ストーカー規制法とは?警告や接近禁止のラインとつきまといの罰則

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士  保有資格 / 弁護士

ストーカー規制法とは、ストーカー行為に該当する行為を定め、これを防止し、ストーカー行為を行った者を処罰する法律を指します。

ストーカー規制法は令和3年に法改正がされ、ストーカー行為に該当する行為が拡大されました。

今後の動向次第では更に法改正がされ、ストーカーに該当する行為が拡大することも予想されます。

安易に行っていた行動が知らない間にストーカー規制法に違反し、警察の捜査を受けてしまうかもしれません。

本記事では、どのような行為がストーカー行為に該当するのか、ストーカー規制法に違反したらどうなってしまうのか、逮捕されるケースや対処法等について、刑事事件に注力する弁護士が解説しています。

ストーカー規制法とは?わかりやすく解説

ストーカー規制法(正式名称:ストーカー行為等の規制等に関する法律)とは、ストーカー行為を規制する法律をいい、国民の身体や自由、生活に対する危害の発生を防ぎ、生活の安全を守る法律をいいます(同法第1条参照)。

ストーカー規制法は、1990年代後半に発生した元交際相手に対する殺人事件を機に制定されました。

以降、社会的に注目を集めたストーカー行為を伴う殺人事件の度に法改正が繰り返され、処罰範囲が拡大されてきました。

 

改正により非親告罪へ

ストーカー規制法は、以前は親告罪(被害者の刑事告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)でした。

法改正により、現在は非親告罪となり、告訴がなくても検察官は公訴を提起(裁判にかけること)することができるようになりました。

このように、ストーカー規制法は法改正の度に法律の内容が厳しくなってきており、今後も厳罰化されることが予想されます。

 

 

ストーカー規制法で対象となる行為

では、ストーカー規制法で規制される「ストーカー行為」とは具体的にどのような行為を指すのでしょうか。

 

ストーカー行為とは

ストーカー規制法第2条第4項では、「ストーカー行為」を以下のように定義しています。

この法律において「ストーカー行為」とは、同一の者に対し、つきまとい等(略)又は位置情報無承諾取得等を反復してすることをいう。

引用:ストーカー行為等の規制等に関する法律|e−GOV法令検索

すなわち、「ストーカー行為」として規制されるのは以下の二つの行為を「反復して」行うことです。

  1. ① つきまとい行為
  2. ② 位置情報無承諾取得等

それでは、①②はそれぞれ具体的にどのような行為を指すのでしょうか。

 

つきまとい等とは?

ストーカー規制法第2条第1項において、「つきまとい等」とは以下のように定義されています。

特定の者に対する恋愛感情その他の行為の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活上において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

1. つきまとい、待ち伏せし、進路を防いだり、住居、勤務先、学校その他その現に所在する場所若しくはその通常所在する場所(以下「住居等」という。)の付近において見張りをし、住居等に押しかけ、又は住居等の付近をみだりにうろつくこと。
(例)尾行したり、家の近くや職場、学校に押しかけたり付近で待機していることや、現に立ち寄った店や旅行先の観光地やホテル等をみだりにうろつくこと。
2. その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
(例)帰宅した後に「おかえりなさい」と電話をしたり、出勤した後に「今日の服は〜色なんだね。」などと電話する等。
3. 面会、交際その他の義務のないことを行うことを要求すること。
(例)「会わせろ」「付き合ってくれ」などと要求するほか、プレゼントなどを受け取らせること等。
4. 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
(例)大声で怒鳴ったり、クラクションを何度も鳴らす等。
5. 電話をかけて何も告げず、又は拒まれたにもかかわらず、連続して、電話をかけ、文書を送付し、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールの送信等をすること。
(例)無言電話やFAX、手紙、メールの送信だけでなく、アプリでのメッセージやブログへのコメント、X(旧ツイッター)での返信を何度も行うこと。
6. 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
(例)家の郵便受けや職場のデスク内に、汚物や動物の死体等を入れる等。
7. その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
(例)「〜は嘘つき」「〜は不倫している」などを実名と共にSNSに投稿する、社内で掲示する等。
8. その性的羞恥心を害する事項を告げ若しくはその知り得る状態に置き、その性的羞恥心を害する文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を送付し若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する電磁的記録その他の記録を送信し、若しくはその知り得る状態に置くこと。
(例)性的な写真や手紙を送る、性的な情報をSNSに投稿する等。

このように、つきまとい行為に該当する行為は多岐にわたります。

また、令和3年5月の法改正によって、つきまとい行為の規制対象が拡大されたように、法律の穴をくぐり抜けるような行為が多発すれば、今後も法改正により、規制対象行為が拡大されることが予想されます

現に受けている行為がつきまとい行為にあたらないか、あるいは安易に行っていた行為がつきまとい行為に該当してしまうのではないかと不安に思われている方は一度弁護士に相談されることをおすすめします。

 

位置情報無承諾取得等とは?

