強制わいせつ(不同意わいせつ)とは?弁護士が解説

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士・3級ファイナンシャルプランナー

 

強制わいせつとは

強制わいせつ、具体的にはどんな行為?

強制わいせつ(不同意わいせつ罪)は、被害者に対して、同意なく「わいせつな行為をした」場合に成立する犯罪です(刑法176条)。

参考:e-GOV法令検索|刑法

なお、強制わいせつ罪は、法改正によって、現在は正式な名称ではありません。

2023年の改正で「不同意わいせつ罪」に変わりました

そこで、以下では強制わいせつ罪のことを不同意わいせつ罪と表記します。

女性が被害に遭うケースが多い犯罪ではありますが、法律上は対象を女性に限定していません。

したがって、男性に対してわいせつな行為を行なった場合でも成立する可能性があります

判例によれば、わいせつな行為とは、「性欲を刺激、興奮又は満足させ、かつ、普通人の性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為」と説明されます。

参考判例:最大判昭和32年3月13日|最高裁判所HP

わいせつ行為にあたる典型例としては、陰部に手を触れる、自己の陰部を押し当てる、女性の乳房を弄ぶ、人前で衣服を脱がせ、裸体の写真を撮影するなどの行為が挙げられます。

他方で、衣服の上から臀部を撫でるなどの行為については、不同意わいせつ罪にあたる行為とまではいえず、いわゆる痴漢行為として、各都道府県の迷惑行為防止条例違反の罪が成立する可能性があります。

 

不同意について

不同意わいせつ罪は、下記の⑴又は⑵によって、わいせつな行為をしたときに成立します。

⑴同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態にさせること
(あるいは相手がそのような状態にあることに乗じること)


⑵わいせつな行為ではないと誤信をさせたり、人違いをさせること
(又は相手がそのような誤信をしていることに乗じること)

上記の⑴については、その原因となり得る行為・事由について、法律の条文に例示的に明記されています(刑法176条1項各号)。

参考:e-GOV法令検索|刑法

下表は、その行為・事由と説明をまとめたものです。

行為・事由 解説
① 暴行又は脅迫 暴行:人の身体に向けられた不法な有形力の行使
脅迫:他人を畏怖させるような害悪の告知
② 心身の障害 身体障害、知的障害、発達障害及び精神障害
③ アルコール又は薬物の影響 飲酒や、薬物の投与・服用のこと
④ 睡眠その他の意識不明瞭 意識不明瞭:意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態
⑤ 同意しない意思を形成、表明又は全うするいとまの不存在 性的行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないこと
⑥ 予想と異なる事態との直面に起因する恐怖又は驚愕がく フリーズの状態のこと
⑦ 虐待に起因する心理的反応 性的行為を通常の出来事として受け入れたり、抵抗しても無駄だと考える心理状態のこと
⑧ 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮 関係:学校、会社、家庭など社会生活における関係のこと
不利益の憂慮:自らやその親族等に不利益が及ぶことを不安に思うこと

 

被害者が子供の場合

刑法は、一定の年齢以下の子供に対する性的行為は、たとえその子供が同意していたとしても(上の⑴又は⑵に該当しなくても)、処罰しています。

これは、性犯罪の本質的な要素が「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」であることから、子供の場合、判断能力が未熟であることから「自由な意思決定」が期待できず、同意の有無を問わずに性的行為をしただけで処罰すべきという考えがあるからです。

この「同意年齢」は「16歳未満」とされています(刑法176条3項)。

参考:e-GOV法令検索|刑法

ただし、13歳以上16歳未満の子供に対しては、5歳以上年長の者のみ処罰されます(同条)。

子供の年齢 処罰される者
13歳未満 年齢差を問わず
13歳以上16歳未満 5歳以上年長の者
具体例
13歳の子供に対して、18歳以上の者が性的行為を行った場合は、同意があったとしても処罰の対象となります。

 

 

不同意わいせつ罪の罰則

不同意わいせつ罪の法定刑は、6月以上10年以下の拘禁刑となっています(刑法176条1項)。

参考:e-GOV法令検索|刑法

罰金刑が定められていないことから、示談などにより不起訴処分とならなかった場合は、公判請求されてしまい、正式裁判を受けることとなります。

こうした観点から、不同意わいせつ罪は、数ある犯罪の中でも重い部類に入るといえます。

加えて、18歳未満の者を現に監督し、保護している者が、その影響力に乗じてわいせつな行為を行なった場合、刑法179条1項の監護者わいせつ罪が成立します。

例えば、継父が妻の連れ子に対し、同居して生活費などの面倒を見ており、逆らえば家を追い出されたり暴力を振るわれたりする、などといった事情に乗じ、わいせつな行為を行なった場合がこれにあたります。

この場合も、法定刑は不同意わいせつ罪と同じ、6月以上又は10年以下の拘禁刑となっています。

参考:e-GOV法令検索|刑法

以上に挙げたわいせつ行為によって、被害者が死亡したり怪我をしたりした場合は、刑法181条1項の不同意わいせつ致死傷罪が成立します。

この場合、法定刑は無期又は3年以上の拘禁刑とさらに重くなり、裁判員裁判の対象事件となります。

参考:e-GOV法令検索|刑法

以上をまとめると下表のとおりとなります。

犯行内容 法定刑 罪名と根拠条文
16歳未満の者に対するわいせつな行為
(13歳以上の場合は5歳以上年上)
6月以上10年以下の拘禁刑 不同意わいせつ罪
刑法176条
18歳未満の者を現に監督し、保護している者が、その影響力に乗じてわいせつな行為 6月以上10年以下の拘禁刑 監護者わいせつ罪
刑法179条1項
わいせつ行為によって、被害者が死亡したり怪我をした 無期又は3年以上の懲役 不同意わいせつ致死傷罪
刑法181条1項

 

 

事件の数ヵ月後に不同意わいせつで逮捕される可能性も

不同意わいせつには様々なパターンがあるところですが、どのパターンにおいても、数ヵ月後に捜査の手が及ぶことがあります。

セクハラの場合

会社内部でのセクハラでも、悪質な場合は不同意わいせつ罪が成立します

セクハラのような類型では、被害者が被害事実を上司に報告せずに我慢するということがあります。

上司に報告すると、それが周囲に漏れてしまい、周りから誹謗中傷されるなどの2次被害を恐れることがあるからです。

そして、数ヶ月間は我慢をして勤務し、やがて限界が訪れ、警察に相談して捜査が始まることが考えられます。

 

見知らぬ人へのわいせつ事案

見知らぬ人への不同意わいせつ行為の場合、すぐに加害者が特定できないことがほとんどです。

この場合、警察は目撃情報を収集するなどして捜査を開始します。

また、防犯カメラがあればこのデータを解析し、犯人の行動を分析します。

このようにして証拠の収集がなされ、数ヵ月後に犯人が特定され、捜査の手が及ぶことがあります

 

 

不同意わいせつの弁護活動の内容

逮捕されていない場合

当事務所は、不同意わいせつをしてしまい犯罪として発覚することを恐れている方には、自首を勧めています

自首については、今後の裁判等への不安から抵抗感がある方も多いでしょう。

しかし、自らが犯した不同意わいせつの事実から目を背けることは決してご本人のためになりません。

また、自首することで、被害者の救済に繋がります。

さらに、自首による刑罰の軽減・逮捕・勾留の回避の可能性もあります

そして何よりも、自分から犯行を告白することで、「今後いつ逮捕されるかわからない」という不安な気持ちから解放されるでしょう。

当事務所では、刑事事件に注力する弁護士がご本人と一緒に警察まで同行するというサポートを提供しており、不安な気持ちを和らげることができると思います。

不同意わいせつ行為をしてしまい反省をしている方で、自首をお考えの方は、こちらのページをご覧ください。

 

すでに逮捕されている場合

他方で、既に不同意わいせつ罪で逮捕されてしまった場合、残されたご家族としてはどう対応すべきか分からず、ご不安な方も多いことと思います。

一般に、不同意わいせつ罪で逮捕されてしまった場合、法定刑が比較的重いことから逃亡の可能性を疑われやすいといえます。

また、被害者との関係性によっては、示談に応じさせるために被害者に直接接触する危険性を疑われることもあるでしょう。

そのため、勾留請求がなされる可能性は高く、最長で20日間にわたり勾留されてしまうことも珍しくありません

これほどの長期間にわたって身体拘束を受けてしまうと、家族や職場への発覚を回避することは困難と言わざるを得ません。

生活を守るためには、逮捕されてしまったとしても、勾留されないために迅速に対応する必要があります。

勾留を回避するには、逮捕後なるべく速やかに弁護士と面会し、事件当時の事情を把握してもらう必要があります。

そして、勾留せずとも捜査の目的を達成することが可能であるという事情があれば、弁護士はそうした事情を検察官に説明し、勾留請求をしないよう求めます。

結果的に勾留請求がなされたとしても、裁判所に対し、勾留を認めないように働きかけを行います。

このように、逮捕されてしまった場合は、勾留をいかに回避するかによって、その後の生活が大きく左右されます。

そのためには、刑事事件に強い弁護士を早期に選任するべきです。

刑事事件を専門とする法律事務所の中には、逮捕された方のご家族からのご依頼により、逮捕後直ちに初回接見に向かうというサポートを提供している場合があります。

「突然身内が逮捕され、弁護士を依頼すべきかどうかもわからない」という方でも、一度弁護士に話を聞いてきてもらい、今後の見通しを共有することで、どう対応すべきかの指針を持っていただくことができます。

 

 

被害者と早期に示談交渉ができるかが最重要

示談交渉の内容

不同意わいせつ罪に限らず、示談交渉を行う場合、最終的には「刑事処分を求めない。」という記載のある示談書に、被害者ご本人(未成年者の場合はご両親を含む)の署名・押印をいただくことが目的となります。

被害者の署名・押印のある示談書、及び示談金を支払ったことがわかる書類を捜査機関に提出し、捜査機関からも被害者本人に示談成立の事実につき確認がなされて初めて、刑事処分の決定に大きな影響をもたらすことにつながります

不同意わいせつ事件の被害者は、自身の人間としての尊厳を深く傷つけられ、大きな悲しみや怒りの中にあることがほとんどです。

そうした方の心情に最大限寄り添いながら、加害者の謝罪の気持ちを伝え、誠意ある交渉を行なっていく必要があります。

刑事事件に注力する弁護士であれば、示談交渉の経験を豊富に積んでおり、示談成立の可能性を高めることができます。

 

示談金の相場

不同意わいせつ事件の示談金は、わいせつ行為の内容、被害者の処罰感情の強弱など、多くの事情により左右されますが、50万円から150万円の間で示談が成立するケースが一般的には多いようです。

ただ、被害者の処罰感情が強い場合などには、さらに高い金額での示談となることも少なくありません。

不同意わいせつ罪における示談交渉について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

被害者との示談交渉のポイント!

不同意わいせつの中でも、特に痴漢類型のわいせつをしてしまう方々は、何度も繰り返してしまい、止められなくなっている方ばかりです。

不同意わいせつ(痴漢)を警察に気づかれずに済んだ方であっても、どこかでけじめを付けなければ、いつか不同意わいせつが発覚してしまうでしょう。

また、中には、痴漢行為をやめられずに悩んでいる方もいらっしゃることと思います。

また、知人への不同意わいせつをしてしまった方にもいえることですが、早急に示談をし、被害を最小限に食い止めるべきでしょう

もっとも、不同意わいせつなどの性犯罪の場合、示談交渉は難航することがあります。

まず、被害者は、加害者に対して恐怖心を抱いており、交渉しようとしても警察は連絡先すら教えてくれない可能性が高いからです。

また、仮に連絡先がわかったとしても、加害者との直接の交渉は拒否することがほとんどです。

そのため、性犯罪については以下の対応がポイントとなります。

POINT①弁護士が連絡先情報を取得する

まず、刑事弁護人である弁護士が警察を通じて被害者の連絡先情報、すなわち携帯電話の番号などを取得します。

多くの被害者は、加害者本人には連絡先を教えませんが、弁護士には教えて良いといいます。

もちろん、弁護士は加害者本人には連絡先は伝えず、代理人として交渉を行います

 

