面会要求罪とは?構成要件・具体例と罰則をわかりやすく
面会要求罪とは、わいせつ目的で、16歳未満の者(ただし13歳以上16歳未満の者に対しては年の差が5歳以上の場合に限定)に対して、お金などを交付することを約束するなどして面会を求める犯罪です。
面会を求めた場合は「1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」、実際にわいせつの目的で面会した場合は「2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」の刑罰が課されます。
昨今、「15歳の女子中学生が、28歳の男性に自己のわいせつな画像を送信した。」や「22歳の男性が、女子中学生に対して、3万円の金銭を渡す約束をしてわいせつな行為をした。」という内容の事件が後を絶ちません。報道で見聞きしたことがある方も多いと思います。
このような問題を背景として、2023年の刑法改正によって面会要求罪が追加されました。
この記事では、「具体的にどういった行為が処罰の対象となるのか。」、「違反するとどのような刑罰が課されるのか。」、「過去の犯罪まで処罰の対象となるのか。」、「面会要求罪や映像送信要求罪が成立する場合に、他にどのような犯罪が成立するのか。」についても紹介していきます。
目次
面会要求罪とは
面会要求罪は、わいせつの目的で、16歳未満の者に対して、偽計や威迫・強制の手段を用いたり、金銭その他の利益を交付することを約束して面会を求めた場合に成立する犯罪になります。
※ただし13歳以上16歳未満の者に対する行為については、行為者が5歳以上年長の者である場合に限る。
面会要求罪の条文
面会要求罪に関する規定は、刑法182条の1項及び2項に設けられています。
第百八十二条 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。
二 拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。
三 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。
2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
引用元:e-Gov法令検索/刑法
条文は以上のとおりですが、以下で構成要件ごとに分解して解説します。
面会要求罪とグルーミングとの違い
面会要求罪は2023年の法改正により導入されました(7月13日施行)。
面会要求罪は通称「グルーミング罪」とも言われることがありますが、厳密には面会要求罪とグルーミングは異なります。
グルーミングとは、「(動物の)毛繕い」という意味をなす「grooming」という英語から来ています。
もっとも、性犯罪との関係では、子どもに対して性犯罪を行おうと企む者が、対象の子どもと信頼関係を築く、性犯罪の準備行為という意味があります。
この段階では、あくまで準備ですから実際に性犯罪が行われることは基本的にありません。
一方で今回の刑法改正で加わった面会要求罪は、わいせつ目的をもった者がその目的を達するために子どもに対して面会を要求することを処罰対象としています。
昨今、未成年が成人の性犯罪の被害を受けるといった深刻な事案が多発しています。
そうした背景を受け、16歳未満の人が性被害に遭うのを防止するため、実際の性犯罪に至る前の段階であっても、性被害に遭う危険性のない保護された状態を侵害する危険を生じさせたり、これを現に侵害したりする行為を新たに処罰するために、今回の刑法改正で新設されました。
面会要求罪の構成要件
犯罪が成立するための条件を構成要件(こうせいようけん)と言います。
ここでは、面会要求罪の構成要件を解説します。
面会要求罪の構成要件は以下の3つです。
- ① わいせつの目的をもっていること
- ② 被害者が16歳未満であること
- ③ 以下で掲げるいずれかの行為をすること
- 威迫、偽計、又は誘惑をして、会うことを要求すること
- 拒まれたのに、反復して会うことを要求すること
- 金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること
①わいせつの目的をもっていること
冒頭にも述べたとおり、面会要求罪を新設することの目的は、16歳未満の人が性犯罪の被害に遭うことを防止する点にあります。
そのため、面会要求罪が成立するためには、わいせつな目的をもって行為に及ぶことが必要です。
②被害者が16歳未満であること
面会要求罪を新設することの目的は、16歳未満の人が性犯罪の被害に遭うことを防止する点にあります。
そのため、「十六歳未満の者に対し」という条件が必要とされています。
