盗撮の時効について|時効は何年?その後は逮捕されない?
犯罪には「時効」というものがあります。
時効とは、犯行が終わってから一定期間が経過した後には、もはや罪に問われなくなるという制度です。
このページでは、盗撮をしてしまった場合にどのような条件で時効が成立するのか、弁護士がわかりやすく解説します。
盗撮の時効は何年?
盗撮の時効が完成する期間ですが、ひとまず「3年」とお考えください。
時効完成までの期間は刑事訴訟法に定められており、盗撮に関連し得るものを抜粋すると、次のようになります。
② 時効は、人を死亡させた罪であつて禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。
(略)
五 長期十年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については五年
六 長期五年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については三年
(略)
このように、刑事訴訟法は罪の重さによって時効成立までの期間を変えており、罪が重ければ重いほど、時効までの期間も長くなるような建て付けとなっています。
さきほど時効期間が「3年」と断定しなかったのは、盗撮は多くの場合上記の「六」にあたる一方、事案によっては「七」該当として1年で時効となることもあるからです。
つまり、時効の期間を正確に知るためには、まず犯罪の刑の重さを確認し、その上で刑事訴訟法の該当箇所にあたる、という作業が必要となるのです。
そこで以下では、盗撮の罰則がどのように定められているかを見てみることとします。
なお、時効成立の成否が問題となるのは、基本的に逮捕されていない場合です。
盗撮事件で逮捕されるか否かについては、こちらをご覧ください。
迷惑防止条例違反になった場合の時効
実は、刑法には「盗撮罪」という犯罪は規定されておらず、盗撮は各都道府県が定める条例によって取り締まられています。
具体的には、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といった条例がこれに当たります。
名称がやや冗長で分かりにくいため、一般には「迷惑防止条例」などと略称されます。
条例は自治体が独自に制定するものであるため、名称に多少のばらつきはありますが、47都道府県のすべてが、これに相当する条例を定めています。
2023年に、上で解説した性的姿態撮影等処罰法が施行され、撮影行為が処罰の対象となりました。
性的姿態撮影等処罰法は条例ではなく法律であり、全国一律の適用があります。
しかし、同法が処罰の対象とする撮影行為と、迷惑防止条例が処罰の対象とする盗撮行為は完全に一致するわけではありません。
したがって、盗撮に関しては、撮影罪と条例違反の2つの可能性を検討する必要があるでしょう。
迷惑防止条例の罰則
スマートフォンをはじめとする小型かつ高性能な撮影機器の普及に伴い盗撮被害が増加傾向にあることから、迷惑防止条例の罰則についても、厳罰化の流れがあります。
例えば、東京都や大阪府等は、厳罰化されていますが、非常習の場合で「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」、常習の場合で「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」となっています。
このように厳罰化された自治体においても「長期5年未満の懲役」であることには変わりませんので、時効期間としては3年で共通しています。
撮影罪の場合の時効
撮影罪とは、他人のスカート内の下着や性的な部位などをひそかに盗撮したり、相手の意思に反して性的な部位などを撮影したりした場合に成立する罪※のことを指します。
※正式名称は、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」で通称「性的姿態撮影等処罰法」に定められています(2023年7月施行)。
性的姿態撮影等処罰法は、2023年7月13日に施行されています。
したがって、同日以降に行われた盗撮行為については、性的姿態撮影等処罰法に基づき、撮影罪として処罰される可能性があります。
他方で、同日より前に行われた盗撮行為については、行為時点で存在していた法律及び条例が適用されることになります(後述します。)。
性的姿態撮影等処罰法には、①撮影罪以外にも、②提供罪(盗撮などにより得られた画像や動画を第三者に提供すること)、③保管罪、④送信罪(ライブストリーミングなど)、⑤記録罪が定められています。
このうち、①撮影罪、②提供罪のうち特定少数の者への提供行為については、法定刑が「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」です。
また、③保管罪については、法定刑が「2年以下の懲役又は200万円以下の罰金」です。
したがって、これらの犯罪の時効は3年です。盗撮だけにとどまるのであれば、時効は3年と考えれば良いでしょう。
しかし、②提供罪のうち不特定多数の者への提供行為と④送信罪については、法定刑が「5年以下の懲役又は500万円以下の罰金」と定められており、時効は5年となるので注意してください。
建造物侵入になった場合の時効
盗撮は、迷惑防止条例が適用できない場合、建造物侵入罪として検挙されることがあります。
迷惑防止条例には、盗撮行為の要件として「公共の場において」という要件を定めているものが多いです。
このため、学校やオフィスといった決まった人しか出入りしない場所での盗撮は、「公共の場」におけるものとはいえないとして、条例違反に問えない場合があるのです。
このような場合に、盗撮行為そのものではなくて、盗撮目的でその建物に立ち入った点をとらえて、建造物侵入罪として逮捕されることがあります。
建造物侵入罪の罰則は「三年以下の懲役又は十万円以下の罰金」(刑法130条)ですから、時効期間としては、条例違反の場合と同じく3年となります。
軽犯罪法違反になった場合の時効
以上のほか、盗撮は軽犯罪法違反になることもあります。
たとえば、他人の家の中を外から撮影した場合ですと、家の中ですから「公共の場」とはいえず条例違反にはなりませんし、外からの撮影ですので、住居侵入にも当たりません。
このような場合に、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」に当たるとして、軽犯罪法違反となることがあります(1条23号)。
軽犯罪法違反の罰則は、「拘留又は科料」です(懲役や罰金の軽いものとお考えください)。
したがって、軽犯罪法違反の場合は、刑事訴訟法250条2項7号にあたり、時効期間は1年となるわけです。
もっとも、盗撮の厳罰化は罰則の強化にとどまらず、「公共」の要件を緩和するなど、成立範囲の拡大も並行して進められているところです。
このような改正が進んでいけば、今後は軽犯罪法違反ではなく、より重い条例違反に問われる事例が増えてくるものと思われます。
時効が完成するとどうなる?
時効が完成した場合の直接の効果は、判決で「免訴」を言い渡すというものです(刑事訴訟法337条4号)。
免訴とは、有罪・無罪の判断をすることなく訴訟の手続きを打ち切ることをいいます。
その結果、時効が完成すると検察官に起訴されないという効果が導かれます。
時効の法律上の効果はあくまで免訴の言い渡しであって、時効が完成すると起訴できない、といった規定があるわけではありません。
しかし起訴とは容疑者の処罰を求める意思表示ですから、免訴判決となることがわかっていてわざわざ起訴することは考え難いです。
そして検察官が起訴しない以上、逮捕されることも基本的にはありません。
すなわち、時効の完成によって免訴判決となる結果、検察官は起訴しなくなり、さらにその結果、逮捕されることもなくなる、ということです。
時効はどこから計算されるのか
ここまで、盗撮の時効は3年とお伝えしてきましたが、いつから数えて3年なのでしょうか。
時効のスタートする時点を時効の「起算点」といい、刑事訴訟法は「時効は、犯罪行為が終った時から進行する。」と定めています(253条1項)。
犯罪の種類によっては、どの時点をもって「犯罪行為が終わった時」ととらえるのか議論となるものもありますが、盗撮の場合は、シンプルに撮影行為を終えた時点と考えてよいでしょう。
その時点から3年以内に起訴されなければ、時効は完成します。
たとえ3年以内に逮捕されたとしても、起訴の時点が犯行日から起算して3年経過後であれば、時効は成立します。
これは、刑事訴訟法が「時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止」すると定めているからです(254条1項)。
逆に言うと、起訴が3年以内にされてしまえば、その後の裁判を引き延ばして時効成立を狙う、といった余地はありません。
また、255条1項は「犯人が国外にいる場合」についても時効の進行を停止すると定めているため、旅行や留学などで海外にいる期間があった場合は、その分時効の完成が遅れることにも注意が必要です。
盗撮は時効を待つよりも弁護士に相談を!
以上のとおり、盗撮では、犯行から3年間起訴されなければ時効が成立します。
それでは、盗撮をしてしまった場合、時効完成を狙って3年間過ごすのがよいのでしょうか。
以下の理由から、それはお勧めできません。
不安を抱えたまま生活することになる
盗撮は「画像」という証拠が残るため、立件されやすい類型の犯罪といえます。
たとえその場では犯行が発覚しなかったとしても、その後職務質問されたり、何か別の事件で取り調べを受けたりした際に盗撮が発覚する可能性があります。
仮に盗撮した画像を消去したとしても、警察は「デジタル・フォレンジック」という電子機器に関する高度な解析に力を入れており、復元されてしまう可能性もあります。
また、現代では至るところに防犯カメラが設置されており、犯行の瞬間が映像として残っているかもしれません。
犯行場所が駅の構内であれば、改札の入退場記録も残っている可能性があります。
あるいは、被害者や目撃者に顔を見られていて、警察に通報されるかもしれません。
このようなことは、可能性を考え出せばきりがありません。
そんな不安を常に抱えながら生きるには、3年というのはあまりに長い時間です。
厳罰化の傾向があるとはいえ、それでも、2年以下の懲役または100万円以下の罰金というのは、犯罪全体から見れば、比較的軽い部類の罰則といえます。
しかもこれは、刑の上限を示したものです。
情状にもよるため一概にはいえませんが、実際の判決はこれを下回ることも十分想定されるのです。
仮に時効でこのような罰則を回避できたとして、その代償が「不安を抱えた3年間」というのでは、とても割に合っているとはいえないでしょう。
更生することができない
時効によって刑罰を受けることがなくなったとしても、それはあくまで法律上の話であり、盗撮という犯罪を行った「事実」は、一生残ります。
つまり、時効期間の3年が過ぎてもそれで終わりではなく、その後もこのような事実を抱えて生きていかなければならないのです。
他方で、自らの犯罪を悔い改めて正直に話すことができれば、更生が期待できます。
時効を待つという選択がいかに不合理か、お分かりいただけたでしょうか。
もし、このような不安な日々から解放されて更生することを望まれるのであれば、弁護士にご相談されることをお勧めします。
刑事事件に精通した弁護士であれば、積極的に被害者との示談交渉を進めてくれるでしょう。
示談が成功すれば、刑事事件化を回避できるだけでなく、被害者の救済もはかることができます。
また、被害者がわからなくても、自首して捜査に協力することで、真摯に反省しているとして、不起訴や罰金刑といった寛大な処分を期待できます。
このように弁護士に相談することで不安が安心へと変わり、人生を再出発できる可能性があります。
盗撮で自首をした場合の具体的なメリットについては、こちらをご覧ください。
なぜ刑事事件では弁護士選びが重要なのか