位置情報無承諾取得等とは、読んで字のごとく、他人の位置情報を、その者の承諾なくして取得する等の行為を指します。

ストーカー規制法第2条3項では「位置情報無承諾取得等」とは以下のように規定されています。

引用:ストーカー行為等の規制等に関する法律|e−GOV法令検索

この法律において「位置情報無承諾取得等」とは、特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活において密接な関係を有する者に対し、次の各号のいずれかに掲げる行為をすることをいう。

1. その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(略)により記録され、又は送信される当該位置情報記録・送信装置の位置に係る位置情報を政令で定める方法により取得すること。
2. その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、位置情報記録・送信装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること。

文章が複雑で、読み解くことが難しいですが、大きく分けて以下の2つの行為が「位置情報無承諾取得等」に該当します。

  1. ① 承諾なく、他人の位置情報を取得すること
    (例)他人のスマートフォンやGPS機器を勝手に操作して位置情報を盗み見たり、知らない間にコピーもしくは受信すること。
  2. ② 承諾なく、他人の所持品に位置情報端末機器を取り付けること
    (例)他人の自動車や自転車にGPS端末を取り付けること。気付かれないように他人の財布やカバン内にGPS端末を忍ばせること。

近年、忘れ物を防止するために開発された、カード型やストラップ型のGPS端末が広く普及するようになりました。

GPS端末は小型化され、他人の所持品に忍ばせることがより容易になってきたといえます。

そのため、位置情報無承諾取得行為に該当しストーカー規制法の適用を受けるケースは今後も増加することが予想されます。

 

反復とは?

ストーカー規制法でいう「ストーカー行為」にあたるには、これまでご説明したつきまとい行為と、位置情報無承諾取得行為を「反復して」行う必要があります。

「反復」とは一定期間内に複数回、つきまとい行為や位置情報無承諾取得行為を行うことをいいます。

しかし、一定期間が具体的に何日・何ヶ月を指すのか、複数回とは何回を指すのかは明確に定められていません。

反復して行うことが要件とされているのは、「次やったら逮捕」という抑止効果も期待されているからです。

そうだとすると、事案に応じて、仮に短期間に2回であったとしても「反復」に該当する可能性があります。

捜査機関の判断によるところが大きく、反復性は緩やかに認められるといえるでしょう。

 

 

ストーカー規制法に違反したらどうなる?

ストーカー規制法に違反したらどうなる?

それでは、ストーカー規制法に違反する行為を行った場合、その後の流れはどうなってしまうのでしょうか。

 

警告される

ストーカー規制法では、被害者が警察に対し被害を申し出たうえ、対象者の行為がつきまとい行為や位置情報無承諾取得行為に該当し、被害者の身体等に危険を及ぼすもので、今後も継続が予想されると判断された場合には、これらの行為を行った者に対して警告を発出することができるとされています(ストーカー規制法第4条1項)。

警告は段階的措置の初期段階に位置付けられる、いわば厳重注意のようなもので、それ自体に法的な義務を課すものではありません。

しかし、法的義務を課すものではない警告であっても、警察は警告対象者の動向を注視しています

再度被害者から相談があった場合には、警告対象者が捜査対象に浮上し、直ちに事件化する可能性も否定できないでしょう。

 

警告されるケースとは?

警告は、対象者の行為がつきまとい行為や位置情報無承諾取得に該当し、その行為が「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせ」るものであり、反復して行われるおそれがある場合に発出されます。

近年、SNSが発達したことにより、不適切なメッセージを度々送信する、あるいはSNSから特定した自宅周辺を徘徊するなどの行為により、ストーカー行為に気付いた被害者が警察に申告し、警告が発出されるケースは少なくないでしょう。

被害者とストーカー行為をしていた者が知り合いなど、氏名等が判明していたような場合、被害者の安全を守るためにも警告は比較的緩やかに発出されるといえます。

仮に見ず知らずの者がストーカー行為をしていた場合であっても、警察は防犯カメラ映像やSNSなどから身元を特定することがあります

身元が割れていないからといってストーカー行為を続けることは絶対にやめましょう。

 

禁止命令を出される

ストーカー規制法では、対象者が「ストーカー行為」を行った場合において、今後も更にストーカー行為を行う危険があると認められるときは、各都道府県の公安委員会が対象者に対して禁止命令を発出することができるとされています(第5条1項)。

警告とは異なり、禁止命令にはこれに従う法的義務があるため、警告より強い処分といえます。

禁止命令に違反した場合には、罰則規定が設けられているため、場合によっては逮捕勾留されることもあります。

では、禁止命令とはどのような命令なのでしょうか。

禁止命令の具体的な内容は以下のとおりです。

  • 更に反復してストーカー行為を行ってはならないこと
    例としては、被害者に対して接近しないように命じられることが一般的です。
  • ストーカー行為を反復して行わないために必要な事項を遵守すること
    例としては、元交際相手である被害者に対し、交際していた期間の写真を送った場合、あるいは尾行中に盗撮した対象者の写真を送りつけていたような場合では、写真を削除するように命じられるケースが考えられます。

禁止命令の効力は原則として1年間ですが(第5条8項)、必要に応じて延長される可能性があります(同条9項)。

 

禁止命令を出されるケースとは?

禁止命令は、対象者の行為が「ストーカー行為」に該当し、今後も継続が予想される時に発出されます。

被害者から警察に対し被害申告がなされた場合、段階的にまずは警告が発出され、警告によっても対象者がストーカー行為をやめない場合に禁止命令が発出されるケースが考えられます。

しかし、禁止命令を発出する際に前提として警告が既に発出されていることは条件となっていません。

被害者の申告内容や、事案の性質によっては警告が発出されずに直ちに禁止命令が発出されるケースも考えられます

例えば、短期間で多数回にわたりストーカー行為が行われていたような場合や、犯罪をほのめかすようなメッセージを多数回にわたって送信していたような場合には緊急性が高く、警告を経ずに禁止命令が発出される可能性が高いといえるでしょう。

他方で、禁止命令が発出される場合には対象者に対して「聴聞」手続が行われるのが原則です(5条2項)。

「聴聞」手続とは、公安委員会が禁止命令の対象者の意見を聞く機会をいいます。

もっとも、緊急性が高い場合にはひとまず「聴聞」手続を行わないで直ちに禁止命令が発出できるとされています(5条3項)。

このように、ストーカー規制法は執拗なストーカー行為によって深刻な被害が発生しないよう、対象者への段階的な処分が想定されている一方で、緊急性が高いケースでは直ちに強力な処分をすることができる仕組みとなっています。

 

逮捕される

ストーカー規制法はストーカー行為を「反復」することが想定されている以上、1回目の行為で逮捕されることはありませんが、事件の内容や危険性によってはたった数回の行為で逮捕に至る可能性もあります。

また、ストーカー行為が住居侵入や脅迫行為を伴うものであった場合には、ストーカー規制法違反ではなくとも、刑法などの別の犯罪に該当します。

その場合は、1回目の行為であっても逮捕される可能性はあります。

逮捕され勾留されれば、最大23日間は留置場での生活を余儀なくされ、その期間は通勤・通学することもできません。

家族とも会えない可能性もあり、生活に与える影響は甚大なものとなります。

では、ストーカー規制法に違反したことにより逮捕されるケースとはどのようなケースなのでしょうか。

 

逮捕されるケースとは?

被害者から警察に対して被害申告があり、対象者に向けて警告が発出された場合、当然のことながら警察は、再びストーカー行為をしないかどうか対象者の動向に目を光らせています。

警告に反して再びストーカー行為をすれば、ストーカー規制法違反として直ちに逮捕される可能性もあります。

また、ストーカー行為の具体的な態様として「会わなければ刺すぞ」と申し向けたり、被害者の住居に入るなどすれば、ストーカー規制法違反ではなく脅迫罪や住居侵入罪など別の容疑で逮捕される可能性も十分あるでしょう。

