私人逮捕とは?要件や注意点をわかりやすく解説

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士保有資格 / 弁護士・税理士・MBA
  

私人逮捕とは、警察官や検察官等でない一般市民、すなわち「私人」が、現行犯を発見した場合にこれを逮捕することをいいます。

私人逮捕は、刑事訴訟法に定められた制度であり、一定の条件を満たした場合には、誰でも犯罪を行った犯人を逮捕することができます。

ただし、私人逮捕が認められる要件は厳格であり、安易に行ってしまうと、法律の要件を満たさない違法な逮捕となってしまうことがあり得ます。

そうなると、正義感から私人逮捕を行ったつもりが、逆にこちらに犯罪が成立して刑事責任を問われることにもなりかねません。

この記事では、私人逮捕について、定義や要件、具体例、実施手順、注意点などを弁護士が解説します。

間違った理解によって違法な私人逮捕を行うことのないよう、ぜひ最後までお読みください。

私人逮捕とは

私人逮捕とは、警察官や検察官等でない一般市民、すなわち「私人」が、現行犯を発見した場合にこれを逮捕することをいいます。

 

私人逮捕の定義

私人逮捕の意味は上記のとおり、警察官や検察官等でない私人が現行犯人を逮捕することをいいます。

その定義としては、「私人が、現行犯を、逮捕状なしに逮捕すること」となります(刑事訴訟法213条)。

根拠条文

第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

引用:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口

この定義は、次のような要素に分解して考えることができます。

 

現行犯

私人が犯人を合法に逮捕できるのは、「現行犯人」に限られます。

「現行犯人」とは、原則として、今まさに犯行を行っている最中であるか、終えた直後である人のことを指します(刑事訴訟法212条)。

参考:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口

逮捕というのは、人を身体的に拘束してその自由を奪う行為です。

したがって、いかに相手が犯罪の容疑者であっても、厳格かつ慎重な手続きによって行うべきであるのが本来の原則です。

ただし、現行犯のように、今まさに目の前で犯行が行われているような場合には、犯行や逃亡を阻止するため、犯人を拘束する緊急の必要があります。

また、そのように犯行から間がないときであれば、犯行の存在が明らかであるため、誤認逮捕のような危険も少なくなるといえます。

そこで、私人逮捕の対象は「現行犯人」と定められています。

逮捕できる対象が「現行犯人」と明記されているということは、裏を返せば、現行犯でない犯人は逮捕できないということでもあります。

犯罪にあたる行為を行ったことがいかに明らかと思える相手であっても、それが犯行の直後でなく現行犯にあたらない場合には、もはや私人が逮捕することは許されないということになります。

 

何人でも

私人逮捕は、「何人(なんぴと)でも」行うことができるとされています。

「何人でも」とは、「誰であっても」という意味であり、警察官や検察官といった事件捜査を担当する人でなくてもよいということです。

このように、特殊な職にない一般市民であっても逮捕できることから、「私人」逮捕と呼ばれるのです。

 

逮捕状なくして

現行犯を私人が逮捕する場合、逮捕状なく行うことができます。

逮捕状とは、容疑者を逮捕することの妥当性を審査した上で裁判官が発行する、逮捕の許可状のことです。

不当な逮捕による人権侵害を防止するため、犯罪の容疑者を逮捕する場合、逮捕状を取得して行うのが原則です(刑事訴訟法199条1項)。

参考:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口

しかし、私人逮捕の場合には、この逮捕状が不要となります。

なぜなら、犯行が明らかな現行犯においては、手続きの慎重さよりも犯人を確保する緊急性の方を優先すべきだからです。

理屈としては、私人が逮捕するときは逮捕状がなくてもよいというよりは、逮捕状が不要とされる現行犯の場合にのみ、私人逮捕が許されているという捉え方になります。

以上を整理しますと、私人逮捕の定義は、「私人が、現行犯を、逮捕状なしに逮捕すること」であるといえます。

 

私人逮捕と正当防衛との違い

私人逮捕と似た制度として、正当防衛があります。

正当防衛は、自分または他人に対する急迫不正の侵害を防ぐために、やむを得ず行う防衛行為のことを指します(刑法36条1項)。

参考:刑法|電子政府の総合窓口

私人逮捕も正当防衛も、相手に対する暴力行為が法的に正当化されるものではありますが、両者は異なる趣旨の制度です。

 

目的の違い

私人逮捕と正当防衛は、目的が異なります。

私人逮捕は「逮捕」ですので、犯人が逃走するのを抑止し、その身体を拘束する点に主眼があります。

他方で、正当防衛は「防衛」行為であり、犯罪の被害から身を守るために行われます。

正当防衛は犯罪被害を避けるための防衛行為であり、私人逮捕のように犯人の逃亡を阻止する目的ではありません。

 

対象の違い

以上のような目的の違いを反映して、私人逮捕と正当防衛では対象も異なります。

私人逮捕の対象は現行犯であり、現行犯とは、今まさに犯行の最中であるか、犯行を終えた直後の人のことをいいます。

一方、正当防衛は犯罪行為から身を守るための防衛行為ですので、相手としては、まさに今犯行中(こちらを攻撃中)の者に限られ、犯行を行い終わった者は含まれません。

たとえば、今まさに殴られそうな場合に、これを防ぐために相手を殴り返すのは防衛行為に当たります。

しかし、すでに相手からの攻撃がやんでいるにも関わらず殴り返す行為は、防衛行為とはいえません。

正当防衛は、「やられたらやり返していい」という単純な話ではないため、注意してください。

 

程度の違い

私人逮捕と正当防衛では、いずれも相手に対して一定の実力を行使することができますが、許される程度が異なります。

私人逮捕は、犯人が逃走しないようにその身体を拘束するものですので、その限度で相手の自由を制限することが許されます。

他方で、正当防衛は、相手方の攻撃に対する防衛行為ですので、それと釣り合う程度の反撃が認められます。

具体的にどの程度の反撃が許されるかは個別の事案ごとの判断となりますが、相手が武器を使用しているケースですと、こちらも同等の武器使用が許されることもあります。

 

 

私人逮捕が認められる要件

捜査権のない私人であっても、現行犯であれば私人逮捕することが認められます。

つまり、私人逮捕の要件は、現行犯に該当するための要件を見ることで把握できるということです。

ただし、現行犯にはいくつかのバリエーションが存在します。

 

典型的な現行犯(刑事訴訟法212条1項)

現行犯の典型例は、今まさに目の前で犯行が行われているというようなケースです。

このような場合は、誤認逮捕のリスクが低く、また一刻を争う緊急性もあることから、私人による現行犯逮捕が認められています。

 

現行犯とみなされるケース(刑事訴訟法212条2項)

以上のような、まさに目の前で起こった現行犯のほか、犯罪の容疑が明白である次のような場合は、現行犯扱いとなります。

  • 犯人として追及されているとき
  • 盗品や明らかに犯行に用いた凶器などを所持しているとき
  • 身体や衣服に犯罪の痕跡があるとき
  • 何者かを問いただされて逃走しようとするとき

 

これらはいずれも、犯行時点の影響が色濃く残っている例と見ることができます。

緊急性や容疑の明白性において、典型的な現行犯に準ずるものであることから、私人逮捕の対象となります。

 

軽微な罪の特例(刑事訴訟法217条)

以上のいずれかに当たれば、現行犯として私人逮捕できるのが原則ですが、一定の軽微な事案については、さらに別の要件が加わります。

すなわち、犯したと疑われている犯罪が「30万円以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪」である場合には、現行犯であることに加えて、次のいずれかを満たすことが必要となります。

  • 犯人の住所若しくは氏名が明らかでない
  • 犯人が逃亡するおそれがある

30万円以下の罰金や拘留・科料といった軽い罪のケースでは、犯人の住所氏名が明らかであり、かつ逃亡のおそれもない場合には、たとえ現行犯であっても私人逮捕は許されないということになります。

 

 

私人逮捕が認められる具体例

私人逮捕が認められる具体例について、いくつかのケースを見ていきましょう。

 

典型的な例

私人逮捕の対象となる現行犯の典型的な例は、今まさに目の前で犯行が行われているような場合です。

たとえば、店舗で商品を隠し持って出ようとする万引き犯を発見した場合、店員や警備員といった私人がこれを逮捕することは認められます。

また、路上で他人を殴っている人物を発見した場合、周囲の人が介入して犯人を取り押さえるようなケースも、典型的な現行犯の例です。

 

現行犯とみなされる例

上で解説したように、典型的な現行犯のほか、これに準ずるようなケースで、現行犯とみなされるケースがあります。

例のひとつとして、犯人として追及されているというものがあります。

たとえば、「泥棒!」などと叫ばれながら追いかけられている人物がこれに当たります。

このような場合、その人自身は直接目の前で犯行を目撃したわけではないものの、別の人から現行犯として追跡されていることをもって、現行犯扱いすることが認められるのです。

 

 

私人逮捕が認められない具体例

次に、私人逮捕が認められない具体例について説明します。

私人逮捕が認められない例とは、言い換えれば、現行犯に当たらない例です。

まず、単に「怪しい人物がいる」という理由だけで、その人物を私人逮捕することはできません。

「怪しい」というのは単なる印象であり、具体的な犯罪の疑いがあるわけではないからです。

次に、犯罪から相当の時間が経過している場合も、私人逮捕はできません。

たとえば、以前に万引きをした人物を数日後に見かけたとしても、私人逮捕の対象とはなりません。

どれほど犯人である確信があるとしても、数日後では犯行直後とはいえず、現行犯に当たらないためです。

これらの例から分かるように、私人逮捕は厳しい要件の下でのみ認められる例外的な制度です。

要件を満たさない場合に私人逮捕を行えば、逆に自分が刑事責任を問われる可能性があることを理解しておく必要があります。

 

 

私人逮捕の実施手順

私人逮捕を行う際は、適切な手順に従う必要があります。

私人逮捕の手順は大別して、逮捕の着手とそれ以後の手続きに分けられます。

 

逮捕の着手

逮捕とは、犯人が逃走しないように身体を拘束する手続きです。

必然的に、逮捕の着手は相手に対して実力を行使することになるため、細心の注意が必要となります。

逮捕の方法自体は、法律上定められた手順があるわけではありません。

その上、犯罪の容疑者を逮捕することを職務とする警察官と異なり、私人逮捕を行うのは素人です。

そのため、私人逮捕では、その場の状況に応じて臨機応変に対応することが求められます。

逮捕に着手する際のポイントは、犯人の逃走を防止するための最小限の実力行使にとどめることです。

一般市民にとって、私人逮捕の機会は一生に1度あるかないかという珍しいものですので、気が動転するのが普通です。

まして、眼の前で犯罪行為が行われたとなると、カッと頭に血が上ることがありえます。

だからといって、相手に過剰な暴行を加えるようなことは、あってはなりません。

状況にもよりますが、殴る蹴るといった強度の暴力行為は、逮捕の範囲を逸脱するとして暴行罪や傷害罪が成立する可能性があります。

相手が抵抗しない場合は腕をつかむ程度でも十分逃走を防止できますので、逆にこちらに犯罪が成立するといったことのないよう、冷静に対応しなければなりません。

 

逮捕後の手順

逮捕の手順と異なり、逮捕後の手順は法律に定めがあります。

すなわち、私人が現行犯人を逮捕したときは、速やかに犯人を検察官又は警察官に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。

参考:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口

私人逮捕は、現行犯人を目の前にしているという緊急的な状況において例外的に認められるものです。

私人逮捕が適法であるといっても、そのような事態はイレギュラーです。

私人による逮捕という変則的な状態がいつまでも継続しないよう、緊急性が解消し次第、直ちに犯人を捜査機関に引き渡さなければなりません。

 

 

私人逮捕のリスクと注意点

私人逮捕は、法によって認められた適法な行為ではありますが、これにはさまざまなリスクが伴います。

私人逮捕のリスクと注意点

 

