罰金30万円を納付できなかった場合、60日の間、労役場での業務に従事しなければならないことになります。

この場合、罰金刑となり懲役刑を回避できたにも関わらず、結局は刑務所に入って生活をしなければならなくなってしまうため、注意が必要です。

 

 

まとめ

以上、略式起訴の場合の罰金額の目安、及び罰金の納付方法などについてご説明しましたが、いかがでしたでしょうか。

本稿で紹介したのはあくまでも目安であり、事案によって罰金額は変わってくる可能性があります。

自身が関与してしまった事件について、そもそも略式起訴による罰金刑として処理される可能性があるのかどうか、その場合の罰金刑はいくらかをより詳細に予測されるには、刑事事件に強い弁護士に相談されることをお勧めします。

刑事事件に強い弁護士であれば、刑事事件に関する豊富な経験をもとに、類似の事案とも比較の上、より高い精度で罰金額の見通しをお伝えできます。

さらに、略式起訴がなされる前であれば、被害者と示談交渉を行なうなど、必要な弁護活動を行うことで、罰金刑を回避し、前科がつかないようにできる可能性もあります。

ご不安な方は、是非一度刑事事件に強い弁護士にご相談ください。

この記事が皆様のお役に立てば幸いです。

 

 

 

 

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