③以下で掲げるいずれかの行為をすること
上記の①、②の条件を満たした状態で、以下の行動をとった場合、面会要求罪が成立します。
威迫、偽計、又は誘惑をして、会うことを要求すること
難しい言葉が使われていますが、威迫とは脅すこと、偽計とは嘘をつくこと、誘惑とは甘い言葉で誘うこと、というイメージです。
こういった方法で面会を要求した場合、面会要求罪が成立します。
拒まれたのに、反復して会うことを要求すること
この条件については比較的わかりやすいかと思いますが、嫌がられたのにしつこく何回も会うことを要求するということです。
金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること
これは読んでもらったとおりですが、金銭その他の利益を与えたり、与えることを約束したりして面会を要求することを指しています。
以上の条件を満たした場合に、面会要求罪は成立します。
また、上記の罪を犯した上で、実際に当該16歳未満の人にあった場合にも面会要求罪となります。
もっとも、こちらの場合、実際に会っていることから法定刑はより重く設定されています。
法定刑については、後ほど「面会要求罪の罰則」の項目で詳しく解説します。
被害者が、13歳から15歳の場合は成立範囲に限定がある
この場合には、行為者が被害者の生まれた日より5年以上早く生まれているということがさらに条件として加えられます。
例えば、被害者が15歳で行為者が18歳というケースだと、面会要求罪は成立しないということとなります。
同世代間での行為が処罰対象にならないようにするため、年齢差での条件が加えられています。
映像送信要求罪
今回の刑法改正により、面会要求罪に加え、映像送信要求罪も追加されました(刑法182条3項)。
参考:刑法|e-Gov法令検索
映像送信要求罪では、十六歳未満のものに対して、性交等をする姿や性的な部位を露出した姿などの写真や動画を撮影して送るように要求することを処罰する規定となっています。
昨今、未成年が成人から、自己のわいせつな画像・映像をSNS等を通じて送付を要求される被害が多発しています。
そういった実態に鑑み、今回の刑法改正により新設されました。
なお、未成年からわいせつな画像を受け取った場合、別途「児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」違反として犯罪が成立することにもなります。
面会要求罪の具体例
では、実際にどういった事案で面会要求罪が成立するのかという話ですが、いわゆる「パパ活」や「援助交際」といった行為が処罰の対象となります。
「パパ活」や「援助交際」の場合は、児童の側からの呼びかけというケースが多いですが、面会要求罪は、加害者から児童への呼びかけや手懐け行為も処罰対象としています。
例えば、20歳の男性が、わいせつ目的をもって14歳の女子中学生に対して、お金を渡すことを条件に会うことを求める行為には面会要求罪が成立します。
実際に摘発された事案は以下です。
なお、上の例は、わいせつ目的面会要求罪に加え、不同意わいせつ罪が成立する可能性があります。
面会要求罪の刑罰
面会要求罪の刑罰ですが、他の刑法犯と比較しても決して軽いとはいえない内容となっています。
①会うことを要求した場合と②実際に会った場合とで量刑は大きく変わってきます。
この場合、「1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金」となります。
この場合には、「2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金」となります。
拘禁刑とは?
今出てきた拘禁刑という名前に聞き馴染みがない方も多いかと思いますので、どういった内容の刑罰かについて簡単に説明をします。
拘禁刑は、新設された刑罰です。
拘禁刑とは、有罪判決を受けた受刑者の身体を刑事施設に拘束するという内容の刑罰となります。
聞いたことがある方もおられると思いますが、従来の刑法では主に「懲役(ちょうえき)」や「禁錮(きんこ)」と刑罰が受刑者の身体を刑事施設に拘束する刑罰として機能していました。
懲役刑の場合、受刑者は刑事施設内で刑務作業を義務付けられていました。
一方で禁錮刑の場合には刑務作業が義務付けられていませんでした。
本稿では細かい説明は省略しますが、刑法改正により懲役刑と禁錮刑を分けて運用するという従来の方法を廃止し、拘禁刑に一本化することとなりました。
その結果、一律で刑務作業を義務付けないという運用になりました。
もっとも、刑務作業は義務ではなくなりましたが、空いた時間で更生支援のための矯正教育を入れられるようになりました。
そのため、それぞれの受刑者の状態に応じて、刑務作業を義務付けたり、矯正教育を受けさせたりなど、受刑者の再犯防止へ向けた柔軟性のある処遇ができるようになりました。