POINT②早期に示談交渉を行う

不同意わいせつ罪は、比較的罪が重いため、示談が成立しないと起訴される可能性が高いと考えられます。

そして、起訴されると、99.9%が有罪となります。

そのため、できるだけ早く、示談交渉を開始する必要があります。

 

POINT③示談が成立したら示談書を作成する

示談において、重要なのは、口頭の約束ではなく、きちんと書面を作成するということです。

また、示談書には、紛争の蒸し返しを防止するための条項(清算条項といいます。)や被害届の取り下げ、宥恕文言などを記載することがポイントとなります。

法的に有効で、かつ、不起訴や民事上の問題も解決できる内容となっていないと示談をする意味がなくなってしまいます。

示談書については、自動作成ツールをこちらから利用することが可能です。

もっとも、素人の方は参考程度にとどめ、示談書の作成は専門家にご依頼されることをお勧めいたします。

 

 

不同意わいせつ罪のよくあるQ&A

不同意わいせつで執行猶予がつく可能性はありますか?

上述したとおり、不同意わいせつ罪は、法定刑が6月以上10年以下の拘禁刑のみであって、数ある犯罪の中でも重い部類の犯罪といえます。

そのため、初犯であっても、態様次第では、いきなり実刑判決が下される可能性も否定はできません。

他方で、事案の内容、及び、その後の反省の程度、被害者への謝罪等、真摯な対応を重ねることで、執行猶予付判決を得る可能性もあります。

詳しくは、下記をご覧ください。

 

泥酔で記憶がない場合取り調べの対応はどうすればいいですか?

不同意わいせつ罪は、「加害者側がお酒に酔った勢いで行為に及んでしまった」というケースも多い犯罪といえます。

加害者が犯行当時泥酔してしまっており、当時の記憶が曖昧であるか、全く覚えていないという場合もしばしば見られます。

この場合、初期対応を誤ると、自身にとって不利な内容の供述調書を作成されてしまうなど、後々になって取り返しのつかない事態に陥る可能性があります。

できる限り早期に、刑事事件に強い弁護士に相談し、対応について協議しておくべきです。

詳しくは、下記をご覧ください。

 

不同意わいせつと、強姦(不同意性交等)との違いはなんですか?

不同意わいせつの対象となる行為は、「わいせつな行為」、すなわち、被害者の意思に反して、体を触ったり、キスをしたりすることが挙げられます。

他方で、不同意性交罪は「性交等」に限定されています。

性交等とは、①性交、②肛こう門性交、③口腔くう性交、④膣ちつ若しくは肛門に陰茎以外の身体の一部又は物を挿入する行為です。

つまり、被害者の意思に反して性交等を行えば不同意性交罪が成立し、そこまで至らずとも被害者の体を触ったりした場合には不同意わいせつ罪が成立するということです。

不同意わいせつ罪と不同意性交罪(かつての強姦罪)との違いについては、こちらをご覧ください。

 

 

まとめ

不同意わいせつは、犯行から数カ月間が経過していても、捜査の手が及ぶ可能性は十分考えられます。

自分が犯した罪を反省されている方は、自首を検討されてよいでしょう。

被害者との示談交渉は、成功すると不起訴の可能性があります。

また、起訴されても情状が良くなるため、早期に示談交渉を開始することがポイントとなります。

自首同行や示談交渉については、刑事事件を専門とする弁護士にご相談されることをお勧めしています。

当事務所には、刑事事件に注力する弁護士が在籍しており、性犯罪の弁護活動を強力にサポートしています。

不同意わいせつでお困りの方は、まずはお気軽にご連絡ください。

ご相談の流れは下記をご覧ください。

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