責任能力なしで無罪となる場合とは?【弁護士が解説】
責任能力とは何か
責任能力とは、人が生物学的・心理学的に自らの責任のもとでなにかを行う能力のことをいいます。
犯罪として成立するためには、その行為が、その犯罪の構成要件に該当し、違法かつ、その人の責任のもと行われた、行為である必要があります。
そのため、責任能力がないと判断された場合(有責性がない、という言い方をします)は、犯罪は成立しないことになります。
責任能力のうち、生物学的に行動する能力については、精神の障害の有無によって犯罪かどうかを判断することになります。
また、心理学的に行動する能力については、行為が合法か不法か考え、理解する能力(弁識能力)及び、その考えに従って行動決定をする能力(制御能力)の有無によって判断されます。
責任能力に関する規定
刑法第39条1項に、以下のように規定があります。
これは、責任無能力者(=心神喪失者)に関する規定です。
判例によりますと、心神喪失というのは、「精神の障礙に因り事物の理非善悪を弁識する能力なく、又は、此の弁識に従って行動する能力なき状態」をいいます(大判昭6.12.3)。
刑法第39条2項には、以下のように規定があります。
これは、限定責任能力者(=心神耗弱者)に関する規定です。
判例によりますと、心神耗弱というのは、「(精神の障害により)その能力(弁識能力・制御能力)が著しく減退せる状態」をいいます(東京高判昭59.11.27)。
刑を減軽するとは、次のような意味です(刑法第68条)。
「法律上刑を減軽すべき1個又は2個以上の事由があるときは、次の例による。
1 死刑を減軽するときは、無期の懲役若しくは禁錮又は10年以上の懲役若しくは禁錮とする。
2 無期の懲役又は禁錮を減軽するときは、7年以上の有期懲役又は禁錮とする。
3 有期の懲役又は禁錮を減軽するときは、その長期及び短期の2分の1を減ずる。」
引用元:刑法|電子政府の総合窓口
責任能力を争うことができるか
責任能力を争うことは容易ではありません。
統合失調症や躁うつ病等の精神障害を立証しなければなりませんし、さらに、それらの精神障害により弁識能力や制御能力が制限されていたことまで立証しなければなりません。
医師による診断書のみならず、精神障害が犯罪行為に与えた影響に関する意見等を証拠化する必要があるでしょう。
責任能力を争いたい場合、刑事事件に注力する弁護士を弁護人に選任することをお勧めします。
弁護人の熱意と技能によって、証拠の収集に大きな差が生じるからです。
なぜ責任能力がないと無罪となるのか?
責任能力がないとされた場合、なぜ無罪とされるのでしょうか。
罪を犯した人を非難できるのは、自らの行為が違法であることを理解しているにもかかわらず、自らの行為を制御することをしなかったからです。
言い換えれば、精神の障害等により、自らの行為が違法であることを理解できない場合、あるいは違法であると分かってはいても、自らの行為を制御する能力がない場合は、罪を犯した人間を非難することはできません。
そのため、責任能力がなければ、人を罪に問うことはできないのです。
責任能力がなく無罪となった判例
責任能力がないとして無罪になった裁判例には、以下のようなものがあります。
判例
実母他1名と居住する共同住宅に放火した事案において、被告人が犯行時に妄想型統合失調症の急性期にあり、責任能力を有していたと認めるには合理的な疑いが残るとして無罪が言い渡された事例
【神戸地裁尼崎支部平成22年4月19日】
判例
実母を包丁で二度突き刺して殺害した事案について、犯行当時の被告人の是非弁別能力は著しく減弱していたし、その行動制御能力は完全に失われていたものと疑うべき合理的な理由があるから、犯行当時の責任能力が欠如していて、本件犯行は心神喪失者の行為であるとして無罪を言い渡した事例
【名古屋高裁平成13年9月19日】
無罪となったその後はどうなる?
仮に責任能力がないとして無罪になったとしても、そこで手続きが全て終了するとは限りません。
放火や悪質なわいせつ罪、殺人など、一定の重大な罪については、引き続き「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(一般的に医療観察法と呼ばれます)の手続きに乗ることになります。
まず、検察官が地方裁判所に対し、対象者を入院させる旨の決定を求める申し立てを行います。
裁判所は、検察官からの上記申し立てがあれば、明らかに必要がないと認められる場合を除き、鑑定等のために対象者を入院させ、最終的な処分が決まるまでの間、在院させる旨の命令を出さなければなりません(医療観察法34条1項)。
この鑑定入院の期間は、最長で3ヶ月となります(医療観察法34条3項)。
入院期間中には、医師による鑑定が行われ(医療観察法37条3項)、鑑定の結果を踏まえて、入院を継続し、治療を受けさせる必要があるかどうかについての意見書が作成されます(医療観察法37条5項)。
引用元:心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律|電子政府の総合窓口
こうした意見等も踏まえ、裁判所は審判期日を開き、対象者に必要な医療措置を受けさせるかどうかについて決定を出します。
何らかの治療が必要であると判断した場合、入院や通院などが命じられます。
この審判期日においても、弁護人が「付添人」としてサポートをすることができます。
具体的には、地域のソーシャルワーカー等とも連携をとり、社会復帰した後の生活環境を整え、入院などの必要がないことを主張していくなどの活動が考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
責任能力の存否が疑われるような場合、再犯を防ぐためには、捜査段階、公判段階はもちろんのこと、裁判が終わった後においても、適切な弁護活動を行っていく必要があります。
責任能力がない方にとって、更生のために必要なのは刑務所ではなく、適切な治療を受けることである可能性があります。
ご家族がこのような問題を抱えておられるような場合などは、ご本人の今後の人生をより良い方向に進めるために、刑事事件に注力する弁護士に早期にご相談されることをお勧めいたします。
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