迷惑防止条例違反の罰則|違反になる行為を弁護士が解説
迷惑防止条例は、痴漢や盗撮等を取り締まる条例のことをいい、各都道府県によって条例の名称は異なります。これら全ての条例を総称して「迷惑防止条例」といいます。
この記事では、迷惑防止条例違反になる行為、違反したときの罰則、迷惑防止条例違反で検挙されたときの対処法などを解説します。
迷惑防止条例違反とは
迷惑防止条例で禁止される代表的な行為
痴漢行為や盗撮行為が迷惑防止条例違反になるということはご存じの方も多いかと思いますが、これ以外にも、迷惑防止条例違反になる行為が多く定められています。
例えば 東京都の場合、下記の行為が条例違反として処罰の対象となります。
なお、東京都以外の都道府県についても、条例の内容は類似している部分が多いので、ぜひ参考にされてみてください。
禁止される行為 | 内容 |
---|---|
ダフ屋行為(2条) | チケットを転売目的で購入したり転売したりすることをいいます。 「ダフ」という言葉は、「チケット」=「フダ」を逆に読むことに由来するといわれています。 |
痴漢行為(5条1項1号) | 衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れることをいいます。 |
盗撮行為(5条1項2号) | 人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置することをいいます。 撮影を終えてデータが残っている場合に迷惑防止条例違反になるのはもちろんですが、データが残っていない場合や、盗撮するためにスマホなどをスカートの下に向けた場合などであっても、迷惑防止条例違反に当たります。 |
卑わいな言動(5条1項3号) | 社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作をいいます。 |
つきまとい行為(5条の2第1項) | 特定の者に対して、つきまとい、待ち伏せし、進路に立ちふさがり、住居等の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けることなどをいいます。 反復して行うことが犯罪成立の要件とされています。 |
不当な客引き行為(7条1~3項) | 不特定の者に対し、異性に対する好奇心をそそるような方法により客に接して酒類を伴う飲食をさせる行為の提供について、客引きをすることなどをいいます。 いわゆる「キャッチ」行為がこれに該当します。 |
この他にも禁止される行為
上記で紹介したもののほか、次のような行為も迷惑防止条例で禁止されています。
- ショバヤ行為(3条)
- 卑わいな言動(5条1項3号)
- 押売行為(6条)
- ピンクビラ等配布行為(7条の2第1項)
迷惑防止条例で禁止される行為の範囲は広いということがお分かりいただけるかと思います。
引用:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|警視庁
別の犯罪が成立する可能性にも注意
迷惑防止条例で禁止される行為を行った場合、行為の態様や行為を行った場所などによっては、条例違反にとどまらず、より重い犯罪が成立し処罰される可能性があります。
迷惑防止条例は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もつて都民生活の平穏を保持すること」を目的とするものです(1条)。
このことから、迷惑防止条例で禁止される行為は、公共の場所又は公共の乗物におけるものに限定されています。
「公共の場所」とは、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場などを意味し、「公共の乗物」とは、汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機などを意味します。
このことから、次のような疑問を抱く方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- ① 電車の中で痴漢や盗撮を行えば迷惑防止条例違反になるけれども、ホテルの客室などで痴漢や盗撮を行った場合、公共の場所でも公共の乗物でもないから処罰されない?
- ② 転売が禁止されているチケットをインターネット上で転売したけれども、インターネットは公共の場所でも公共の乗物でもないから、ダフ屋行為に当たらない?
- ③ 刑法の強制わいせつ罪に当たる痴漢行為をしても、電車の中であれば、法律違反よりも軽い条例違反としてしか処罰されない?