面会要求罪はいつから
面会要求罪は、2023年7月13日から施行されました。
そのため、2023年7月13日に上記の犯罪を遂行した場合には面会要求罪が成立し、処罰の対象となってしまいます。
一方、2023年年7月12日までにに上記の犯罪を遂行した場合には面会要求罪は成立せず、処罰の対象とはなりません(もっとも、事案によっては他の犯罪が成立して処罰の対象となる場合はあります。)。
摘発の時点が2023年7月13日以降であったとしても、行為時点がそれより前であれば処罰の対象とはなりません。
例えば、2023年6月10日に16歳未満に対して金銭を渡す代わりにわいせつな行為をする目的で面会を求めたとします。
この件が警察に発覚したのが2023年8月10日の場合、この時点では既に改正刑法が施行され、面会要求罪は成立しうる状態にあります。
しかしながら、このような場合、処罰の対象になるかどうかについては面会を求めるという行為時点を基準とします。
したがって、上記の例だと面会要求罪は成立しないこととなります。
面会要求罪の時効
面会要求罪の時効は3年です。
時効期間が経過すれば、刑事裁判にかけられる可能性がなくなります(刑事訴訟法250条)。
したがって、後から述べるような逮捕や勾留といった捜査機関からの身体拘束を受ける可能性はもちろんのこと、刑事裁判にかけられて有罪判決を受ける可能性もなくなります。
面会要求罪を犯してしまったら
では、実際に自分や自分の大切な人が面会要求罪を犯してしまったらどうすればよいのか、以下でご説明します。
自首によって逮捕・勾留のリスクを回避する
面会要求罪が捜査機関に発覚している場合、事案によっては逮捕・勾留されてしまいます。
法律上、逮捕・勾留によって最大23日間、警察署の留置施設に身体が拘束されることとなります。
家族との面談が許されない場合もあります(専門用語で「接見禁止処分」といいます。)し、仮に許されても短い時間しか話せません。
不自由な生活を強いられる上に、何度も取り調べを受け、初めての環境に身を置くこととなります。
最終的に自己が捜査の対象になってしまうとしても、逮捕・勾留は回避したいと考える方が大半だと思います。
逮捕・勾留を避けるためには、自首をすることが有効です。
自首とは、自ら捜査機関に出頭し、捜査機関に対して自己の犯罪事実を告げることをいいます。
自首のメリットは、逮捕・勾留のリスクを減らすことができる点です。
捜査機関が逮捕・勾留するためには、その人が証拠を隠滅したり逃げたりするおそれがあると認められることが必要です。
自己の犯罪事実について、捜査機関から接触がある前に自ら告げていれば、「逃げも隠れもしませんし、証拠を隠滅したりもしませんよ。」と説得力を持って言うことができます。自首に弁護士を伴っていればなおさらです。
これは弁護士が作成するものですが、同居のご家族などに、「この人が証拠を隠滅したり逃げたりしないようにしっかり監督します。」という内容の書面(専門用語で「身元引受書」といいます。)を自首の際に提出することで、逮捕・勾留のリスクを更に下げられる可能性もあります。
自首をするのであれば、万全な用意をしてからすべきです。
「自首をした方がよいのか分からない。」、「自首のやり方が分からない。」、「警察署に一人でいくのは不安だ。」など、不安が尽きないことかと思います。
自首についてお困りごとがある方は、一度刑事専門の弁護士に相談されることをおすすめいたします。
被害者と示談交渉をして前科を防ぐ
面会要求罪を犯した場合、初犯であればだいたいは罰金刑で済むケースが多いかと思います。
もっとも、罰金刑で済んだとしても、有罪判決ではありますから、前科がつくことに変わりはありません。
前科がつくこと自体を防ぐためには、被害者の方に誠心誠意謝罪し、それを受け入れていただき、示談してもらうことが重要です。
示談をする際には「示談書」という書面を作成します。そしてそれを検察官に提出します。
この示談書に「処罰を求めない。」という文言をつけてもらうことで、検察官は起訴しない可能性が出てきます。
しかし残念ながら、加害者が被害者に対して自ら示談交渉をしにいくことは望ましくありません。
場合によっては、捜査機関に、加害者が被害者に対して被害届の取り下げを迫っていると評価されてしまうかもしれません。
示談書を適切なかたちで締結し、検察官に証拠として提出するためにも、示談交渉に弁護士をいれることは必要不可欠といえるでしょう。
また、示談交渉は早ければ早いほど望ましいです。
被害者との示談を考えている方は、お早めに、専門弁護士に相談されることをおすすめいたします。
面会要求罪のよくあるQ&A
新設されたということは、これまでは処罰の対象ではなかったのですか?
例えば、未成年と実際にわいせつ目的で出会い、わいせつ行為をしている場合であれば、各都道府県の青少年健全育成保護条例や刑法上の強制性交罪や強制わいせつ罪が成立する可能性があります。
そのため、改正前の行為だからといって一切お咎めなしというわけではありません。
したがって、行為が2023年7月13日より前であったとしても、別の犯罪が成立するために捜査機関の手が及ぶおそれもありますから、お心当たりのある方は早急に弁護士に相談することをおすすめします。
面会要求罪以外で別に何か犯罪が成立する場合はありますか?
例えば、先ほども紹介しましたが、わいせつ目的をもって、十六歳未満の児童からわいせつな画像を受け取った場合、映像送信要求罪が成立するだけでなく、別途「児童買春・児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」違反として犯罪が成立することがあります。また、十六歳未満の児童とわいせつ目的で出会い、性行為に及んだ場合、別途不同意性交罪が成立する可能性もあります。
このように、面会要求罪以外の犯罪も成立する可能性は十分あります。
複数の犯罪が成立すればその分量刑も重くなる可能性がありますから、より一層弁護士の弁護活動が重要となってきます。
面会要求罪の証拠とは?
面会交流の証拠として想定されるのは、加害者と被害者とのやりとりを記録したSNS等のやりとりです。
もちろん他にも証拠となるものは考えられますが、昨今はSNSやマッチングアプリでのやりとりを通じて犯行に及ぶケースが多いです。
こうしたツールでのやりとりは、記録として保存されています。そして一度記録されれば、完全に消去することは難しいです。
そのため、捜査機関もSNS等でのやりとりを重要な証拠として扱うことが考えられます。
家族や会社にバレたくありません。バレずに手続を進めることはできますか?
絶対にバレないようにすることは難しいです。
特に同居家族がいる場合にその家族にバレないようにすることは事実上不可能といえます。
もっとも、弁護士をつけることでバレる可能性を下げることは期待できます。
面会要求罪や映像送信要求罪の場合、ある日突然警察が自宅にやってきて逮捕されてしまうことも考えられます。
そうなると、同居家族にバレてしまいますし、職場にもいけなくなり職場にも逮捕されてしまったことがバレる可能性もあります。
また、幸い逮捕はされなかったとしても、起訴されてしまった場合には裁判所から起訴状の写しなどが自宅に届くようになるので、家族にバレてしまう可能性があります。
弁護士をつけて自首をすることで、逮捕・勾留のリスクを下げることができるという話を先ほどしました。
逮捕・勾留のリスクを下げることで、間接的に家族や職場にバレる可能性を下げることは期待できます。
また、弁護士をつけて被害者の方と示談をすることで起訴を防止し、間接的に家族や職場にバレる可能性を下げることは期待できます。
まとめ
ここまで、2023年7月13日に施行された面会要求罪について解説をしてきました。
最後にまとめとしてこの記事で伝えたい内容を改めて抜粋します。
- 十六歳未満を対象としてわいせつな目的をもって面会を要求する一定の行為が処罰対象となり、厳罰が課されるようになった。
- 新設されたとはいえど、2023年7月13日より前に面会要求罪や映像送信要求罪に該当する行為をした場合に一切処罰を受けないというわけではなく、他の犯罪が成立し処罰の対象となるおそれはある。
- 面会要求罪や映像送信要求罪が成立する場合、その犯罪以外にも、別の犯罪(児童ポルノ処罰法や青少年健全育成保護条例違反など)が成立するおそれがある。
- 逮捕・勾留を避けるためには自首が重要。
- 起訴を避けるためには、被害者との示談が重要。
以上、ここまで面会要求罪について解説してきました。
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