そして、禁止命令を受けていたにもかかわらず再度ストーカー行為に及んだような場合は、逮捕の可能性はより高まります。

禁止命令は、その内容に従わなければならないだけでなく、ストーカー規制法はストーカー行為を行った者よりも、禁止命令に違反してストーカー行為を行った者をより重く処罰しています(第19条)。

また、近年ストーカー規制法によって禁止命令が発出されたにもかかわらず、更にストーカー行為を行い、殺人事件などの重大犯罪に発展した事件が報道され注目を集めました。

二度同じような犯罪を発生させないためにも、禁止命令違反をした者に対してはより厳しくその動向を注視していることが予想されます。

これらのことからすれば、禁止命令に違反してストーカー行為を行った場合には、逮捕されるリスクは格段に上がるといえるでしょう。

 

起訴される

捜査機関に逮捕されると、48時間以内に検察官に送致され、そこから24時間以内に勾留(身体拘束)の必要性について判断がなされます。

勾留の必要があると判断された場合、検察官は裁判官に対して勾留請求を行います。

裁判官により勾留が認められれば、原則10日間、延長されれば追加してさらに10日間、身柄拘束がされることとなります。

逮捕から起訴されるまで最長で23日間拘束される

つまり、逮捕の時から起算して最大で23日間、身体拘束されるということです。

この23日間に検察官が起訴(裁判にかけるということ)する判断をしなければ、身体拘束されている者は釈放されなければなりません。

検察官が不起訴、つまり裁判にかけないという判断をした場合は、事件としては終了となり、前科がつくことはありません。

しかし、起訴されれば場合によっては正式な裁判を受けなければなりません。

正式な裁判を受けるとなった場合には身体拘束期間は23日間から更に伸びます。

また、日本の裁判における有罪率は99%といわれています。

有罪判決を受ければ前科がついてしまうほか、場合によっては刑務所に収監される可能性があります。

前科がつけば、会社をクビになる可能性が極めて高くなるほか、本人だけでなく家族の人生にも大きな影響を与えてしまいます。

 

起訴されるケースとは?

では、ストーカー規制法違反で起訴されるケースとはどのようなケースなのでしょうか。

起訴するかどうかを決める権限は、検察官にあります。

検察官は起訴するかどうかを判断する際、様々な事情を考慮します。

ストーカー規制法違反では、警告や禁止命令が下されているにもかかわらずストーカー行為を繰り返した結果、逮捕勾留に至ったケースが多いといえます。

このようなストーカー規制法違反特有の事情として、警告や禁止命令など、対象者にとってストーカー行為を止める機会が複数回与えられていたにもかかわらず、ストーカー行為を繰り返したといえる点で、検察官からすれば危険性・悪質性が高いと評価されやすいでしょう。

他方で、被害者との間で示談が成立していれば、容疑者の有利な事情として考慮されることが期待できます。

しかし、ストーカー規制法では、同一の被害者に対して執拗にストーカー行為を繰り返すことが想定され、容疑者が、被害者の自宅や連絡先、勤務先を知っているケースも少なくありません。

こうした事情から、被害者の処罰感情が強い点はある種当然のことといえ、示談交渉は難航することが予想されます。

被害者の方の処罰感情や示談交渉の結果は検察官の処分に影響します。

交渉の結果、示談が決裂してしまった場合などは、起訴される可能性が高まるでしょう。

そのほか、ストーカー行為が長期間かつ多数回にわたっていたような場合や、被害者が一人ではなかったなど余罪が認められた場合、あるいはストーカー行為の内容が脅迫罪や住居侵入といった他の犯罪行為にも該当しうるような場合は、悪質性が高いと判断され、起訴される可能性は高いといえるでしょう。

 

刑事裁判となる

刑事事件において起訴された場合、刑事裁判となります。

刑事裁判となれば、公判請求といって公開の法廷で正式な裁判を受ける可能性もあります。

他方で、ストーカー規制法では法定刑として懲役刑のほかに罰金刑が定められています(第18〜20条)。

このような場合、検察官によって公判請求ではなく略式起訴が選択されることがあります。

略式起訴とは略式裁判、つまり事実関係に争いがなく、100万円以下の罰金刑が相当である事件において容疑者の異議がない場合に裁判官が書類手続によって判決を下す手続を請求することをいいます。

略式裁判の場合、起訴された人は裁判に出席する必要がなく、公判請求と異なり、手続は非公開かつ即日で終わります。

裁判官に対して伝えたいことを直接伝えられないというデメリットはあるものの、略式裁判は手続きがシンプルかつ迅速に終わるため、罪を認めている場合にはメリットが大きいといえます。

なお略式裁判の結果、罰金となってしまった場合でも前科はついてしまいます

 

刑事裁判となるケースとは?

刑事裁判となるケースとは、起訴されることと同義であるため、既にご説明したようなケースだと起訴される可能性が出てくるでしょう。

仮に起訴されるとしても、容疑者が事実を全て認めている場合に公判請求するか略式起訴とするかは、検察官の判断によります

不起訴処分を目指して示談交渉をした結果、示談は成立できたものの諸般の事情から起訴もやむを得ないと検察官が判断したような場合、示談が成立したという事情は公判請求ではなく略式起訴に傾く事情といえるでしょう。

 

 

どこからがストーカー?ラインを超えるのは?

では、どこからがストーカーとして検挙されるのか、基準はあるのでしょうか。

以下では、類型別に解説します。

 

元交際相手・配偶者のストーカーとなるライン

元交際相手や配偶者に対するつきまとい行為は、ストーカー規制法で処罰されるストーカー行為の典型といえます。

ストーカー規制法第3条が「何人も・・・」から始まるように、夫婦の一方に対する行為であってもストーカー規制法は適用されます。

そのため、元交際相手や配偶者に対して執拗に面会を強要したり、尾行する、度々連絡したりすれば、ストーカー規制法に規定するストーカー行為となるでしょう。

またストーカー規制法は被害者、つまりストーカー行為の対象を元交際相手や配偶者に限定していません。

ストーカー行為の相手方は「当該特定の者又はその配偶者、直系若しくは同居の親族その他当該特定の者と社会生活上において密接な関係を有する者」と規定しています(第2条)。

元交際相手・配偶者の家族や親戚に対する行為はもちろん、元交際相手が現在交際している相手に対して面会を要求したり、待ち伏せするなどのつきまとい行為をした場合には、ストーカー行為に該当し、処罰されるおそれがでてきます。

ストーカー行為は恋愛関係のもつれや恨みなどの感情面が大きく影響します。

元交際相手や配偶者に対する行為ではないからといって、知らず知らずのうちに行っていた行為がストーカー行為に該当している可能性があります。

自分がしようとしていた行為、安易にしていた行為がストーカー規制法に違反しているのか不安な方は一度弁護士に相談されることをおすすめします。

 

ネットストーカーとなるライン

現実に被害者の周りをうろついたり尾行したりしなくとも、ネットストーカー、すなわちインターネット上の行為のみでストーカー行為に該当する可能性もあります

近時、SNSが発達し、メッセージのやり取りができるアプリは多様化しています。

「特定班」といわれるように、SNSに投稿された画像やフォロー・フォロワーなどから個人情報や被害者が現に居る場所を割り出す人達も話題になりました。

被害者のSNS上の投稿に対して執拗に返信をしたり、ダイレクトメッセージで何度もメッセージを送るなどすれば、つきまとい行為としてストーカー規制法に違反する可能性がでてきます。

また、被害者の名誉にかかわる事項をSNS上で拡散する、あるいは被害者の性的な事項をネット上で公開する行為などもストーカー規制法違反に該当し、処罰される可能性があります。

このような行為はストーカー規制法違反となる可能性があるほか、名誉毀損罪といった犯罪にも該当する可能性があります。

ネット上の行為は、現実に顔を合わせていないため軽い気持ちでストーカー行為に及んでしまうことが多い一方、メッセージ等を削除したとしても被害者がスクリーンショットをとれば証拠として記録が残り、発覚の危険があります。

 

社内ストーカーとなるライン

会社内の同僚に対する行為であってもストーカー規制法に違反することとなります。

同僚の出社・退社時に待ち伏せをしたり、社内のメッセージツールを使用して度々メッセージを送るほか、被害者である同僚の机の中に汚物や動物の死体といった不快な物を入れるなどの行為は、つきまとい行為としてストーカー規制法違反に該当するでしょう。

社内ストーカーは、ストーカー行為を行っていた者は同僚のため、特定をするのは容易といえます。

社内ストーカーを行ったと発覚すれば捜査機関によって捜査を受け、刑事処分が下されるだけでなく、社内における懲戒処分も避けられないでしょう

場合によっては、懲戒解雇といった重い処分が下されるかもしれません。

会社の規模次第では、転勤など被害者との物理的な距離を離す措置もとれないため、自主退職することも検討しなければなりません。

社内ストーカーは刑事的な処分だけでなく解雇等にも直結するものです。

 

 

ストーカーが逮捕されるまでの流れ

ストーカーが逮捕されるまでの流れは、通常、次のとおりです。

ストーカーが逮捕されるまでの流れ

 

 

ストーカー規制法に違反した場合の3つのリスク

ストーカー規制法に違反した場合の3つのリスク

①逮捕、勾留される

ストーカー規制法違反は、同一の被害者に対して執拗にストーカー行為に及んでいた点で悪質性が高く、警察は被害者の相談を受けてから容疑者の動向を注視します。

警戒中に容疑者がストーカー行為を行えば、現行犯として逮捕されるケースも少なくありません。

逮捕されたのち勾留されれば、最大で23日間、留置場での生活を余儀なくされることとなってしまいます。

当然ながら、この期間は会社に出社することができないほか、弁護士以外との面会が制限される場合もあります。

このように、身体拘束期間が与える影響は甚大です。

 

②報道される

ストーカー規制法で逮捕・勾留された場合、メディアによって報道されるリスクもあります。

昨今、ストーカー規制法に基づく警告や禁止命令を受けていた者が起こした殺人事件などが大々的に報道されていました。

このことからもわかるように、ストーカー規制法違反は社会的にも注目を集める犯罪であり、メディアの視点からすれば視聴率やアクセス数を稼ぐことができるトピックともいえます。

実名報道がされるかはメディアの判断によりますが、実名で報道がされてしまった場合、記事は半永久的に残ってしまいます。

しかし、無数にあるメディアに対して、実名報道を弁護士の立場から抑制することは困難といえます。

報道の結果、勤務先や家族、知人に知られてしまう可能性も高まるでしょう。

 

③解雇される

ストーカー規制法違反が発覚してしまった場合、逮捕勾留されるリスクがあることはご説明しました。

逮捕勾留されれば最大で23日間は留置場で生活しなければならなくなります。

起訴されれば、さらに身柄拘束の期間は伸びます。

当然ながら、この期間は出社することができません。

多くの会社の就業規則では、一定期間無断で欠勤した場合、解雇できると規定しています。

欠勤を理由として、解雇されるリスクは否定できません。

起訴され、有罪判決を受けた場合には、欠勤とは別に「刑事裁判で有罪判決を受けたこと」を理由として懲戒解雇される可能性は高いでしょう。

また、社内でのストーカー行為が発覚した場合には「社内風紀を著しく乱した」といった理由で懲戒処分となることも否定できません。

こうした理由で懲戒解雇されたとなると、再就職への影響も懸念されます。

解雇又は再就職ができないことにより、本人の家族にも大きな影響を与えてしまいます。

 

 

ストーカー規制法違反の3つのポイント

ストーカー規制法違反の3つのポイント

直ちにストーカー行為を止める

ストーカー規制法では、被害者からの相談に基づき、ストーカー行為を行っていたものに対して警告や禁止命令が発令されます。

警告や禁止命令は、対象者にとってストーカー行為を止める機会であり捜査機関から与えられた猶予といえます。

警告や禁止命令段階でストーカー行為を止めれば、少なくともその後、刑事裁判にかけられ前科がつくことはありません。

逆に、警告や禁止命令が発令されたにもかかわらずストーカー行為を続けることは逮捕の可能性を格段に上げてしまいます。

警告や禁止命令が発出されたならば、直ちにストーカー行為を止めるべきです。

 

被害者との示談交渉を行う

ストーカー規制法違反により刑事事件となってしまった場合、被害者との示談が成立できているかは、その後の処分において重要な要素となってきます。

被害者との示談が成立し、被害者が容疑者の刑事処分までは望まない、といった意思を示している場合には容疑者の有利な事情として働きます。

具体的には不起訴処分、つまり「刑事裁判にはかけない」判断となることも期待できます。

しかし、ストーカー行為が被害者に与える恐怖や不信感は甚大です。

「またストーカー行為をされるかもしれない。」「住所や連絡先といった情報を知られているかもしれない。」「よく行くお店にこれまで通り行けないのではないか。」

このような理由から、被害者の被害感情が強いことは当然のことといえます。

そのため、被害者との間での示談交渉は難航することが予想されます。

被害者の精神的被害は金銭に換算し難いものですが、示談を成立させるには示談金を支払う必要もあります。

示談金の額については統一的なものはありませんが、ストーカー行為による被害の程度によって大きく異なるでしょう。

ストーカー行為による被害者の恐怖の程度を考慮すると、示談金の額は高額になることが予想されます。

数十万円から場合によっては100万円を超えることもあるかもしれません

しかし、当然のことながら容疑者と被害者が直接示談交渉をすることはできません。

弁護士が間に入り、交渉をする必要があります。

示談交渉は、被害者の方のお気持ちや容疑者との間で守らせたいことなどに配慮しながら、納得してもらえた場合に締結できるものです。

そのため、交渉を成立させるには専門的な知識や技術が必要です。

豊富な示談交渉経験のある弁護士を選ぶことをおすすめします。

 

刑事事件に強い弁護士に相談する

刑事事件は容疑者だけでなく、容疑者の家族や勤務先などにも大きな影響を与えます。

逮捕を回避し、不起訴処分を目指すだけでなく、裁判を見据えた活動をするには、正しい法律知識に基づいた助言を受けるだけでなく、被害者の方との示談を成立させるなど、種々の弁護活動を迅速に行うことが必要となってきます。

しかし、弁護士によって示談交渉の仕方や対応の早さはまちまちです。

実績や経験だけでなく、弁護士との間で信頼関係を構築できるか、といった事情も重要な要素といえるでしょう。

ストーカー行為をしてしまった方で今後の対応に悩まれている方や、ストーカー規制法違反の疑いをかけられている方は刑事事件に注力している弁護士へ一度相談されることをお勧めします。

 

 

ストーカー規制法についてのQ&A

ストーカーは何年ぐらい罰せられますか?

ストーカー規制法に基づく罰則は以下の通りです。

ストーカー行為をした場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(第18条)。

禁止命令等が発出された場合に、禁止命令に違反してストーカー行為をした場合には、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金となります(第19条1項)。

単にストーカー行為を行った場合より罰則が重くなっているのは、禁止命令が発出され、ストーカー行為を止める機会があったにもかかわらず更にストーカー行為を行った点で悪質性が高いといえるからです。

このほか、ストーカー行為には該当しなくとも、禁止命令等に掲げられた事項に違反した場合には6月以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(第20条)。

 

ストーカー規制法の時効は何年ですか?

ストーカー規制法の時効は3年です(刑事訴訟法第250条)。

3年が過ぎれば起訴されることはありませんが、時効は犯罪行為が終了した時点から起算されます。

そのため、ストーカー行為が繰り返し行われた場合には、最後に行った時点から時効は起算されることに注意が必要です。

 

 

まとめ

いかがだったでしょうか。

ストーカー規制法違反は、それ自体被害者に与える影響が大きいだけでなく、殺人事件など重大犯罪に発展しかねない犯罪です。

しかし、ストーカー行為は恋愛関係のもつれや恨みなど感情面が大きく作用するものであり、犯罪だとわかっていながら、あるいは犯罪という認識が希薄なまま安易に行為に及んでしまうことが少なくありません。

警告や禁止命令が発出された場合には直ちにストーカー行為を止めるべきであり、逮捕勾留されてしまった場合には正式な裁判をも見据えた弁護活動を行う必要があります。

犯罪の成立自体を争う場合、刑事事件に注力する弁護士に依頼し、取り調べ対応や証拠の提出など、適切な助言を受けることが必要不可欠となってきます。

これに対し、犯罪の成立を認め、より有利な処分を求める場合は、被害者と示談交渉を行う必要があります。

弊所では、刑事事件に注力する弁護士で構成される刑事事件チームがあり、容疑者だけでなくその家族の方へのサポートも行っております。

また、ストーカー行為は夫婦関係や男女問題に起因する行為でもあります。

弊所では刑事事件に注力する部門があるほか、離婚事件に注力しているチームでは男女問題にも精通しています。

男女問題に関する相談も行っているため、配偶者や元交際相手のストーカー行為に悩まれている方や自分のしていた行動がストーカー行為に該当してしまうのではないかと不安な方も弁護士に相談することを検討されてみてください。

遠方の方には、LINEやZOOMなどオンライン会議システムを活用した相談も行っております。

ストーカー行為に関することでお困りの方は、是非一度、当事務所までお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい
無料相談の流れ

 

 

 



なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか

続きを読む