法的リスク

まず、私人逮捕の最も重大なリスクは、要件を満たさない逮捕を行った場合に生じる法的責任です。

私人逮捕は、限定的な場面においてのみ許容される例外的な制度です。

私人逮捕には適法に行うための要件が法律上存在します。

私人逮捕の要件はこの記事で解説してきましたが、いざという場面でこれを正確に思い出せるかというと、なかなか難しいのではないでしょうか。

要件を満たしていないにもかかわらず私人逮捕を行えば、違法な逮捕として、逮捕監禁罪に問われる可能性があります。

また、過度の実力行使を行えば、暴行罪や傷害罪に該当する可能性もあります。

「私人逮捕は適法な行為だから、何をしても法的責任を問われることはない」などと勘違いしないように気を付けましょう。

 

逮捕に伴う危険

次に、犯人を逮捕する際の身体的なリスクについても考慮する必要があります。

相手は犯罪を行ったばかりの犯人ですので、普通の人と同じに考えることはできません。

凶器を所持している可能性もありますし、逮捕を逃れるために必死の抵抗を受ける可能性もあります。

そのような相手を拘束し逃亡を阻止することは、簡単ではありません。

仮に犯人を取り逃がしたとしても、その後警察が捜査してくれますので、まずは自身の安全を最優先に考えて行動するのが適切です。

 

 

私人逮捕のポイント

ここまでの説明を踏まえ、私人逮捕を行う際の重要なポイントをまとめます。

すでに解説したことのおさらいとして、改めてご確認ください。

私人逮捕のポイント

 

現行犯に限られる

私人逮捕の大きな特徴は、現行犯人を逮捕する場合に限られるという点です。

現行犯に当たらない場合は、たとえ相手の犯行を確信していても、私人が逮捕することは認められません。

 

実力行使は最小限に

逮捕の際の実力行使は、必要最小限にとどめます。

過度の暴力は違法となり、逆に法的責任を問われる可能性があります。

 

速やかに警察に引き渡す

私人逮捕を行ったときは、速やかに警察に通報し、犯人を引き渡します。

これは、刑事訴訟法によって定められた手続きです。

長時間の拘束や私的な取り調べは、避けなければなりません。

 

安易に考えない

私人逮捕は、市民生活の平穏を維持するために認められた例外的な制度です。

「相手は犯罪者だから何をやってもいい」なとど安易に考えてはなりません。

ましてや、その様子をインターネット上に投稿して注目を得ようとするなどは、論外です。

私人逮捕では、人を逮捕するということの重みを真剣に考える必要があるでしょう。

 

刑事事件に強い弁護士に相談する

私人逮捕は、法律上の要件を満たさない場合、違法な逮捕となります。

一般市民としての良識を持って常識的に対応していれば、問題のないケースが多いとはいえ、逆に法的な責任を追及される可能性もゼロではありません。

私人逮捕に関して不安がある場合や、実際に私人逮捕を行った後に法的問題が生じた場合は、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

専門家のアドバイスを受けることで、適切な対応が可能となります。

刑事事件における弁護士選びの重要性については、以下のページをご覧ください。

 

 

私人逮捕のよくあるQ&A

私人逮捕においてどの程度の力が行使できますか?

私人逮捕において認められる実力行使は、逮捕に必要な最小限度のものに限られます。

相手が抵抗しない場合は腕をつかむ程度で足りますし、抵抗する場合でも押さえつける程度が目安となります。

状況にもよりますが、殴る蹴るといった暴力は違法となる可能性があります。

 

私人逮捕に関する法律はどこに定められていますか?

私人逮捕は、刑事訴訟法という法律に定められています。

参考:刑事訴訟法|電子政府の総合窓口

同法213条は、「現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。」と規定しています。

また、現行犯の定義は同法212条に定められており、犯罪の実行中や実行直後などの場合がこれに該当します。

 

 

まとめ

この記事では、私人逮捕について、定義や要件、具体例、実施手順、注意点などを解説しました。

記事の要点は、次のとおりです。

  • 私人逮捕とは、警察官や検察官等でない一般市民である私人が、現行犯を発見した場合にこれを逮捕することをいう。
  • 私人逮捕が認められるのは現行犯の場合のみであり、現行犯でない犯人は、私人逮捕できない。
  • 私人逮捕の際の実力行使は必要最小限度にとどめなければならず、過度の暴力は違法となる。
  • 私人逮捕には法的な責任や身の危険が発生するといったリスクがあり、安易に考えてはならない。

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