これらはいずれも誤りです。
1の場合、軽犯罪法違反や偽計業務妨害罪で処罰される可能性があります。
また、2の場合、チケット不正転売禁止法違反で処罰される可能性が、3の場合には、強制わいせつ罪で処罰される可能性があります。
このように、同じ迷惑防止条例で禁止される行為であっても、別の犯罪が成立する場合がありますので、適用される法律を正確に知ることが必要です。
迷惑防止条例違反の罰則
罰則
迷惑防止条例に違反すれば、最も重い場合、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(常習として盗撮行為やつきまとい行為を行った場合が該当します)。
このほか、常習でなく盗撮行為やつきまとい行為を行った場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科され、ダフ屋行為や痴漢行為や卑わいな言動などを行った場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
盗撮行為や痴漢行為の解説については、次のリンクも参照してください。
別の犯罪が成立する場合の罰則
すでにお伝えしたとおり、迷惑防止条例違反とは別の犯罪が成立する場合には、科される罰則が重くなる可能性があります。
ここでは、別の犯罪が成立する可能性のある行為と、その場合の罰則を紹介します。
偽計業務妨害罪・・・3年以下の懲役又は50万円以下の罰金
不同意わいせつ罪・・・6ヶ月以上10年以下の懲役
撮影罪・・・3年以下の懲役又は300万円以下の罰金
迷惑防止条例違反の裁判例
ここでは、迷惑防止条例違反が問題となった裁判例を紹介します(問題となった迷惑防止条例は、北海道におけるものです)。
ショッピングセンターにおいて女性客の後ろを付けねらい、デジタルカメラ機能付きの携帯電話でズボンを着用した同女の臀部を撮影した行為が、被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるような卑わいな言動に当たるとされました。
一見すると、女性の臀部を撮影する行為は、盗撮行為に該当するように思いますが、すでにお伝えしたように、迷惑防止条例で禁止される盗撮行為とは「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影すること」をいいますので、衣服の上から撮影することは盗撮行為には該当しません。
しかし、最高裁は、衣服の上からの撮影が、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」である卑わいな言動に当たると判断しました。
このことからも、迷惑防止条例違反に当たる行為の範囲は広いということがお分かりいただけるかと思います。
迷惑防止条例違反で検挙されたときの対処法
初犯なら不起訴も期待できる
迷惑防止条例違反で検挙された場合、初犯であれば、適切な弁護活動を行うことによって不起訴処分の獲得を期待することができます。
他方、何ら弁護活動を行わなければ、逮捕勾留によって最大23日間身柄を拘束され、仕事を失ったり学校を退学になったりするおそれもあります。
盗撮行為・痴漢行為・つきまとい行為といった被害者がいる犯罪の場合には、何よりも被害弁償(示談)を行うことが重要です。
そして、示談を行う際には、事案に応じた適正な示談金額を提示するとともに、加害者の刑事責任を許すという宥恕文言を示談書に盛り込んでもらうことがポイントとなります。
ダフ屋行為・客引き行為といった被害者がいない犯罪の場合であっても、弁護活動をしなくてよいわけではありません。
被疑者自身が謝罪文を作成したり、家族などに身元引受書を作成してもらったりして、検察官に提出して不起訴を求めなければなりません。
日本の裁判の有罪率は99.9%ですから、起訴されてしまうと、ほぼ間違いなく前科が付いてしまいます。
罰金刑や執行猶予付きの判決であれば、ひとまずは刑務所に入らなくても済みますが、有罪判決である以上、前科が付くことには変わりありません。
また、裁判は平日の日中に行われますので、裁判を受けるために仕事や学校を休む必要も出てきます。
逮捕・勾留・起訴を回避して不起訴処分を獲得する可能性を上げるためにも、迷惑防止条例違反で検挙された場合、弁護士への速やかな相談をお勧めします。
起訴されても罰金刑を期待できる
被害者が示談に応じてくれず起訴されてしまったような場合であっても、罰金刑や執行猶予付きの判決を獲得する(懲役刑で刑務所に入ることを回避する)ために公判弁護活動を行わなければなりません。
そのためには、家族などの身元引受人に情状証人として裁判所に出廷してもらったり、示談金として支払う予定であった金銭を供託したりするなどして、反省していることや再び犯罪に手を染めないことなどを裁判官に理解してもらう必要があります。
まとめ
迷惑防止条例で禁止される行為は、痴漢行為・盗撮行為のほか、ダフ屋行為・不当な客引き行為・卑わいな言動・つきまとい行為など多岐にわたります。
初犯であれば不起訴も期待できますが、より重い犯罪が成立する可能性もあるため、迷惑防止条例違反で検挙されたら弁護士への相談をお勧めします。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか