書類送検とは?前科の有無や逮捕との違いを解説
書類送検とは、警察が捜査した事件の記録を検察庁に送ることをいいます。
書類送検は逮捕と異なりますが、約3分の1の確率で起訴される傾向です。
ここでは、書類送検の意味や書類送検後の流れ等について、刑事事件に注力する弁護士が解説しています。
書類送検に関心がある方はぜひ参考になさってください。
目次
書類送検とは?
書類送検とは、警察が捜査した事件の記録を検察庁に送ることをいいます。
事件記録は通常、警察官が作成した「捜査報告書」のような調書形式をとることから、これを検察に送ることを指して、「書類送検」(しょるいそうけん)というわけです。
一方、ニュースなどで、「容疑者が送検される」という場面をご覧になったことのある方も多いかと思います。
あれも送検の一種で、事件記録とともに逮捕した容疑者(法律上は「被疑者」といいます)の身柄を検察に送っており、書類送検と対比して「身柄(みがら)送検」と呼ばれることもあります。
つまり書類送検とは、言葉そのものの意味としては、書類形式の事件記録を検察庁に送ることを指しているのですが、書類のみが送られているということは、逆にいえば、容疑者被疑者の身柄については送られていない、という意味にも取れるわけです。
書類送検と逮捕の違い
上で解説したように、書類送検とは、警察が捜査した事件の記録を検察庁に送ることをいいます。
これに対して、逮捕は容疑者の身体を拘束することをいいます。
逮捕は人の行動の自由を奪うものですので、逮捕する場合には法律上厳しい要件があります。
すなわち、人を逮捕するには、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」と「逮捕の必要性」がなければなりません(刑訴法199条2項)。
例えば、逃亡の恐れがあるようなケースです。
逆に言えば、この要件を満たす状況の場合、警察は通常、書類送検ではなく逮捕します。
そのため、書類送検をされるケースの場合、通常は逮捕はされないと考えてよいでしょう。
ただし、書類送検された場合でも、その後捜査機関からの呼び出しに応じないなど、不誠実な対応をすると後から逮捕される可能性もあります。
なお、書類送検だからといって、必ずしも罪が軽くなるわけではありません。
書類送検か逮捕かは、刑罰の重さとは直接関係しないので注意しましょう。
書類送検で前科は付く?
書類送検された場合、前科が付くのでしょうか。
結論をいいますと、書類送検されたことそれ自体で前科が付くということはありません。
そもそも前科とは、犯罪を犯し、それが起訴されて有罪判決を受けたということを意味します。
一方、書類送検とは、事件記録が検察庁に送られたことを意味するにすぎず、手続の流れ上は、起訴・不起訴以前の段階ということができます。
ですので、書類送検それ自体が前科となることはなく、送致を受けた検察官がこれを起訴し、有罪の判決が確定して初めて前科が付くことになります。
ただし、「前科」と似て非なるものとして、「前歴」(ぜんれき)というものがあります。
「前歴」とは、容疑者として捜査の対象となった、という事実上の履歴のことです。
たとえその容疑嫌疑がまったくの事実無根であろうと、捜査の対象となったということ自体は動かしがたい事実ですので、書類送検された場合、前歴が残ることは避けられません。
もっとも、前歴とは上記のとおりあくまでも捜査の対象になったことがあるという事実上の履歴に過ぎませんので、前歴が付くことによって法的になんらかの不利益を受ける、ということはありません。
書類送検後の流れ
書類送検された後は、概ね次のような流れで事件は処理されることになります。
おおまかにいうと、書類送検を受けた検察官が起訴するかどうかをまず判断し、起訴された場合、さらに裁判官が有罪か無罪かを判断し判決を出す、という流れとなります。
ドラマのタイトルにもなっているのでご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、起訴された場合、有罪判決となる確率は約「99.9%」です。
このような高い数字となるのは、検察官が、有罪判決をとれるだけの十分な証拠がそろっているか慎重に検討し、確信の持てる事案に限定して起訴しているためです。
もちろん、有罪か無罪かを決めるために裁判が行われるのですから、納得がいかなければ無罪を主張して争うべきではあるのですが、そうはいっても、統計上は1000件に1件あるかどうかという確率になってきますので、起訴に至った場合は有罪判決となることも視野に入れた上で対応を検討すべきといえるでしょう。
なお、以上は正式に起訴された場合の流れですが、検察官が罰金刑相当と判断した場合、略式の形で起訴することも多いです。
略式起訴について、詳しく知りたい方はこちらのページをご覧ください。
書類送検された人の不起訴率は?
起訴された場合、上記のようなきわめて高い確率で有罪判決となるわけですが、それでは、送検された事件が不起訴となる確率はどの程度なのでしょうか。
法務省の発行している犯罪白書によれば、令和4年には、約23万人が起訴されているのに対し、不起訴はその倍ほどの約48万人となっていますから、犯罪として認知された件数のうち、3分の2ほどは不起訴となっていることになります。
参考:令和5年版犯罪白書
一般論として、在宅で捜査が進められる事件というのは比較的軽微な事案が多いと思われますので、分母を書類送検となった事件に限定すれば、不起訴となる率はこれより多少高くなるとも推測されます。
とはいえ、在宅事件だから起訴されない、というようなことは全くいえませんし、起訴されるかどうかは、事案の性質や容疑者の状況、被害者がいる場合には示談の進捗具合といった事件を取り巻く諸事情によって大きく左右されるものでもあります。
このあたりは、弁護士でも刑事事件を多数取扱った経験がなければなかなか見通しが立ちづらいところですので、ご自身の置かれた状況や書類送検後の事件処理の見込みについて的確に現状を把握なさりたい場合には、刑事事件の処理経験が豊富な弁護士にご相談されることをお勧めします。
書類送検されたことが会社にバレる?
会社などにお勤めの方が書類送検された場合、勤務先にその事実が知られてしまうのか、不安なことと思います。
書類送検されたという事実が会社に知られる可能性は低いと考えます。
しかし、可能性はゼロではありません。
会社に知られてしまう事例としては、次の場合が考えられます。
事件が実名報道されてしまった場合
まず、事件が実名報道されてしまった場合では、会社に知られてしまうのもやむを得ません。
もっとも、世間では日々多くの刑事事件が発生しており、報道されるのはそのうちのほんの一部です。
実名報道されるかどうかについては、何か明確な基準があるわけではなく、最終的には各報道機関の判断しだいということになります。
書類送検になる、すなわち容疑者被疑者の身柄を取らないような事件は、数ある事件の中でも相対的に軽微な事案であることが多いでしょうから、社会の抱く関心の観点から、報道されないか、されるとしても実名は伏せられる、ということも十分考えられます。
会社に通報された場合
事件の被害者や目撃者があなたやその勤務先を知っている場合、会社に通報される可能性があります。
警察が会社に連絡した場合
警察が職場に接触するケースとしては、以下のような場合が考えられます。
- 捜査の過程で同僚や上司などの周囲の人物から事情を聴取する必要が生じた場合
- 職場のデスク周りに証拠品が存在する可能性がある場合
- 事情を知る関係者からの密告や投書があった場合
- その他容疑者の会社での状況を捜査する必要がある場合など
身柄事件の場合、身体拘束が続く間は会社に出勤できませんので、どこまで詳細を話すかはともかくとしても、何らかの理由を説明する必要があります。
しかし、在宅事件であれば、取調べの日程は相談すればある程度調整もしてもらえます。
したがって、その日だけ有給休暇を取得するなどして上手く工夫すれば、会社に知られることなく捜査に対応していくことも可能でしょう。
書類送検された場合のポイント
「書類送検後の流れ」の項目でもご説明したとおり、書類送検された後は、まず検察が起訴・不起訴を判断し、起訴されれば刑事裁判に移行する、という流れとなります。
書類送検された場合、どのように対応するのが最善なのか、ポイントをご紹介します。
検察からの呼び出しには誠実に応じる
検察からの呼び出しがあれば、誠実に応じるようにしましょう。
呼び出しを無視したりすると印象が悪くなるだけでなく、状況によっては逮捕される可能性もあります。
仕事などで忙しい、などのご事情もあるかと思いますが、可能な限り調整するなどして応じる姿勢を見せることが大切です。
不起訴獲得のため示談交渉する
被害者がいる犯罪では、示談交渉を成功させることが不起訴を獲得するために重要となります。
すなわち、検察は起訴するか否かの判断において、被害者の処罰感情を重要視します。
示談が成立して、被害者の処罰意思が無くなると、重大事件を除き、起訴の必要性が乏しいと判断してくれる可能性が出てきます。
そのため、示談交渉を早期に進めていくことがポイントとなります。
起訴の場合には裁判に備える
不起訴となった場合、事件はそこで終了です。
一方、起訴された場合、刑事裁判を見据えた準備が必要となります。
略式起訴になり罰金刑で済む場合でも、どの程度の金額となりそうかある程度予測を立てて用意しておく必要があります。
また、正式な刑事裁判となった場合、少しでも寛大な処分となるように、弁護活動のための下準備(こちらに有利となる証人や証拠の収集など)を進めておきたいところです。
いずれの場合であっても、刑事事件の処理経験を豊富にもつ弁護士にあらかじめ依頼し入念な打ち合わせをしておくことで、事件を最善の形で終わらせることができるでしょう。
事件の見通しを刑事事件に強い弁護士に相談する
起訴されるか否かによってその後の流れが大きく変わってきますので、まずは起訴の見込みについて、弁護士に相談されることをお勧めします。
被害者がいる事件の場合は、示談を成立させることができれば不起訴となる確率が高まることが期待できます。
また、そうでない事件でも、起訴される見込みがどの程度あるか、仮に起訴された場合はどう対応するか、といった点について、専門家から助言を受けておくことは有用であるはずです。
まとめ
書類送検の意味や、書類送検された場合の適切な対応について説明しました。
最後にこれまでの要点をまとめると、以下のとおりです。
- 書類送検とは、警察が事件の記録(書類)を検察庁に送る(送検する)ことをいう。
- 身柄が送検されていないため、逮捕を伴わないことが通常である。ただし、在宅事件と身柄事件のいずれとなるかは、捜査の状況に応じて流動的であり得る。
- 書類送検されたことのみをもって前科が付くことはないが、捜査対象となった履歴という意味での前歴は残る。
- 書類送検されると、記録の送致を受けた検察官が起訴・不起訴の判断をし、起訴には正式起訴と略式起訴とがある。
- 捜査機関が特段の理由もなく勤務先に連絡を入れることは基本的にないが、事情聴取や捜索などの必要が生じた場合に勤務先に接触することはあり得る。また、実名報道や事件関係者からの通報などによって会社に知られてしまうこともある。
- 書類送検された場合、その後の流れについて的確な見通しを立てるとともに、有利な処分を得るための準備を進める意味でも、刑事事件の処理経験を豊富にもつ弁護士に相談することがきわめて重要である。
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なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか